43.あなたの姿 |
ヒーローは遅れてやってくるとはよく言ったものだよね。 待ってる側になってはじめてわかる――ヒーローのありがたみ。 なぁ〜んてことはなく、そんなドッキリいらないと思った。 待ってる側としちゃぁ、ヒーローがくるまでに心臓が持たないって思うんだよね。 さっそうと敵と私の間に入り、本物のヒーローのようにわたしを守ってくれた背中。 ほんとにね、もう―― 遅いですよ先輩。 ::: side 夢主2 ::: トリップしてから数日ばかり。 グルグルと己の中で問答を繰り返していても、そこにある現実が変わるわけではない。 懐かしいとしか言いようのない―――学生として授業を受けクラスメートと打ち解ける。 転校生という立場から、皆とても親切だ。 実年齢から話していて「若いなぁ」とクラスメートを年下の子として認識してしまうのは仕方ない。 (・・・【夏目友人帳】かぁ) 主人公である夏目貴志くんも、クラスメートとして話した。 正直知っているのは夏目くんとニャンコ先生と…それを取り巻く妖怪と友人達くらいだ。 アニメしか知らず、その話も飛び飛びで観ていた。 ただアニメを見ている限りどの話数から観ても一話完結で解り易い―――と個人的には思っている。 ・夏目が幼いころから厄介者扱いされていて、下宿先の親戚夫婦と友人達(+一部の妖達)に恵まれている。 ・祖母が集めた妖達の名が書かれた友人帳を夏目が妖本人に名を返す。 (…こんな認識でいいのかな。兎に角、私が関わることはないと思ったが) 〔御前、見えるな〕 妖怪ホイホイは健在のようで目眩がした。 こんな急カーブな展開は欲しくありません! ―――――ことの起こりは数十分前 下校時間。 さて帰るかと玄関から出たときに、大きな布地のような動きが視覚に入った。 何かと思ってそちらを向けば、その布地の“浮遊物”は、中庭に向かおうとした生徒の頭上へ飛んでいた。 “鉢”をその手に持ちながら。 (―――――っ!) わたしは後先考えず、思わずその生徒のもとへ駆け寄って―― 「あの、すみません!」 急いでその生徒のところへ走って肩を叩き、こちらに注意を引かせた。 直後 ガシャンっと鉢は落ちた。 「・・・・え」 振り返ってあしをとめなかれば、そこには確実に目の前の生徒さんの頭に鉢が落ちていただろう。 当然目の前の生徒は蒼白だった。 「あ、ありがとう!声掛けてもらわなかったら私…」 「いえ、声をかけたのは本当にたまたまで。あ、あの。わたし転校してきたばかりで、ごめんなさい。友達と間違ってしまったみたいで」 「いいのよ。おかげでたすかったもの。それにしても鉢植えなんてどこから?」 「さぁ?あの辺の建物からかもしれませんよ。きっと風ですよ!」 「そうね」 なんとか苦しい言い訳になってしまったけど、ごまかした後、“浮遊物”に狙われた女子生徒とすぐにわかれた。 その直後、わたしの目の前に大きな布地とお面が視界を覆った。 それはあの“浮遊物”だった。 なぜかそれがわたしの目の前にいる。 〔御前、視えるな〕 声が聞こえた。 わたしはいままでの世界で鍛えた足でもって、ザッと勢いよく後ろに距離を取る。 ふいにお面をかぶった布地の“浮遊物”が青緑に発光する。 それに思わず舌打ちをした。 (直視しすぎた!) その瞬間、まだ学校に残っていた生徒が口々に「なんだ、あの布」「出し物?」「てか、いきなり現れた気がしたけど」と“浮遊物”を指しはじめた。 これはわたしの能力が発動してしまった証拠。 はやく。はやくにげなきゃ! 〔・・・我が視える奴らがこれほど…〕 (やばい!) モノノ怪から“妖怪ホイホイ”という転生特典とは別に、まえからもっていた自分の目。 この目は、この世ならざるものを視えるのは勿論のこと、“妖怪を直視しすぎると実体化する”という厄介な能力を持っているのだ。 ある意味「幽霊・妖怪はこの世にいるんだぜ!」と幽霊などが視えない第三者に証明出来る力であるが、周囲を巻き込む傍迷惑なものでもある。 「こんのっ!」 大きな掛け声とともに、先程砕かれた鉢の、その一部を布地の“浮遊物”に投げつける。 実体化を伴った“浮遊物”は此方を向いた。 〔我をうつすは、その目か――――その目欲しい。ホシイホシイホシイ…よこせぇ!!〕 声と変わることのないお面の雰囲気にゾッと鳥肌が立つ。 両目でも抉る気か? そんなのお断りだ! わたしは逃げるが勝ちとばかりに――他のみんなを巻き込まないと言う目的もあったけど――学校に背を向けてもうダッシュした。 (夏目の世界はもっと気のいい妖ばかりだと思いたかったなぁぁぁ!) お面かぶった布地の“浮遊物”と追いかけっこ☆ 楽しくないから!! そんな不毛なおいかっけをして、校門からスタート。全速力で人気が少ない場所へと走る。 はしるったらはしる!おいつかれたらわたしの命が危ないじゃないのよ! 正直、木の中へ突入してから、切り傷が増えて仕方がない。 地味にいたいし! 「く、らえ!!」 〔っ!!?〕 黄色い札を数枚投げると、瞬く間に“浮遊物”を縛り付ける。 忍ってわけじゃないからうまくは使えないけど、投げる分には紙っぺらなオフダを直接投げるよりクナイに巻きつけた方がよく飛ぶ。 だから【NARUT0】の世界にいた時から癖で携帯していたクナイを鞄から取り出し、黄色い札を巻きつける。 黄色い札は【モノノ怪】の世界で作ったやつだ。 縛り付けたり結界になったりと“こういう場面”では非常に役に立つ。 他にも【NARUT0】時に入手した起爆札とかもあるけど…チャクラとか、わたしが使えるわけじゃないから、 私が使えるようにアレンジした爆発する札(これを“起爆札”と呼んでいる)がある。 だけどこの世界で爆発でも起きたら、すぐに事件になってしまう。 だからせっかくの“起爆札”は使えない。せめてこの黄色の札が役立ってくれればいいのだけど。 (気休めでも!!) この手の妖とかって、お面割ればいいんでね?と思っちゃうタイプなのだが、実際はどうなんだろう。 思いっきりお面に向かってクナイを投げる。クナイはお面に見事に当たり、叩きつけるような音がした。 この感じからして手ごたえは少なからずあったはず。 (クナイは計五本。札は五十枚。この後、どうすればいい?流石に師匠みたく退魔の剣で斬るわけでもなし! そもそもこの世界で火薬とかだめそうだし。この世界でわたしのオフダが有効かもあやしいし!絶対祓い屋の術とか違うに決まってるじゃないの!!……でも、このままじゃ―――) 目の前にまだ“浮遊物”がいることから、オフダが聞いてるのかそうでないのかわからない。 とにかくつぎをと、もう一本のクナイに札を巻きつけた。 そこへ―― 「神崎さんっ!!!」 「…え。うそ…夏目くん?」 夏目くんとニャンコ先生がやってきてくれた。 駆けつけてきた二人(一人と一匹)の背後からは―― はねぐせのひどい“赤い髪をした青年”の姿が見た。 どうして“ここ”にいるの。 あの人の着てる、あれは…うちの学校の――制服? もしかして。 ずっと、側にいた? 『ぃー!!』 「先輩」 いてほしいと、そう願っていたひと。 赤い鮮やかな髪がそうおもわせるのか。 なんだかまぶしくおもえた。 数日前まで聞いていたはずの、けれどもう懐かしいと思えてしまう声に・・・ めったにみない必死な顔をした先輩の姿が、おかしいのに、 不安も何もかも吹き飛んで、涙が出そうになった。 「せんぱいぃ…」 まだ数日しか離れてないのに。 わたしは“あのひと”の姿を ようやく みつけた。 -------------------- 会いたかったです。 おかげでホームシックになっちゃったじゃないですか。 嫁にもらえとは決して口が裂けても言う気もないですが、責任とってくださいよ(笑) |