01.回想海藻階層快走…!? |
-- side オレ -- 気が付けば、オレは空から落下中という状況で、真下は今飛んでいる空と同じぐらい澄んだ青い海が広がっていた。 「……どこだよここは?」 間違いなくこれはあの謎の扉が原因だろう。 というか、以前にも似たようなことが十数年前にもあった気がする。 あのときはジン達が作っていたグリードアイランドの移動用カード実験における失敗が原因だった。 まぁ、向こうではちょうど45歳だったし。 ちょうど予言にあった死亡時期と一緒だから、死んだことになってるんだろうけどな。 きっとオレはもうあの世界には帰れないんだろう。 それはあの青い光と扉のせい。 「・・・って、このまま落ちたら死ぬんじゃね?」 ぼぉーっと考えていて、突然自分の状況に思い至り、とにかく今はこのまま落下してびしょぬれになるのだけは避けないと!と何かもってきたものはないか身体を探って、ふと自分の身体に違和感を覚えた。 「なっ!?なんだこれはー!!!!!」 身体をまさぐり、さらに自分の服をみて目だが飛び出た。 なんかいつもより服がバサバサとしてるわ、風の抵抗がすげーとか思っていたら、オレの体が縮んでいた。 「ありえねー!!!!」 ただでさえ人より成長が遅かったのに。これはないだろう!?と本気で思う。 ニ十代後半になってからのびはじめた身長は、45歳でやっと173cm。 これでやっと普通の大人にみられると思ったのに!! もういろんな意味でいや〜!とか思いながら、お空から落下中。 で、とにかく身体が縮んだのは、ちょっと忘れることにした。 いい加減、この速度と高度から落下したら、下が水面でもコンクリートにぶつかるぐらいの衝撃にはなるはずだし。 うん。オレ、念能力を発動させないと死ぬね。 「たすけてジンさまー!!!」 当然名前を呼んだからといってさっき別れたばかりの人間が助けに来てくれるはずもない。 そこで能力者の知り合いの名前を何人か分呼びつつ、おのれの能力を発動しようとしたところで・・・自分のさらなる異常に気付いた。 「え?うそ…」 満タンだったはずのオレのオーラ量は、ほぼゼロになっていた。 オーラ不足。それすなわち生命力の枯渇。 そのせいか。 さっきから実はけっこう身体もうまく動かしずらくて、力も出ないのは。 てっきりオレがすべてに絶望して、脱力しきっていたからかと思ったよ。 たぶん空間の移動にもってかれたんだとは思うけど。 「ありえねぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!」 オレは死ぬしかないのかと、そりゃぁもうひたすら世界のすべて(おもにオレの身長)を呪いながら落ちていた。 落ちて、落ちて―― なんだかもう、風が気持ちいいなとか。 そういえばハンター世界に行く前の、前前世のオレはパラグライダーが趣味で山からよく飛び降りていたなとか・・・・・・思い出したりしていた。 所詮、現実逃避という奴だろうかね。 念願のファンタジー世界へせっかく転生したというのに。 さらにはあのHUNTER×HUNTER世界で四十五年も必死に――というか、人生楽しく謳歌していた――のに、こんなところで死ぬのはあんまりじゃないか。 早すぎるし、原因が意味不明すぎる。 「衝突死はいやだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 なんだかんだ言っている間に、パラグライダーと違って、ただ重力に任せての落下は風にあおられ、力の入らない身体がグルグルと回転する。 う・・・・・・気持ち悪い。 しかもだんだん頭痛までしてきた。 気合ではどうしようもないほどのあまりの具合の悪さに、オレの視界がどんどん狭まる。 防衛本能が働いて、意識がオレの意思を無視して暗闇に落ちかける。 そのとき、オレの意識を一瞬だけ覚醒させるような何か突き刺さるような気配を感じた。 ゾクリ――。 下から物凄い殺気、いや威圧感を感じた。 威圧感というよりは、オーラだろうか? ネテロさんか、暗殺一家であるゾルディック家の爺様たちやジンのような強さを感じた。 とっさにオーラを全身にまとわせて、このネテロさん級の異様すぎる威圧感から身を守るろうと試みるが、情緒不安定な今うまくオーラをまとめられず霧散してしまう。 身を守るすべがないのに、感じるオーラは尋常でない。 もしこれがオレじゃなく普通の一般人であったなら、精孔がひらいて逆にオーラを垂れ流しすぎ、死んでいたかもしれない。 オレはさ、ほら、家の境遇とか、ジン経由でこんなやばい殺気は年中だから平気だけどね。 あぁ、でも…。 具合の悪いときにはやめてほしい。 他人の気が影響して、体中をかき混ぜられたような感覚に陥り、眉をしかめる。 武道家は『気』にも通じるとはいうが、オレ、そこまで精神鍛えてないよ! 能力頼みで生きてきたからなぁ。 もう・・・げんかい。 最後に。 せめてもと思い、とっさにおもいついたのは“あいつ”の顔。 積年の恨みと、すべてはお前が仕組んだドッキリであることを願って―― 「・・・・・・ンの・・・ぁほ・・・った、れ・・・・・・」 風よ。どうかオレの最後の言葉を“あいつ”に届けておくれ。 遺言は、「ジンのアホッタレ」だ。 頼んだよ。 そうしてオレの意識は途絶えた。 やっぱり。なんもかんもすべてジンが悪い気がする。 その方が楽でいい。 ********** 夢を見た。 随分と懐かしい夢だ。 あれは――・・・ あのときはちょうど熱があってグラグラしていて、考える力なんかほとんどないときだ。 感情に流されすぎて、オレの念能力が暴走したことがあった。 そのとき、水見式と同じ現象がオレの『円』の範囲全体で起きた。 「なんで『練』もしてないのに!?」 水見式では、水が墨になった。 一見これだけでは、オレの念系統は変化系だと思われるが、実は特質系だ。 墨を操ったり、具現化したりする。 本当はものをあやつる能力が良かった。 だけど無理だったから、その墨を操るなんて能力を生み出した。 その経由で、オレは墨を仕事とできる刺青を彫る仕事にもついた。 ただ、この暴走が起きたのは、刺青彫師となる以前の十歳ごろのことだ。 その能力が暴走している。 理由なんてしらない。 オレのオーラが水の気配を感じて、空気中の水分がどんどん墨に変換されていく。 それにともない、身体が重くなり目が開けてられなくなる。 オーラの放出しすぎなんだろうとは気付いていた。 だけど眠気のせいで頭が働かず、とめる方法も思いつかなくてそのままにしていた。 わかっていたのは、自分じゃ制御は無理だなと。とんでもなく客観的に、状況をぼへ〜とみていたことぐらいだろう。 いやね。なんでかこういう状況になると時を追うごとに、オレってば冷静になるみたいで・・・。 いや、冷静?冷静なのか?それともただ楽観的なのかな。 どうでもよくなったとでもいうのか。 うん、まぁ。そんなところだ。 なんとかなるだろとか本当に直感的に思っていたので、そのまま寝ることにした。 だって前世から、オレの勘ってあたるんだよ。 そのまま勘でほとんど生きていたような人生だったし、なんとかなると思った。 あのとき。結局、オレの暴走を止めたのは、ジンだったらしい。 涎をたらしながらぐーーーーってのんきそうな顔で寝てたらしく、怒鳴りながらやってきたジンに殴られた。 それがおわり。 いてぇ。と思ったら、暴走は終わっていて、目の前にジンがいた。 『あ〜終わったんだ?あとよろしく』 『あ、おいアザナっ!?』 『エネルギー不足。だるい。おやすみ』 『寝るなよ!!』 いや〜ね。さすがにあれだけオーラを放出してしまった後では、起きてられねーっての。 そんなわけでジンの大声も無視して眠った。 次に目を開けたら、おかんとおとんがいて、めったに感情を顔に出さないおとんが心配そうにオレをみていた。 父の温かい腕にびっくりする。 同じ人種間の間でもチビだといわれ続けていたオレは、父の腕の中では本当に子供のようだ。 でも疲れきったオレには酷く安心できて―― 「…と、う、さ……?」 あったかい温もりに頬を摺り寄せて、心臓の音が聞こえる胸板に頭をくっつけて、昔のように眠った。 おかんの「あらまぁ」っていう声は聞こえなかったけど、おとんがいつも着ている赤い羽織の感覚が肌に当たり、それをぎゅっと掴んでもう一度だけ子供に戻ったような気分になった。 ――これが夢の中だというのはわかっていた。 だって父さんは、母さんをかばって、結局二人とも死んだのだから。 だけど久しぶりの感覚に、なんとなく縋ってしまった。 熱に浮かされた夢ということで、ついでに甘えてしまおう。 なぁ、おとんや。 目が覚めたらあなたはもうオレの側にはいないんだろうな。 でもいまだけは――・・・ あぁ あったかいなぁ |