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-「夢主3」の異世界旅行記-
06. 常識があってもふんどしは捨てるな!

牢の外に出てしばらくしたら、家が滅んだと噂で聞いた。
どうも我が家のあった場所に突如龍脈が噴き出して、一族郎党滅んでしまい五代貴族が四大貴族になってしまったらしい。

もしかして・・・
オレがクッション代わりにお尻で踏みつけていたものは龍脈だった?

まさかねぇ。





-- side 夢主3 --





オレは死神で、その死神として誕生する前には別の生き物であり、どこかで生きていたという感覚はある。
だけどそれもいまでは覚えていない。



オレこと 那由多 (ナユタ ) は、和装世界における死神だった。

 は、かなり高位な大貴族の次期当主。
“次期当主”というだけあって、うん百年という間、帝王学のような勉強で日々大忙し。
はっきりいって生まれてから、家族と笑ったり遊んだりした記憶はいっさいない。
オレを気にしてくれる者もいたが、たやすく会える間柄でもなかった。
まさに家族とは縁がなく、折り合いは悪く、周囲からもオレは嫌われていたと思う。
嫌われた原因は、死神たちをおさえる長として必要な『力』を持っていなかったから。

正確にはあるにはあったんだけど、力の量がハンパないほどにバカでかくて、自らその力を封印してしまったのだ。
そのせいで大人になる頃には、“力のない死神”とバカにされ、一族からは役立たず扱い。

まぁ、力があろうがなかろうが、問題ないほどにオレの精神はタフだったので、それから幾数百年の年月を平然と生き抜いた。


家では、感情もなにも望まれなかったから、心なんてものはとっくに忘れていた。
そんなオレに声をかけてきたのは、庭に迷い込んできた子供。

みつかれば子供とはいえ、ただですまないのを分かっていながら、 何度も子供はオレのもとを訪れ、やがてオレを敷地の外へ連れ出してくれた。

そうしてその子どもは、ゆっくりとだがオレに心を教えてくれ、外の世界を教えてくれた。

しかもすでに「成長するウンヌン」を自力で操作できる様になっていたので、周囲の人への被害がでないための許可ともいえる。
そうしてオレは感情を取り戻してからは、力がデカすぎてほとんど成長していないオレの外見が遊びたい盛りなのをいいことに、周囲の子供達に混ざったりしてみたのだ。たいがい貴族のこどもはテンション低くカタブツが多い。つまりはもっと下の立場の子供たちとだ。ちなみにその間、オレを外に連れ出してくれた友人からは「このあほがぁぁぁぁ!!!!!!!!!」といつも雄叫びを頂いている。いや、すまんすまん。だって外に出たことさえなくて新鮮だったもので。遊びってなにか興味があったんだ。 そして当然イタズラなんてものも覚えた。 反応が面白すぎて、いろんな人にイタズラを仕掛けまくってみた。あんなイタズラに引っかかるなんて死神もたいしたことないなぁ。
もちろんこっそりとやった。
そしてその分、友人と花樹翠の説教が伸びた。





**********





この世界は死後の世界。
そこにいるのは、転生を待つ死者の魂たちと、魂を悪いものから守るための狩人たる死神。

死神は、ただの死者の魂ではなく、力を持っていた。
彼らは霊力と呼ばれる力を持ち、精神世界を持っていて、魂の半身たる斬魄刀をもつ。


斬魄刀とは――死神が持つ特殊な刀。
幽霊後に悪いものになってしまった霊を斬り伏せることで、悪いものになった後に霊が起こした罪を濯ぎ、 その魂を元の人間のものへと戻し死後の世界へと送ることができるしろものだ。

これは所持者自身の魂を元として形作られているため、その形状や能力はひとによって異なるが、 常時は所持者自身によりその力は封印され、日本刀の形状で扱われている。
さらに斬魄刀には本体と呼ばれる意思があり、所持者の精神世界内に何らかの形を伴った姿で存在する。


オレの斬魄刀は【花樹翠(ハナキスイ)】といい、精神世界の中では身体に花の咲いた蔦をまきつけた白い鷹の姿をしていた。
ちなみに口が悪く手が早かった。

能力は《氷》《炎》という相反するくせに一緒くたになっているというメチャクチャな属性のくせに《幻覚》を主体としている。
おかげで悪友である重國からは『お前の変人具合が斬魄刀にまででて能力まで変だ!!』と騒がれた。
二種の属性が混ざったあげくそれとは関係ない幻覚能力が主だから、変。
変だから、変態。
そういわれ続けた。
ちょっとひどい言われように、じゃぁ、普通ってなんだろうと思ったのが懐かしい。



そう。オレの精神世界は少し変わっていて、花の降り注ぐ雪原が、言葉のとおり果てしなく広がっていて、斬魄刀いわく「どこまで広がってんだよ!!」ということらしい。
たしかに、オレの精神世界は広くて、自分の世界なのに迷子になったことが何度かある。
そのせいで現実世界に戻れず、こまったことになったこともしばしば。

ちなみにこの広さの理由はオレの《力》にあるらしく、オレの場合は、果てのない世界=オレの霊力のでかさだと斬魄刀に説明されたことがある。
そんな巨大な力の持ち主たるオレだったから、生まれたときは、それはそれはすごかったらしい。
生まれたばかりなので力は垂れ流し。そのあまりの力の強さに母や産婆や屋敷の者が死にかけた。

すでに、そのときには自我に芽生えていたオレは、これはちょっとやばいな〜と思って、自分から放出されている力を内側に押さえ込んでみた。
やりかたは簡単。

「みんなに迷惑かかるんだからおさえなくちゃだめだよなぁ〜」

っと、こんな感じで、自分の力で『自分の力』を身体の内に封じる方法を自然と身につけた。
軽いって言われても、事実なのだからしょうがない。
どんな手段でもいい。とにかく霊力の放出を抑えないと、オレが歩くだけで人が死んでいたから。


死神世界でも“死”ってあるからビックりだよ。


それからはもう無意識で霊力を封じていたので、だいたい一般人と同じ力の大きさまで霊圧を絞るようになっていた。
だから周囲は、オレの力は成長するにつれてなくなっていったと思い込んでいる。
実際は成長するごとに増えている気がしたし、一度だけ「オレってどれくらいの力をもっているのかな〜」と軽い気持ちで封印を緩めたとたん、 周囲が凄まじいことになった。


自分の力がどれくらいあるのかわからないから、 はじめから適当に封印を解除したところ、オレの霊力で世界を隔てる壁が軋みをあげた。

体から力が抜けていく感覚よりもいつになったら出し切るんだろうこれ? とさえ思えるほどの霊力の量はすさまじく、オレ自ら放出を止めない限り際限を知らなそうだった。

恐ろしいことに、そのまま霊力を垂れ流していると、一気に世界を自分の領域下へ置くことができてしまった。
領域内では、どこに誰がいるのか。なにをしているのかが手に取るようにわかった。

「なるほど。オレが力を解放すると、オレの霊力が及ぶ範囲に雪の花がふるのですね。
まぁ、どうやらこれは幻覚のようですが・・・」


っというわけで、オレが一人能力の使い方にほぉ〜っと感心している間、世界は突如幻でできた雪の花に覆われ、わけのわからない状況に混乱に陥ったらしい。
しばらくどんなことができるのか能力の考察をしていたら、この現象の鍵たる斬魄刀,花樹翠にいい加減にしろと怒られた。


それからオレの斬魄刀に能力について教わり、始解で炎と氷(というか雪)の関係の技が使えて、それ以上開放すると雪の降る範囲(テリトリー)内のみだが幻覚を見せる能力があることを教えられた。
結局その日のことは、控えめの卍解して、幻術効果ですべての人に今日のことを忘れてもらった。
凄いことにこの幻覚は機械にも有効らしく、ちゃっかり今日の異常霊圧を感知した場所のデータも改ざんさせてもらった。
雪の幻はオレが霊力にまた蓋をした段階で花びらとなり、鮮やかな翠の炎に包まれて跡形もなく消えた。
これまたすべてが夢か何かだったように・・・。

だから、雪って燃えるのか?っていう疑問なんだけど。
なんで燃えるの?



な〜んてことがあってから、オレは結局死ぬまで、全力で霊力を解放したことがない。
遠慮も大切だよ。
じゃなきゃ、《成長する力》は以前よりも大きくなっているはずだから、今度こそ世界が壊れるんじゃないかな。


それからは霊力がないふりをしながら、ひょうひょうと生きていた。
年数にすればウン百年。そろそろ1000年は優に超えるんじゃないだろうか。
だけど死神だからね。
外見は変わらずピチピチな17歳ぐらいをキープ。

そんなオレだけど、牢からでてこれまた数百年のんびりと生きていたけど、自分で仕掛けた床の柄を描いたふんどしをふみ滑って死んだ。
だって床と一体化してたらきづかないだろう?いや。自分でひっかかって、あげくすべるとはおもってもいなかったけど。
イタズラをしても、カメレオンのような擬態化系は二度としないと心に決めた瞬間だったね。
おかげで最後に見たのが、悪友たる重國のほうけた顔だったのは忘れられない。

「なんでふんどしを床においておるんじゃぁ!」
「下に落とし穴を作るはずだったんだ!」
「そんなもんつくるんじゃない!!!!!」

ゴイン!!

激しい音と痛みがして視界が暗転。
それが最後のやり取りとなった。





**********





さて。魂を導く立場にあったオレが、魂だけの世界で死んだ。
こりゃぁもう魂ごと消滅したなと思っていた。
そんで目を閉じて――・・・。

でも、なぜかオレの意識は続いていた。


死んだはずなんだけど、なぜか周囲が騒がしくて、死にそこねたわけじゃないのは感覚でわかっていたので不思議に思って目を開けたら・・・。



金色と赤い人がいましたとさ。





「・・・っ!! クシナ!屍鬼封尽のせいで俺ももうヤバい・・・そろそろ八卦封印でナルトに九尾を封印するよ」

「ええ。ナルト・・・お前と沢山遊びたかったし、いろいろお話したかった。
でもお母さんはあんたをこうやって生めて幸せだわ。
ねぇナルト、お金はちゃんと使うのよ。
それから女には気をつけるのよ。女は魔性なんだからね。
あと、健康には気をつけなさい。忍は体が基本だから・・・・・それから・・・・それから・・・・・・」



赤い髪の女の人と金髪の人が、なにかに串刺しにされるようにしてオレの目の前にいて、オレのことを『ナルト』と呼んだ。

今までと違う名前と、視界の大きさ、そして何百年構えに感じた、身体の不自由さで、自分は赤ん坊なのだと気づく。
これはオレが死神,那由多ソラユキとして目覚めたときと同じ感覚だった。

あぁ、また生まれ変わったのだと、とっさに理解した。


「ごめんね。いっぱい言いたい事ある筈なのに、出てこないみたい・・・・ううぅ・・・・・」


赤い髪の女性――生まれてはじめてみる新しい母親の姿は、なんとも無残で、巨大なとげのようなもので腹をさされ血を流しながらも、涙を流しながら笑っていた。
その笑顔に、あまりないはずのオレの心が裂けそうになった。

「ぁぅっ!!(死なないで!!)」


ここがどんな世界かは分からない。
もしかすると、オレの常識をことごとく打ち破るような世界かもしれない。
むしろ死後の世界の住人だったオレに、生身の世界は異世界も同様。

だけど。

今、オレは、この二人の子供で、《ナルト》なんだということはわかった。

転生したと確信するこの感覚は、オレが死神だったからか・・・。
それともオレが死んだと自分自身で理解していたからか。
新しい肉体の感覚に、オレは生まれ変わったのだと感覚で納得していた。


前世で死神だったオレは、ひたすら当主となるべく、それだけのために育てられた。
両親は凄く地位の高い人達で、オレはいつも他人に育てられ、親の顔なんかオレに呪いをかけにくるときしかみたことがなかった。
だからか。オレに向けられた“やさしい親の顔”をした二人を助けたくて、懸命に動かない手足を動かそうとした。
“今”の親である二人をなくしたくないと思った。
だけど生まれたばかりのオレが言葉を発することも手を動かすこともできず・・・。
届かない手が悔しかった。
死の間際だというのにも関わらず、それでもオレに愛をくれた人たちに・・・・・・助けられないことに目から涙があふれ出た。

やっと両親の暖かさというものを知れると思った瞬間だった。

このひとたちは自分の親だと、この人たちともっと一緒にいたいと思ったとたんの出来事。
すでに新しい両親との別れは決まっていた。


生まれたばかりなのに目が見える。
音も声も聞こえる。
優しい言葉と愛されていることを知れた。
それは普通の赤ん坊ではありえないこと。
だけどそれに感謝した。

だからその幸運を降る活用して、二人のことを記憶にとどめようと必死になった。
オレは、二人の言葉を一言一句聞き逃すまいと瞬きもせずに、血まみれになりながらも優しく笑う二人を見つめた。
彼らはきっと気がついている。オレが普通の赤ん坊と違うことに。
だって赤ん坊は声を上げて泣くものだ。
声を聞きとろうと口を閉ざして静かに涙を流すのは、赤ん坊でも子供でもない。
ボロがでようとかまわなかった。
それでも聞いていたかった。

最後になるだろう――オレを愛してくれている両親の生身の声を・・・。


「ふふ。クシナ。俺たちのナルトはずいぶん賢いようだね」
「ええ。だって私たちの子だもの!」


オレは生まれ変わったが、ここがどんな場所かも、いまがどういった状況なのかもわからない。
この赤ん坊の身体が、オレの異端な魂に耐えられるかさえも分からない。
もしかすると両親を看取ったすぐ後に死んでしまうかもしれない。

でも、あなたたちの子供として生まれたことに感謝こそすれ、後悔はない。


オレの想いを感じ取ったのか、父らしき金髪の男のひとがふわりと笑った。
彼もまた、紅い髪の綺麗な母のように、オレに何か言葉を残そうとして、少し考えるようにしてから、言葉をくれた。

「ナルト・・・俺からは母さんと同じだ。
生まれてきてくれてありがとな。そして、こんな選択しかできない父親を許してくれ・・・・・・」


それが最後だった。

いかないでという言葉は届かないのがわかっていたから、無理やりだけど、赤ん坊の顔の筋肉を動かして笑った。
みんなの目から涙がこぼれた。






そしてオレの中に『なにか』巨大なものが入ってくる気配を感じて―――


うずまきナルトの中に九尾は封じられた。








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オレはここに誓おう。


新しく生まれ変わったのだからその人生を謳歌するためにも。
新しい両親が命を懸けて守ってくれたこの命を守るため。
だからオレは――


オレは――


ふんどしだけは絶対に道端に捨てないと決めたんだ!!







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