第3話 太陽神の居城 |
『楓に会いたい』 嫌でも仕方ないことに、紹介状と共にアポロンメディアに出向くはめになった。 とはいえ、娘のほうが大事なので、そっちにいきたくてしょうがない。 だって今日はせっかくの大会だぞ。 一日ぐらいヒーローを休んだっていいじゃないか。どうせオレの他にあと5人はヒーローがいるんだしさ。 今日は楓の特別な日なのに。ようやく本人と会えるのに。 おもいっきりため息が出たが隠すきもおきない。 -- side 夢主1 -- 『ここか…』 ベンさんとわかれたあと、彼からもらったメモを片手にたどりついたアポロンメディア。 オレが着いた場所は、さすがはあの七大企業に名を連ねるだけあってばかでかい。 ベンさんには申し訳ないが、トップマグとは比べ物にならないぐらい儲かっているのも一目瞭然だ。 今日からここがオレの仕事場になるんだな〜と、そのご立派な建物を見上げる。 これはもういっそ塔のようだ。 『・・・・・・』 ――とはいえ、やはり思うことはひとつだ。 やっぱりさ、労働基準法とかあるんだろ。ヒーローだって所詮職業なのだから。 アポロンメディアは、大会社で金持ちだし、ヒーローはもう一人いるだろ。こないだ発表されたばかりのあの赤いロボみたいな奴。やつもたしかアポロンメディア所属だったはずだ。 ケチケチせず一日ぐらい休みをくれてもいいだろうがよ。 とか思ったら、微妙に舌打ちがしたくなった。 誰の目があるかわからないから、がんばって顔を引き締めるにとどめたけどさ。 へたすると今日すぐにでも出動とかにだってなってしまう。 そうなったらどうしてくれる。 楓ちゃんに会えないじゃないさ。 今日は四時から楓ちゃんはフィギアスケートの大会に出るのだぞ。 大会だぞ。大会。 そういうものに出れるってことはとっても凄いことじゃないか。 もう昨日の夜からプレゼントは装備済み。 いつでもどこからでもいけるように準備は万端だ。 そして、なによりオレが彼女に一度でいいから生で会って会話がしたいんだ。 あと「よくがんばったな」って、絶対大会が終わった楓ちゃんの頭をなでてやるんだ。 それが今日のオレの夢なのだ。 腕時計を確認する。 時間はまだまだあるが、ヒーロー稼業ではそうもいってられないだろう。 もし今日から仕事しろとか言われたとして、さすがに前のヒーロースーツではロゴが違うし、それに会社自体違うのだから、勝手も違うはず。 『あちゃー。これって説明とか聞かされるのがオチ?』 オレもだけど、虎徹もみたいだけど、お互い長文を読むのは好きじゃないようだ。 お互いに感覚派のようなので、取扱説明書みたいなものをわたされたらめどうだ。 でも…オレは今は社会人で。 この目の前にそびえたつビルは、まさにその新しい就職先なわけで―― しかたない。 オレは意を決して、その門戸をくぐった。 とりあえず受け付けのお姉さんにロイズさんと約束があることを行って通してもらった。 受付嬢たちはオレをみてなにやらキャーキャー言っていたが、笑い返す気力もなく、ハンティング帽を目深までかぶってもうひとつため息をついて、胸の中のもやもやを追い払う。 エレベータの中にあった鏡に暗い顔のおっさんがいるのに気付き、これではいけないと。 鏡をみながら頬をたたき、背筋を伸ばして、笑顔の練習をした。 なんにせよ初めって肝心だからな。 『よっし!いくか』 エレベータの扉がひらく。 光がまぶしい。 ここから先は、新境地。 さてどうなることやら。 アポロンとは、後に光明神の性格を持つことからヘーリオスと混同され太陽神とされたが、本来は予言と牧畜、音楽(竪琴)、弓矢の神。 ここでいうアポロンは太陽神のことである。 |