- 「夢主3」の異世界旅行記 -
05. 木と死神はどちらが長生きか
最初そのひとをみたとき、びっくりした。こんなきれいな生き物がいるのかと。
あまりにきれいすぎて。
きれいだから捕まっちゃったんだと思った。
きれいなその生き物を逃がしたくなくて、ここの家の人はそのひとを閉じ込めているんだと思った。
長く付き合って知った。
ちがった。
あいつの頭が変だからだった。
おまえの脳みそのネジは何百個抜けてるんだぁぁぁ!!!!
-- side しげくに --
あのおかしな友人との出会いは、まんじゅうから始まった。
空腹がひどすぎて、忍び込んだ大きな屋敷。
その一角でであったのは、とんでもないきれいな生き物だった。
長くのばされた癖一つないまっ黒な綺麗な髪は床までのびていた。
髪は黒だと思っていたが、光の加減によって鮮やかな青へいろをかえた。きれいな水のようだと思った。
目はキラキラと明るく輝き、黄緑の色はときに金色と勘違いしてしまいそうになる。まるでそれは精練される前の原石。深い森をほうふつとさせる静けさと包み込むような温かさがあった。
日を浴びていないため白くシミ一つない肌、細い身体。
汚れ一つない白い着物がその白さを引き立たせ、まるで世界の汚いものを何一つしらないかのよう。
うっかりするとあまりに美しすぎるその人は、誰かの吐く息一つで溶けて消えてしまうのではないかとおもわせるはかなさがあった。
雪の化身か、なにか人外の生き物のようにおもわせた。
あまりにきれいで、思わずそのひとにみいってしまっていた。
だけどふと我に返る。自分がここにいることを誰かに告げ口されるのではないかと。
貴族の家に侵入なんてばれたら先がない。
慌ててその場から離れようとしたら、自分を模倣するようにその人が動いた。
不思議に思って、逃げるのをやめ、その人の前で手を挙げてみる。
柵の向こう側でこちらをまっすぐ見つめてくる雪のようなひとも同じようにてをあげた。
何をしているんだろうと思って首をかしげると相手もかしげる。
首をかしげるとあの長い髪がサラサラと流水のようなおとをたてて、光を反射させながらこぼれおちる。その様にドキっとする。
そして、めっちゃくちゃ目が合う。
俺の動きを逐一凝視しているときづき、なんとはなしに恥ずかしくなる。
でも一瞬視線をそらしても戻した時にはまだ見てくる。
あまりにみつめてくるので、こえをかけたら、「動いていたから見ていた」といわれた。
いろいろ突っ込みたい気がしたが、その前に俺の腹が限界を訴えぐぅぅぅ〜と大きな音でうったえてきた。
「おなか、すいてるのか?」
聞こえた声は想像通り鈴を転がしたかのようだった。
なんか口調が想像していたのとは違うが。
じゃらりという音を立てて長い鎖が揺れる。
そしてその細い腕には痛々しくさえ見せる手かせについた鎖を鳴らして、まんじゅうを差し出してきた。
あいつは小鳥に餌でもやるように、笑顔でなんでもないとばかりにそれを俺に渡してきた。
「食べていいよ。どうせオレには、味もわからないし食事は必要ないから」
霊力がないと、そういう現象になるのだとはきいていた。
つまりこのひとは、霊力がないのだろう。
卑しい身分だと、薄汚いと、そういうことできれいなかっこうした奴らはいつも俺たちを見捨てるのに。
なのにあの人もこんな牢屋のような場所に閉じ込められつらいはずなのに、笑顔で俺に手を差し伸べてくれた。
あまりにそのお饅頭がおいしそうで。
それを分け与えてくれたこのひとに感謝したかわからない。
たったひとつのまんじゅう。でもそれがその時の自分にはとても暖かくて、今まで食べたどんなものより美味くかんじられた。
それから、何度もすきをみては、その人に会いに行った。
このきれいなひとを守らなくちゃ。そうおもったんだ。
まさかその守りたい相手が、かの五大貴族の長たる那由多家の次期後継者で、守られる立場ではなくこちらを守る立場のものだとは思いもよらず。
しかも外見を裏切るあんな性格だとは思いもよらなかった。
あいつはみためと中身が一致しないと気づいたのはすぐのことだった。
外見詐欺だった。
詐欺すぎる。
雪の化身かくやという「はかなさと美人」な具合は、だれかをひっかけるための詐欺要素でしかなかった。
こいつの中身がやばすぎる。
一般常識どこいった!?
どうやったらこんな性格になるのか、思わず現当主にききにいきたいほど・・・・・・こいつボケていた。
あとこの頃には、こいつの祖父である当主は死んでいて、事情をきくにもきけなかった。
なんでお前さ、そこまで常識ないの?ネジ吹っ飛んでるんだ?
え。小さいとき学校で学んだのは霊力についてだけ?
え?常識は?
だれもその人に常識を教えていなかったとか。
だれかこいつに常識を教えてやれよ!
え、教えるの?
俺が!?なんで俺なんだよぉ!!!!
貴族でもなんでもない俺が?何を教えられると?
あ、貴族としてのふるまいっは学んだ?あ、そうですか。・・・じゃない!!!
「でもそういうの教えてくれる人、ここには誰も来ないし。君だけしか教えてくれないんだもん」
まってくれ。それこそ何かおかしくないか?
「だもんじゃない。だもんじゃ・・・えー貴族の次期当主なんだろう?それがこんな常識皆無のやつでいいのか?」
「ダメかも?」
「・・・・・」
「でもそのうち兄弟でもできて引き継ぐんじゃないかな?オレをここに押し込めてるぐらいだし。あるいはそのうち勝手にこの家壊れちゃうんじゃないかなぁ。おうちが壊れたらオレも外に出れるね!
あ、そうだ!その"オレにたらないもの"っていうのを教えてくれたら、君に霊力の使い方を教えてあげるよ」
「それは!助かる・・・・って、ちょっとまて!まてまて!まて!」
「うん?」
「最初のなんだ!?家が壊れるって!?」
平民である俺でさえ知っているこの大貴族が崩壊!?どういうことだ。目の前の相手には未来予知の能力でもあったのか!?そう焦っていた俺に、あの人は言った。笑顔で。
「ん?だってほら、この世界の人間は霊力があると数千年ぐらいさらっと生きるでしょう?それに対し、木製住宅ってそんな年月もたないと思うんだよね。とくにここの離れは手入れをする人もいないから!あと数百年ぐらいで劣化して崩れると思うんだよ。そうしたらオレもここからでれるでしょ?」
や〜め〜ろ〜〜〜〜。
やめてくれえぇぇ!!!
なにか、常識とか。価値観とか、着目点がおかしい。
ふつうはここで、こつの未来予知という能力に恐怖してとじこめたという方向を考える。あるいは大貴族を没落させようと何かを企んでいるのかを疑う。またはそれに準ずる行為になる反逆組織があるのではないかと考えるところである。
それが!
それがどうしたら、木材の寿命の話になった!?
死神と木の寿命はどちらの方が長いかなんか、しるかぁっ!!!
「そっかぁ。そういえば現世では樹齢1000年越えの木もあるんだっけ。じゃぁ、オレはあとどれくらいこの離れから出れないのかなぁ?本も読み飽きちゃったねぇ」
「建物の寿命を待つな!自分で逃げる努力をしろよぉぉぉぉ!!!!」
「あ、そっか。じゃぁ、こんど花樹翠でばっさりやってみるね」
「はなきすい?ばっさり?え?」
「あ、花樹翠はオレの斬魄刀で凶暴な説教の長いやつでね。ほらぁ〜この封印の鎖もあっさり」
ーーーパキン。
「・・・・・」
いま、一瞬視界に白いなにかが舞ったきがした。
その瞬間、そのひとの周囲を取り囲んでいたすべての術式が鎖ごと砕かれていた。
まて。その手足の枷や部屋に張り巡らされた札はすべて封印術だったよな?
「あ、できちゃった!さすが俺の斬魄刀!説教が長いだけが能力じゃなかったんだね!」
「でき・・・できちゃった?え?」
封印されてるのに、なのになんで斬魄刀が出るんだ?
だから常識がないというんだ!!!!!
「この非常識め!」
思わず頭を抱えた俺はわるくないんだ。
「・・・・・なんだこいつ」
「わー!どうしたの?どうしたの?床がきれいすぎて滑って頭うっちゃった?あたまいたいの?」
「いつ、俺があなたの目の前でこけた?」
「あれれ?じゃぁ頭抱えてるけどどうしたの?」
頭がより痛くなってうめいていたら、ポンと肩を何かにたたかれた。
ここにひとが!?とおもうより、疲れた気力で思考働かずそのまま背後を振り返った。
そこには大きな白い鳥が、それはもう哀愁を浮かべた表情で首を横にふっている姿が目に留まった。
どうやら俺は鳥になぐさめられているらしい。
「・・・・おまえ、もしかしてハナキスイ?」
うなづいた白い鳥に自分も同じ道をたどっていたのだと、なんだか一瞬で苦労が伝わってきた。
あ、こいつ・・・そうか、このくたびれた姿は未来の自分か。
すべてを悟った瞬間だった。
逃げても花樹翠が追いかけてくるし、ではしょうがないからそいつを外に連れ出してしまおうかと思ったが、まず常識がない。
常識を叩き込むにしても、その常識がないままこの場所から外の世界なんかに連れ出すわけにもいかない。
しかも常識ないのに、化け物級の力を持っている。
証拠が花樹翠なんて規格外すぎる斬魄刀だ。
花樹翠のすべての能力を見せてもらったが、そりゃぁもう幻想的でとてもきれいだった・・・・・その分非常識の塊ってぐらいやばかったが。
それから常識を叩き込むべく、何度も俺はこいつに会いにこの場所を訪れることとなる。
こいつを外に連れ出すためには、常識を仕込まねばならない。
そしてこいつが外で暮らすためには家がいる。
そのためには俺が強くなって、稼げるようにならないといけない。
なにせこいつは囚われの身であり、金目のものなど持ち合わせていないのだから。
あるのは謎の知識と、謎の莫大な霊力のみ。
早くここからこいつを連れ出すんだ。常識を仕込んで!
っと、思っていたので、とにかく俺は花樹翠とあいつに霊力操作を教わり、訓練を積んで斬魄刀の会話をこころみた。
そうして気づけば俺は死神となっていた。
オレがなんとか稼げるようになりようやくあいつをあの場所から外へこっそり連れ出すことができた。
よくぞあいつが襲われず守り抜いた。俺、頑張った。
あいつを外に連れ出して数年後、きづけば五大貴族が四大貴族になっていたが、理由はわからず、「那由多一族」の名前は歴史書からも消されていた。
どうもあの一族はここ数百年、霊力の生まれる子供が減っていて、一族の能力も衰えてきていたらしい。
そんなときに、ある日あの屋敷があった一体を龍脈が突如暴走しすべてを飲み込んだという。
一族は龍脈の守り手だったのだという。それゆえに五代貴族と名をはせていた。
それがなにかの禁をおかし龍脈は暴走し、すべてはのみこまれた。それゆえに歴史からも抹消されたということだ。
禁忌?
あいつはそれを知っているのだろか?
「うん?オレが知っている家のこと?あんまりないよ。基本はおじいさんとそのお仲間が育ててくれて、あれ、今頃おじいさんたちどうなったんだろうね。最近会ってないや。
父親は、たぶんそれに該当する人はいたんだけどいつも同じ言葉を繰り返していたので、途中で聞き飽きて存在まるっとスルーしてた。
オレは生まれたときから成長し続ける力をもっていてね。本当にこれが面倒なことに成長するからどんどん大きくなってきちゃって、だからおじいさんがそだててくれて、力を抑えてほしいといわれたからえいや!ってやったら、力を抑えられたんだ。それで今度は抑えすぎちゃって、家の人からは霊力のない役立たず認識されて牢屋に引っ越しを命じられたんだ。当主になるには大きな霊力が必要だったから生かしていたのに・・・とは、言われたことあるね。なにかをするのにひつようなんだって。
何かってなんだったかな?聞いたようなきいてないような?
あ、好きなことして寝てるだけの生活はとても楽だったよ。いや、今の生活が悪いって言ってるわけじゃないけどね。
っで、たぶんあの家の下にその“なにか”はあった。と思う。
あの家にいるときは常に自分の力を抑え込んでいたけど、別の何かも抑えちゃってた感じがしたから。
なにかすごく下のほうに・・・うん。わからないけど、何かがあって。その何かをたぶんオレの封印の余波で押しとどめちゃっていたとは思う。
え、それがなにかだって?だからしらないよ。“なにか”だって。なにかが下のほうにあってさ!
なんかウゴウゴしてたんだよね。オレは自分の成長する力を抑えるので必死で。そもそもあれがあるとオレの力が跳ね上がるから邪魔だったんだよね!だからオレの力ごと封印しちゃった。っていうか、封印の塊的な存在であるオレが重しの役割になちゃってたかも。今はオレがいないから重しなくなってあれも昔どおりにもとにもどったかもね。あ、むかしってオレが生まれる前の状態ってことね。ウゴウゴしてたんだよ地面の下を」
まて。それはお前自身が龍脈を封印していたか、お前を封印するための部屋が重しになっていたかしてないか?
つまり押さえつけられてたまりにたまったものが大爆発をおこしたと?
だから!もう非常識はおなかはいっぱいです!!いろんな意味で規格だこのぼけはぁ!!!!
俺はなにもしらない。
俺はただのいっかいの死神です!!!!!!
それからさらに時はたった。
1000歳ぐらいのとき、俺は名を改め「山本元柳斎重國」と名乗るようになった。
そして学園をひらいた。
「真央霊術院」――死神としての知識をすべてを教える場所だ。
これは花樹翠との特訓が日課になっていたこともありそのころには実力も付いたし、なにより頭のネジがふっとんだバカのおかげで、人に物を教えるのは転職のような気がしたので。
いや、むしろ常識を知らないまま死神になるのがいかにやばいかをみんなに知ってもらうため建てたといってもおかしくない。
子らよ。
常識を持って強く生きろ。
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