有 り 得 な い 偶 然
第4章 B L EA C H



16.ちょっと聞いてくださいよ





 ありえない。
それをひとつだけ言っておこう。







::: side 夢主1 :::







 わたしは一度死に、HUNTER×HUNTERの世界で男として、黒筆 (クロフデ ) として生を得て、原作四年前で死んだ。
その死の衝撃で、今度はONE PIECE世界に生まれた。
それから三十年ぐらいは生きた。
 けれど転生の影響か、オレの成長は遅く、昔のオレを知るロジャー世代の人間は、成長しないオレを【lil'little(小さな小さな子)】と呼んだ。
でもさ、あっちのひとたち普通に二メートル超えてる奴らばかりなんだぜ。
そんななかにいたらどれだけ成長しても、だれも成長したなんて思ってくれるはずもない。
ちなみにセンゴクさんやガープ、白ひげことエドワードや、レイリーとか、バギーとかがが、オレをどう呼ぼうが昔のオレを知っているのだからしょうがない。
だがね。

はっきり言おう。

『おめぇには言われたくないんだよ!!』



 心臓を撃たれ死んだと思っていたが、なぜかBLEACHにつらなる空座町(カラクラチョウ)に落ちたオレの身体は――

「ぬおぉぉぉーー!!!」
『痛いの?よろこんでるの?怒ってるの?意味わかんねぇ―よ!!』

――十年分ぐらい若返って、10歳ぐらいにまで縮んでいた。
 おかげでズボンはぶかぶか。普通にはいてられない。
しかもシャツ代わりに来ていた上着の着物だけで、充分全身が隠れるって・・・どれだけオレ縮んだのよとつっこみたい。

むしろ絶望しそうだ。


 そんなオレに対して、目の前で謎の咆哮挙げた白い化け物は、オレを小さいとのたまった。
小せぇがその魂はうまそうだ。喰ってやる。大人しくしろよチビ――と言いやがったのす。
ハイ。いまの台詞だけで何度“小さい”的な言葉が入っていたか。
オレはけっこう傷つきました。
 はじまりのハンター世界で、45歳になっても10歳マイナスにみられるのなんかあたりまえ。 身長がまっとうにのび始めたのは二十台も半ばからで、やっと、やっと・・・167cmまできていたのに。
なお、享年における最高身長は173cmだ。
っが、現在はどうみても140cm代かそれ以下(詳しく測ってないから曖昧だ)。
 そんな傷心のオレの傷をえぐるように、ものもおす化け物。
化け物の背丈は、二階だての一軒家ぐらい。

『・・・・・・』

おかしいだろこれは!!

 虚がウオーと叫ぶから、なりたくてなったわけじゃねー!と、オレも叫び返してやった。
ついでに今までの鬱憤全てを込めて、《斬鉄剣》と命名した“なんでも一回だけきれる能力”を持った刀を具現化してきりつけた。
《斬鉄剣》は名の通り、虚さえも真っ二つにして、パシャンと音を立てて水に戻ってしまった。



 とりあえずは、これで心おきになく、当面どうするかの準備ができるというもの。
小さいと言われたウサも少しは晴れた(実際は戦ったことではなく目の前から出化物が消えたことで気分が良くなった)ので良しとする。

『さて』

 一番に、ぶかぶかになった自分の服を見下ろした。
 着ていた羽織は・・・まぁ、肩に羽織るだけだから、ギリギリ着ていても問題ないか。
着物の帯の位置を変えて、なんとか可笑しくない状態にする。
その上から黒い墨染めの羽織をはおろうとして、ふとおもいあたることがあってやめる。
そのまま脱いだ靴や服などをたたむと、羽織を風呂敷代わりにしてそれらをつつんで、ショルダーバックのように肩を通して正面で結んで背負う。
さすがにサイズが変わった今、靴もなければ裸足しで歩くしかない。
 はだしでも問題はない。何年、危険な世界で暮らしてきたと思ってるんだ。こんな危険物ひとつない道なんかでオレの皮膚は破けはしない。
 そもそも最初の世界ではまっとうな暮らしはしていなかった。腐れ縁とは怖いもので、トラブルメーカーたるジンになつかれて以降、逃げてもやたらとオレの周りにはトラブルづくし。
あげく奴自身の手により、命の危険も伴うようなゲーム製作の実験台につかわれたり・・・…そんなひどい奴らの巣窟で生き延びてきたのだ。
二つ目の世界では、いまのいままで海賊と海軍が戦争してるまっただ中にいました。
――そんなわけで、オレの場合、裸足で道を歩くぐらい退位したことではなかったのだ。

 それにしても。あぁ、思い出しただけで、あの“前世”の日々は、血の涙なくしては語れない。

 オレは一瞬、過去に想いをはせつつ、涙をのみ込む。
そこでふと、視界に赤いものがよぎった。
髪だ。
 オレの赤い髪。そういば最近サボって切っていなかったから、髪は長く――肩より少し長い程度はいまだにある。
 身長は縮んだのに髪の毛は縮まなかったのねと、ホロリと涙が出た。
これでは、身体の栄養が、髪にでもいってしまったかのようだ。

『背に栄養がいってほしいよなぁ』

 オレのつぶやきにフォンと《黒姫》から、戸惑うような感情が伝わってくる。
もともと《黒姫》も《斬鉄剣》もオレの能力から生まれた存在だ。
彼等に自立性の高い《夜宴》のような真似をしろといううのは無理なのだ。彼等はしょせんオレの“能力”であり、現来、感情などないに等しい存在なのだから。
わかっていて話しかけるオレもどうかしているが、そうでもしてなきゃやっていられないときもあるというもの。

 困っている=慰めよう。そういう発想には辿り着いたらしい《黒姫》に感謝しつつ、でも笑みが苦笑になってしまったのはしかたがないだろう。
そうして片手の一振りで、《黒姫》に合図をおくる。
それとともにオレの能力が解除され、宙を泳いでいた黒い鯉の姿が、水がはじけるようにパシャンと音を立てて消えた。
彼等の気を使わせないためなどという感情論からの所業ではない。この世界に虚と呼ばれる化け物はいても、空中を悠々と泳ぐ魚や“念獣”はいないだろうから、念のためだ。

 オレの能力は、周囲の水分を墨に変えること。
水を墨に変え、それをあやつり、ときに作り出した墨で絵を描いて具現化する。それがオレの能力だ。
これはHUNTER×HUNTER世界で習得した【念能力】とよばれるもので、いわばオレの必殺技である。
 オレの能力は水分から墨を作り出し、その墨で描いた絵を具現化する。
そういった【念能力】の力で生み出された生物を《HUNTER×HUNTER》世界では、“念獣”とよぶのだ。
黒姫はまさにその“念獣”の最たるものだった。
 オレの具現化能力は、一回ぽっきりで、用事を済ますと描いた絵はただの水に戻ってしまう。
ただし、黒姫はちょっと特殊で、とある条件を付けたことで“何度でも呼び出せるようになった”オレのとっておきの能力だ。
彼女は影と影を移動する特殊な能力を持っていて、オレがこの世界に落とされたのもまた彼女の力の暴走に巻き込まれたがゆえだった。
 念には念をと、空気中の水分を墨に変えたものを懐の小瓶にいれて、いつでも絵を描けるように備えておく。
自分の肌に描かれた刺青もオレの墨を肌にしみこませたものなので、痛みもない。腕やらにかかれた絵はオレがオーラを送り込めばすぐに具現化できるだろう。
これがオレの戦闘準備だ。





『《夜宴》。話がある』

 なにかしらの行動を起こすにしても、ここがどのような場所なのかを知る必要がある。
ワンピース世界で次元の歪みに落とされた時、訳知り顔だった黒い羊を呼び出す。
《夜宴》もまたオレの能力で具現化された生物だが、元々は話し相手にと作ったのだ。
それがなぜか自立性をみにつけてしまい、いまとなっては勝手に墨から飛び出したり、オレに毒舌を浴びせてくる。
 毒舌にはなれたけどさ。
進んで味わいたくないので、今の今まで具現化しなかったが、今回はしかたない。
一回ためいきをついて、顔を挙げた時には意を決める。
 水を変えてつくられた墨から、シルクハットをかぶった二足歩行の黒羊――《夜宴(ヤエン)》――の絵を描き、具現化する。
 あらわれたのは、いっけんぬいぐるみにしかみえない黒ひ羊。
これは、オーラで作られた念獣で、自らの意思を持って動き、オレをサポートしてくれる頼もしい存在だ。
ただし、何度も言うが物凄く口が悪い。
なんどその口の悪さが、てれからくるツンデレであってほしいと願ったことか。
いや、その話はむなしくなるから、わきにでもおいておこう。

 何かあった後では遅いので、スタンバイだけしてもらい、オレは《夜宴》を抱きあげる。
口は悪いけど、ちゃんとサポートしてくれるのだ。ここがどんな世界かわからない今、何事にも対処できるように準備をしていてわるいことはない。

『夜宴、オレはこれからどうしたらいいと思う?お前何か知ってんだろ?』
「メェェ〜。マスターバカ。衣食住必要。デモ、住む場所ナイ。マスタァは子供の姿。つまり働けないメェ〜。それにこの世界の金ナイ。文無しメェ〜。現代日本の法律に負けて、のたれ死ねばいいメェ」
『・・・・・・』

 オレの能力で生まれたにくせに。かわいい外見のくせに。やたらと辛らつなプリティー黒羊はおっしゃった。
 それに思わず今までのオレの転生人生が、走馬灯のごとくリピートされる。
オレがいたのが、どんな世界だったのかが思い知らされる。

 “黒筆 ”の誕生したのは、常識なんて一切通用しない、狩るか狩られるかの超人どもしかいないサバイバル世界――それがHUNTER×HUNTERの世界だった。
 そのまま死んで次にトリップしたのは、秩序など逸さない海賊が謳歌する海の世界――ONE PIECE。

 思い返して、秩序ある今のこの世界とは比べちゃいけない気がするのに気付いた。
ずばりココではすべからく、オレの存在そのものがファンタジーなのだと理解した。
目の前に広がる日本語の看板が至る所に掲げられたこの住宅街は、しごくまともだ。
 つまり暗殺家業に身をおいたり、家の前の死体処理に頭を悩ませたり、裏山の奇抜な怪獣たちに日々追われたり。
なにもしないでのうのうと海の上で財宝囲んでヘイヘイホ〜と暮らすとか。
 オレのいままでの暮らしぶりを“ありえない”と言い切ってしまえるのが、この世界での普通の感覚。
オレとは真逆の生活こそが、この世界の正常なルールというわけだ。
そして、この場所は、物々交換が通じない時代でもある。

『・・・・・・そっか。世の中って働かないと、食べていけないんだった』
「マスターはバカメェ〜」
『いやいや。あのね、一度子供まで育てて人生まっとうしちゃったからね。あとはもう好き勝手生きてても問題なかったし・・・。
はぁ〜。また子供からやり直しなのかな?でも帰れるんだよな今回は』
「しかり〜しかりぃ〜」
『(ホッ)だよな』

 考えても仕方がない。
とりあえず、レーザー光線によって一部に穴の開いたままの羽織をゆらして、街を散策することとなった。
もしかするとここが空座町とはいえ、BLEACHの漫画世界とは違うのかもしれないし。
それにここが漫画の世界であったするならば、よけいに“今”が“いつ”なのかを知る必要があった。





**********





 ペタペタペタ。
ざわざわざわ。
ペタペタ・・・

「ねぇ、あのこ」
「外人?」
「はだしよ。はだし」
「虐待でも受けてるのかしら?」
「家出かもよ?」
「どこかの歌舞伎の子とか?」
「ヤクザ?」

 ペタペタペタ・・・ひそひそひそ

 いったいぜんたいなにかな?
オレが歩くたびに、道を行く奥様達がオレを見ながら言葉を交わす。
なによ。オレの格好ってそんなに変か?
変というより、着物を着て歩くだけで、歌舞伎?
この世界でいうなら、甚平っぽいだけで、ちゃんとした服だろうに。
しかもなに?腕にイレズミがあればヤクザ?
世の中かわったよなとかしみじみ思ってしまった。

 現在は少し血(それもオレの)がついて一部染みなっているが、羽織の下に上着代わりに来ていた着物の色は根本は白い。
袖からでていオレの腕には、ハンター時代に彫ったイレズミがいくつもみえる。
これは墨を操るオレの能力で彫ったものなので、針は一切使用していないし、痛みもなかった。
むしろオレの能力を上げる効果があるんだけど、やっぱりこういう装飾(?)ひとつで怯えられるってことは、 ここはよほど平和で、オレがいた世界とは違うのだろう。

それよりオレの格好はそんなにおかしいですか?





**********





――おまえ、普通じゃない――

 歩いていたら、突然目の前に白い影が降り立った。
ああ、この世界に落ちて何度目の総うぐうですか。こんちくしょーめ。また《斬鉄剣》でもくらわせてやろうか?今度はバットで吹っ飛ばしてやろうか?
腕に抱いていたぬいぐるみ、もとい、《夜宴》が、モゾリと動いた。

 彼の視線がオレを上から下まで一瞥したのに気付き、ふと虚に言われた言葉を思い出し、《夜宴》と同じように自分の今の格好をじっくり見てしまった。

 ちなみに今のオレの恰好は、羽織、甚平、腕には30cmは軽くある黒い羊のプリティーぬいぐるみ。
背には黒い風呂敷包みのような荷物を背負っている。
甚平のさらに内には、襟元付きのタンクトップを着ている。
和服だと脱ぎ気が楽だし、タンクトップなのは腕に彫った刺青が隠れていると墨絵を具現化しづらいからって理由があるからだし。

 あ、もしかしていい年したオレみたいないい年したおっさんが、さすがにタンクトップってのは暑苦しかったかも。
それとも刺青をみて怖がられてるとか?
もしかしてそれで皆、オレを振り返ってるのだろうか。
それともはだしで歩くのはだめだったかも。
 なんか道を歩くたびにオレ、皆様から集中砲火食らってるんだよねぇ。
もう、まじ、なんでよって感じ。
いや〜、まぁ、だいたいの想像はつくけどさ。
 たしかに和服って珍しいかもダケド、夏になれば甚平姿の子どもっていっぱいいるじゃん。
変な材料は一切使ってないし。まぁ、胸部に穴が開いてはいるけどさ。
少し前までONE PIECE世界にいたにしては、オレの格好はそれほど海賊っぽくないと思うんだけど。
まだ“一般人”らしくないか?
まぁ、裸足はさすがにどうかとは思うし、羽織やズボンに穴が開いているのは、大将黄猿によるレーザーくらったからしかたないわけで。
目立たない程度だと思ったんだけどなぁこの穴・・・。
もしかして血の跡がやっぱりよろしくないのかも。

 そこまで変わった格好じゃないよね?
普通じゃないって――

君にだけは言われたくないよと思ったりして。
これって、虚に偏とまで宣言されるぐらい変な格好かなぁ。





 それにしても…

『絶望したorz』

 ここは日本の東京にある空座町というらしいのだが、ここの通りすがりの奥様方でさえやっぱし背が高かった。
日本だよここ。
 オレだってHUNTER×HUNTERという別漫画出身とはいえ、ジャポン(日本)出身なのは変わりないのに。
同じ黄色人種なのにどうして、こんなに違うんだろう。

オレはなぜこうまで背が低いんだ!?

 この肉体を作ってくれたハンター世界の両親も普通に身長はあったのに。
姿が子供だからとかそういう理由以前に、側らを通り過ぎるランドセルのこどもよりちょっと低い気がする。
虚がでかすぎるんじゃなかったのね。



オレが小さいことに一番ショックをうけた日のこと。











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話しかけてきたのは虚。
どうやって帰れるかよりも身長を気にするひと。
きっと帰ることなど考えてない・・・
自分が面白いと思うことを率先するんだろう(汗)








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