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02. 人違い |
【 side 女神 】 星の上のわずかな部分でなければ生きれぬ生命体たちからは、〈神〉と呼ばれし乙女は、うっかり輪廻転生を行う排水管に流した魂が、『あ〜れ〜』と流れていくのを止めることができず、その様をただただ呆然と立ち尽くして見送ってしまった。 高次元生命体。 通称「神」。 今、排水管にのまれて姿を消したそれもまた、〈神〉のものだった。 まさに自分たちと同等の存在の魂を誤って転生させてしまったことに、女神からは血の気がひいていく。 それが物語という仮想空間へ送るはずの対象の魂ではなく、魂の休息に訪れていた同胞だと気付いたときには遅く、あっという間の出来事だった。 気付いた時にはもうあの頭部だけへこんだ魂は、仮想領域転生への輪廻の流れにのっていた。 女神はしばらく呆然としていたが、ふいに「どうしたのよ?」とばかりにいぶかしげな〈振動〉を感じ取り、嫌な予感してそちらの方へと振り返る。 そこには自分が誤って寿命を縮めたがために、やたらと注文を付けてはゲームだかなんだかの世界に転生をさせろとわめいていたピンクの魂があった。 それに女神は言葉をなくす。 この世界は肉体を有しない、ゆえに、言葉はすべて魂のイメージとして、振動となって伝わる。 ゆえに性別の違いなどない。 ただ漠然と〈言葉〉のような感情が伝わってくる。 だから女神は気付かなかったのだ。 女神が聞いた声が〈2つ〉あったことに。 血の気を失ったように顔色を真っ青にしたその女神の背後には、小さな魂が一つ「なにがあったの?」「さぁ、早く私を転生させない」とばかりにドギツイ桃色に明滅を繰り返してそこにいた。その魂こそが、本来先程の仮想空間へ送り込むはずの魂である。 これほどまでに自己主張が激しい魂だというのに、なぜ自分は同胞の魂を間違って送ってしまったのだろうと、女神は自分の過失に眩暈を起こしかける。 「ひとつ聞いてもいいかしら」 《なによ》 「貴女、力に〈声〉という制約はつけた?」 《なにそれ。意味わかんない。私が願ったのは、TOXへの転生。誰も犠牲にしないですむエンディングルートよ。ジュード編もミラ編もちょっと気に食わなかったんだもの。 それでもちろん主人公たちの仲間になるのは必須よね。 アルヴィンが今回のテイルズの裏切担当なのはわかってたけど好きになれないから、アルヴィンの過去とかどうでもいいわ。 さっき言わなかったけど、あわよくばガイアスと仲良くなりたいわ》 「・・・・・・」 やかましいピンクの魂の言によると、「エンディングルートで犠牲者をなくす」というそのイメージが〈世界を改革するほどの巨大な力〉として自分に伝わったらしい。 やたらとアルヴィンとやらのイメージが強かったのは、嫌いだったから。 つまりやたらと〈声〉というイメージを押し付けてきたのは、先程流れて逝ってしまった同胞からの言葉だったということだ。 それを理解した女神は、「やっちまった」と顔をひきつらせた。 二つのイメージが同時に強く届いたせいで、それらが一つの言葉の流れだと思ってしまったのだ。 目の前のピンクの魂へのわびとして願いを叶えてやろうという気まぐれがよくなかった。 おかげで同胞の〈言葉〉も混ざった〈間違った願い〉を叶えてしまった。 同胞はTOXへ転生してしまっているだろう。 こちらの勘違いだったが、アルヴィンというのにこだわっているようだったから、そいつに成り代わりたいのだろうと判断し、アルヴィンに成り代わるように設定をしてある。 さらには、ピンク色の魂が望んだ【EDの変更を可能とする力】は、そのイメージ通り〈世界を変えられるほどの巨大な力〉として与えた。 目前の人間が言うには、それほどの力を受け取った感じはしないという。つまり、これも彼女にではなく別の、たぶん同胞に、わたっている可能性がある。 〈力〉はマナの要領が大きいなどの容量ではなく、そのまま〈力〉として与えてしまったため、マナや精霊の力を使ったモノとは異なるゲームでは存在しない能力を持って生まれることとなるだろう。 しかも途中から〈口〉や〈声〉というイメージがやたらと流れてきたため、その〈力〉を彼の喉と連結してしまった。 つまり彼の喉から発する音がそのまま〈力〉となる。 「・・・・・・」 そこまでのことを考えて、女神は思った。 「強く生きて、太陽神の仔」 人生まっとうしたら、きっと元の転生の輪に戻れるはずだから。 神としてこの空間に戻ってきたときは、全力で謝罪と土下座をしよう。女神は固く誓うと同時に、逝ってしまった同胞のこれからの冥福を祈った。 現実を受け入れられない女神の目は、まるで死んだ魚のような虚ろな目で、そのまま遠くを見る様は、なんとも形容しがたい物だった。 その様子を見ている者がいないのが救いであっただろう。 《ねぇ、まだなの?早くあの世界に私を連れて行ってちょうだい》 「・・・あぁ。忘れてたわ」 空気が読めない少女がひとり。 自己主張するように、女神の前でピンクが明滅する。 それもしかたないのかもしれない。ここは女神が作った空間だ。さらにはここにいるのは、女神以外は肉体のない魂だけの存在。魂からしてみれば、周囲に何があるかも理解できないであろうし、ただ白い空間に揺蕩っているような気持なのだろうから。 見えないって。知らないって素敵ね。 女神は悪意のない爽やかなまなざしをピンク色の魂に向ける。 ただし、いまだ目は現実逃避中で、生気はない。 「これから、どうしよう?」 その言葉は頭部だけへこんでいた同胞の魂の行く末にか。 それとも目の前で目に悪い点滅をしている魂にか。 はたまた自分のしでかしたうっかりと同情心が、さらなる大きなドンミスを引き起こしてしまったことへの処罰か。 女神の目は相変わらず死んでいた。 どれくらいの時間が経っただろうか。 女神は唐突にひらめき、ことの発端であるピンクの魂へと視線を向ける。 女神は〈神〉。高次元生命体のひとりであり、同時に自分の世界を持つ管理じゃであった。そして目の前の魂は、人間。 人間もまた〈神〉によって管理されている存在である。 すなわち―― 「つまりこの子に、同情した私が悪いのよね。この子の記憶を消せば・・・。 そうよね。輪廻用の洗浄機になげこんで、前世の記憶を全部消して、まっさらな状態で生まれなおさせちゃえば・・・この女を殺しちゃったのも大した問題じゃないってことよね。そもそもあの世界におけるこの子の死って、世界には何も影響を与えないのよね」 女神はピンク色の魂をつまんで掌に載せると、それこそまさに地母神か何かのごとく柔らかく微笑んだ。 「あなたをこれから転生させます。 貴女の望む能力は、〈力〉を手にした者の自我の目覚めとともに現れましょう」 嘘は何一つ言っていない。 たしかにピンクの魂はこれから転生に入る。 そして彼女が望んだ力は、ちゃんと存在する――彼女とは別の存在が持ってはいるが。 そしてそれはきちんと自我が目覚めると同時に使用可能となる。ただし〈その力を手にした者の自我〉が、である。 ピンクの魂の彼女とは関係ないところで彼女の願いは成就されるのだが、その事実を目の前の魂が知ることは最後までないだろう。 「さぁ、いきましょう」 女神は笑みを深め、桃色の魂はまた歓喜に震えた。 ********** どうかどうか。 エクシリアのみんなが私のことを好きになってくれますように。 みんなに愛されますように・・・。 アルヴィンはどうでもいいわ。 ジュードが傷つくことがありませんように。 ミラが犠牲にならなくてもいいように。 精霊たちが酷い目にあいませんように。 断界殻(シェル)がなくなったとエレンピオスも救えますように。 ハッピーエンドなエンディングをみつけられますように。 そんな一人の少女の願いは―――・・・ |