第1話 運命は交差した |
死ぬときひとは過去を見るという。 走馬灯というらしい。 目を閉じれば転生ばかりしていたオレにはそんな走馬灯とか無縁なものかと思っていたが、そうでもないようで、かなりの高さから落ちている今、このままではたたきつけられて死ぬかもしれないという段階で、[オレ]は、否[俺]はそれをみた。 -- side 夢主1 -- それは[オレ]が"知らない"人間の記憶。 でもこれはたしかに、"自分自身"の記憶だと思えた。 ああ、そうだった。 これは“この肉体”の本来の持ち主の記憶…の一部。 [オレ]じゃない、もうひとりの[俺]の記憶。 どうやらオレはまた転生を果たしてしまったらしい。 今度はリナリーのときのように生まれたときからの憑依ではなく、誰かの人生を乗っ取る形で途中から。 そのせいか自分が[黒筆 字(クロフデ アザナ)]であると理解していながら、俺は“鏑木虎徹”なんだと思えた。 魂の融合――リナリーとオレという形で意識が二つ共存していたあのときとは異なり、二つが混ざり合って一つになった感じといえばわかりやすいだろうか。 ただまだ[ アザナ]としての意識が強い。それはたぶん、オレ( アザナ)という魂が彼(鏑木虎徹)の魂を何らかの形で凌駕したからか。あるいはまだすべて融合しきったわけではないからだろう。きっと後者だ。その証拠に[虎徹]としての記憶をすべて継承したわけではない。 とりあえず問題発生。 ただただ流れてくる膨大な記憶に(といっても一部だが)身を任せていれば、いつのまにか赤いロボスーツに姫だっこされていた件について。 虎徹の記憶をたどっているうちに、うっかりオレは氷の上にたたきつけられるところだったらしい。 いや、知ってたけど。能力も切れてたのも知ってたけど、《このくらいの高さなら アザナなら最善策を想定し、無事でいられる》という自信があったから気にもしなかったんだけど。 しなかったんだけど。 これはきにするぞ。 虎徹の体は見事な筋肉美を誇っている。それをだっこ!? はずいわ! っが、このまま罵倒して殴るには、金属スーツは硬すぎるてオレが痛いだけだし(しかも相手も何かしらの能力発動中で危険な気がする)、さらには突然性格が豹変しては怪しまれる。なんとか虎徹を演じなければ。 自分の中の記憶を探って、[俺(虎徹)]ならどうするかを考える。 呆然としていて動けなかったっという言い訳けはそう長くは持たない。 必死に考えるまでもなくすぐに思い出せたが、[アザナ]とは違いすぎる明るい男の存在に思わず舌打したくなった。 たしかにオレは[アザナ]で虎徹だが、今のオレは[アザナ]の存在が前面に出過ぎている。 たと[アザナ]が奇抜なことがデイ好きで突拍子もない行動をしたとしても、虎徹のように考えずに突っ走るとか、情報戦を得意とする[アザナ]では有り得ないだろう。 あまりの性格の違いように戸惑うが、時間が惜しい。 少し間をおきすぎてしまったが、虎徹“らしさ”をふんだんにだして現状に驚いてみせる。 とはいえ、少々考え込んだ時間すぎただろうか。このくらいの間なら、まだ許容範囲であると願おう。 初っ端から、お姫様抱っこされてヒーローなのに逆に救われちゃった[黒筆 アザナ]改め 鏑木虎徹です。 夢主1が憑依しました |