赤 色 逃 避 行
- 伝 説 で い こ う ! -



05.金色の誤解








side ポケスペ ゴールド








〜ポケスペ世界〜

 あの<マスク・オブ・アイス>事件のあと、麦わらギャル――もといイエロー先輩やカスミさんの気持ちを理解していないレッド先輩の「一緒に住むか」なんて暴言に、思わずレッド先輩の腕をとりその場から俺は逃亡した。
逃げる名目は必要だ。
思わずレッド先輩と修行できたらという願望が、そのまま言葉となった。
よし。温泉もわいていたし、あそこの環境は凄いから、シロガネ山にいこう。
レッド先輩はやっぱり状況をわかってなかったみたいだけど、去り際にチラリと振り返ったときにみたイエロー先輩とか他の女子陣の寂しげな顔に胸が痛む。
とりあえずこのひとどんだけ鈍いんだろうと、思わずにはいられなかった。
むしろわざとやってるんじゃないかと思う時がある。

実際は本当に鈍いだけなんだけどさ。

まいるっすね。天然イケメンタラシは。





**********





 レッド先輩とシロガネ山で修行や旅をはじめて数ヶ月。
いつものようにバトルをして、山の山腹にある温泉の湧き出ている場所で、飯の準備をしていた。
レッド先輩は木の実をとってくるといって、温泉の向こう側の林にいった。
俺はのんびり準備に取り掛かっていたが、ふいに近くでなにかが水の中に飛び込むような音が聞こえ慌てて振り返った。
振り返ったときにはもうことがおこってしまったあとらしく、赤い色が視界をかすめて、温泉の中に飛び込んだ。
たしか向こうの方にあった温泉は、川の水が流れ込んでいてぬるかったから問題はないはず。
でも問題はそこじゃない。
温泉は湖ぐらいの広さがあって、底がきれいに見えるから遠近感を狂わせられてしまい足が届くと勘違いしやすいが、浅瀬はなくて、5メートル以上は深さがあったから、安易に入らないようにしようっていっていた場所だ。

「っく。距離がありすぎっすよ!!」

 たぶんあの赤色はレッド先輩だ。
なにがあったのかはいまいちよくわからないが、音がしたほうへと慌てて駆けつける。
遠くからザバッと水音がひびき、レッド先輩の「大丈夫か!」という声と、湯気の向こうから、と複数の荒い息遣いが聞こえたから、うっかり誰かがあの温泉に落ちたのは間違いないだろう。
相手からの返事らしい音は聞こえなかったら、もしかするとポケモンかもしれない。
レッド先輩は優しいから、おぼれているポケモンでも助けただろうと思った。

「センパイ!大丈夫ッスか!!」

 間欠泉とかよけたり、湿気や岩場ということで滑りやすい場所を走り抜けるのは難しい。
若干遅れてたどり着いた。
そこにいたのは、なにか怯えるように縮こまった“赤色”。
それの具合を確かめようとするかのように手を伸ばしたレッド先輩の姿。

ん?赤色?
ポケモン?こんなところに赤い奴なんて居たか?

「突然センパイが飛び込むからびっくりしっちゃったじゃないですか。いったいなにが・・・」

先輩の姿を見つけて声をかけようとしたら、その赤色がいきなり飛びついてきた。
何事だと思ってびっくりしていると、それが人であることに気付く。
正面から服をつかまれ何かを訴えかけられているのに気付き、視線を下へ、必然的にそのひとの顔を見下ろすかたちとなり――

極上の宝石のような赤色と目があった。

「っ・・・!!」

あぁ、さっきレッド先輩が伸ばした手は、きっとこの宝石に伸ばされていたのだと、なんとなく理解した。

 俺の胸にとびこんできたのは、俺より頭一つ分は小さな・・・おとこ、いや女の子?
 顔立ちはどことなくレッド先輩に似ている気がしないでもないが、幼さの残る大きくて丸い目や全体的に柔らかそうな輪郭とかが、きれいというよりも可愛いらしさをだしている。
白い肌は温泉のせいか若干赤みがさし、温泉でおぼれかけた名残でぬれてしまった少し長めの前髪がそのきれいすぎる顔に張り付いていてどことなく艶やかにみせていて、なにかを訴えるように俺をみつめてくる深紅の目は涙で潤んでいて――。

なっ!なんなんすかぁー!このメチャクチャかわいい生き物はー!!!

とっさに抱きしめてあげそうになってしまったが、それを気合いで止める。
そうしているうちに赤めの子は、チラリとレッド先輩の方をみると、今度は本気で泣き出してしまった。

「え、あの・・・ちょ、ちょっと・・・」

キラキラと赤いウサギのような瞳から静かに零れ落ちる涙は、混じりけのない宝石のようで地面に落としてしまうのがもったいなく思ってしまう。
 声もださずにしくしくと泣く姿はとんでもなく儚げで、今にも消えてしまいそうだ。
行動のすべてが絵になるというか可憐で可愛い。
だけどそんな可愛い生き物が、あの優しくて強いレッド先輩ではなく自分にすがっていると思うだけで可愛さが倍増だ。
 あまりに可憐に泣くから、俺らしくもなくその細い腰ごと抱きしめて「大丈夫すよ」とか言いたくなったが、目の前の相手を近くで見てしまうと余計にそんな気が起きなくなる。
逆に目の前の相手にはそんなことしてはいけない気がしてきて――そこでふと無意識のうちにその子の背に伸ばされつつあった自分の手に気が付き、俺はわたわたと手がふれないようにあっちへやったりこっちへむけたりした。

ぎゃー!!!俺ってばなにしてんだぁ!!

 俺の怪しい挙動がばれないように懸命にバタバタしていたら、泣いていたあの子は顔を上げて、不思議そうに下から俺をみあげ首をかしげた。
そのあまりな純粋な瞳に、思わず顔がひきつる。

よ、よこしまな考え持ってすんません!

 心の中を読まれたら、今の俺なら自殺してもいい。
 そう思って本気で焦っていたら、内緒話デモするように目の前の子が口を開いた。
小声で話しているのか、その声はうまく聞き取れない。

「え?え?あ、あのちょっと!?ちょっと待つッス!!」

 聞き返すも不思議そうにされるばかりでなにを言ってるのかわからない。
せ、せっかく可愛い女の子が話しかけてくれてるのに俺のばかぁー!!!

「あははは。ゴールド。お前随分なつかれたな〜」

焦る俺をみて、レッド先輩が楽しげに笑う。

「懐く…って。はぁ!?っつうかレッド先輩、だれッスかこのひとー!!」
「え。そういえば知らないな。水しぶきが見えたから助けて、すぐにゴールドがきたしー。ま、無事だったからいいじゃん」

カラカラとワリーワリーとほがらかに笑う先輩は、毒もとげも何もない。
このひともいいかげん無邪気だけど。
なんか違う!
こんなときにその鈍感さをはっきしないでくださいよセンパイ!!

 俺と先輩が会話している間に、あの子は少しうつむきがちになっていて、視線をもどすとまた小さく口を動かしていた。
どうも俺になにかいっているらしいが、遠慮気味に開かれたそこからはやはり聞き取れない。
おぼれたのがよほど怖かったのか、一瞬ギュッと強く赤い瞳が長いまつげに閉ざされる。
その手は相変わらず俺の服を掴んだままで、小さく肩を震わして、抱きつくように身体を俺にくっつけてくる。
ポタリと、つやのある綺麗な黒髪からシズクが頬へと落ち、サラリとした輪郭を辿って地面へと落ちていく。
ちょ!ちょっと!そんななにもこのタイミングで、そんな涙みたいに演出効果出して落ちなくても!!
ってか、あんまりくっつかれると手のやり場に困る!!
抱くのはヤバイと思う。なんか壊れちまいそうだし!!
ああ、もう!!これ以上はだめだ!と、ガッシとその子の肩を掴んで、身体を引き反す。
掴んだ肩はやっぱり凄く細かった。
引き離して、その温もりが肌から離れて、やっとホッと一息つく。

お、男として今のはなんか色々やばかった。


「あ、えっと・・・ごめんな。なんて言ってるかわからないんすけど・・・」

 身体を話すことに成功してほっとしつつも、照れ隠しというかなんというかで自分の頭をかきつつたずねかえす。
顔が渋面顔になっていたのはこの際しょうがない。
もう一度だけ言ってくれる?とたずねると、コクリと小さく頷いてくれた。

声が小さいのか?

饒舌に口は動いているが、その遠慮気味な小さな動きでは声も小さいのも頷ける。
でも何度も同じことを言わせるのは漢ゴールド、物凄くしのびない。

どうしようかと思っていると、何かを真剣に考えているらしいレッド先輩が目に入る。
どうしたんだろうかとその視線を辿ると、先輩がみていたのは目の前の子だと気付く。
そこで先輩が何かに気付いたようにハッと表情を変え、思わずといった具合で「あ!」と大きな声を出した。
突然だったせいか、それとももとから臆病なのか、目の前の子が先輩の大声にビクリと肩を震わせた。
そのままレッド先輩から逃げるように、俺の背後に隠れてしまった。
ガタガタと震えているのはたぶん濡れた身体のせいだけじゃないだろう。
この子は怖がりなんだと苦笑し大丈夫っすよ〜と今度こそ声をかける。
それに音がしそうなほどの振るえだけは止まる。

そんなあの子にレッド先輩は申し訳なそうな顔をした後、困ったように苦笑を浮かべた。

「あー・・・おれの勘違いじゃなかったらごめん」

そういって頬をかく仕草からたぶん自信がないか、あるいは本気で困っているのだろう。
困る?なにに?
おどろかせたこと?
それともこれから言うこと?
言うべきか悩んでるってこと?

だけど俺はそれほど頭がいいわけじゃないから、言葉にしてもらわなくちゃ先輩の言いたいことがわからない。
レッド先輩の言葉を促すようにその名前を呼ぶ。

「先輩?」
「たぶん・・・その子、しゃべれないんじゃないかな?」

歯切りが悪く返って来た言葉は予想外で思わず固まってしまう。

「え?」

あぁ、でもそれなら頷ける。
声が小さいんじゃなくて、話せないのだとしたら――。





 あれから目の前の相手の子が本当に口が利けないことがわかり、筆談という手段を用いて会話をすることまでこぎつけることに成功した。
これで意思疎通にかんする問題がなくなった。
実はそこまでいくのが意外と大変だった。

電撃をくらったり、漫才を止めたりと――俺のまだしびれる手がその証拠だ。

 あの子は本当に不思議な子で、ポケモンの気持ちがなんとなくわかるイエロー先輩とは違って、完全にポケモンの言葉がわかっているとしか思えないところがある。
なぜならあの子とあの子のピカチュウが視線を合わせたり、うなずきあったり、あのこが口を動かしたりして会話のようなことをした後、なぜか二人(一人と一匹)は漫才のようなことをはじめ、しまいには喧嘩に発展したのかそのまま電撃が飛び交いはじめた。
そして俺はあえなくその電撃に巻き込まれて今の現状に至る。
 その様子をずっと見ていたレッド先輩は被害が来ないからか、ずっと楽しそうに笑っていた。
せめてとめてくれと思ったが、先輩は最後まで笑っていた。
 そんなこんなで、あの子との会話にこぎつけるまでが大変だった。
あの子が変なボケをかます(筆談による会話からの天然勃発時)と、すかさずピカチュウが攻撃してくるのだから、余波をくらいかける俺は必死だ。
なにせ人見知りらしいあの子は、抱きついてこなくはなったものの俺の服を掴んだまま離してくれないのだ。
おかげでピカチュウの攻撃になれているあの子はうまくよけるのでともかく、なれていない俺が無傷でいられるはずもなく俺ばかりが黒コゲである。

そうしてわかったことは、いままでの冒険をひっくるめてもおつりが付きそうなぐらい驚きだった。
“異世界”あるいは“平行世界”というのが正しいだろう。
それにはあののんきなレッド先輩さえも驚いていた(始めだけ)。


 あの子の名前は『レッド』。
やっぱり出身はマサラタウンで、今は13歳らしい。
相方はレッド先輩と同じくピカチュウで、名前は『』というのだとか。
人見知りが激しく、そのせいでレッド先輩を怖がっていたもよう。
俺にだけなついていたのは、どうやら三つ下のイトコのゴールドくんと間違ったらしい。

ややこしいなおい。


 名前からわかるとおり、あの子はなんと別の世界から飛ばされてきたとか。
始めは信じられなかったけど、たしか“時を渡る”ポケモンや“空間をつかさどる”ポケモンなんてのも世の中にはいるって話だから、そういうこともあるのかもしれない。
いわれてみるとナルホドとも思う。
現に『レッド』はレッド先輩によく似ている。
相方もピカチュウなところまで先輩と同じだしな。

 “別の世界のレッド”ということで、レッド先輩もさすがに驚いていたけど、別の世界の自分に会えるなんてとすぐに順応していた。
順応が早すぎだ。



そして最後にわかったことだけど――


『レッド』は男の子だった!!


 ってか、なんで気付かなかった自分!!
だめじゃないすっかそれ。

 あーあ。でも・・・そりゃぁ、そうだよな。
こっちのレッド先輩が男なんだから、ほとんど同じような格好をしてる向こうのレッドさんが男でもあたりまえなわけで。


「・・・・・・」


チクショー。
俺の純情かえせぇ!!


 話をひととおり聞いたあとに、思わず足から力が抜け地面に膝を付き、そのまま拳で地面を殴った。
その様子を見て不思議そうにキョトンと、同じような顔で首をかしげる二人の赤色。
そしてすべてを理解していると思われる『』が、ゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。

なんか悔しい。








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帽子の下の夢主の素顔は、なんと可愛い系レッド(笑)
現在は夢主のほうが頭一個分小さいので、ゴールドは上目づかいをくらいまくってノックアウト。
ちなみにこれをレッドさん視点で見るとまた違った感じで勘違いが勃発。
目指せ!究極の勘違いをうみだす夢主!

って、あれれ?これじゃぁ年齢がおかしいような・・・。
う〜ん。ま、年齢や時間軸の修正はおいおい。








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