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-「夢主3」の異世界旅行記-
01. 内なる世界の中で


 頭を打った次の瞬間には、生まれ変わっていて、また赤ん坊からやり直すこととなった。
目が覚めれば、そこは両親の殺戮現場。
はじめて、両親の愛というものを目の当たりにした瞬間、オレはまた一人になった。

新しい名前は『うずまきナルト』。





-- side 夢主3 --
 




 オレにはもうひとつ魂に刻まれた――“( )”という名前と共に、前世と呼ばれる記憶がある。
 前世におけるオレは、死神だった。
オレの生きる世界は、俗にいう死後の世界というやつで、現世で死んだものたちが魂となって帰還する場所である。
そこでは魂に宿る力――“霊力”の有無で、すべてが決められていた。
なかでも死神になれるほどの魂を持つものは、きちんとした教育を受けさせられ、のちに魂を喰らう化け物と戦うこととなる。
それらを死神と呼ぶ。
 さらに死神のなかで最も力を有する者たちの一族が、五大貴族とよばれる古い名家であり、彼らは生まれながらにして強い霊力と長い寿命を持っていることが多い。
オレはその貴族のすべてをまとめる一族の次期当主として誕生した。
 ただしオレは、貴族のなかでもさらに物凄い立場の子供だったため肉親というものに縁がなかった。
悪友と呼ばれるあいつがいなければ、オレは感情というものさえもたないままに育ったであろう。
 ただ義務的に次代長として振舞うだけの日々。
望まれたのは圧倒的な力であって、心や感情ではなかった。

だけど今は違う。

 新しく生まれ変わった。
そこでは両親が自分を愛してくれていると知って凄く嬉しかった。

でも、その喜びはほんの一瞬の邂逅。
すべては終わってしまった。

 オレはようやくもらえるはずだった両親の愛情やらを受けて育つ前に、両親は殺されてしまった。
それがナルトとして生まれたが故に、一番最初に背負うべき宿命(サダメ)。
今度こそ家族運あると思ったのに・・・残念だ。





**********





 そんなこんなで。
――死神だった“()”が忍者世界で、生まれてしばしば。

 赤ん坊です。困ったことに赤ん坊だと自由に体を動かせないようです。
元が死神だったせいか、これまら生まれたときから自我がはっきりと芽生えていたオレは、日々動かない体にボォ〜としているか寝ているしかできなくて暇だった。
せめて早く首が据われば、状況観察もできただろうに・・・。
 そういえば、死神として生まれたときも苦労したナァ。
あのときはどうしようもないのでたしか日々寝て過ごしていたはずだ。
そこでオレは精神世界にいくことができて・・・

ん?精神世界?

 そういえば、以前も自我があって赤ん坊になったとき、暇をもてあますように、オレは眠りについた先で、自分の精神世界にいくことができたのだ。
 死神だったとき、死神になった者の魂の半分は常に刀としてそばにあるものだった。
その刀を斬魄刀(ザンパクトウ)といい、斬魄刀の本体は己の精神世界のなかにあった。
 思い出して、オレはさっそく「よしいこう」と、精神世界にいくべく、意識を内側に向けた。
生まれ変わった今も斬魄刀が己の精神世界にいるとは限らない。
でもいてほしい。
せめて赤ん坊時代を超えるまでの話し相手になってくれないかと、久しぶりに精神世界へ向かった。





**********





 精神世界にはいったオレは、身体が自由に動けることに気づいた。
もしかして“前世の大人のオレ”の姿がそこにあるのだろうかと思ったが…。
あったのは5歳くらいの、金髪の子供の姿だった。
服装は死ぬ寸前まで着ていた黒い着物。この格好は、たぶんオレがこれ以外の服を知らないからそのまま投影されているのだろうとは思う。
 サラリとした髪をつまむと、黄色とも金色ともとれる頭。
そういえば生まれた当初にみた父親が、こんな髪色をしていた。
新しい母は綺麗な赤い髪で、オレの顔はどっちに似ているんだろう?って思った。
髪の色は父似だけど、なにか姿を映せるようなものがあればいいと思ったがココにはそういったものはなかった。

 精神世界にきて、改めてオレって相変わらずだなぁ〜とか、なにも変わっていない精神世界の光景に、思わず、自分が死神だったことを納得してしまった。

「姿は変わったのに・・・。オレの精神世界は相変わらずなにもないのですね」

 オレの精神世界は相変わらず真っ白で、どこまで続くのかわからない世界が広がっていた。
空から降る花は相変わらず幻想的だが、今回はオレの魂の半身であった斬魄刀《花樹翠(ハナキスイ)》の気配がない。
いつも精神世界に行くと会えたあの口の悪いおっさんくさい雰囲気の白い鷹の気配はどこにもなくて、そのかわりに今までこの世界になかったものがある。

「何でしょうかねぇ、あれ。扉、ですかね?」

空から舞い落ちる花は地面につくと翠の炎となって消えいる。
だからこの場所にある色は、地面を負いつくす雪の白さと、空の青さのみのはずだった。
しかしとおくに赤黒い板のような・・・否、扉のようなものがデデンとみえた。
近づけばそこにはかぎはかかっておらず、力を籠めずとも開いた。
扉を閉めた状態で一周しても雪原に扉が刺さっているだけの光景だが、ひらいたとびらの先は別の空間だった。
そんな扉など、オレが死神だった頃のこの世界にはみれなかった光景。
その光景を見て「あぁ、もうオレの斬魄刀はどこにもないんだな」と思った。
刀と死神に分かれていたオレたちは、いつのまにか一つに戻っていたんだと知る。

「長い間ありがとうございます花樹翠…」

 で。ここで問題が発生する。
 相方たる斬魄刀・花樹翠がいないと、オレは自分の世界だというのに迷うのだ。
どうしたものかなと思っていると、一瞬で世界が変わった。

うっすらと開いていた扉から、闇がぶわりとひろがり、“あちら”側へと空間が切り替わったのだ。



 ――そこにあったのは『闇』だった。


 様変わりした景色に首を傾げつつ、キョロキョロと周りを見やる。
精神世界の行き来なんか不可能のはずだから、この水道管のような場所も"オレのなかにある世界"ではあるはずだ。
オレの精神世界だというのに、暗くてジメジメしている。
はっきりいってオレらしくない精神世界だと思う。

足元は水浸しだし、屋外じゃなくて室内みたいで、パイプがあちこち走っている。
まるで悪の地下施設のようだ。
悪、ねぇ。

『ガキぃ。お前に力をやろう』

 なんとなくこの光景をどこかでみたことあるような気がするけど…思い出せない。
こういう場所ってなんていうんだっけ?

 勘で生きているようなオレだけど、記憶力は人一倍ある。
一度来た場所なら忘れることはないはずだ。
なのに“ここに実際来たことはない”と、オレの直感が告げた。
だけど知っている気がする…という、不思議な感覚。

じゃぁ、ここはどこだろう?

「あ、そうでした!オレが城下町に遊びに行くときに使っていた下水道そっくりなんですねここ!」

あぁ、それで。知ってるようなきがしたわけか。
納得。納得。

ってか、こんな迷いそうな精神世界をオレが作るとは思えない。
原因は分からないが、つまるところここがオレ以外の誰かの精神世界と考えるべきだ。
いったいだれの精神世界だろう?

 そういえば、さっきずいぶんと大きな声が聞こえた気がするけど、声が大きすぎてそれは《音》にしか聞こえなかった。
あの声らしき奴が、ここの精神世界の主だろうか?
なんてうっとうしい精神状態だ。
ジメジメした水道管って…どんだけ歪んだ精神しての!?
これは引きこもりたいぜ!欝ってやんよ☆ 的な、精神的に末期な人物の精神世界だろうか?

 話し相手さえいれば・・・オレは別に誰が欝だろうが、人殺しだろうがかまわないんだけど。

それにしても――

『お前から親を奪った里がにくくはないか?力があればお前が欲し続けていた両親を生き返らすことができるんだぞ』

「本当にここはどこでしょうか?」

『おぬしの力は弱い。このままではすぐに里の狂気に殺されるのがおちだぞ』

「自分の世界からも現世に一人で戻れたためしがないのに、他人の世界からなんて・・・。
いったいどうやれば戻れるんでしょう?こんなときに花樹翠がいてくれれば」

『……お「ああ、もう!花樹翠がいないと、ここからでる方法がわからないではないですか!転生したからってさらっと消えないでくださいよ!!」……』



『話をきけぇっ!!!』



 突然、ゴォー!と勢いよく風が吹き、それとともに鼓膜が破れそうな罵声が空間を揺るがした。


「……なんかいた」

 そこでやっと目の前に巨大な牢があるのに気づいた。
しかもあのゴォーゴォー聞こえていたでかい音が、実はその牢の向こう側にいた巨大な狐からのものだとそのときはじめて気づいた。
あんまりにでかくて本気で気付かなかったよ。
まぁ、ささやき声というか、オレにのばされつつあった赤黒い“力の帯”とかは全部わざと無視してたけどね。
オレのいた世界では、ああいう視覚化された“力の帯”のことを《霊絡(レイラク)》と呼んでいたけど。
さて。こちらの世界ではなんと呼ぶのだろうね。



「う〜ん。大きすぎるというのも不便なものですね。上の方がまったく見えません」

『おぬし』
「いや〜それにしてもここはあなたの世界ですか?」
『・・・・・・』
「無言は肯定と取ります。
あ、そういえばどちら様でしょうか?
ん〜。いまいち、暗すぎて姿が見えませんね。っというか、目と爪しか見えないってどれだけここ暗いというか、どれだけでかいんだよ!とつっこむべきか・・・悩むところですね」
『・・・つっこむのはそこなのか?』
「え。ほかには・・・そうですね。
例えば――ここはあなたの精神世界。この湿気が多すぎる世界から判断するに、それすなわち、あなたは陰気だということです!!と、でもいえばよろしかったでしょうか?」

『・・・お主は“何”じゃ?ワシの領域でなぜそんな悠長にしていられる』

おやおや。
話をそらされたようだな。
まぁ、それはオレが聞きたいことだが、今はおいておいきて自己紹介でもしようかな。

『ワシは・・・
「えーっとオレですか?オレは・・・えっと、ナルト?
たぶん“ナルト”になるんだと思います。眠る前にそう両親に呼ばれたので間違いないかと。
あ、 “”でもいいですよ。正式名称はとかきまます。前世の名前なので、どちらもわたしの、いえ、オレの名前ですからドントコイです。
そうそう、ここだけの話ですが、実は前世で少々勝手をしすぎてしまい、 早死にしてしまったんです。2000歳まであと数百年というもうちょっとっていうところだったんですけどね、残念です。きっと友人の重國は力も強いのもっと長く生きれるでしょうね。
そうして生まれ変わったのはよかったのですが、ほら、生まれたばかりですし・・・赤ん坊って不便ですよね。 自分ではしゃべれませんし、動けないし。そんなわけで、話し相手になってくださいな。
あ、拒否権はありません。イヤでもなってもらいますから。
だってオレはひとりでは精神世界から帰る方法わからないんですよ。
なによりまだ生まれたばかりですから。お昼寝時間はおきている時間よりも長い。しかもオレの言葉が通じる相手はいまのところアナタしかいませんしね」

『ながっ!!・・・・・いやいや、ぬしよ。人の話を聞けよ』

「お断りさせていただきます。あなたがオレの話を聞いてください。およそ11世紀分のオレの愚痴を」

 精神世界では精神の強い者が勝つのは道理。
赤ん坊になってしまい、現実では話すこともできないオレは、オレの精神世界にいつの間にか住んでいた相手に前世での鬱憤をすべて晴らすことにした。

――結果。

 どこか人間ぽい筋肉質な獣は、一年ほどでおちた。
始めの「おいでおいで。力を望むならやろう」は、オレの魂を食らって体をのっとるための甘い誘いというやつだったらしい。
残念なことにオレには声がでかすぎてうまく届いていなかったが…。








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(ところでいい加減、現世に変える方法を教えていただけませんか?
赤ん坊だから寝ていても可笑しくないですが、そろそろ歩いたり立ったりしないといけませんしね)


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