00.青に塗りつぶされた瞬間 |
-- side オレ -- 「離せ!このバカ!!野生児!!」 「やだ」 「やだじゃねー!!」 腐れ縁のジン=フリークスによって、遺跡の調査に「お前の探査能力は役に立つからこい!」と無理やり攫われた45歳の親父。 しかも現在二十歳になる義息をもつ一時の親――黒筆 字(クロフデ アザナ)。 親父といっても、外見は永遠の20歳といいはるだけあって若々しい母親の血が濃いせいか、三十代前半に見られることが多い。 発掘された遺跡は、ルルカ文明遺跡と名づけられた。 その探査の最中、物凄く複雑な念をかけられた扉が現れた。 そこで引きずり出されたのが、ただの刺青彫師でしかないはずのオレ。 オレの能力は墨を操ること、影と影の空間をつなげること。そしてオーラをひろげて周囲を探る、基本技である“円”の半径が1kmとばかでかいこと。 ゆえに探査能力はかなりの信頼性が高い。 っが、そのオレでさえ、その扉の向こう側に何があるかわらない。 「離せやゴラっ!!」 「お前はゴリラかよ!?せめて向こうに何があったかぐらい教えてから消えてくれ!!」 「何も見えないんだよ!」 「は?」 「ここはヤバイ!絶対やばい!!二度と“帰れなく”なる気がするんだよ!!だから離せっ!!」 この奇天烈ハンター世界で鍛え上げられたオレの勘が、この扉はやばいと告げた。 オレのオーラがひきつけられる嫌な感じ。 たぶん“オレ”が触れたら、もう二度とこの場所に戻ることはできなくなるだろう。 「なぁ、なんとかならないかアザナ?」 「無理だ。念を解除したら、間違いなくなにか大きな仕掛けが動く。 逆に解除せずに触れたら、間違いなく・・・その念はオレたちをくらう」 「くらうって・・・」 「オレの勘と、“円”からの情報が正しければ、言葉どおりさ」 長年の経験上、ジンはオレの勘を信じている。 だからすぐにオレを捕まえていた腕を解き、「そうか。じゃぁ、つぎいこう」とあっけなく踵を返す。 その際に、しっかり「ここのブロックは立ち入り禁止にしないとな」と指示を出していたところは流石だろう。 撤退の合図にオレは、扉の前でほっとしていた。 しかしオレのことなど知らない発掘者達は、いぶかしげにとどまるものもいる。 ジンを知る者は、すぐに彼の後を追って撤退を始めたが、その場に残った学者のひとりが興味心身に扉を触れようとして―― 「バカ、触れるなっ!」 慌てて扉と学者の間に割り込んで、念も使えないらしいその学者をとめる。 ギリギリ間に合ったことにいきをつく。 そんなオレに「これは歴史的価値があるんだぞ!!このまま封じるなんてお前のほうこそなにを考えているんだ」と怒鳴り返してくる。 これでもプロのハンター。 目の前に怪しげな念がかかっているのさえわからない一般人には負けないし、そんな一般人に怪我などさせられない。 「それは空間を歪めてる!!触れたらなにが起こるかわからないんだぞ」 「若造が!くちをはさむな!!お前はプロのハンターかもしれないが、我々は考古学のプロだ!!お前も向こうの若造も指図をするな!!」 「なっ!?だめだっ!!オレが触れたら・・・・・・ぁ!」 学者達の誇りをけがしたかったわけじゃない。 『念能力』とはオーラと呼ばれる生命エネルギーをわざとして昇華する術だが、これについては一般人には教えてはいけないのだ。 だから詳しくいえない。 説明するなら「呪われている」としかいえないのが歯がゆい。 ――ただ、かけられた『念』から、あなたたちを守ろうとしただけ。 それがいけなかったんだろう。 きがつけばとめるはずが、言い争いになっていて、もみ合ううちに勢いよく身体を押され、触れたくなかったものにオレの背がドンとぶつかった。 瞬間、ブン!とモータ音のような低い音が遺跡中に響き、それとともにグラリと大きな地震がおきた。 「な、なにが・・・!?」 「にげろ!」 突然起きた地震の原因がわからず呆然としている目の前の学者を突き飛ばすと、オレは背にあった扉をみやる。 案の定、扉とオレのオーラの相性は最悪なほどぴったりあてはまったようだった。 扉は青い光を放って、オレのオーラを吸い取っていた。 地震の原因はこの扉であるのは間違いない。 扉はゴゴゴゴという音を立てて、扉の内側へと座れていき、そこからオレを吸い込もうとするような凶暴な風が吹き荒れる。 「っく!!!」 ゴォゴォ吹き荒れるぽっかりと開いた暗闇。 扉だった場所はいまだ青く光り―― 「アザナぁ!!」 異常に気付いたジンが戻ってきたとき、振り返ったオレがジンへと手を伸ばそうとして、その自分の身体が青い光に包まれてる気付き、ギョッとした。 思わず自分の身体を見れば、なぜか光の粒子となって肩や足の先から消えていた。 痛みはない。 でもこれでオレは死ぬのだと、なんとなく感覚で理解してまった。 ――これが予言のオレの死なのかと・・・。 理解した瞬間、なんかやってられねーという気分になったので、最後の最後でジンに復讐計画を暴露してやつの様子を伺うことにした。 オレをいままで、散々な目にあわせてくれたんだ。 オレの復讐計画を聞いて驚けばいい。 この世界から消えようとしているオレをみて、血相を変えて、かけつけてくるジンをみて―― 「お前の子供をみかけたら、お前の悪口全てちくれとオレのこどもに言ってあるからな!!覚悟しろジンのアホー!!!」 「んなっ!?なんだと!!」 オレは消える。 助けなんか要らない。 同情も、わかれの悲しみもいらない。 だから伸ばされた手をとるかわりに、笑ってやる。 いずれこうなることはわかっていたこと。 ここで死んだら、もうオレはこの世界に帰ってこれない。 それは二十年程前には予言されていたこと。 35歳ぐらいのとき、時間のゆがみにはまったオレは、今から四年後の1999年の未来に飛んだ。 そのとき、オレは45歳で死んだのだといわれていたから。 いつかこうなることはわかっていた。 だから、すでに心は決まっていた。 「はは。“未来”でまた会おうぜ。またな、ジン=フリークス」 今から四年後の未来、34歳のオレが、ジンたちの目の前に現れるだろう。 それまでオレは死んでいよう。 世界とお別れは、涙ではなく笑顔で―― ジンの何か叫ぶ声が聞こえて、扉があった場所がカッ!と強烈な青い光を放った。 それとともに、オレの視界がグラグラゆれた。 念能力による時空間移動。オレはジンの驚く顔をさいごにしかいにおさめた。 それだけがその世界の最後の光景。 そして―― 気が付けば、オレは一人空の上にいた。 目の前には空、空、空・・・。 オレを飲み込むように視界を空の青が覆う。 どうやら『転移』したらしい。 ・・・えー。オレどうなるのさ!? ってか、ここどこ!? ********** 青い光が消え去った場所では、歴史が書き直されていた。 扉は光らなかった。 地震は偶然起きた。 黒筆 字という赤毛の男は、光に飲み込まれたのではなく、崩落事故で死んだのだと――。 アザナが一人の考古学者と言い合いになり、あれほど嫌がっていた遺跡の扉に背をうった。 その瞬間、遺跡一体に風が吹いた。 不思議としか言いようのない風には、かすかにジンの見知ったオーラもまざっていて、ジン=フリークスが異変に気付いて後戻りしたときにはすでに遅かった。 突如遺跡一体を地震がおそい、アザナは先程の洞穴に残された学者三名をたすけようとして崩れてきた土砂に彼は巻き込まれた。 命からがら、学者達は助かったが、発見されたアザナに怪我らしい怪我はなかったが、その息はなかった。 ジンがみたアザナは笑っていた。 「やれやれ。けっきょくあの扉の向こうは何があったんだろうな」 アザナの遺体を彼が育てていた息子に届けた後、ジンはどことなくこまったように空を見上げた。 親友が死んだ。悲しむべきなのだが、なぜかまた会えるような・・・いつかひょっこり帰ってくるような気がしてしょうがない。 あの青い空を見ていると、思わず笑いさえこぼれ出る。 アザナのことを思えば、ジンは自然と空を見上げてしまう。 死んだのに悲しくもないし、むしろどこかで元気でやってるんだろうとさえ思ってしまうのだ。 それはジンだけではなく、彼の一人息子も同じように思ったらしく、死を悲しむどころか“らしすぎる”と笑っていた。 それからジンを筆頭に、崩落のあった場所を徹底的に調査したが、そこはすでに跡形もなくなっていた。 瓦礫や土砂によって崩れ去ったはずの扉や、そこにあったはずの小部屋の痕さえ、どれだけ捜してもみつけることはできかなった。 やがて扉とその部屋のことは忘れ去られ、ルルカ文明遺跡にはいっさいそのようなものがあったと乗ることはなかった。 すべては扉の意思――。 けれどその真意を知るものはいない。 ――それはHUNTER×HUNTERと呼ばれる原作軸より、四年ほど前のことだった。 |