有 り 得 な い 偶 然
第6章 夏 目 友 人  帳



42.友人のいない“友人帳”の世界





どっかの【NARUT0】世界の金色親子による喧嘩という名の愛情コミュニケーションに巻き込まれ、 気づいたら私は、【BLEACH】の世界にいた。
そこで先輩と再会し、原作を一度破壊したあと、もう一度原作通りの展開でその世界を堪能した。
いやいやながらも気づけばそのなかにちょくちょく巻き込まれていたけど。
そうして原作期間が終わるまでをすごした。

そして私は――







::: side 夢主2 :::







気付けば、林の中で倒れていたのですが。

なんぞこれ?


「今度はどこ?」

しかし、落ち込んで下を向いた時自分の衣服の変化に気づき唖然とした。

「…ま、また…せ、制…服だとぉ!?」

ただし、【BLECH】世界に最初に飛ばされたときの様に男子高校生の服ではない。
かといって、先程まで私がいていた私服でもない。
現代の“女子中学もしくは高校”の制服だ。
黒地の冬のセーラー服、紺のソックス、ローファー。傍らには学生鞄。
前回と似ているようで違う状況。

周りを見渡せば、校舎らしき建物がみえる。


(どういうことだっての!!!)

もう“元の世界”の可能性は考えつかない。
逆に別の世界だろ?!というツッコミしか浮かばないし、もう諦めてる。


今回は制服だった。
ただし今度は、ちゃんとした女子の物。
側には後者らしき建物。
そこで新たにひらめいたのが、【BLEACH】世界のやりなおし。
今度は逆行か!?

そこまで思考が回ったところで、側におちている自分のものと思われる鞄の中を勝手ながらも漁らせてもらった。
違う人の物だったら申し訳けないが。

まぁ、結局そんな気遣いは杞憂に終わる。

なにせ、中から出てきた学生証には――


「私が写っている」


思わず、顔が引きつった。





* * * * *





「―――君。今日来る転校生か」

わけもわからず林を出て、目に留まったあの建物に向かって。
呆然と門の前で突っ立っていたら、ふいに声を掛けられた。
そちらを見るといかにも教師の空気がある男性だった。

「あの…」
「あぁ、学生証。ん、神崎さん。まずは職員室で担任に会わせる。」

(私、こうみえてもう○○歳なんですけど!!)

一回り以上は確実、もはや精神年齢で言うなら、痛いコスプレの域にあるが、そこはそれ。
トリップの影響か、この制服があう年齢にまでみためがなっているらしく、服装に関して目の前の男性は違和感を覚えなかったようだ。
先程あさった鞄の中には火神がなかったので心配だったが、先生らしい人の態度で少しホッとする。



しばらくして「着いてきなさい」と、案内された。
その後、瞬く間にクラスで自己紹介するまでに至った。

そしてクラスのなかで、何人か見たことある顔、特に主人公の少年がいて・・・。

(ぶっふぉ!?今度は【夏目友人帳】ですかぁぁ!?)

トリップした世界で仕事上必要となったポーカーフェイスを学んでいてよかったと思いました。
でなけりゃ、夏目君を凝視して動かなかったことだろう。
とりあえず、噴出さなかった私を誰か褒めろ。





* * * * *





トリップしてから数日ばかり。
グルグルと己の中で問答を繰り返していても、そこにある現実が変わるわけではない。

懐かしいとしか言いようのない―――死神とか関係ない学生としての普通の授業を受け、クラスメートと打ち解ける。
転校生という立場からか、皆とても親切だ。
実年齢から話していて「若いなぁ」とクラスメートを年下の子として認識してしまうのは仕方ない。

あまりに平凡にひびが流れるから。

つい・・・

わたしが“普通の学生”であった頃の記憶が蘇る。
そこにはいつも悪友の先輩がいて。
いつも部活では、先輩たちが部活そっちのけでお茶をしてて。

お母さんや妹たちがいて。
友だちもいて。

携帯をひらけば、すぐに大切な人たちと連絡が取りあえた。
変なものなんか視えなかった(先輩は視えていたけど)。
忍みたいにくないを扱えるようになったり、漫画の世界にトリップすることも・・・なにもなかった。

この世界では携帯も使えるし、電源も入るのに。
どうしてかな。
この携帯にすでに登録されていた連絡先のどれにも、つながらないの。


これがホームシックってやつなのかな。
おかしいよね。
いい年してさ。
あんなに学生時代は、いってみたいと願ってやまなかった二次元の世界を旅してるというのに。

どうしてかな。
不安がぬぐえない。
日常が平凡すぎて、それが怖いと思ってしまう。
この穏やかな日々が続けばいいと思う反面、それは無理だとそんな気がしてしまう。

ここがあまりに普通すぎて、つらくなる。
もう帰れないはずの居場所を求めてしまう。

ただ、“始りの世界”のように、なにもない個性も何もかもが埋もれてしまうような、あの淡々とした世界が懐かしい。


せめて。
せめて・・・。

なにかひとつでも“はじまりの世界”とのつながりがあればいいのに。
前の世界みたいに、先輩だけでもいててくれれば。



「わかってる。ここにはいないよね」





ここは【夏目友人帳】の世界。



いま、親友のあのひとは

 ここには――――― い な い 。









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新しく登録することも、電話やメールだってできる。
どこの回線浸かってるのか知らないし、振込とかどうなってるのかわかんないけど。
トリップについてきたこの携帯は、電池さえ充電されていればきちんと動く。

けれど、どうしてもかけたいひとには繋がらない。

いつのころからか、わたしは携帯電話の電源を切ってしまった。








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