41.酒のつまみとは君のこと |
学校が休みになったので、久しぶりに妖怪の姿で森にいた。 やはり何百年と過ごした自分の森のほうが、人のあふれる場所より居心地がいい。 いつもの酒を飲みながら、まったりとしていれば、陽はあっという間に傾く。 ::: side 夢主1 ::: この世界の妖怪はとても気がいい。 人を食らうよりも酒でも飲んで、きままにすごそうぜ☆――的なやつらが多い。 逆に人は強く、払い屋と呼ばれる人種は、恐れを知らず、妖たちをつかまえたり攻撃してきたり従えたりたちが悪い。 妖は悪だと言い切るようなやからばかりらしいのだ。 こわいこわい。 ちかづきたくないねぇ。 そんなことを考えながら、住処の祠付近で沸いた酒をおちょこに注ぎ飲みながら木の枝の上でごろごろしていたら、甘い酒のにおいに惹かれるようにあやかしが数匹姿を見せた。 「おや様でしたか。えもいわぬ良い芳香の酒ですな」 「“がっこう”とやらは今日はないので?」 「今日は人の姿なのですねぇ」 『酒を飲むときにはこっちの姿の方が便利だろ』 「さようで」 「主様は人が好きでごじゃりますの」 小さなあやかしたちのもとへとびおりる。 ひとの姿だと、おちょことか持ったり、酒瓶を持つには便利なのだ。 もとより前世は人であるため、人の姿の方が馴染み深いというのもある。 まぁ、この世で狐として数百年も生きていれば、人だろうが狐の姿だろうがかまわなくなってくるものだが。 オレが変化した時の人の姿は、前世のナルトではなく、として本来のオレの全盛期の容姿だ。 ハネぐせのある赤い髪は年月を生きた分長く伸びている。それに明るい黄緑の瞳が特徴だ。 いまは紺の着物を着ているが、しっぽはまるでついていないか、光でできたホログラフのように着ている物に影響されることなくオレの背後でふさふさと九つゆれている。 ふさふさの自慢のしっぽをゆらして、地面にくっしょんがわりにひろげて座り込む。 そんなオレの周りに小物たちが集まってきて、それぞれが持ち込んだつまみや酒を広げていく。 この森は良質の酒がとれるため、こういう光景は日常差万事だ。 ついでにオレが飲んでいる酒の壺も傾け、飲むかと勧めるとみんなはニッコリと笑って首を横に振る。 周りにいたあやかしたちはにおいをかいで、それだけで満足したように幸せそうに微笑んでいる。 「やはりこれはまた極上の酒で」 「ああ、かぐわしや」 「蒼月の夜にとれたのでしょうね」 『いるか?』 「あなた様の飲むようなものは遠慮いたしますえ」 「なにせあなた様が好むのは払い屋どもがつかうようなお神酒でございましょう。 それもそうとうの。われら小物はにおいで誘われ、その酒に触れただけで滅せられまする」 絶対にあとをひかない、二日酔いにならない、においのいい酒。 舌の上にさらっときて、あとに微かな果実のような甘みが残る。 無粋な炭酸で口の中を麻痺させるのではなく、味わい深いのに透明感がある。 そんなまさに人外の酒だ。 ゆえに子供が飲んでもよったりしません! だけどこれは神も好む酒だとかで、妖怪たちが口をつけると、たちまち浄化されてしまうのだとか。 何度も聞かされるが、妖怪であるオレが普通に飲めるので、いまいち信じられない。 現にこの前の酒が湧き出る青い月の夜にやってきた“斑”というチンチクリンな容姿の妖怪は、平然と飲み干していた。 あと、“斑”が連れてきた、人間の子供も。おいしいと言って笑っていた。 『そういうものか?このあいだ“斑”も平気そうな顔で飲んでいたがなぁ』 「あれは規格外ですよ」 ああ、やっぱし。あいつ規格外生物だったんだ。 っていうかね。 実は《知ってる》んだよね。 マダラがつれてきた葉っぱの面をかぶって妖怪のふりをした人間の子供のことも。 “ニャンコ先生”のこともね。 なにせ転生者ですからオレ。 ちゃっかりこの世界の原作知識もあるというわけです。 とはいえ、オレが覚えているのは、夏目友人帳という真名がきざまれた名前の手帳と、霊力の強い夏目というこどもがニャンコ先生と妖怪たちとほのぼのするっていう、おおまかな展開だけだ。 もう何百年もたつとすっかり原作とか忘れてしまっている。 っと、いうか同級生ですからね。 知らない方がおかしいのさ。 とはいえ、相も変わらず、彼らがオレにきづく気配すらない。 人間の赤毛なオレと、九尾では気付かないものらしい。 そういえば、彼らがきた酒盛りのとき、オレは九本の尾を揺らした狐の姿だったように思う。 そのせいかな。 それともオレが隠すのがうますぎるのかな。 そこでふと、うちの森の連中はどれだけ“夏目”のことをしっているのか、さぐりをいれるべく、 こないだの酒に紛れ込んでいた二人のことを“しらないふり”をして小物たちに尋ねてみることにした。 さて。原作は今どの辺になるのだろうか。 『そういえば、マダラが人のにおいの強い、見かけない妖怪をつれていたな。 はっぱの面をしていたが』 さて。あれは誠に妖怪だろうかねぇ。 あれはあれで相当の力を秘めていそうだけどね。 だれか知っている者はいるか? そう問えば、あれはよくマダラがつれている奴だという。 『…あらら。未成年に何酒を飲ませてんだろうね』 「様?」 「あのこどもがどうかしましたか?」 「人間かと間違えてしまいそうなくささであったのアヤツは」 「あと獣くさかった」 「それはマダラ様であろう?」 『人間の側にいれば、においがつくのも仕方がないだろうさ。次に来たら、臭いって言わずに輪に混ぜてやれよ』 「ああ、たしかに。人間の家につくあやかしもおりましたな」 「しかりしかり。かのものもそれにつらなるものか」 「最近は様も人のにおいをつけてきやりますし。そういう妖もいるのでござりましょう」 「主は化の者について、知っておいでで?」 『あれに害はないさ。そうさな。お前たちが納得する理由がほしいのなら“ひとの家につくあやかしだと、そういうこと”にしておいてくれるか?彼らはオレの客人だ』 こう言っておけば、次にニャンコ先生や夏目がきても、だれも襲い掛かったりすることはないだろう。 せっかくいい酒もある。空気もうまい。 そんなこの地で、人間が来たからと争いごとになるのは避けたい。 酒がまずくなるだろ? 『あ、お前たち、こっちの酒ならどうだ?さすがにあの蒼月酒ではないが、いい酒ではあるぞ』 「ありがたやありがたや」 「ああ、やはり様の酒はうまいうまいの」 『なぁ、酒のつまみに小耳にはさんだんだが、《なつめ》というのをしってるか?』 「友人帳の夏目ですかな?」 「われらが真名を友人帳なるものにかかせ、下僕にするという――それそれは外道な技。いまはそれを作ったレイコという奴の孫が引き継いでいるとか」 「おそろしい豚の妖怪を従え、本人は鬼人のごとき!と、きいておりますえ」 「字様ほどの妖怪であればねらわれかねません。おきをつけくだされ」 『はは。豚に鬼ねぇ』 こないだみた“奴ら”は、そうはみえなかったけど。 マダラなんか人の姿をしていたからだろうか、レイコの姿をにセーラー服とマニア心の入った格好だったから思わず吹き出してしまったほど。 横にいた“彼”は、おとなしそうな感じで、無理やりつれてこられたように見えた。 夏目とよばれていたのは、やさしい空気をまとった線の細いひとのこどもだった。 そんな彼を“鬼”と称すとは、妖怪たちは《夏目》にどんなイメージを持っているんだと、なんだかおかしくなって思わず笑ってしまった。 「主?」 「様?どうしたのです?」 『いや、なに。ものは自分の目で確かめないと信じられないなぁと思ってね』 ――のちに、身を守る術ももたぬただの人の子が、おもいもしない黄金のこぶしの持ち主であるのを知るが、そのときは隠れていたのも忘れて腹を抱えて大爆笑したものだ。 あの美鈴がこぶしひとつで、意識がぶっ飛ぶとかすげぇぞ夏目。 そんでもって、用心棒と名乗るわりには、“ニャンコ先生”役立ってなかった。 やっぱそのデコボコぐあいに、おかしくなって、つぼにはまって、しばらく笑いが止まらなくなったのはご愛嬌。 -------------------- 以外にも、 ずいぶんとおもしろい人の子がいるようだ。 |