伝 説 で い こ う !
- ポケット モ ン スター -



04. 人見知りは旅立った







『ありえませんよ母さん。別に掟じゃないんだから何もオレがいかなくてもいいと思いませんか?
世界の危機や世界の頂点をかけた戦いなんか、 やりたい奴がヒーローとして世界を救って、なりたいやつがポケモンマスターを目指せばいいと思うんですよ』
「だめよれーくん。お母さん、れーくんとくんが旅に出ると思って、もう豪華客船のツアーにジョウトの姉さんと申し込んじゃったもの」
『はやっ!!』

 テーブルをはさんで黒髪の少年が、よく似た顔立ちの母親に訴える。
しかし実際聞こえてくるのは、母親の声ばかり。
今年十歳になったばかりの少年の口からは、声が音となって出ることはない。
ただ母親の彼女だけは無口、無表情の少年の心のうちに目ざとく気付き、普通に会話が成り立っている。

「そんなわけで一週間後にはお母さん、家でるからね。あなたも旅の用意しなさいよ」

この世界の子供達は十歳になると、ポケモンマスターを目指して旅立つのだ。
それはけっして決定ではないが、マサラにいる限りはみんなそうしている。
しかし目の前の少年は引っ込み思案であり、本人は旅に出る気さえなかった。
極度の人見知りの彼は、しばらく肩を震わせていたが――

『か、母さんのあほー!!』

赤い大きな目に涙を浮かべて家を飛び出てしまった。
それに母親は「荷物ぐらい用意してから旅立ちなさいよ〜」と告げ、 そのあと思い出したように小さくなっていく後姿に預かっていた伝言をぶつけた。

「あ、ちょっとれーくんてば!!オキード博士が呼んでたわよ」
『かあさんのアホー!アホォーアホーーー!!』

「…って、もう。逃げ足だけは速いんだから」

 少年は赤い目に涙をためると、捨て台詞をはいて家を飛び出していった。
そのうちなる声が、こだまのように響いていた。
それにため息をつきながらも母親は視線を部屋に戻し、 自分の息子と同じ気配を探って位置を定めて何もないそこに声をかけた。

くんいる?」

 少年の去ったあと、母親は空中に向けて声をかける。
すると何もなかった場所の空間が歪み、 ミュとかわいらしい声を上げて白く光るポケモンがフワフワと宙にあらわれた。

「ミュ、ミュゥ?」

 伝説のポケモンといわれるミュウだ。
ミュウは少年がとある事件を引き起こした五年前からこの家族と共に暮らしていた。
もちろん人前では一切姿を見せることはなく、 みせたとしてもそれはミュウとしてではなく変身で別のポケモンに姿を変えている。

このミュウの名をといった。

『ほいほ〜い。なぁにママさん?』
「わたし、姉さんと旅行に行くからあの子をたのむわねくん。
わるいけど側にいてやってくれる?ほら、あんな無愛想だからわかりづらいけど、 あの子、実はものすごく人見知りが激しいから」
『りょ〜かい』

もともとが少年から離れることはできないのだが、それを知らない彼女は安堵したようにうれしそうに笑った。

「よかったわぁ、くんがいてくれて。
ほら、あの子。話せないじゃない?
みんなには病気で声が出なくなったっていったけど…。
あれのせいでグリーン君以外に友達ができなくて心配だったのよ。誤解されちゃうんじゃないかしらって」

彼女の言葉に、トは乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。
がなぜレッドと同じ気配を放つのか、それもすべて少年との出会いはから始まった。

はじまりたる事件の詳細を彼女は知らない。
それでも彼女もまた当時のレッドの異常さは理解していた。

「さすがに黒魔術の失敗で声が出なくなったなんていえないわ」
『本当に・・・そのとおりです』


 ――すべては五年前のある事件から。


 五年前――このポケモンの世界に、一人のおかしな少年がいた。
それがレッドだ。
彼は生まれたときから人よりも頭がよかったが、そのぶん物心ついたときには異常な言動ばかりしていた。
邪神とよべるものをあがめ、日々部屋で怪しげな儀式やら術式にばかり磨きをかけていた。
それゆえ彼が昼間に姿を見せることはなく、五歳のそのときまでマサラタウンの住人でもレッドを知る者は少なかった。
そんな少年レッドが、ピッピという存在を知り、さらには異世界というものに興味を持つのも仕方がないことだった。
そうして彼はより強い魔術を求めて、ミュウの身体の一部が化石となった石版をどこからともなく持ち出してきて、怪しげな術を完成させた。
そのときのミュウの放つエネルギーを生贄に、別の異世界にいってしまったのだ。
術は成功し、本当のレッドの魂は、向こう側の人間)の体をのとった。
そのさいに世界からはじきだされたの魂がこの世界のレッドの肉体に宿った。
しかし生贄にされたミュウの魂もの魂も通常の状態を保っていることさえできないほど崩れかけていたため、 レッドの肉体に魂を定着させる際に二つの魂がくっついてしまうということがおきた。
交じり合った二つの魂は、今のレッドとなり、それ以降二つの魂は離れられない関係となったのだ。

魂がつながっている。

それゆえに、気配に敏感なものは、とレッドを同じにみる。

 それが五年前だ。
あれ以降、中身がであるレッドは、魔術やら魔法といった類を嫌っている。


「まぁ、失敗したからよかったのか…わるいのかはわからないけど。
おかげで暗黒の儀式やら黒魔術とかにはあぶないことには興味をなくしてくれたからよかったものの・・・ねぇ」

 彼女はまさかその怪しげな儀式が成功して、中身が入れ替わっているとは露ほども思わず 、儀式の失敗によりレッドが心を入れ替えてくれたと思い込んでいる。
レッドの表情が動かないのは昔からだったらしく、レッドがと入れ替わっても周囲は何も変わらなかった。
逆にレッドがまともになったことに母親は喜んだほどだった。
ちなみに今のレッドは、すっかり魔法やら魔術を極端に怖がるようになったので、 動けるようになったとたん、いかにも怪しいグッズであふれていたあの部屋の物を全て見えない場所にしまった。というか、捨て去った。





**********





 一方、無我夢中で家を飛び出してきたレッドことは、気がつけば草むらにいた。
走っていた勢いのままに何かに躓いてこけてしまった彼は、痛みに顔をしかめながら起き上がろうとして 、ガサリと鳴った目の前の茂みに肩を揺らして飛び上がったが、あまりの恐ろしさに肩が一瞬ピクリと動く程度しか動かなかった。

『ぎゃぁ!!なんかでた!こわいこわいこわい!!助けてーくん!』

あらわれたのは迷惑そうな顔をしたコラッタだった。

『…うるさい!!だれなの?わたしの家の側で騒ぐのは?』
『ぎゃー!!コラッタ!かまれるぅ!!くんと一緒にいるのはオレがわるいんじゃないんですよ!!だからかまないでー!!』
『目を合わせただけでかむわけないじゃないの。
それよりなんでわたし達の言葉わかるのかしら?変な人間ね。
本当にあなた人間?気配がわたしたちそっくりよ。ポケモンじゃないの?』
『変でごめんなさい!人間でごめんなさい!!半分ポケモンでごめんなさい!!』

 はミュウのとすごすようになってから、ミュウを人間に奪われたと誤解し守ろうとするポケモンたちに奇襲をかけられ続けていた。
そのためポケモンに極度におびえるようになっていた。
しかし彼の動作はことごとく鈍く、あげくしゃべれないし顔の筋肉は動かないしで、彼は常に周囲から誤解されていた。
恐怖で固まっているだけな彼の鈍すぎる動作に対し、 彼の"声"をきけるポケモンたちはたいしたことない相手と判断し攻撃を仕掛ける。
逆に"声"が聞こえないものたちは、 どんなポケモンがきても応じることのない――っと周囲は誤解している――彼に畏敬の念を抱く。

『意味わかんないんだけど…。
それにしてもそこまでコラッタごときにおびえる人間始めてみるわよ』

 支離滅裂な彼に対し、外見よりもはるかに大人びたコラッタは、 ポケモンらしくなく小さくため息を吐くと、レッドに関しては考えることを放棄した。
彼女は子供に言い聞かせるように口調を和らげ、そこで幾分かが落ち着いたのを見て一歩近づく。

『あ、あの…ち、ちかっいんですが……』
『おちつきなさいな』
『いや、でもだって!歯がでかすぎ!!』
『これはわたし達の誇りなの。なんなら触ってみる?立派な歯でしょ。別にかんだりしないわよ』
『ぇ…えっと。その…か、かまないですか?オレが変でも怒らないですか?』
『するわけないじゃない。人間なんて噛んでも得はないもの』
『ま、まじで?』
『あなたみたいなヘタレをおそっても。わたしの経験値になるわけでもないし。
そもそもわたしに触れれば少しはポケモンも怖くなくなるでしょう?そうでもないとあなた、この先、生きてけないわよ』
『それはそうなんですが。あ、あの・・・じゃぁ、遠慮なく』

すっかりポケモン恐怖症なに、コラッタはどうぞと近づく。
そこでゴクリと息を呑んだはコラッタにうながされて、オズオズと手を出したところで・・・。

「まてまつんじゃぁ!!」

『ん?なんだ?って、うわぁ!!!』

 突然背後から声が聞こえたかと思うと、白衣を着た老人に勢いよく腕をひっぱられた。
そのままはやさしいコラッタから離されてしまい、わけがわからないままに老人についていくしかできなかった。
コラッタは何かを察したように白衣の老人を見つめ、戸惑い気味のに「適当にがんばりなさい」と告げた。

『バイバイ変な人間』

彼女はくるりとしたしっぽをふると、何事もなかったかのように再び茂みの中に帰っていった。



 それからピカチュウに変身したがこっそりオーキド博士の研究所を覗いて見つけたは、笑顔のオーキド博士からモンスターボールを手渡されて泣いていた。

『オレは旅なんかでたくなかったんだー!!』

その悲鳴は人間達には届くことはなく、無言で膨大な汗をかいて立ちすくむ赤色の姿には腹を抱えて笑った。








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