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01. 言ノ葉 |
【 side 夢主1 】 肉体という感覚のない、なんともいえないフワフワした感覚だけが自分を包み込む。そんな空間。 目を閉じたり開いたりするような五感もなければ、目の前に何があるかも、ないのかさえもはっきりしない。もしかすると本当になにもない空間なのかもしれない。 この馴染みある浮遊感からして、今の自分に肉体はないのだろう。 なんというか、こういった空間に来るのは何度目だろうな。 ――お前の望みはなんだ ふいに音ではなく、振動として言葉がふってきた。 それは傘も差さずに雨を全身に浴びる――そんな感覚にて、〈自分〉と思われる存在、いうなれば魂に響いて、おちてきた水滴はそのまま波紋となって広がり、内へ内へと浸透していった。 はじめはソレがなにかはわからず、ただこの身を揺らす振動として感じていたが、やがて〔アザナ〕であった記憶が〈ソレ〉を言葉として認識した。 そこでパチンと自分の中で何かが弾け、寸前までの記憶が蘇る。 自分は狼の姿を取る太陽神アマテラスのこども。 悪戦苦闘の末、ヤマタノオロチをたおし、神々の国に戻った。 しかし道端で昼寝をしていた父親のシッポをふんで、そのまますべって転倒し、頭を打って死んだのだ。 思い出したら、痛くないはずの頭が痛く感じて、前世の癖で身体ふるっとふるわせたくなる。肉体があれば、その思いのままにシッポをふりかぶり、あのバカ親に一発なりなんやりくれてやるのだが、いかんせん自分は魂だけとなってしまったらしく、現状ではどうしようもない。 まぁ、死んでしまったあげく肉体もないのだから、怒りを抱くだけ無駄だ。 なんて生前だろう。 人間でさえなかったことには、もう笑うしかないだろう。 犬じゃない狼だ。ついでに犬畜生ではなく、神である。あれでも。 ハァーと、やるせない想いを吐き出す。 もちろんそれを態度や言葉に出すこともできないので、心のうちにとめるにとどまるが。 ――我を疑うか小さきものよ その間にも空間を震わす〈言葉〉は止まることを知らず流れていた。 声の主はいったいどんな話をしていたのか。 うっかり聞き逃してしまったようだ。 しかたなくもう一度と、期待を込めて耳を弧手向ける気持ちで聞いていれば、ありがたいことに相手は名乗り始めた。 ――我は造りし者 そなたらの言葉でいうならば〈神〉とよばれしもの ――約束どおり そなたの願いをきこう 力、願い、約束。 自称神からの、意味深な数々の〈言葉〉。 それは死んだはずのオレにむかってだろうか? 声がオレに向けられていることから察するに、〈そうである〉と仮定しよう。 神は宣告する。 神との対談。 これは生まれ変わったら、啓示となるのだろうか。 神様とか突然何事だとは思うが、そもそもが前世のオレじたいが神だ。たとえそのとき犬のような姿をしていても。 この空間は明らかに異質だった。 なにせオレは死んだばかりのはずだ。だというのにかかわらず、肉体のない魂だけの状態で存在できるという奇妙さ。 状況としては理解できないこともない。まぁそれも、こういう不可思議な空間に、何度か投げ出されたことがあるから言えることだが。 オレは一回目の死より、何度も転生を繰り返している。 こうして死後も自我がある時点で、また死ねなかったということだろう。 経験上、確実に死んだという感覚を味わったあともなお、意識があるということは、このまま転生への秒読み段階に入ったということ。 これらのことから判断するに、ここは死後の世界。あるいは魂だけの世界と考えるのが妥当だ。 そんな場所で話しかけてきたということは、神と名乗るだけあって、この声の主は超次元的なナニカなのだろう。 神様という名の世界を管理する存在が、この声の主なのかもしれない。 そうならば、抑揚もなく決められた文章のように語るのもうなずる。神とは、総じて人とは異なる高みに生きる者。ゆえに虫けらのように大地から離れられず自分たち種族の尺でしかものをみれない人間とは、その価値も感性存在意義もなにもかもが違うのだ。互いの価値観が全く違うため、歩み寄ることはあっても互いを真の意味で理解などできないものだ。それは神と人の生きる土俵が全く違う所にあるからだ。神は人ではないめ、人であれば必要な知識は必要ない。人が築いたルールにそって生きる必要も、人と関係を築く絶対の必要性がないのだ。 現に太陽神であった我が親は、姿の違いというのもあり、人のような喜怒哀楽は理解できていない。あのひとは自分の感覚で、ひたすらマイペースに生きていた。 死後の魂が確固たる意思をもつ――こんなおかしな空間だ。なにがこの空間にいてもなんら不思議はない。ましてやそれに加え、世界というのはいくつもいくつもあるらしいから、〈管理者〉――そんなものが、この場にいたとしてもなんらおかしなことはないのだ。 そこでふと思い出す。 そういえば前世とはいえ、ついさっきまで自分も神であったと。 ならば同胞と呼べるのではないか。 相手から接触してきたのだからと、ためしに会話を試みてみた。 なぁ、聞いてほしいことがあるんだけど。 ――望み通りそなたに力をさずけよう っが、しかし。 神からの返答は、オレの問いとは全く違うものだった。 何度か違う質問を投げかけてもオレの言葉に返答はない。 たんたんと決められた言葉は、まるでラ視聴者の現在進行形の言葉は届かず、向こう側の一方的な会話だけが流れていく。そんなラジオから流れてくる言葉のようだ。 本当に自動再生による録音ではないかと疑い始めたとき、厳かな響きが空間を揺らす。 ――その力はとても巨大なもの 振動、すなわち、現状においては神様のお言葉ですね。 って、いうかですね、むしろ〈力〉ナニソレ。本気でいらない。 けれど神にオレの意思は相変わらず届かずじまい。 そこでふいにあることに思い至る。 いままで感じていた会話への違和感と、会話の内容から察するに、神はテンプレのような言葉を紡いでいるが、一方通行とはいえ、間違いなく神は誰かと会話をしているのだ。 しかしオレの言葉には一切の反応がない。 すなわち、視ることも見ることも感じ取ることもできないが、どこかにその〈だれか〉がいるのだ。 しいていうなら神の目前にでも〈そいつ〉はいるのだろう。 二人の会話が肉体を介したものでないがために、神の声だけが同属である同じ空間にいる自分にも伝わっているのだとしたら。 神が言っていた「力」とは、すなわちこの空間にいる別の誰かに向けて告げられたものだ。 そうとわかれば、もとから力など望んではいないオレは、ただ彼らの会話に耳を傾けるだけでいい。 オレはこのままいままで同様に、ただ流れに身を任せ、転生を待つだけなのだろうから。 (ねぇ、セカイ。また来世でもそばにいてくれるかな) 自分に魂のうちに寄り添う別の魂の気配を抱きながら、オレはまどろみにまかせるように、意識を奥へと・・・・・・ 沈めようとしたところで、突然自分の中に何かが入ってくる感覚に、一気に意識が覚醒する。 え?なにこれ?! 身の内が熱い。 魂だけのはずなのに、へたすると火傷してしまいそうな強烈なもの。必死になって体の中にとどめようと抑え込むも、あまりの〈ソレ〉の巨大さに意識が途切れそうになる。 (あつ・・・ちょ!?あついんですけど!!なんだこれ!) 《おちつけアザナ。それはこの世界の神の力だ》 (はぁ!?なんだって!?) リリンと鈴のような音が内側から聞こえたかと思えば、それとともにオレの中にある別の魂、ロジャーから思念のようなものが伝わってくる。同時にロジャーが力を貸してくれたのか、暴走していた熱さがひいていくのにホッと息をつく。 普段ならロジャーの声ひとつで落ち着くものも、さすがに今回ばかりは、意味不明さがうわまわり、冷静さを取り戻すどころか焦りを生むだけとなった。 なんてものをよこしやがる。 身を焦がすような〈力〉の気配がなんとかおさまったことに、それを治めてくれたロジャーに感謝し、これ以上自分の魂が歪まないように内に新たに宿った〈力〉をなじませるように調整を行う。 ――それはお前が望むもの その力、たぶんあんたが与えるべき存在ではなく、オレに届いてますよ。 あと、まじでいらねぇ。 ――世界さえも変革しうる力 そうでしょうとも。それぐらいバカでかい力でしたからね。 普通の人間の魂にそのままぶちこんでたら、その魂、きっと粉々になってたぜ。 そう激しく思うものの、肉体のないオレに、言葉を発する器官などあるわけもなく、相手はこちらの話に耳を傾ける気もないのか、器官がないから声が届かないのか、どちらにせよ会話になりはしない。 ――なんですって!? ふいにいままでおごそかな雰囲気を保っていた空間が、一気にピリリとした緊張に包まれる。 神の対話者が何か言ったらしい。 (なぁロジャー、オレのセカイ。この展開、どうおもう?) 《どうせ俺たちの声は届いてないにしても・・・》 (だな。あまりいい予感はしないなぁ) 《そうだな》 案の定、むき出しの魂であるオレの身を震わせるような絶叫が、空間にとどろいた。 それはまさに地響きや雷鳴といった轟音のイメージとして、オレたちに衝撃を与えた。 ――「そんなに大きな力なのに感じない」「わからない」・・・ですって!?「力が弱すぎるんじゃないか」・・・って!!失礼よあなた!!たしかにあなたの寿命を誤って削ってしまったのは私が悪かったけど!!! 「それはあなたのせいでしょう!」「危機感も察知できやしない人間種って本当にやっかいね」「これだから下等劣種は」などと、神は相手に聞こえないようにブツブツと小さくつぶやいていた。 いや、あの・・・その力、感じないのも当然だと思うんだが。 たぶんその力、オレが持ってるわ。 というか、いままで音というより〈イメージ〉として言葉を受け取っていたので、性別など気にもしなかったが、言葉の隅々に浮かぶ神の本性やあの口調から察するに、どうやらこの世界の神は女性寄りらしい。 どうでもいいことか。 神はずいぶんと癇癪持ちなのか、それとも対話者がよほど彼女を怒らせる発言をしているかのどちらかだろう。 相変わらず神のいらだったような声が響いている。 ――なにを言ってるの!ちゃんと渡したでしょう!!これで貴女も望みどおりの力を上げたんだからさっさとあっちの世界でもなんでも救いにいきなさい!!どうせあちらは貴女の夢をかなえるために作った場所。好きにハーレムとやらをつくっても問題はないし、好きなだけ原作とやらも改変できる。それなのにまだなにかあるのかしら。そもそもなんで私が貴女のような女のためにそう何個も願いをかなえなくてはいけないの!?まだ能力を追加したいというのなら、すべての願いを取り消すわよ!「殺した癖に!!」「間違って殺したことがばれてもいいのか」ですって?そもそもが貴女の考えがおかしいのよ。そんなもの悪いと思ったから、私が貴女が望む夢を最後に見させてあげようって優しさがわからないとは。ちっぽけな人間ごとき魂ひとつやふたつ、私の管理下に置いてたいした影響はないのよ!!夢でなにが不満なのよ!元の世界に戻せないの悪いと思ってるから、こうして願いを叶えてあげてるでしょう!まだなにかあるのかしら!? どこの世界に行っても思うことだけど、女性という生き物はヒステリックなようでまいる。 思わず耳をふさぎたくなるが、あいにくと手はない。 内心舌打ちしていたら、オレのセカイが苦笑した気配がした。 だが、これで情報は得られたのだから、神のヒステリーも今回ばかりは妥協しよう。 なかなかに面倒そうな話だが、あきらかに別の魂と神は会話をしている。それがなんらかの原因で、オレたちにまでもれていると考えるのが妥当だろう。 神の会話の相手は、推測するに人間の女性だ。 女を殺したと言っていたから、神が管理していた寿命をつかさどるシステム、あるいは書類に、なんらかの不備が発生したのだろう。そうしていろいろと不都合が重なり、予定外日時に女が一人死亡してしまった、と。 死んでしまった女は、神に対してなにかいろいろ要求したようだな。原作がどうとか言っていたことから、死んだ女というのは随分漫画やアニメに影響を受けた世界の人間なのだろう。 こちらの神は神で大変らしい。 オレがついさっきまでいた世界の神々はまず、人型ですらなかったがな。それゆえ、かなりみんなまったりした性格だったと思う。それはもうよくこんなんで世界が管理できてるなと、笑えるほどには。 だが、聞けば聞くほど、オレは明らかに関係ないと思うのだ。 そこでもう一度対話に挑戦しようと思う。 (いい加減に、オレの話、聞いてもらえませんかねぇ) ダメもとで声をかけているせいか、とんでもなくやる気のない雰囲気となってしまった。 前世での神々とのほのぼの生活を思い出したことも影響しているだろうぐらいに間の抜けた呼びかけだった。 ――とにかく!望み通り力は渡したわよ!!その力は世界だって好きにできるぐらいなんだから!あとは貴女が好きにすればいいでしょう!もう面倒ッたらありゃぁしないわ!この世界には帰ってこなくていいから! なぁ、明らかにそれオレ関係ないよな。だけどその〈力〉とやらを持ってるの、オレなんですが!? どうしよう!? 《あーあー。こりゃぁ、どうしようもねぇな》 (いや!ちょ!ロジャーさぁん!?もう少しねばろうよ!オレたちの今後の運命が今勝手に決められちゃいそうだよ!) 《いや、無理だろ。第一に俺たちの声がこっちの神に届いてネェしなぁ》 オレが自分の中のロジャーと話していると、神が癇癪を起したように「静かにしてよ!」と叫んだ。 そう叫ぶ前に、オレの話聞けよ! 物語にでてくる神様なら、こういう魂と対話するときって、相手の心とか読めちゃうんだろ!?肉体がなくても心が読めるんだろ!なぁ、だれかそうだと言ってくれ! ああ、もう!! オレの言葉を聞け! (じゃなかったら、オレに話す機会か、じゃべれるように肉体をくれや!!) 思わず神へ八つ当たりの様に怒りがわいて、こちらかもだまれと叫んでしまったのは仕方がないこと。 とはいえ、伝わるはずもないんだけどな。 ――うるさいってなによ!失礼にもほどがあるわよ!いいわこれが最後よ!声をつけれればいいんでしょう!! ん? あれ?通じた。 なぜか突然会話が成り立つようになった。 じゃぁ、さっきまでのってオレは無視されていたとかそういうオチだろうか。 目とかなにもないので、周囲の状況が何もないと判断していたのは間違いだったか。 と、思ったのだが ――はいはい。さっきの力を声の能力にねぇ。へぇー。もうどうでもいいわ。チートなんだから気をつけなさいよ カミサマはおざなりな態度をにじませる言葉遣いで言い切った。 とたん、オレの中で押さえつけていた力を包み込むようなフワっとしたなにか、温かく巨大なものが流れ込んできた。それは暴走するだけだった力に指向性を持たせ、ロジャーとオレとで二人がかりで抑え込んでいた衝動をようやく落ち着かせる。 指向性・・・ねぇ。 いったいどんな能力を夢見る少女は望んだんだ。 っていうか、なぜオレにくれるんだ。そもそもいらねぇーし。 オレだって、死ぬ前までは神様だぜ。力なら存分に有り余ってる。 太陽神だぞー。次代のだけど。 そんなオレに何を渡しやがった。 ――貴女の行先は、望み通り TOX1の世界よ。原作介入でも好きにすればいいわ。どうせ物語の中の世界でしかないんだから。望み通りしっかりハーレムしてきなさい。 『なぁ、この力ってなんだ?』 ――なにって、貴女が今自分で決めた能力でしょう?「声をくれ」って、つまり声を媒体に能力発動するって・・・・・・え? こちら側からは見えないだれかと会話しているらしいカミサマに、〈力〉をたしかにオレのものとしたことで会話が可能になったことにほっとして、口を開けば〈謎の間〉がうまれた。 そして―― ――え?うそ!?あなたダレ!?なんでここに第八相違世界の太陽神がいるのよ!いつからいたの・・・あ!・・・ちょ!!ま・・・ 神の慌てようといったらなかった。 すごい空気が振動して、もしも魂が丸い形をしていたとするなら、その表面が振動で波打っていただろう程にはひどかった。 ああ、なんだ。さっき声を出すよりも先に、会話が通じたと思ったのはオレの錯覚だったのか。 脳に直接響くような神の声は言葉の途中だったが、なにかに吸い寄せられるような気配がして、オレの魂はどこかの世界へと生まれるための軌道にのってしまった。 吸引力にとらえられる前に、神のものとおもわれる女性の悲鳴じみた声が聞こえた。 が、そんなことしったことじゃない。 なにより、これから生まれる世界のことも。 間違いでもらってしまった能力も。 なにもかもさっぱりなのだから。 いっそのこと、前世の記憶もさっぱり消して、真っ白な状態でゼロからはじめられたらいいのに・・・。 すべてをゼロに。 どこかの世界にあったパソコンという機械みたいに、ボタンひとつですべてを初期化できたら。 それはもう〈転生〉ではなく、〈誕生〉だと思うんだ。 転生を繰り返すオレには到底無理な願いだとわかっていても。 どうかオレの魂が壊れる前に、このいつまで続くかわからない転生も終わりますように。 『っと、いうわけで生まれました。アルフレド・ヴィント・スヴェントです。よろしく?』 |