38.世界を超える |
わるいなぁ〜とは、思ったんだけどね。 彼女にはやってもらわないといけないことがあったから。 オレはその計画を実行に移した。 ::: side 夢主1 ::: オレは以前、とオレの転生のサイクルが違うと気付いた。 その理由が、オレがこうしてナルトに成り代わる前の世界で、彼女と出会ったことが要因だ。 彼女は未来のオレのから、ひとつだけ伝言を受けていた。 ならば、オレにとっての過去へ、君を送らねばならない。 この世界が、君を拒絶しなくとも。 、君は、ここにいるべきではないのだろう。 だから。 オレは君を“君の未来”へ。 “オレの過去”へ。 ――送り届けよう。 それがオレがここにいる理由であろうから。 『コウ。あいつのためなんだ。力を貸してくれるか?』 「わふ!」 《こやつも賛成しておる。かくういうわしも混ぜろ!協力は惜しみない》 『そっか。サンキューだってばよ』 《ふん。主がためじゃ》 「わっふぅ〜!」 小さな獣たちが、全身を震わせてオレの声にこたえようとしてくれる。 その様が凄く嬉しくて、九尾とコウを抱きしめる。 小さくともモフモフであっても二匹入れば、オレの腕はそれだけでいっぱいになってしまう。 ああ、やはり―― 『もうひとつ分は、オレの腕には空きはないなぁ』 をおくろう。 暗部の手伝いや、薬剤師としても頑張っていた彼女。 せっかく彼女だって、この世界に慣れてきたのだけど。 彼女を望む世界があるのをオレは知っている。 彼女がいることを許す世界がこの先にあるのを知っている。 オレがいるこの世界は、忍の世界。 平和な世を生きてきたには、酷な・・・戦争だって、人殺しだってしなくてはいけなくなる時がきっと来る。 オレは転生先がいつも死に近い世界だったせいで、ひとを傷つける覚悟も殺す覚悟もとうにできている。 だけどはちがうんだ。 彼女が辛くなる前に、別の世界におくらなければいけない。 その日から、時空忍術を重点的に研究し、その系統に詳しい波風ミナトにも相談に乗ってもらって、彼女をおくるための準備を進めた。 術式は無事に完成した。 あとはいつ彼女にこのことを話すか―― なのだが。 「ぬっわっるっとぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 『ぎゃぁーーーーーーーーーー!!』 うちの父が暴走した。 子離れできてないにしてもほどがあるだろうが!!! たかだがオレが長期任務の遠征に出ると告げた途端これだ。 おかげで木の葉の町中を走り回るはめに。 しかもあちらさん、時空間忍術を多用してくる。 なんでだ!? オレひとりをつかまえるために、なんで時空からいろんなもんだしたり、自分でくぐったりしてるの!? え?オレが、逃げるから? そりゃぁ、逃げるだろ! 逃げなきゃ、死にそうだぞあの武器の乱舞は!!! たまたまとおりすがりのテンテンがそれをみて、目をキラッキラッさせていたけど。 おい、テンテンよ。 たのむからこの父の時空間忍術を真似ないでくれよ。 武器の嵐とか、なにそれ!? 「あ、先輩。じゃなくてナルト!いいところに。いま、奈良さん家にこの薬を」 『ナイスタイミングだってばよ!!こい!』 「え?えぇ!?」 「なるくぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」 「ふわっ!?よ、四代目ぇ!?ちょ!?先輩!わたしをまきこまないでくださいよ!」 『あの追ってから逃げるためには、お前の薬が必要なんだっ!』 「つか、もうかなり大怪我してません!?いいぬりぐすりがここにぃー!!!」 道端で薬が入っているらしい紙袋を抱えたをみつけ、父親の子離れできないあれのせいで追った怪我の治療にと、思わず歩いている彼女を道連れにした。 それは必然か。 偶然か。 いうなれば―― 本当にタイミングが悪かったんだろうな。 あるいは・・・・ それがタイムリミットだったのかもしれない。 街中での、忍術合戦。 そのとき、ミナト特性時空忍術が発動され、それを抑えようとオレも時空忍術で応戦したのだが、術がまじりあうその場所に、オレが引きつれていたはずのがいた。 側にいたはずだったは、休憩とばかりに、オレたちが足を止めたところで、隅の方によけていたらしい。 ああ、なんてことだ。 驚くオレたちをよそに、彼女は時空間忍術にのみこまれ、術式が彼女を中心にかきかわる。 チャクラを吐き出すように彼女を中心に術が暴走を始め、身動きができなくなった彼女の背後に空間の裂け目が牙をむく。 予想外の状況に、思わず舌打ちがもれる。 術というのは、発動しなかったら、暴走するか、なにもおきないかのどちらかでしかない。 とめるのなら、相殺するかでないが、いまはがその術の中心にいる。 こうなっては、発動した術は止められない。 「ナルくん!」 『わかってる!』 オレはとっさに、術式を組み立て直し、をあの未来へ繋がる座標へ送るように術式を練り直す。 こういうとき、機転が早い人は助かる。 人を一人巻き込んでしまったことで、我に返ったらしい我が父もオレと同じ術を練り始める。 共同で作った術であり、術の型と術の意味を知っていたから、できたことだろう。 「四代目、それにナルト!これどういうことですか!」 「ごめんねちゃん。君を巻き込むつもりはなかったんだ」 『君を別の世界におくる!』 「え?」 術の暴走のせいで、チャクラがひきづられそうになる。 その影響で、を中心にかまたちのように鋭い強風が吹き始める。 声なんか大声で叫ばないと聞こえないほど。 オレの今の軽い体では下手をすると吹き飛ばされそうだ。 そんなオレを、チャクラの乱れに気付いた九尾たちがかけつけてくれたので、二匹にしっかり身体を抑えてもらってる。 『術と術がおかしな具合で混ざり合って暴走するって時にお前が中心にいたんだよ!』 「んな!?」 暴走しかけている術をおさえるために、別の術をねる。 ちょっときついなー。 でもそこらへんのチャクラの制御はお手の物。 たらないチャクラぶんは、九尾が貸してくれている。 視線だけで、強風のむこうがわの父親に問えば、さすが火影。少し険しいながらも「大丈夫だ」と返答が返る。 「いいかい、ちゃん。術は発動してしまって止められない。巻き込まれた君をそこから出してやることができない。 だからせめて僕らで君を安全な時空へ届ける!僕らにできるのはそれだけだ。本当にごめんね!」 父さんの言葉は、ゴウゴウとうねるチャクラ渦のなかでも届いたのだろう。 が不安そうな表情を見せる。 それにオレは笑ってやる。 『大丈夫だ』 「でも、先輩・・・」 『これからいく場所にはきっと、君を助けてくれるひとがいる。いや、君に助けてもらいたい人がいる』 お前を。オレの親友を。 どうこうさせはしない。 絶対、大丈夫。 お前を守りきる術を施している。 そう告げれば、こわばりはすべてぬぐえないものの、少しだけの表情が柔らかくなる。 「わかりました。この術から逃れられないのなら。なら、このまま行きます!安全は保障されてるんでしょう?」 「うん!そのために座標を示す術をいま組み込んでるからね!」 が頷く。 父さんが強くこたえる。 そして、ふいにの視線がオレをみやる。 「先輩!!先輩はこの先にいるだれになにを伝えてほしいんですか!?」 驚いた。 まさか、そう聞かれるとは思ってもみなかった。 なら、今が最後のチャンスかもしれない。 無意識に、口端が持ち上がる。 『なにも』 「え」 『なにも伝えなくていい。ただ君があいつの側にいてくれればいい“そのとき”まで』 風が強いな。 うまく、聞き取れているだろうか。 「先輩!だれが!誰が待ってるんですか!」 『“過去のオレ”が。 今の君を知らないオレがいる。 “そこにいるオレ”を助けてあげてよ』 きっと当時のオレは、周りの迷惑考えずバカなことやってるくせに、自分が衣食住もなくてピンチなのも理解してないだろうからさ。 ね。頼むよ。 「そこにいる先輩は、どんなすがたをしてるんです?」 『どんな姿って・・・そうだね。見た目は今のナルトのようなオレと随分違うだろうな。 “その時代にいるキミだけが知っている”漫画のキャラクターそっくりなんだ。 詳細は今はまだ言わずにおくよ。だけど絶対君なら判るはずだから』 君だけが知っている。 オレたちが流転する前の、はじまりの世界での漫画。 ふたりで漫画の貸し借りをしたよな。 あのマンガの敵キャラに、過去のオレってば、すげぇ似てんだってばよ。 だから―― 『たのむよ』 こどもは仕事もできない。こどもは学校にいかないといけない。 そんな常識さえない、海賊の子供でしかないオレを助けてやってくれ。 祈るように、彼女が“過去のオレ”のもとにいけることを願って、術式の最後を刻む。 内側の核たるを中心に吹き荒れていた風が、強さを増し、まるで吸い込むような風向きに変わる。 にいけ!と、時空の亀裂に飛び込むように視線で促す。 するとまっすぐな視線と共に、コクリと頷き返される。 「いきます!“また会いましょう”先輩!」 『うん。“また”どこかで』 がクルリと向きを変え、みずから時空の裂け目に飛び込んでいく。 その手には、相変わらず薬の入った紙袋。 父さんが―― 術の最後の印を刻んだ。 -------------------- ねぇ。 いつかまたオレと再会するようなことがあったら・・・ そのときは―――“そっちのオレ”のこともよろしくね |