有り得ない偶然 Side1
- ポ.ケット.モ.ンスター -



02.はじまりの物語



オレの名は 黒筆 (クロフデ ) という。
この世界では“マサラタウンの”というのが打倒だろう。


『いらっしゃいませ。当店のおすすめメニューは、お日様ニコニコ定食になります』


きっちり45度でおじぎをし、ニコニコ笑顔で、客をまねく。

お客様を店内へと招いたその直後。なんとなく背後に“馴染みまくった”気配を感じたので、手にしていた丸い金属のおぼんを自分の顔横まで持ち上げる。
それと同時に、ガン!と派手な音がして「みゅぅ〜」と小さな声が聞こえる。おぼんの表面は“ナニカ”の形に変形していたが、見ぬふりをする。
お盆には何かが直撃し、小さな「みゅ」「みゅ」という"泣き"声を残して気配が遠ざかる。
“姿の見えないソレ”がそのまま逃げ帰ったらしいのに満足する。
もはやおぼんによる裏拳。うむ。お盆裏拳は見事に背後から迫っていた相手をはたきおとせたようだ。

音にギョッとして振り返った客には、『どうかいたしましたか?』と先手をうって言葉を投げかけ、有無を言わさぬ笑顔をむければ、お客様は何も言わない。
そのままお客様を席へ案内し、メニューを渡した。

このおぼんは―――廃棄だな。



オレは今、とある町のレストランでウェイターをしている。
もう何年もこういったバイトをしているせいで、そろそろ営業スマイルのオンオフが自在にできるようになってきた。
前世では獣だったせいで、今世は生まれてしばらくは笑おうものなら顔が筋肉痛になったというのに。
人間って、かわるもんだなぁ。

まぁ、顔の表情筋が動くようになったのは本当に最近の事で、それまではあまり感情は表に出なかった。
なにせ、この世界でしばらく森の中で育ったからなオレ。

ちなみにオレのこの世の始まりは、プリンのドアップ攻撃から始まった。





 :: side 夢主1 ::





もう何度目か。随分慣れてしまった死と転生をはたし、新たな世界に生まれた。
この世界はぞくにいうポケモソの世界である。

オレは気がついたら森に居た。
しかも目の前にはプリンのドアップつきで。
そのときのオレは、ハイハイもまだな赤ん坊であった。

正確には、死後森で目覚めたわけではない。
自然発生したのではなくきちんと人間の両親から生まれ、しばらくは家で家族と普通に過ごしていたのだ。
しかし両親がオレをつれ外にピクニックにいったその先で、大きなポケモソに赤ん坊のオレはつれさらわれた。その後、気付いたら森の中にいたのだ。

なお、その大きなポケモソは、通りすがりの薄ピンク色の「ミュ」と鳴く生き物によって成敗されたらしい。

どうして赤ん坊時代のことを知っているかというと、その巨大モンスターを成敗したご本人に聞いたから間違いない。
聞いたというのはその言葉通りで、前世の影響か、この世界のポケモソの言葉は理解できたのだ。
前世は人以外の生き物であったり、数百年の長い時を生きた猫であったり、獣姿の神様だったりしたこともあったので、きっとそのせいだろう。

森に放置されようと、この前世の知識とポケモソと会話ができるのならば何とか生きていけるとふんだ。
そうは思っていたが、実際のところ予想よりも快適に暮らせたのはこの薄ピンクの生物の恩恵が強い。

ただし

ここは感謝をするべきなんだろうけど、そのピンクの生き物が人間世界に戻ろうとするのを邪魔しまくり、やつのでせいでオレが人間世界に戻るのがおくれたので、感謝より怒りしかわかないという事実は念のためここに記しておく。

前述記載したように、一応複数の前世もちであることからして、森で暮らすことに不安はなかった。
人間生活より人外生活の方が長かったためでもある。
なにより、前世では数百年生きた猫であり、そのあとの20年ほどを人の姿で過ごした経緯があるため、野生やサバイバルにはこの転生の記憶は都合がよかった。
赤ん坊ではあったがポケモソたちの言葉をオレが理解できていたこと、かつピンクの伝説ポケモソがエスパータイプの技でオレの言葉を思念として周囲に伝えてくれたおかげで、赤ん坊でもなんとかなったという状態だった。

だがしかし、当時は生まれたばかり。まだまだ未成熟であるため、立って歩くこともままならなかった。当然他にも困難にはあふれていた。
本当にハイハイを少しするのがやっと。
しかも場所は森。攻撃的な奴も多いというか、野生動物という名のポケットに入らないモンスターであふれていた。
当時はまだポケットに入れて持ち歩く技術なんか存在していな形ため、人間とモンスターたちの間には距離があった。
しかも森の中に人がいるはずもない。
赤ん坊だから話すこともできなかった。ポケモソたちに思念を伝えることはできても口からは会話などしていない。
なんとか転がるようにゴロゴロしながら移動をするのがやっとで、一日に数十メートル動くのがせいぜいだった。
どこのタ〇パンダだろうかと何度思ったことか。
その都度、ピンクの生き物によって念力で運ばれたり、どこかのポケモソ様が運んでくれたりしていた。

そんなこんなで森で過ごして数年。
なんとか生き延びた。

自分が人であることだけは忘れないようにするため、ポケモソに囲まれて育ちつつもきちんと二足歩行で歩けるように訓練は怠らなかった。
そうしてひきとめる薄ピンクをなんとかまき、森をでることに成功した。

歩き方は忘れなかったが、かなしいことにその頃のオレは、すでに人間らしい生活の仕方をすっかり忘れていた。
ようやく人間に保護されたときは、顔の表情筋は仕事をしなくなり、言葉の話し方も知らなかった。

そのまま森で生きればいいと思うかもしれないが、オレは赤ん坊のころから自我があったのだ。
ポケモソの言葉が理解できるとはいえ、人の姿であるのだから人間らしく暮らしたいじゃないか。
なによりオレを産んだ両親たちの別れ際の絶望した顔が忘れられなくて、会いたいとおもったのだ。
顔立ちとか特徴は覚えてない。ただそこに浮かんだ感情が“かなしみ”であふれていたのだけは忘れられなかったのだ。

自分の名前だけはなんとか知っていたので、それを保護してくれたひとのポケモソに伝えた。人の言葉の話し方を忘れてしまったので、当時のオレにはポケモソにしか意思を伝えるすべがなかったのだ。
だがそのポケモソはとてもかしこく、トレーナーにオレの意思を伝えてくれ、警察に通報され、そこでようやくマサラタウンの親と再会できた。

ふたりは大泣きして迎えに来てくれた。
顔も名前も覚えてなかったけど、一目でわかった。ああ、このひとたちだ。このひとたちがオレの家族だ。それだけは理解できた。

温かさに包まれて、オレもギュってしかえした。
家族というのはほんとうはこんなに暖かい物なんだとしった。

前世で人の子の親をしていた時期があったけど、あの子にもこういう温かさをちゃんと与えてあげられていたらいいなぁと・・・今更だけど、思った。

そして、オレが置き去りにされていたあの森はトキワの森というらしく、戻ったおうちはマサラタウン。
隣かよ!

いや、むしろマサラタウンなんて、某主人公たちの故郷と同じ名前じゃなかっただろうか。

何回目かのどこだかの前世の世界で、ポケットにはいるモンスターだから〜というゲームがあったきがするけど、森で生活してこの世界があのゲームやアニメでいた生き物がいる世界なのは理解していた。
トキワの森で人外生物に育てられている間も(未来の)ポケモソっていわれるモンスターいっぱいみたし。

それにしても「マサラタウン」なんて・・・やっかいごとが多そうな人物と遭遇しそうでたまらなく嫌だなぁ。そう思っていた。

とはいえ、目立つ厄介ごとなんて、ストーカーとかした薄ピンクの生物以外なにも問題はなかった。
ポケモソたちと暮らしていたため、最初は言葉に不慣れで、人間として生活をするのも一苦労だったが、オレはその「まっさらな地」で温かい家族の他に友人と幼馴染みをえることができた。


これがすべてのはじまりの地。
ゲームが、アニメの原点。そしてたくさんの作品の主人公が生まれた場所。

そしてオレにとってのこの世界でのはじまり場所である。





 

* * * * *





 

――この世界に誕生してから、あっという間に年月は流れた。

幼馴染みたちは、ポケモソに好かれすぎたり、研究者になったり、ジムリーダーになったりと大忙し。
オレには妹ができた。
そしてなぜか父の冒険心に火がついたあげく、家族を捨てて冒険に旅立ってそのまま失踪した。
しかもオレがポケモソたちと探しようやく見つけたが、帰る気はないと言われたのでそのまま放置することを家族会議で決めた。
母は父が失踪してからすぐに亡くなった。
オレは一人で妹を育てることになった。

そうして大人になり、オレは立派な二十歳代の成人男性ぐらいにまで成長した。

ここまで成長する道で、ひとつ知りたくない事実にたどり着いてしまった。
研究者になった幼馴染みが古代遺跡からひとつの情報を見つけたのだ。
それにより、オレは周囲でやたら目撃する淡い感じのピンク色生物の正体をついに知ってしまった。
いや、元から知ってはいたけど。
むしろ正式名称とか知りたくなかったというかなんというか。

なぜ、お前がいる?

そう思ってやまないほどに、オレの周囲で薄ピンク色のポケモソが出現する頻度が半端ないのは相変わらずだ。
むしろ人前にお前が現れていることにびっくりするよりも、お前という存在そのものに唖然としている。
もう、あれストーカーって言ってもいい気がするよ。

ちなみにもうわかっているだろう。あのポケモソの正体はなんと【ミュウ】だった。
もちろん本物の、かのポケモソの始祖にして、幻のあの【ミュウ】である。

なぜなつかれたか。そこらへんは赤ん坊だった目覚えていないが・・・奴との出会いは、ミュウの一方的ない解釈によるものである。
転生しまくっているオレの魂は人のそれではもはやないらしい。そんなオレをひとめみて、《自分に近い存在…な、気がする》とミュウはほざいた。
「同胞っぽいものが悪意あるポケモソにつかまってる!大変だ!」そんな感じで助けられたオレは、そのまままいまにいたるまで、まとわりつかれるようになったのだ。


・・・・・・。

うん。この際、ストーカーのことは忘れよう。


ミュウは、この世界で暮らし始めて、しばらくしたらもうオレの周囲にいたんだ。
あの薄ピンク色のポケモソは空気だ。
そう思うことにしよう。
そうでなくては、説明が面倒すぎる。
だって、最近ミュウはついに人間の習性を理解し始めたらしく、写真を撮るときオレの背後で《ピース》とかしてやがった。
しっかり姿を見せた写真じゃないので、ぼやけたなにかがオレの背後に背後霊のごとく映っている程度なのだが、そのぼやけた白い物体が間違いなく《笑顔》で《ピース》していたのだけはわかった。
それをみたときは、もうだめだ。と思ったね。魂が抜けかけたよ。
むしろ伝説のポケモソが何してんだよと思った。
もちろんその写真は捨てた。


そもそもオレのパートナーって、ホウオウよ。
なんでって、仲相性がいいから。それだけだしー。出会って以降ずっと一緒にいるんだから仲よくもなる。

それ以外にもやたら伝説ポケモソとの遭遇率も高く、そのまま「おれをつれていけぇ〜!」となぜか必要以上にやつらがなついてくるから、しかたなくゲットしていたこともあり、ぶっちゃけ手持ちが伝説とよばれるやつらばっかりになった。
おかげで、伝説とか幻とか珍しいってなんだっけ?と、もうどのポケモンがどんな種類でとか、どうでもいいとオレはかなり本気で思い始めている。

結論。オレのなかでは、伝説だろうが神だろうが幻だろうが、ポケモソはポケモソでしかないということ。
つまり、空気も空気だということだ。

うん。空気(ミュウ)なんかしらないよ。

空気だから目にしても気にならないんだ。
そういうことにしておこう。
あれのことはひとまず忘れよう。




さて。話がそれたな。

オレだって、この世界に来てから、いっきに二十歳ぐらいの若者になったわけではない。もちろん十代の子供時代はきちんとある。
今回はずっと子供のままでもなければ、何百年も生きた人外でもない。
普通の人間らしく――とはいいがたい旅をいろいろしてきたが、いちおう今世ではいたって普通の人間なのだ。
十代の頃には、世界のルールにのっとってポケモソトレーナーになろうと旅もした。

と、いってもそれは昔のこと。
今は、もう夢見る子供時代は卒業したんだ。

今まさにトレーナーである十歳の子供たちからしたら、オレはいい年したおっさんであろう。
ただしちょっとポケモソの時空旅行に付き合わされてるせいで、肉体の成長が実際の時間軸とおかしいことになっている。
肉体の年齢をいうべきなのか、生まれた年から計算して告げるべきなのかけっこう悩むところだ。なので最近は、外見年齢を「約」をつけて皆さんに自己紹介するようにしている。

もう心はいい年を超えに超えまくった仙人。役所に出された出生記録の年から数えると、実年齢はやばいぐらいのお歳。だけど、外見はまだまだお兄さんな、成長期をどっかにおいてきた――謎なお年頃なオレ。
意味が分からないって?ポケモンの時空移動に巻き込まれたせいで未来にきちゃったんだよ!だから外見年齢と、出生届からの年齢が一致しないんだ。
そんな意味不明なオレですが、ただいまバイトしながら生活してます。


今のオレの仕事は、レストランで働くバイトのおにいさんだ。
まぁ、簡単にいえばバイトで、ウェイターをしている。
少し前は、育て屋のじいさんのところで、ポケモソの世話をするバイトをしていた。
コーヒーの美味しい喫茶店で働いて、味を学んできたこともある。
その前にはジョウトあたりで発掘の手伝いをしたこともあれば、釣り人さんに伝統の釣りの仕方を伝授してもらったこともある。

なぜに今回は、ウェイターなのだ?と思うだろう。
せっかくのポケモソ世界なのにトレーナーにならなかったのかといえば、【すでにそれほど若くない】の一言に尽きる。
オレだって旅をしたさ。
ただしそんな冒険あふれる物語は、オレが十代の頃の話だ。
今は喫茶店で働く方が楽しいので、すっかりトレーナーを引退してしまった。



なお、この世界は複雑だ。
なにせゲームの主人公たる《レッド》と、アニメ主人公である《サトシ》がいるのだ。
この世界はどこかの二次創作のように、同じ時代に二人がいるような混合世界ではなく、今より数十年以上前の過去がゲーム軸。レッドが活躍した時代である。
そして今が、アニメ軸らしく、オレの故郷マサラタウンには《サトシ》がいる。


アニメ主人公くんが十歳になり、マサラを旅立っていったのは、ほんの少しばかり前だ。
原作という意味では《サトシ》以外にもまぁ色々あるんだが、 ミュウのことよりさらに面倒な説明が増えるだけなのでそこは今ははぶいておく。


とにもかくにも、レストランでウェイターとしておぼん片手に接客しているバイトマンなおにいさんなオレは、マサラタウン出身なわけで。 ちゃっかりサトシくんと知り合いであることを理解してもらいたい。
だからといって、夢物語のごとく、主人公の幼馴染や恋人、兄弟的な立場でもないし、主人公組みと旅をしたい。とか、彼にライバル認定されたい。とかは、別に思っていないし、そのような立場でもない。
まず生まれた年代が違うので、価値観も話題も違うから無理すぎる。 そもそもオレ自信、とくに主人公とかに興味がない。
むしろこちらから断固拒否したいネタばかりだ。
主人公たちに関わりたい!なんてこれっぽちも思っていないが、故郷が同じでなのだから顔を会わせないはずがない。 だから知り合いという関係で終わり。 本気でそれ以上のことは、オレは求めていない。
さすがに細かいアニメシーンを前世の記憶から思い出すことはなかったし、だいいちオレの中身はウン百歳の年寄りでしてね。 あまり無茶なことはしたくもないし、トラブルに巻き込まれるなんて言語道断だ。 むしろ精神的にはかなりの高齢者なので、そろそろいたわってほしいとか思う。

旅を続ける主人公一行にとって、オレのポジションはしょせん行く先々でバイトにいそしむ働き者のお兄さんでしかない。・・・・・ハズだ。むしろそうであってほしい。
まぁ、サトシにとってみれば、その程度の認識だろう。 そうでなくては、御年いくつだよとばかりに中身だけふけきっているオレは、疲労困憊(ストレス)でそのうちはげること必須。
たまに目の前で考えなしの無鉄砲な行動をされるとちょっといらっときたり、 思わず口出しをしたくなったり、 ついおちょくって遊びたくはなるが、それは年上の子供が通り過ぎ際に近所の子供に挨拶をして頭をなでて去って行く程度のチャチャや戯れ程度にすぎない。

原作にはかかわりたくないです!
今回のオレの立場は、そんな感じだ。

オレがそういう態度をとっていて、サトシにあまり接触をしなかったからか、原作をどうこうしようという気もさらさら無かったこともあり、 今回は本当にオレの周囲は平和だった。
オレが“主人公たちが集うマサラ”に生まれたこと以外は。

まぁ、前回の世界はすごく騒がしかったからねぇ。そろそろマイペースに、まったり生きたいものだ。
そう考えると、この世界に転生してからは随分穏やかな毎日だと思う。
・・・たぶん。

だっていままでの転生先は、いつもどこか「死」が近い世界で。
あげく、いつもなにかしら事件に巻き込まれていた。
いや、前の世界だと戦時中の動乱真っただ中と言うのもあたのだろう。

いまのオレは、なにごともないこの幸せな時間が長く続くことを祈りつつ、日々を堪能して過ごしている。
好きに生きれるっていい。

それにこの世界の過去史にはゲームの主人公がいるんだ。原作などないも同じ世界なのだから、なにしたって自由だろう。
原作破壊?しったことか。だいいち原作そのものの中身をしらねぇよ。





だからオレは

トレーナーをやめたあとも こうして―――







世界を 旅している。








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