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- 元死神「夢主3」の異世界旅行記 -
03. 無垢なる雪の脅威


 九尾が生まれて間もない赤ん坊によって封印されてから、間もなくの頃。





-- side 九尾 --
 




 随分暴れていた九尾だったが、それでも封印がとけないのを理解すると、あばれるのも厭きたと、思考をめぐらし始めた。

 自分が封印されたのは、四代目火影の子。
そして憎き、うずまきの血筋。
憎い憎い二人の血を受け継ぐ赤子。
憎い・・・
この腹立だしさを消すにはどうしたらいい?

 九尾の求めた答えは意外と早く結論が出た。

 ならば、こどもの魂を喰らえばいい。
人や赤子の魂を喰らうぐらいなら、この檻の中からでも充分事足りる。
そうしたら木ノ葉の里に、今度は自分の意思で復讐をするとしよう。
こどもがこの精神世界に足を踏み込んできたそのときにでも、その魂を喰らい、体をのっとってやればいい。

さすれば木ノ葉のやつらにも
あのいまいましい四代目や渦の国の女にもいい灸となるだろう


 自分の考えに九尾は、深い深い暗闇の中でたからからと哂い声をあげ、遠くない未来に訪れるであろう“器のこども”を待った。
 しかしそこで、九尾は世界の違和感に気付いた。

『ほぉう。すでに己の世界をもつか』

 こどもは生まれながらに自我があったようだと九尾は知る。
それが自分がこどもの腹の中にいるせいかはわからない。
ただ九尾は、おのれが封印されているこの暗闇のさらに外側に――包み込むような暖かさを感じ、自分とは異なる別の誰かの精神世界が存在しているのを知ったのだ。
 九尾は格子越しに宙に漂う匂いから外を探るように、スンと鼻をならす。
外からは、優しい花の匂いと冷たい空気が流れ込んでくる。
雪のような冷たさを持つくせに、肌を凍らせる寒さは感じないことに、九尾は面白いものでも見たかのように、赤い目を細めてくつりと笑う。
矛盾するそれに、けれど悪い気はせず、九尾はふと、このような精神世界を持つ者に会ってみたいと思った。

間違いなくこの外の精神世界は、“器のこども”のもの。

 こどもは、おのれの腹に自分のようなものが封印されているのを理解しているだろうか?
 九尾は久方ぶりに覚えた、興味という感覚に目を丸くする。
今まで生きてきた中で、これほど感情が凪いでいるのも随分と久しい感覚だった。
クックックと地獄の底から響くような笑いを喉の奥からもらして、九尾はギラギラと目を輝かせる。
その目は、獲物を狙うもの。

九尾は笑う。哂う。わらう・・・
この封印の牢獄より――
来訪者を待つ。それは獲物が罠にかかる瞬間。

そして――
自分に理性を取り戻させたあの雪花の匂い。

あの暖かな花が・・・ほしい。
あれを喰らいたい。
こわしてしまいたい。

あぁ、そうだ

『我の自我を呼び戻したこと、後悔させてやろう』


 薫るは優しい花の香り。
ふれるは、雪のような冷たさ。
それは九尾が封じられたこどもの心模様。

雪はまっしろな・・・純粋であることをしらしめる。

その魂、言葉巧みにあやつり、絶望に黒く塗り替え、体をのっとってくれよう。



 ふと世界に波紋が広がる。
それはこの精神世界に来訪者が訪れた証。

『予想外に早いが・・・・・・よいタイミングだ』

九尾は口端を持ち上げて哂うと、このおだやかな雪に飲み込まれる前にと、訪れた気配に自ら接触をこころみた。





ひらり
 ひらり ひらり


暗闇の世界に 『白』 が舞う





 “こどもの領域”からこどもを無理やりこの暗い世界に引きずりこんだとき、下水道のようなこの場には不釣合いな雪のような白い花が、ふわりと暗闇に舞った。
そして空間が一部裂けるように、そこから金色の影が転がり出てくる。
 あらわれたこどもは、生まれたばかりであるはずなのにも関わらず精神年齢と比例しているのか4,5歳ほどのこどもの姿をしていて、九尾にとっては憎らしい対象たる四代目火影・波風ミナトに瓜二つだった。
しかし決定的に違うのが、こどもの顔にはミナトとは異なり、まったくといっていいほど感情がなかったことだろう。
まだ生まれたばかりで感情を知らないからかと?人間とは違い負の感情しか持ち得ない尾獣である九尾さえそう考えた。
その考えが間違っていたことを、今の九尾は知るよしもない。

その理由を九尾が知るのはもうしばらくあとのこと――。





**********





 金色の髪に青い瞳。まんま四代目火影を小さくしたような無表情のこども。
九尾は始め、言葉巧みにあやつって、純粋な魂を憎しみに染まらせ、封印を解かせ、のっとってやろうと考えていた。
しかしそのこどもはすべてが予想外だった。

しかも、こどもでも人間でもなかった。


『もうかんべんしてくれ〜・・・』
「いえいえ、まだですよ。まだ3世紀分の愚痴しかはなしていません」
『・・・充分じゃろ?』
「いいじゃないですか。時間はたっぷりあるのですから。せめて5世紀分の話を聞いてからにしてください。でないとすっきりしません」
『まだあるのか・・・』
「正確に述べるなら、あと七世紀と五十三年分ですかね」
『・・・・・・・』


 九尾が現れたこどもに取り入ろうとしたところ、こどもはその口車にのるどころか、逆に勝手に話し出した。
無表情のまま
けれどこどもの存在や性格自体どこかずれているものの表情とはかけ離れて感情は豊かで、よくしゃべった。なんで、これで無表情なのか。九尾が思わず首を傾げるぐらいには、話すことを止めなかった。
 ナルト――否、“ ”というもうひとつの名をもつこどもは、元々数千も生きる一族出身の死神だったらしく、前世と呼ばれる当時の記憶をすべて持っているという。
九尾がのっとろうとした相手は、前世ではあるが、人間でさえなかったのだ。
九尾にとって予想外だったのはそこである。
その“死神だったという前世の記憶”が物凄くやっかいで、育てられた境遇のせいか、このというこどもは、考え方からなにからすべて常識とは程遠い、物凄くずれた思考の持ち主だったのだ。
こんなこどもに育てた親の顔が見たいと思わず呟いてしまったほど。
  は、ひとでなかったという。仮にも“神”と呼ばれし存在のひとり。
前世の記憶があってもそれは人間のものでないため、九尾でさえうめき声を漏らすほど、彼には『常識』がまったくなかった。



『452年目か?』
「いや。まだ432年目です」


 それからの愚痴という名の回想記が、幾世紀めかさえわからなくなったころ。
ふたりのいる精神世界に、「もうやめてくれ〜!!」という九尾の絶叫が聞こえたとか。
それを相手にするは、淡々と記憶を辿っていた元死神の少年うずまきナルト。
九尾は狭い牢のなかで耳をふさぐように前脚で耳ごと頭をかかえ、頭痛をこらえるように眉間には深い皺を寄せ、どうした?と首をかしげて手を伸ばしてきたこどもに――

『ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

逃げられないと分かっていながら、死に物狂いで檻の隅に移動した。
本来なら己を封じるこの檻の格子がどれだけ隙間があろうとそこから入れるはずなどないのだ。
しかい目の前の相手は普通ではなかった。
なにも障害などないようにスルリとすりぬけて檻の中に入ってくる。

『ひぃーーーーー!!!』

九尾は逃げた。
しかし、九尾はでかかった。
それゆえせまい檻の中では少ししか身体をよじることしかできず、 九尾の悲鳴さえ気にもせず格子の間から伸びた白いこどもの手は、九尾の毛を・・・・・・ひっこぬいた


キャイン!!


「あ、ごめん・・・なさい?触らそうとしたら突然あなたが動くから・・・・・これ、刺せば治りますか?」
『なおるかぁ!!』

 里を破壊し、畏怖と脅威の象徴であったあの九尾でさえ、その常識ハズレのこどもには叶わなかった。
九尾がひそかに、己を封印した四代目火影にむけ「もっと封印を強固しろよ!! “檻”よりここは“壁”だろ!!なんですきまをつくったミナトぉ〜!!!」と涙を流していたのは、誰も知らない。





 感情を持たず、表情を忘れたこどもはどこまでも純粋で――
穢れを知らぬがゆえに、その内なる世界は汚れひとつない雪が降り積もる。


通称、ひとはこれを、『無垢なる脅威』と呼ぶ。








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「あ、そういえばキツネっていうぐらいですからひげってあるんですか?」
『ぎゃぁ!!!!はいってくるなぁ!!ってかぬくなぁ!!!!』

ぶち

「あ。ひげ・・・へっちゃいましたね。米粒でくっつきますか?」
『つくかぁーーーーーー!!!!』


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