有り得ない偶然 Side1
- ワ.ン.ピース -



03.抗えぬ時の流れと世界の涙





 -- side オレ --





 オレがHUNTER×HUNTER世界から、この世界にトリップしてから十年以上の月日が流れた。
空間転移による、異世界の空に投げ出されてから二十六年。
あれから実年齢を抜きにして、体だけはオレも二十八歳になった。
すでに原作の時間軸は始まっているらしく、そこかしこでルフィの名を聞く。

 ここまでが本当に長かった。
 世界を渡ったことで、なぜか二,三歳まで縮んでしまったオレは途方にくれていたら、ゴール・D・ロジャーと名乗る海賊に拾われた。
彼こそが、のちの海賊王そのひとだった。
オレは彼の「おもしれぇガキだ」という一言で彼の仲間に加えられることとなった。
それはおしくも原作開始の二十二,三年前のことだった。

ロジャーとの日々は、思い返しても楽しい思い出しかない。





***********





 異世界に飛ばされ、気がつけば空の上。
しかも体は二,三歳ほどまで縮んでいて、具合が悪くて、そのまま意識を失った。
そして目が覚めたら、オレは陽気な海賊達に救われた。
 本当ならこんなガキにしかみえないオレなんかは、すぐにでも近くの島において行くべきだった。
しかし向こうの世界の能力――“念”を『覇気』と判断したロジャーが、その力の野放しは危険だと、船にいろといってくれたのだ。
まぁ、後々“念”と『覇気』は違うことが、後でわかったが・・・。
そのあともロジャー達はオレを捨てることはなく、そのまますぐにこの世界に順応したオレは彼らがグランドラインを制覇するのを側で見ていた。





 だけど…“その日”は、どれほどあがいても訪れた。


 ロジャーにより始まった新しい時代。
オレは海賊王の処刑を目の当たりにした一人。



 ロジャーが海を一周し、海賊王と呼ばれるようになった。
そのあと海賊団は原作どおり解散した。
オレは解散しても、しばらくはロジャーと一緒にのんびりブラリ旅をしていた。
 バリテラでルージュさんにも会った。
だけどロジャーが自主をしに行くとき、オレはルージュさんにではなく、二人の手によってシャンクスに預けられた。

「この子たちを…」

 お願いねと。
オレの背を押す手と、おなかに当てられたルージュさんの手。

オレの赤い頭をなでてくれた優しいルージュさん。
ぎゅうっと抱きしめてくれたロジャー。

それがオレと二人のお別れだった。
その日からオレは、ロジャーに呼び出されたシャンクスに預けられた。
この世界でオレにとっては一番大切だった“彼”の自主を、とめることはできなかった。





 オレには知識があった。
ONE PIECEという原作知識。
だけど『あの瞬間』を変えることはできないのは、感覚でわかりきっていた。

変えてはいけない未来――

本当はそんな言葉で終わらせたくなかった。
だけどそのときのオレは、どこまでも無知で、無力だった。


 笑っていたから。
バリテラにいたとき、ルージュさんといたとき。
ロジャーはいつも心から穏やかに笑っていた。
だからうっかり“思って”しまったんだ。

ロジャーは自主なんかしないって。
エースやルージュさんを置いていくはずないって・・・。

だけどね。
それは、未来を知っていたがゆえの、オレの傲慢な願い。
ただの思い込みだったんだって――思い知らされた。



 未来の知識のあるオレは、ロジャーがいつ自首するのかも知っていた。
知っていたのにとめられなかった。
 ロジャーが自首をしに行くなんて言った日には、泣いて暴れて駄々をこねた。
それでも当日にオレは彼の傍にいなくて、オレもクルーもルージュさんにも何もできなかった。
それが彼の意思だったから。



 ルージュさんの妊娠発覚。それとともに自主をしたロジャー。
そのロジャーの自主から5ヵ月後の、新たな時代の始まりの日。
 雨の振る中で、オレはロジャーの処刑をただみてるしかできなかった。
本当はロジャーの処刑を止めるだけの力はあった。
あくまで暴力的な“力”で、それはなんの解決にもならないけど。
だけど“その日”がきて、オレは暴れることも声をかけることも許されなかった。


――最後に頭をなでられた感覚がいまだに忘れられない。


 シャンクスも泣いていたけど、
オレがロジャーのもとへ駆け寄ろうとするので、それを抑えるので必死で涙を隠すことはしなかった。

「いやだ!いやだよ!!爺様!ロジャー!!!」

 ふさがれたのはオレの口。
涙をこらえるためにあったシャンクスの片方の手が、オレが叫ぶのを封じた。

わかってる。
本当は何もかも分かってるんだ。

あのひとの寿命がもうないことも。
これがけじめのつけ方で、これがあのひとの誇りを守り通すことなのも――。


オレは知っていて、すべてを見ない振りしていた。


「だめだ。船長の命令だ」
「・・・わかってるよ。わかってるけど」

 自分も辛いだろうに、強く強くオレを抱きしめるシャンクスの腕に、さらに泣きたくなった。
顔はきっとぐしゃぐしゃで・・・
どうしようもないってわかっていても、大切な人の『死』はみていて気持ちのいいものじゃない。

つらいよ爺様・・・。





 前世では、『死』が近すぎて、あきらめきっていた部分があった。
それがオレに“割り切る”という行為をさせていたと知った。
でも自分の手には限界があったから、大切なものを守れるだけ強くなっても目の前のものと己の手で掬える範囲のみに守るための力は限定されていた。
だから死に客観的な部分があった。
それほど『死』が近すぎたから、世界のみんなは、悲しみに踏ん切りをつけることを知っていた。

でもね。

 “今のオレ”には、あなたがすべてだったんだよ。
それにご念にも満たないたった数年でも、オレに生きる意味をくれた。
異世界から来た異分子でしかないオレに家族をくれた。

大切だった。
すべてだった。



 海賊団の仲間は、オレに普通に接してくれていた。
拾われてからまったく成長しないオレ。
そんなこと気にもせず、みんなオレを受け入れた。
なかでもロジャーはオレを孫のように可愛がってくれた。
 いっぱいかまってくれた大きな手。
仲間のために命をはれる力強い背中。
肩車をしてくれたロジャーは本当にじいちゃんのようで・・・

「じいさまぁ〜・・・…」

 十五歳のシャンクスにすがりついて、その腕の中でオレは泣きながら海賊王の笑った顔を見ていた。


 手を伸ばすのはやめた。
でも悔しくて。
辛くて


涙だけはとまらなかった。





 ――異世界に飛ばされたオレという存在を、一番最初に認めてくれた人が死んだ。
その日、その場所で、この世界は新しく動き出した。

 ひとりの海賊王が海へと還った日。
世界はその男のためだけに涙を流した。





*********





「若ぁー。おーい、どこいったんだ若?」

 あれから二十二年。
 オレは相変わらずシャンクスの船で、こどものまま。
でも二歳の姿ではなく、やっぱり人より凄く遅いけど十五歳ぐらいには見られるくらいには成長した。

?」
「ん〜親父か」
「どうした暗い顔して。みんながお前のこと捜してたぞ」

停泊していた島で、わいわいと宴会をしていた『赤髪』の一団は、この世界でのオレの二つ目の家族。

今日は一つ目の家族を思い出していた。

「どうして親父は隠れてるオレをすぐにみつけられるのさ?」

 これでもひとりで物思いにふけっていたくて、黒空も吸わずに船の甲板のすみっこで、一人夜空を見上げていたんだ。

「なにっておれはお前の父親だからな。どうせロジャー船長のことでも思い出してたんだろ?」
「むー。さすが」
「だてにお前と二十六年も一緒に船に乗ってないさ」
「うん」


 ルフィがその片鱗を見せ始めた。
三年前にはエースが、“ルフィの兄”としてシャンクスを尋ねてきた。

 歴史は間違いなく流れている。
そして新しい時代の流れがこようとしているのを間近で感じた。

だからこそ。
強く、強く――思い出す。

ひとびとは偉大なる海の覇者、海賊王ゴールド・ロジャーを・・・。










新しい時代が始まりを告げた“あのとき”決めた。
未来を知っているからこそ、決して後悔だけはしない生き方をすると。

さぁ、反撃のときだ。

世界よ。オレに後悔させられるのものならさせてみろ。
オレは後悔だけはしない。








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