有 り 得 な い 偶 然
第6章 夏 目 友 人  帳



44.だるまさんがこーろんだ





何かを慌てた様子で追いかけていく夏目の姿を窓から見た。
その足元には、われらがあやかし界で話題のチンチクリンな豚。もといニャンコ先生。







::: side 夢主1 :::







いつも元気だなぁと、窓から彼らの様子をのぞいていたオレは、そこでふと嫌な気配がテリトリー内にあるのに気付いた。
むしろ気付くのが遅すぎた。
なにかが“それ”の近くにあったせいで、《わるいもの》の気配を覆ってしまっていたようでオレともあろうものが気付かなかったみたいだ。
その《わるいもの》の気配をたどれば、いままさに夏目たちが向かっている方向だと気付く。

『チッ!!オレともあろうものが』

どうやら人間生活をしすぎたせいで少しふぬけていたようだ。

「まて黒筆!」
!?」
「ってぇ!?ここ二階だぞ!」

『緊急事態だ!』

オレは周囲が留めるのも無視して窓を開けるとそこから飛び降りた。
あわてて窓辺に駆け寄ってきたクラスメートたちが窓から顔をのぞかせるころには、オレは地面についていてすでに駆け出した後。
根本的に自分は、今、あやかしと暮らした時間が長いため、人間の夏目ほど観衆の目を気に留めないだけといえばだけだ。
別にオレの身体能力がばれようがたいした問題じゃない。
ごまかす必要もないことだから、あとで彼らの記憶をいじくる予定もない。
運動能力に秀でているのだとでも言ってごまかせばいい。

自分とは違う人間を見て化け物と言うのなら、言わせておけばいい。
それだけのことだ。

違うからどうした。
生きているものすべて同じ思考の奴も、全く同じ細胞を持つ奴もいやしないのだ。
化け物という言葉の響きは悪いが、それは個性を認められない、団体の中でしか生きられない者の台詞だ。
かれらは言葉で攻撃をして、自分と違うものを認めないだけ。
別の個性を認めないだけ。
自分は自分だ。なら、なにを戸惑う?
集団として“おなじ”じゃないと、だめなやつらなんて、言わせておけばいい。

そういう意味では、夏目貴志は……人の世にはなじみずらいだろう。
前世のオレは両親は生きてはいたし幸せだったけど、原作の【NARUT0】における黄色の主人公は…そうやってはぶかれた。

だから同じナルトであったオレは思うんだ。

『言いたい奴は言わせておけ。自分を自分と認めてくれる奴と歩けばいい』

――と。
そう思わずにはいられない。





地面に足をついた瞬間駆けだした。
校門を出て校舎から見えない位置にまで来ると、人の速さで走るのをやめて、前世の忍びとしての力と九尾の力をふんだんに使って一気に【跳躍】する。
その一駈けで、夏目貴志とニャンコ先生の後姿をとらえた。
もともと人鬼馴染むようにしていた気配はそのままに、視角でとらえられる範囲に来たところで人と同じように、足を地面につけて走る。

『夏目くんや。助太刀してやるよ!』

追いついたとばかりにニカっと笑みを見せて、普通の人間を装って声をかける。

「きみは、えっと。たしか隣のクラスの?」
『黒筆。以後よろしく隣のクラスの夏目君!
赤毛とハネ癖がチャームポイント!名前に似合わず実はドイツ人とのハーフなくん(という設定)です!よろしくな!』
「…きみは、もうこないほうがいい!」

ほんとうに、いい子だなぁ〜。
オレを気付かってくれてるのかな?
でも残念。そこのマダラより、オレの方が強いんだよね。

田沼少年のように“感じる”だけだとでも、透という少女のように“陣があれば視える”――そんなちゃちな力しかないとでも思っているのだろうか。

『それで?』
「え?」

『自分だけが妖怪どもに対抗できるとでも?わるいけど、自己犠牲もホドホドにしてくれるかな?
君の友人たちは、心配をしてでも、みな君の横に立ちたがっている。
かくいうオレは、ぶっっちゃけ“友人帳”も“夏目”も“原作”もどうでもいいんだ。
今度のテストが赤点でなければいいのさ。なにぶん“賢帝”の名を背負っているものでね。
これ以上、馬鹿にされるわけにはいかないからな』
「え…けんていの、な?」
「お主、もしや“賢帝の森の主”か!?」
『気付くのがおそいし。
そうさ。オレはドイツ人の血が混ざってることもなければ、はるかむかしよりこの地にいた、この地で生まれた妖怪さ。
それとここから先で襲われてるやつ、オレの相棒なんだわ。
わるいけど、おいはらわれようとついていかせてもらうからな』

ようやくマダラが気付いたようで、物凄い驚愕の顔をしたデブネコが完成した。
超笑える顔だった。
そんでもって夏目は、訳が分からなそうだったけど《賢帝の森》というので、ようやく「この前の酒の森か!」と言っていたので、理解したようだ。
それにしてもやっぱり第一印象、あの森って酒だよな。
本当になんで《賢帝の森》になったんだか。
こんなんじゃ、本当に今度のテストで赤点取れないぞ。

「黒筆は、九尾だったんな」
『九尾だなぁ〜。おふくろはそれは見事な金の狐だったけど、オレはたまたま九本もシッポが生えて生まれてしまってな。
オレのシッポは見事なケヅヤをキープしているが。いやぁ〜、数がおおいのも悩みどころなんだ。
それと人間なんかとってくったりはしないぜ。君のお友達の田沼君とか。おっと、そう警戒なさんな。
オレがあのただいま勉学に励んでる最中なだけで。そもそも…』
「そもそも?」
『…蒼月酒をのめる酒のみ友達が欲しかったんだ』
「変なやつ」

酒か。本当は、そういことを言うつもりではなかったけど。
そもそも夏目も田沼もできるだけ学校では守ってやっていた――とまでは、言わなくていいか。
何でなんて聞かれても説明が面倒なだけだしな。



「あそこだ!」
「みょうちきりんな妖もいるようだな。あの程度このワタシが」
『あれ?それってマダラのこと?』
「ちがうわっ!!」

夏目の速度に合わせて走って、ようやくついた先では黄色いお札を持った女子生徒。
夏目が彼女の名を呼び、ニャンコ先生が頭突きをするような勢いで、面の妖にくらいつき、あの額のマークが光って退散させようとする。
しかし動きが早くてひゅんひゅんと風を切る感じてお面の妖怪はちょこまかと逃げてしまってうまく当たらない。
なにをしてるんだか。

まぁ、いい。オレにはそれよりやることがある。
小物の掃除は後回しだ。


っ!』

叫んで、走って。
オレは懐かしい気配に走り寄る。
そんなオレに彼女も気づいたようだ。

先輩!!」

オレをみて、君の目が大きく見開く。
泣きそうな顔で、でもパッと一気に花が開くように、心細そうだった少女がようやく笑って、かけてくる。

『よぉ。まだ生きてるな

ああ、結局、君はオレが側にいるのに気付かなかったね。
残念。
どうやら賭けはオレの負けみたいだね。オレはてっきり初日で、君に気付かれると思っていたのに。
廊下ですれ違ったの気付いている?
不安そうな顔をしていたね。
なにかあったのかな?
前の世界で別れた後君は別の世界を旅したんだろうか。
まだ怖い?妖怪は怖い奴らばかりじゃないぜ。
でももう君の視界におれは映っているだろう。
ほら、なんだかだるまさんがころんだみたい。
もう不安はないね。
オレが側にいるから、大丈夫だよ。

ほら、もう笑えてる。

迷子の子供が母親を見つけたみたいに顔をゆがませてやってきたに、オレは笑って抱き着いてきたあいつをだきとめる。
まったくウチの親友をこんなに不安にさせやがったのはどこのどいつだ。

あ。オレか?

オレを探してくれただろうに、オレはつかまった。
だるまさんがころんだ。
影鬼。色鬼。おいかっこ。

『君が触れたから鬼はオレだよ』

さぁ、追いかけっこはおしまい。
そこのカスな妖怪を成敗しなければ。
おいたはだめだぜ?

妖力解放してニヤッと笑ったら、マダラが顔をひきつらせて逃げた。
オレの覇気に腰が立たなくなってしまったらしいお面のバカには、オレからの満面の笑みを送ってやった。

『夏目、を頼むな。
はあとでその目の制御に付き合ってやる。おとなしくしてろよ』
「…アリガトウゴザイマス?
ええ、ーっと。先輩?覇気、もれてもすよ?」
『ああ。オレってば九尾と混ざっちまって、完全に九尾だぜ。だからこれは覇気じゃなくて妖力な』
「ナルトさんの面影がなさすぎます!!」
『毛に金色が混じってるところがナルト?』
「微妙すぎます」

ノリのよいツッコミありがとう!
そんなこんなで彼女を夏目に預けて、オレは頭に狐耳、腰の上付近にはフサフサとした九本のシッポ。
髪は幻術が溶けて長く伸び。爪もちょっと妖怪らしうのびている。
そのままニコニコと近づけば、面の妖怪は「ひぃー!」と悲鳴を上げてガタガタふるえて縮こまる。

『格の違い。味わってみる?』

九尾と完全に融合した今なら、前世ではチャクラがなくて一人で作ることができなかった《螺旋丸》も余裕でできる。
左手の気流の動きを操り風を集め――


『オレのダチに手ェ出してんじゃねーよ!!!螺旋丸・改!!』


あれれぇ。ドゴォォンン!って激しい音がしたね。
なにかが華麗に粉になって吹っ飛んだね。

ふふ。なんのことやら。





オレは前世の記憶がある。
オレにとって大切なのは、オレ自身を受け入れてくれる身内という存在。
それすなわち家族。
わかりますか。











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家族ラブですが。
それがなにか?








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