18.珍しく傍観に徹します |
○月△日(?曜日) BLEACH世界に来てから、一日目。 そのかん、虚と戦うこと数度、あげくいまだに相変わらずはだしであるが、まったく問題はなく時間だけが過ぎていく。 ::: side 夢主1 ::: とりあえず今日の寝床をどうしようかとか、他にも色々悩みながら、彷徨ったはてにみつけた公園の遊具の上で胡坐をかいて空を眺めていた。 『うーん。どうすっかなぁ』 「マスター今日の寝床ドウスルメェ〜?」 『うわっ!!ぶ!?げほっげほっ!!』 「マスターガムセタ・・・そのま死ねばいい」 『いやいやそう簡単に死なないから!ってか、お前の発言でむせたんじゃないよ。あれみろよ《夜宴》!うちの息子そっくりの髪色だぞ!!』 公園でポカポカ。ひなたぼっこをしていたわけだ。 サル山のボスのように、小さな丘のような遊具の頂上で胡坐をかいてボ〜っと空を見上げていたら、ふと視界にオレンジ色が映った。 オレがHUNTER×HUNTER世界で、最後に見た息子の髪はオレンジだった。 もともとはオレと同じ赤色のはずだから、あのときの息子の髪はきっと染めたのだろう。 そのときの息子を彷彿とさせるオレンジの髪色は、このありきたりの地球では珍しいんじゃないだろうか。 最初は髪の色ばかりに視線がいっていたけど、ふとその下にある顔のパーツに見覚えがありすぎて思わず噴き出したところを《夜宴》につっこまれたのだ。 口が悪いくせに、それでもむせたオレの背をそのモコモコしたぬいぐるみの柔らかい手でさすってくれるのだから、こういうのは天邪鬼・・・ツンデレというのかもしれない。 もしかするとミクロなみにしかない《夜宴》の良心が動いたのかもしれない。 これでツンデレといわれたら、なにかといっちゃぁ死ねと言われる身には、かなりこたえるツンとデレ具合だ。 『げほっ・・ヤ・エン、みろ!原作げホケホ・・・ごほっ』 「死ぬカ、マスター?そのまま死んでいいメェ」 『あほ!おいかけるぞ!!』 かわいらしく小首をかしげる動く黒羊のぬいぐるみに、オレは垂直チョップを叩き込み、そのまま《夜宴》を抱き上げる。 公園のわきを通って行ったのは、オレンジの髪の目つきの悪い学生。 ――黒崎一護(くろさきいちご)だった。 オレは《夜宴》をだきしめ、こっそりこの物語の主人公であろう黒崎一護らしきひとかげを追うことにした。 その際に、別世界で習得したオーラや気配を完全に断つ技を使う。 これで足音を断てなければ、たいがいの人間はオレの存在に気付かない。 尾行にはもってこいである。 『黒崎一護がルキアと学生服を着て歩いている。これはいかにも原作初期!!初期なら微妙に分かる!』 やっぱり相手は一護だった。 今、彼の横を歩いているのは、制服姿の朽木ルキアだ。 オレは思わず今後の衣食住とか一切考えもせずに、気配をたちつつ二人のあとを影に隠れながら追った。 もともとオレは原作に関わるつもりはないが、原作の側にいることが多く、転生してもあちこちで原作に介入する羽目になっている。 今回はただストーカーをしている段階であり、手を出していない。 《夜宴》いわく、手を出して原作破壊をしないと帰れないと言うことだったが、まだ状況を完全には把握していないのだ。 しばらく傍観で。 それでしっかり時間軸とか状況がわかったら、どう手を出すか考えよう。 だから、ただいま珍しく傍観に徹している最中である。 関わりたくないなら原作キャラに近づかなければいいのだが、さすがにBLEACHの原作内容をほとんど知らないので、つい気になってしょうがないのだ。 漫画の続きが知りたいとかではない。この世界の今の流れや物語の状況を知るための追跡である。 だからこんな後ろのほうから、覗いているのだ。 っでもって。 見る。視る。観るぅっ!! っが、そこでしばらくして―― 「御子神(ミコガミ)?」 オレのすぐ背後から、聞き覚えのある名前に背筋に悪寒が走る。 いつのまに背後に来ていた? そもそも今の名前は―― その名前は、オレの名前じゃなく、とある漫画のソレだ。 オレの今の容姿は、漫画【ユグドラシルの果実】にでてくる御子神というキャラのアバターに瓜二つなのだ。 これは本当に偶然でそうなっただけだけど、マイナーだけど、けっこう大作なあの漫画を知っている人間しかその名前とオレの姿が連結されるはずもないのだ。 しかもあの【ユグドラシルの果実】という漫画は、オレがまだ『わたし』であったころの地球でしか発売されていない漫画だ。 つまり同じ地球の日本からトリップしてきた介入者が、この世界にはすでにいたということだ。 それは、原作と違う未来が待っているかもしれないということで、オレの身がヤバイのではないかと ――思わず、背後も振り返らずにオレはこの場から勢いよく逃走することを決めた。 すでにトリップ者が紛れ込んでいる。 ならば、ここは原作とは違ったまた別のBLEACH世界に違いない。 すでに、どこかで何かがずれ始めてるかもしれない。 ずれた世界だから、オレがいることが許されるのだろうか。 もう拒絶ざれない? むしろだから《夜宴》は、オレに、この世界を原作から外せと言っているのだろうか。 くわしいことなんて、まったくわからない。 オレがこの世界にいる理由も。 死んでいない理由も。 この世界が今どこの原作時空なのかとか。 どこまで首を突っ込んでいいのかとか――。 本当にいまのオレは何も知らない。 《夜宴》は何も語らないから。 そんなあやふやな世界で、ストーカーなんてやっていたわけで。 なにが起こるかわからず、未来が変わっているかもしれない場所のトリップ者や転生者は排除されやすい。 みつかったらやばい気がして、オレは逃走しようとしたが・・・・・・。 「ああ、やっぱり先輩でしたか。お久しぶりです先輩」 この世界では誰も知るはずのないオレの本名を――否、地球での呼び名を呼ばれ、振り返ってそこにいた少女に目を見張る。 男ものの制服に身を包んでいるがまったく違和感がないその少女は、随分顔立ちが違っていたが、それでもオレは彼女が誰か理解した。 転生人生を歩むきっかけとなった事故――そこで『わたし』が死ぬとき一緒にお茶をしていた友人、神崎 (カンザキ )だと、確信できてしまった。 姿は最後に会ったときに比べて微妙な差異があるものの、雰囲気や口調はなにも変わっていない。 『まさか、?』 「そうですよ」 彼女は『わたし』が死んだ事故で、トリップ体質になってしまったらしく、いままで色んな世界を旅していたらしい。 転生を繰り返すオレとは似ているが、大違いだ。 そして、オレは衣食住を確保した。 ――新たな状況下で、さらなる異世界に飛ばされたその日。 オレは旧知の友とであった ・・・・のではなく、拾われた。 -------------------- 関わる気がないのにいつも原作の側にいるんだからしかたあるまい。 オレの場合、“そういう”ものらしいから。 たまには完全傍観でいようとおもったんだけどな。 いやぁ、まぁ…この世界に介入しないと、オレ帰れないらしいんだけどさ。 それにしても驚いたね。 まさかのがいたよ。ありえない。 とりあえず。 オレの一回目の転生の時に味わった絶望を返してください。 一度は、オレは君を探そうとしたんだよ? |