有り得ない偶然 SideW
++ TIGER&BUNNY ++




第4話 微笑むひと



いままでのTVをみた感想というか、聞いていた話と少し違うなぁと思った。
おや?と思ったのは一瞬で、けれどTVと同じ顔で笑う男に、錯覚かと首をかしげざるをえなかった。





-- side ロイズ --





 やってきたタイガーは、ベンに話を聞いていたよりも落ち着いた感じの男だった。
いくつか話をし、それから少しして、賠償金の話となった。
真剣な様子で話を聞いていたタイガーは、賠償金の話になると渋い顔をするかと思いきや、なにやら不安そうな表情をしはじめた。
親を前に張した子供のようなだめだしを待つような、困惑の混ざった表情。
それに首をかしげると、彼のほうから口を開いた。

『ロイズさん、あの、相談があるんですが』
「なんだね?」
『実はその賠償金についてなんですが――――――――というわけなんですが。
なんとかなりませんかね』

 それは驚くべき内容で、あの猪突猛進を地でいくワイルドタイガーの口から出たとは思えないようだった。
前例はない。
だが悪くない話に思えた。

「なるほどね。そういうことならこちらも助かるかな。うん、考えてみよう」
『本当ですか!?ありがとうございます!』

 うん。やっぱり、きいてた性格とちょっと違うような?
まぁ、まっすぐなのは変わりないみたいだけど。

「私はてっきりバディの件やら、スーツのことで、君がごねるかと思ったよ」
『ああ、虎徹だけだったらごねてたでしょうね。変なところにこだわりがありましたから。
トップマグには愛着がありまたから。前のスーツしかきたくない!とか言ったでしょうね』
「まるで君が虎徹君じゃないような口ぶりだね」
『残念。これでも本人ですよ』
「そうだろうね」

 そんな特徴的なヒゲはシールでもはらない限り、君だけだろう。

『愛着があったといっても、だからといって、違う会社名のはいったスーツを着ないわけにはいかないですしね。なにせオレはもうアポロンメディア所属ですし。
これでも抑えてがんばってるんですよ』
「ん、まぁ。そうだね。叫ばれようがなんといわれてようと、もう君のスーツこっちで用意しちゃったんだ。着てもらうしかないけどね」

 なにせあのハイテクを装備したスーツだ。
当然、一日やそこらでできるものではないのだ。
すでに彼の分も用意されている。
断られたりやめたりされたら大損失だ。

『・・・それてどうやってオレのサイズはかったんです?』
「ヒーローは全員検診受けただろう春に」
『あ、ああ。思い出しました。あれね。なるほど。どうりでいつもより念入りにはかるなと…え!?あんなときから七企業の独占って決まってたんですか。知らなかった』
「その段階ではまだバディーヒーローのことも、あのスーツのことも未確定段階だったけどね。
まぁ、当時からもうトップマグのかかえる賠償金額が抱えきれなくなっていたから、君がこちらにくるのは決まっていたが。
バーナビーくんをヒーローとして迎えるのは、上の間ではずっと以前から決まっていたらしいし」
『へー。じゃぁ、あのロボットぽいの、オレもきるんですね』
「そうなるかな。
さっきも言ったけど、ずいぶん前から決まってないと、ああいう最新技術搭載のロボットぽいスーツの開発なんて普通無理だからね」
『当然すね』

 ――っと、そこでタイミングよくヒーロー収集の合図としてパッドが音を立てる。

「さぁ、いったいった。新しい君の出番だよタイガー。
スーツのことは開発の斉藤君に細かいことは聞いてくれたまえ」
『はい!いってきますねロイズさん』
「頼んだよ」

 新人くんのことも、救助を求める者のことも。会社のアピールも。
そういったいろんな意味を含めて送り出せば、去り際にこちらを振り返ってタイガーはやわらかく目を細めて『了解です』と片手をヒラリと挙げて去っていく。
大人びたふわりとしたやわらかい笑みに、驚く。
どうもついさっきまで目の前にいたタイガーは、TVでみた派手好きな壊し屋とも、きいていたどの話とも違う気がした。

 “家族より仕事を優先する”“異常なまでにヒーローにこだわるヒーローバカ”―― じゃぁ、なかったの?
パソコンとかやったことないってきいてたんだけど。
35歳のくせに仕草がこどもっぽいとか。
まっすぐすぎて考えてることがすぐにわかるとか。
けど本音は絶対隠して、かわりに自分より他人を優先する。とか、とか。

 私はそういうふうに、きいていたんだけどねぇ。

「最後の“あれ”が素だとしたら、バーナービーくんの当て馬なんて売り方させないほうがよかったかもねぇ」

 まぁ、それはおいおい考えるとしよう。
すでに取材許可をだしてしまった案件は覆しようがない。
それに。そのことに関しては、いままさにタイガーと約束してしまったばかりだ。

――空いている時間は、彼の“お願い”を優先すると。

「しかたないね」

 あんなうれしそうに『ありがとうございます!』なんてあたままでさげられちゃぁ、いまさら撤回なんかで気やしないよ。
まぁ、あれなら大丈夫でしょ。
今後に期待させてもらおう。










ロイズ視点。
夢主は年長者フェロモン垂れ流した。ロイズが一番初めの犠牲者となった。
そして彼の“お願い”とは――
それはそのうち。








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