04.オレと主人公な彼ら |
この世界はかの有名なポケモンの世界である。 とはいえ、ポケモンという作品についてオレが覚えているのは、おおまかな内容であるため、本当に有名かどうか聞かれると即答はできない。 この世界でわかっていることは、ポケモン世界とはいえ少しばかり複雑ということ。 なにがどう複雑かというと、歴史の流れがだ。原作があるのなら、それにそって流れというものが存在し、もし原作の記憶があるのならば、それに介入するかしないかとか判断することもできるだろう。 しかしながらこの世界は、複数の原作が混ざりあって一つの歴史となって紡がれた世界。 ゲーム軸とアニメ軸が過去と未来という形で存在しているのだ。 頂点にして原点と名高いゲーム主人公もいれば、やつといれば伝説ポケモンに必ず会えるとさえいわれるアニポケ主人公もいる。 たとえ原作知識があったとしてもその記憶通りに物事が進むかは怪しい。 ましてや、この世界には異端なオレもいる。 さぁ、物語はどう転がりだしているのだろうか。みせてもらおうか。 :: side 夢主1 :: この世界は、ポケモンと呼ばれる生き物はしっかりいるのだが、原作とは異なる世界である。 しょせん平行世界と呼ばれるものだろう。 うん。似て非なるという平行世界はどこにでもあるからなぁ。 そういえばオレが"原作”という表現で、この世界と似た話が存在していたとまとめているが、だからといってオレがこの世界でこれから起こることを知っているわけではない。なぜならば原作知識とやらを俺が持ち合わせているかというとNOだからだ。生まれる前のどこかで、たしかにポケモソという物語は聞いている。しかしオレの記憶はとても壊滅的である。つまりオレに原作知識はない。地名とこういうことがあったような?というとても曖昧なものなのだ。 たしか一つ前の世界でもあったような・・・息子かだれかがやっていたような?いや、もっと前のことだったか? 考えてもわからないので、「いつ・どこ・みた」というのは置いておこう。 オレはゲームやアニメと同じ名前の人物が出てきても、それがアニメキャラなのかゲームキャラ名なのかも区別がつかない。 ゲーム、漫画、アニメ軸の全てが混ざりあっている混沌世界。そのため、オレがもし原作知識がもしあったとしてもそのとおり進行するとは限らない。 たとえていうなら、レッドがアニメ主人公サトシのルートをたどって、カスミとタケシと仲間になっているとか。タケシは料理のできる男ではなく女かもしれない。ピカチュウやサトシはいない。そういう状況だってありえたのだ。 もちろんこの世界のレッドは、レッドとしてちゃんとゲーム軸の流れをたどった旅をしているので、いまのはあくまで《例》だ。 ただし“ありえたかもしれない”ことが“おこりえる”ことは、間違いない。 アニメやゲームでみたことのある名前であろうと、その彼らが原作通りの道をたどっているとは限らないのである。 この世界は、そういう世界だ。 おおむかし、よく二次小説を読んでいたが、そこにでてくるトリッパーというやつらは基本的に原作を捻じ曲げたい瞬間があって、そのためにとぶのだという。 え、なにそれ。面倒なストーカーにちかくねぇか?原作知識があると大変なんだなぁと思ったもんだ。 その原作知識がこの世界で役立つのかもトリッパーがいるかもわからないが、たぶんこの世界に“彼らの知る原作”は適応しないのではないだろうか。 そもそもそういうのにオレは興味がないら、物語に入り込もうとするやつらがどうして主人公たちのそばにいたがるのか理解できかねる。 巻き込まれなければいいなとオレは思って、日々を生きているほどだ。 この世界におけるオレという存在は、あんまり運がない。 よく事件に巻き込まれるし、よくポケモンにふっとばされるし。 いや、これはポケモン世界に生まれたものの宿命か。 まぁ、運がないっていうのは、これは前世からもそうなので、あきらめもついている。 ちょっとした不運体質なんだ。 しかたない。 ただ面倒事はかんべんだよ。 だけどなにがあるかわからないのが生きるということ。 そもそもこの世界で長く生きているので、すでに《事件》とよべそうなものには当たりまくってるし。 この世界は基本が穏やかな世界なので、アニメやゲームのような《原作》どおりの事件が一つでも起きると、大騒動に発展する。 そういったイベントはすでに何度も目の当たりにしてきたから、事件に遭遇する心構えはできている。 だからといって、オレは変人ではない。“あいつら”より、オレは変人じゃないと叫びたい。 だってマサラタウン出身のトレーナーには、非常識極まりない奴らばかりなのだ。 とくに【サトシ】とかサトシとかサトとか【ユキナリ】とか、サトシとか【レッド】とか。 いま、名前を上げたあいつらの方が、非常識極まりない事件に首を突っ込みまくったり巻き込まれまくったりしているし、伝説ポケモンとの遭遇率が半端なく高いし!!え、何度か繰り返し同じ名前が出たって?いやだって、それだけやつらはやばいんだ。 オレはあんな《主人公》ほど、非常識なトラブルメーカーではない!! ・・・まぁ。なんだ。 オレは不運ではあるけれどな。 そのせいで色んな事件に遭遇したが。 少ないようで数多く存在する伝説ポケモンたちのうち、白くて桃色っぽいのにストーカーされていたり、虹色な鳥さんを自分の相棒にしちゃってるオレが言えた義理じゃないけどね。 だけど。これだけは断言したい。 絶対にオレは《主人公》たちと、オレは違う! ――と思いたい。 * * * * * ポケットモンスター。 縮めてポケモン そこでは日常に死の危険がない世界。 友情、バトル、冒険、リーグ。そんな心躍る日々が待ち受けるであろう世界。 っが、しかし。 そんなこどもが憧れるような世界に転生しつつも、今のオレはトレーナーではないし、旅もしていない。 枯れているというなかれ。精神年齢はもう3桁超えた時点でもう数えるのを一度放棄しているし、肉体的にももう十代はとっくに過ぎたからね。さすがに冒険はやめたんだよ。 それにオレは十分自由に、そんでもって気楽に生きている。 オレはトレーナー修行とかポケモンドクターとかコンテストとか、ポケモンにかかわる夢を一切持たず、なぜかレストランでバイトなウェイターなんかをしている。 ずばりバイト先がほぼ飲食関係であるのは、オレの趣味だ。 なのでバーテンだろうがウェイターだろうが問題ない。 むしろ生前の影響ですっかり料理にはまっている。 そうしてオレは現在、自分の店を持つ夢に向け、料理の新レシピを開発すべく各国を渡り歩いているのだ・・・・・・っと、いうことにしておいてくれ。 実はもう店を一つ任されてたりする。 とある大手会社のオーナーである知り合いが、社内食堂を任せてくれたのだ。 まぁ、その会社は出向向けの派遣会社であるため、社員のみなさんはあちこちを飛び回っている。残念ながらオレの店としてひらいたはいいものの、社員食堂はいつも閑古鳥が鳴いている始末。 オーナーが爆笑してたけどな。 激しく腹を抱えて笑いころげるオーナーの頭にチョップをくらわして、『そうさせたのおまえだろ!』と、派遣する社員が9割で残り一割はここではない研究所勤めでいないとか。最初から人がいないじゃないか。 わかっていてオレに社食をまかせたとしか思えない所業に泣いた。 思わず飛び出てきたのは――ちょうどサトシがマサラタウンを旅立った日のこと。 あの日はたまたま幼馴染みと連絡が取れて、もとからカントーに帰る予定だった。 なので家出のように食堂をしめてカントーに戻ってきたものの、もとから休暇届を出しているので問題はない。 オーナーなんかオレに殴られたくせに、生暖かい目で「きをつけてな〜」と見送ってくれるほど。 いいのかそれで?と思っても。あの社員食堂に人が来ないんだから問題ないだろう。 そんなわけで、うまいコーヒーや紅茶を入れる店があれば、そのときのオレは喫茶店の素敵なお兄さん。 どこぞやに珍しい料理があると聞けば、そこで働くオレは、笑顔の張り付いたウェイターだ。 今日も今日とて、バイトをして金を稼ぎながら、オレはどこぞやで料理の技術を盗んでいることだろう。 盗むといっても、ちゃんと『教えてください!』って頼んでからその店のレシピを教わったり、働きなあら技術を学んでるのであって。そこは勘違いすんなよ。 今回のオレは、サトシの旅立ちの日にようやく実家のあるカントーに戻ってきた。 理由は簡単。 久しぶりに、幼馴染みに近況報告とばかりに連絡をすれば・・・怒られた。 「さっさと戻ってこい!どんだけ留守にする気だ! そういえばお前の家、どこもかしこも埃だらけでさぁ。本当によく燃えそうだよなぁ。そうそう、最近だれかさんのリザードンがストレスたまっていてなぁ。あとピカチュウが増殖してるんだけど。ねぇ、あれを僕にどうしろと?」 ――と、電話越しに低く野太く、威圧感まるだしの殺気まじった声を出されてしまえば、さすがに帰らざるをえず。 はっきりいって、あの迫力に負けた。 家やポケモンを任せっきりにしていたから、これはきれられてもしかたないと思っていたし、やつなら本気で家を燃やしかねないこともあり、急遽カントーに舞い戻った次第だ。 なお、長期にわたり家を空けていた時、本当に前回は家を燃やされている。 妹にはちょうどおうちを建て替えたかったのーと喜ばれ、オレの居場所はなくなった。その際法的手続きの結果、両親から引き継いだ土地は妹にひきつがれ、そこの膨大な土地のたたみ15畳分だけわけてもらえることとなった。 その小さなと土地で再建されたオレの小さなマイハウスを死守すべく、オレはカントーを目指した。 マサラタウンについて早々、サトシを空から見送り、すぐに幼馴染みに会いに行ったのだが、あいつはオレの家の前で仁王立ちをして、形容しがたいほど黒い笑顔を浮かべて待ち構えていた。 それからは長い説教が続き、たまには連絡入れろだの、家の掃除ぐらい自分でやれよとか。ポケモンの面倒を押し付けるなだとか永遠と説教が続き、終わった時にはすっかり赤い夕日がみえていた。 ようやく解放された後は、疲労困憊。 ポケモンに会いに行くことも研究所に行く気力も起きず、そのまま寝た。 翌日は、久しぶりに感じたカントーの空気に、ほっとした。 やはり故郷の空気が一番落ち着くというもの。 たまにはのんびりするのも悪くないかもしれない。 カントーは緑が多く、空気が澄んでるから、嫌いじゃないんだ。むしろ好きだ。 家的にはご近所さんであるサトシの家のハナコ(ハナちゃん)に挨拶をして、予定通りオーキド研究所に向かった。 やっぱりマサラだけあって、預けていたポケモンたちには都会の施設に預けるより元気で生き生きしていた。 そんでもって実家の家族に怒られた。 オーキド博士(ユッキー)の家では、困った顔と疲労のあふれる顔で、お前は少し自分のポケモンをかまってやれと、二匹のピカチュウを押し付けられた。 ユキナリがちょっとやつれ気味に目の下に隈を作ってぐったりしていたのは、預けていたポケモンのうちとある電気鼠が、名前のごとくネズミ算式に増殖していたらしく、増えて群れをなしていた一部が野生にかえされ、また数匹が各地方の研究施設などに派遣されたらしいがまだ残っているらしく、その世話で疲れ切っていたようだ。 むろんそれはかの《レッド》からオレが借り受けるという形になって手元にいたピカチュウの“ピカ”と、その一族御一行様のことである。 “ピカ”のたまごを発見しあの子が孵るまでずっとそばにいたのは、グリーンだ。 そしてピカを相棒として連れ旅にでたのは、レッドだ。 両方とも恐ろしいぐらい聞き覚えのある名前だろう? まぁ、それはさておき、レッドがポケモンマスターになったあと、ピカはオレと共にいたのだが、オレも訳ありで人を探すために旅をする事となりピカをユキナリにあずけた。 里帰り後、オレはユキナリがおしつけてきた二匹のピカチュウを新たに仲間に加えることとなった。 ピカとそのお嫁さんであるランポポさんである。 なお二匹の息子は、オレがライチュウをみたかった願いを叶えてくれ、いまでは立派なライチュウに進化済みのイケメンピカチュウである。名は、ピカジ。 ネーミングセスはあまりオレにもとめないでくれ。 あと、ピカって名前はグリーンがつけた。 そんなこんなで、たまの里帰りを終えたあと。せっかくカントーにきたのこともあり再び別地方にまでもどるのは気が乗らなかった。 また旅という名のバイトざんまいの日々を送りながら、再びカントーを転々とすることにした。 本当は店のオーナーのところに帰る予定だったんだけどな。 あそこまじで閑古鳥が鳴いてやがる。 それにオレにも目的があったから、戻るわけにはいかなかった。 目的はあるが、それほど急いでいる旅ではない。急いでもしょうがない旅ともいえる。 でも今年は大きなイベントがカントーで待ち受けているから、各国からカントー地方にひとがたくさんくるんだ。オレはあまり人混みが好きじゃないから、本当はできるだけ早くカントーを出たい。 しかし金がない。 トレーナーじゃないオレは、政府に優遇されない立場であるため、稼ぐにはバイトしかない。 さすがにトレーナーじゃないとはいえ、手持ちのポケモンだっている。 現に他地方から空を飛んで運んでくれたのは、我が相棒のホウオウだ。 それに里帰りでユキナリからピカチュウ夫妻を二匹も手持ちに加えられてしまったし。 マサラタウンにいるやつらの食事代も稼がないといけない。 夢である料理店を建てるにしても金は必要だ。(知人のあの社食はダメだ) お金というものは、どこの世であっても“あって損はない”わけで―――現在せかせかとタマムシシシティで働いている。 夢と冒険のお子様の世界ポケモンワールド!・・・にきたのに、せちがらい大人の闇を見せるなと言われそうだが、オレもそう思う。 はぁ〜。なんでこうなったんだ。 * * * * * 飲食店で働いていると、よく十代の少年たちが足を運んでくる。 旅先で立ち寄った者、あるいはこの街の住人など来客である少年少女たちのいでたちは様々だが、彼らはみな、ポケモンとの共存に心躍らせる初々しいトレーナーたちである。 オレにも少し前はそんな時代もあったと思い、微笑ましくなる。 そのときの相棒は、ヤドキングだったっけな。懐かしい。 え、ミュウ?あれは手持ちじゃありません。ただの野生のストーカーです。 仕事をしながら、なにげなく若いトレーナーたちの話に耳をかたむけていれば、とある名前を耳にして、ちょっとげんなりする。 その名を聞けば、誰でもこの世界がどんなポケモン世界か、すぐに理解するだろう。 話題の少年の名を――サトシ。 事件にやたらと首を突っ込みたがる少年である。 どうやら彼もまたこの町にいるらしく、なんとこの町のジムリーダー本人にいちゃもんをふっかけたのだとか。 そのせいでジムの出入りを禁止されたらしい。 それを目撃した人々により、噂がここまで届くとか。いやはいや。見ていないようで、人は見てるもんだからねぇ。 そう。この世界には《サトシ》がいる。 あの某ネットサイトナントカチャンネルにおいて、リセットマンと呼ばれていた少年だ。いや、そんな話題はなかった?うん?まぁ、遠いきおくのたわごとととってくれ。 本当に今までの旅の経験を忘れることがなければ、きっとチャンピョンなど彼は軽くなれただろう。と数多の観衆が残念がった。その彼だ。 なにせお子様向けアニメ。 次の週には、今回覚えた体術とか必要でなはないため使われることがほぼない。応用があんまりないと感じてしまうのもざらだった。 オレ的には元となったゲームで技は4〜6つぐらいまでしか覚えられなかったと記憶しているので、アニメでもわざをおぼえれる数に制限があったのかもしれないと思ったこともある。 アニメですべての技を見せるためには、覚えられる一個体の使える技数が多すぎた。しかしアニメでの戦闘シーンは少なく、全ての技を見せれるほど出番は回数はない。 それで同じ技を使ってしまうと他の技を見せることができない。しかも初期の当時だけでもポケモンは151匹もいたのだ。どう考えても数が多すぎた。 アニメの放映回数と登場ポケモンの数、全ポケモンの個体数とポケモンたちの固有技・・・これですでに何百通り技があることになるのやら。 それらをふまえるとアニメで全てを出すことなど不可能だった。 毎回違う技を出さざるをえなかったと、大人になった今ならわかる。 全ての技を放送内にみせることこそ至難の業であったであろうに、アニメ製作者たちはとても頑張ったと思う。 ただし、これらを“現実空間”の人間がリアルで行うと、技を「すぐに忘れてしまう」と、そういうことになるわけだ。 この世界はアニメではなく現実なので、そこまで設定は甘くはない。技が四つしか出せない。とかは、ないはずだ。 さすがにそれは困る。覚えさせた技が翌週には使えなくなるとか。 なんにせよ、大人になると見えちゃいけない業界の裏側とか理解しちゃえるのがまずい。 こどもたちに夢を届ける裏側では、とても作成者スタッフ一同の苦労があるのです。 そう思うと、この世界にそっくりなアニメとゲームを作成したどこかの世界の皆様に心より感謝を。あと、お疲れさまです。と言っておきたい。 まぁ、現実のポケモン世界も大変ではあるんですが。 こどもにやさしいけど大人に厳しい世間の裏側とかね! そんなこんなで。嫌われてはいないが、若いトレーナーの皆さんに憐れまれてはいる主人公マサラタウンのサトシ――オレの故郷のご近所さんである――が、なにをしたかというと、この町のジムリーダが経営する店で、本人に喧嘩を売ったらしい。 有り得ない。 身内として恥ずかしいぞサトシ。 なぜジム戦に挑みに来て、ジムリーダーを敵に回した。 話をきくに、香水が原因のようだ。 このタマムシジムは、草タイプのポケモンの研究も兼ねて発展した町であるため、その研究の末作られた化粧品や香水の生産が街の観光資源となっている。 いやぁ、たしかにオレも香水って苦手だが。 匂いには敏感なんだ。前世が獣だったからだと思う。 香水はくさい。オレだってそう思うが、口には絶対出さない。だが、サトシはうかつにもその心の声を漏らしてしまったようなのだ。 女性は怖いからあれほど敵に回すなと教えたのに。 あの子には少し我慢という言葉を教えなければいけない気がする。 これだけきくとこの世界はアニポケのようだが、実はそれは大きな間違いだ。 以前にも言ったが、ここはいくつもの原作が混ざった世界。 この世界には、アニメの主人公サトシだけではなく、かの「原点にして頂点」といわれた“レッド”がいるのだ。正確には“いま”ではなく“過去”だが。 彼、レッドがいた――活躍していたのは、今から何十年も前の話になる。 当時十歳だったレッドは、突然現れ、たちまちのうちに、その名を世界にとどろかせた。 それもそのはず。とんでもない強さでジムを勝ち進んだのだ。 そのままリーグで優勝してしまい、あげく四天王もあっさりと倒してポケモンチャンピョンに怒涛の勢いであっというまにのぼりつめた。当時の彼はまだ十歳という年齢だったから、よけい世界は彼に注目した。しかしその後、彼は行方をくらました。 それでもレッドの名で、伝説や噂、逸話はとどまることをしらず流れ、その名前だけが広がっていった。 今でさえその尊敬や憧れを抱く子供たちは絶えず、最年少の伝説のチャンピョンとしていまだ世に語り継がれている。 ここはそんなレッドが「歴史」として存在している――異なるアニポケ世界。 ゆえに子供たちの語る夢は「ポケモンマスターになりたい」という言葉ではなく、「レッドさんのようになりたい」というものに変わっている。 レッドがチャンピョンになった頃、まだ十歳でジムに挑む者はなく、十歳になった子供が旅立つルールはなかった。 それが法で認められるなり、こどもたちは十歳になるとだれもが旅立つようになった。 彼(レッド)の後を追いかけるように一匹目のポケモン(相棒)を手に。 そして今日もまた、この店に「レッドさんのようになるんだ!」と意気込んで家を飛び出た少年が―――― カランカラン。 『いらっしゃ・・』 「あ」 『・・・いませー』 店のベルが鳴り、ニッコリ営業スマイルでオレが迎え入れた客は、オレをみるなり動きを止めた。 前回の町でもその前のそのまた前の町の店でも遭遇した彼は、こちらをみて驚きに変な顔をしている。 こないだまでいたバイト先をやめ、相方のポケモンの背にのって適当な町へひっととび。 相棒に町の近くで降ろしてもらうと、オレはおいしそうなにおいのする店に入るやいなや、そこでバイトを始めたというわけだ。 探したいものがあって旅を続ける身では、長く続けることが出来ないのでバイトなのだ。そういう理由で基本日雇いのものを厳選しているので、下手をするとサトシより後に街を出たのに先についていることはままある。 目の前には、先程子供たちの話題に上がっていた少年がひとりで固まったまま。 グルメなオレが選んだ店であるからには、ここの店も捨てたもんじゃない。とても味にはこだわりがある良い店だ。 オレが数日とはいえ味を学びたいと思い雇って貰ったほどの店だ。飲み物にしろ食事にしろ、味はいいに決まっている。 そこへ必ずサトシ一行がくることから、彼の嗅覚と味覚はグルメリストといっても問題ないんじゃないかとか、ひそかに思っている。 思っているだけで口には出さないが。 そんな味の保証のされた店ばかりに訪れる目の前の少年の舌は、間違えなくこえている。 マサラで小さな食堂をひらいているだけありハナコは、とても料理上手だ。 旅の道中は美味すぎる飯を作るタケシがいるからよけいにサトシの舌は敏感だろう。 そういえばカスミはジムリーダーの娘、ある意味お嬢様だし…カントーメンツ、サトシを筆頭に全員の舌が肥えている。絶対。 うん。やっぱりグルメリスト集団と呼んでやろう。 近所という付き合い上、オレだって故郷でサトシと交流はあるのだ。たとえば旅には必要だからと、包丁とフライパンを持たせたり。最初は嫌がったが、これも旅に出るためと説き伏せれば、あっさりサトシは料理にはまった。チョロすぎじゃないかサトシよ。 ただあの美人で料理がうまいと評判のハナちゃんをママに持つだけあり、こいつの舌は本物だった。自分でアレンジ始めるようになると料理が物凄い上達を見せた。作る料理もうまい。 そしてそこだけアニメ仕様なのか、サトシはやらないと一瞬で忘れる。 すなわち、今旅の仲間に「タケシ」がいる現状、こいつはもうオレとハナちゃんが教えたことは忘れている可能性がある。 まぁ、いまはタケシがいるから面倒を見てもらっているのでいいとしよう。 そんなグルメリストな一行のひとり、この世界の今の時代の主人公であると思われるサトシ少年が目の前にいる。 肩には相変わらずピカチュウ。 とりあえず。 客だ。 客が来た。 『あ〜…一名様とご一匹様、ご来店〜。 いっらっしゃいませ?』 こちらへどうぞって言いながら、外に追い出してはダメだろうか? テレッレ、レ〜♪ 疫病神というのなの首つっこみたがり(主人公特権)やがあらわれた! な〜んてね。 この世界は子供向けアニメが原作だけあって、今までいたどの世界とも違って、とても「死」の概念からは遠い世界。子どもたちに夢を与えそれを叶えさせる優しい世界。 大人になると世界はいっきに矛盾をはらんだ厳しさをこちらにつきつけるが。 でもそんな夢の佳境にいるはずのサトシが落ち込んでいる。 平和で夢のように優しい世界であっても、事件には巻き込まれたくないなぁ。 サトシはもうエリカの怒りを買ったっていうし。 落ち込んでる原因はそれだろう。 あれ程、女の子に逆らったら生きていけないよとおしえたのに。 オレは目立つの嫌いなんだよね。 さて。どうしようか。 |