有り得ない偶然 SideW
++ TIGER&BUNNY ++




第2話 家族愛してます



-- side 夢主1 --





《この度、弊社トップマグ・ヒーロー事業部はヒーロー業務から撤退することになりました。
ご用件のある方は総務部までお問い合わせください》



 昨日、自分に娘がいることを知り、血のつながった娘の存在にテレビ電話を見て、嬉しくなってうっかりへにゃりと相好を崩したオレ。
おかげでまたしても怒られてしまった。
 今日は彼女のフィギアスケートの大会があるんだそうだ。
なるほど。虎徹の記憶の中にもその予定はしっかりある。
プレゼントを準備する時間はないなぁ。
むしろ出動要請が来ないといいな。
胸張って試合を応援に行けるじゃん。

とか思っていたら――その日から見事に仕事がなくなった。

 物凄くとまどった。
 なんと連絡もなく、突然オレは会社に見捨てられたらしい。
ふつうこういうのって事前連絡あるよね?
一般社会人生活をしたのが何百年前の魂の記憶かわからないが、たしか一か月前にはそういう人事異動の連絡ってしないといけないのが普通だったような気がする。この世界の「普通」がどういう状態かはしらんが。

 ああ、でも。ようは考えようか。

 これで楓ちゃんに会える。
生の、電話越しじゃない本物の娘に会いに行けるじゃないか。
十年休みなく働いたんだ。休暇ということで、この張り紙は見なかったことにしてはダメだろうか。

 そんな現実逃避をしていたら――

「すまねぇな虎徹」
『ベンさん…』

 背後から聞こえた声に振り返れば、そこには虎徹の恩人でもあったベンさんがいた。

 やはりオレは移動らしい。

 っち。せっかくいいタイミングだから、楓ちゃんに会いに行こうと思ってたのに。
しかも今日からかよ。



「なにもレールを曲げる必要はなかっただろう?」
『そうですね』
「壊すなとは言わないが。まぁ、あれだ。あっちに移ったら少しは自重しろよ。もう俺は庇ってやれないんだから」
『さすがにあれは目立とうとしすぎだと、焦っていたとはいえ、オレもやりすぎたと思いますよ』
「おいおい、どうした。いつもの虎徹らしくないぞ」
『あー。すんません。どうもまだ完璧に融合しきったわけじゃないもんで』
「は?まぁ、いい。ともかくおまえは…」

 案内された場所で、昨日の話を持ち出され、オレはそっぽを向いてすねたように視線をベンさんにあわさずつっけんどんとしてた。
 だって結局楓ちゃんに会えないらしい。
このまま別の会社へ出勤しろって言われたんだぞ。
一日ぐらい考える時間をくださいと言ったら、これはもう決まったことなんだと。そうでないとお前はもうヒーローができなくなるんだぞと脅された。

「…すまないな。俺の力不足で。ヒーロー事業部は閉鎖されることとなった」
『そうですか』
「は?いいのか?」
『いざとなったらヒーローやめてバイトしますから』
「お前ならもっとごねるかと…」
『だからまだ融合しきってないからごねる理由が思いつかないです』

 ああ、そうか。
虎徹ならこんな丁寧な話し方はしないのだったな。
う〜ん。上司っていうとつい事務員根性がでて、下手にでてしまう。
こればかりはどうしようもない。

 オレの態度にいちいち目を白黒させるベンさんには申し訳ないけど、オレはため息をつく。
まだ完全に虎徹の記憶を継承したわけでない今、そう簡単にオレがオレでいることをやめられるはずがない。

とりあえず、つつがなく。
日本人必殺!
あいまいスマイルでごまかそう。

『まぁまぁ。オレのことはいいって。
っでベンさんは?オレひとりだけ再就職先があるとか、すごくいやなんだけど』
「あ、ああ…俺のことはきにするな。まぁ、失業保険でのんびりしながら次の仕事でも探すよ」

 そっか。ヒーロー事業部がなくなるということは、このひとも…


『ベンさん!長い間お世話になりました!!』


 虎徹がオレの中で「イヤダイ!イヤダ!!」といかないでくれと首を横に振っている気がしたが、オレはベンさんに心の底からの感謝を述べて頭を下げた。

 オレは虎徹になりきてない転生者[]。
 虎徹としての記憶がオレの中には増えてきている。
その中の多くをベンさんはしめている。
振り返れば感謝してもしきれない。

 おい、虎徹。
駄々をこねるな。
辛いのはオレ達じゃないだろう。
ずっと見守ってくれていたのは誰だ?
ずっと助けてくれたのは誰だ?
お前がヒーローをやっていていけたのは誰のお蔭だ。

我儘でひきとめるな。

 オレ達がすべきは、自分の我を通すことではなく、彼に心から感謝し、彼の背を見送ることだ。
 ベンさんのように、見守ってくれた人たちにこたえなくちゃいけない。
オレたちは夢を紡ぐと言う役目がある。
それがヒーローだ。
 友恵の願いもそうだっただろう。
またヒーローとしてやってくこと。
人を助けること。
楓のヒーローでいること。
そのためにオレたちは受け入れなきゃいけないんだ。

 あ、そういえば…
移動といえば、すごく気になることがあったな。

『ベンさんベンさん!ちょっとまって!!』
「ん?なんだ虎徹?」
『オレの賠償金は?あれってどうなるんだ!?』
「あ、ああ。それならお前が新しく所属するアポロンメディアがうけおうが」
『七大企業のひとつアポロンメディア…。
バイト、させてくれる会社だとありがたいんだがな。復職はさすがに許可でないよな。どうすっかな』
「おいおいおい本当に大丈夫か虎徹。今日のお前変だぞ。
昨日の出動で頭でもうったか?」
『どこもうってないけど。異常っていうなら…“中身”が追加された感じか?』
「は?」

 あまりのオレの態度に別人かとつっこまれ、あげくおでこに手を置いて熱を測られた。
そこまでされてはしょうがないので、虎徹の記憶を引っ張り出して、こういう場合はどう対処すべきか考えていると、どうも虎徹はベンさんのことを父親のように思っているところがあるらしい。ナルホド。ベンさんのこの手はこのままで、そのままなでられてばいいらしい。









夢主1は転生人生初の『血のつながった娘』に会いたいらしい








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