05.主人公と |
耳をふさぎたくなる声が響いている。 ふさいでもこの慟哭はきっと頭に響いてくるのだろうが。 ――ポートガス・D・エースが死んだ。 side [有得] 夢主1 頂上決戦と呼ばれるものがあった。 時間軸はそれほど進んではおらず、シャボンディ諸島で麦わらを含めた億越えルーキーズが暴れた後、様々な場所へと飛ばされた麦わら一味。 麦わら屋はそこからどうやってか、大監獄へ兄のエースを助けに行き・・・。 けれどすれ違いでエースは、海軍本部マリンフォードへ連れていかれた。 麦わら屋はエースを追って、監獄の囚人を仲間に、海軍本部へむかった。 処刑台に連れていかれたエースを奪還すべく、白髭海賊団が勢ぞろいして始まった戦いは、マリンフォードにて戦争へと発展した。 『結果としてエースは一度は逃れるも、直後、弟をかばいサカヅキに撃たれ死亡――』 その戦争のせいで、白髭も死んだ。 戦争を終わらせたのは、一人の海兵。 そして赤髪のシャンクスひきいる海賊団が、死刑囚もいなくなり意味もなくなった戦いを終結させた。 麦わらのルフィは、元海賊王のクルーである道化のバギーによって逃がされ―――ハートの海賊団がそれを援助し、逃げおおせた。 ニュース・クーから受け取った新聞をとじ、オレはでかいため息を一つつく。 『って!どうすんだよ!!!!!すっかり麦わらの仲間扱いされてるし!!!!いやだぁ!!!オレがレイリーにつかまったばかりに!!!!おうちにかえりたい!いや、オレのおうちはココだけど!ここだけども!!海にもどりたい!ここにいたくない!!!!』 「ははは。落ち着けよ爺さん」 「そうそう。それにここは俺らが本当は入れないあの女ヶ島だ!女をみないでどうする」 「メスの白熊いないかな〜」 『孫たちがかわいくない!!! 女の子っていっても他人は無理!!!そもそも麦わら屋がいるこの島で落ち着いてられるか!!!!無理だ!』 偵察蝶をレイリーに捕らえられたばかりに、主人公を直接助ける羽目になるとか誰が思うか。 それを船で治療したり、海賊女帝ハンコックにかくまわれたり。 食料をちょっとわけてもらうだけならまだしも・・・麦わらと同じ島にいるのも嫌だ。 ずっと背中がむずむずするのが止まらない。いまにも喉の奥から悲鳴と絶叫が出そうなのをこらえて、早数日。 そろそろ出港したい。 そろそろ麦わら屋を船から追い出したい。 そろそろ追手が来るかもしれないし。 そろそろ・・・ そろそろオレは死ぬのではないだろうか? 「おちつけアザナ」 口からいろいろこぼれるのをこらえるため、口をおさえていても、主人公が傍にいるということがストレスになって、 主人公への怒りと、焦りと不安と恐怖がないまぜになって、頭が変になりそうだった。 いや、たぶんもうかなり頭がいかれてる。 ポンと頭に手をおかれ、自分を唯一この世界につなぎとめるものが“名”を呼んでくる。 それにこわばった身体がビクリと反応し、ふと我に返る。 周囲を見渡せば、いつのまにかオレはローの膝の上に座っていて、周りのクルーが心配そうにオレをみていた。 濡れた感触に自分の頬を触れば、上から降ってくるものでさらに頬と手がぬれた。 どうやら無言のまま泣いていたらしい。 ああ、しまった。途中から意識が飛んでいたようだ。 「そろそろアザナが限界だな」 『“泣き声”がずっとしてるんだ。耳にこびりつく』 「そうだな」 頂上決戦から主人公とジンベイを助けて船で治療をさせた。 魚人であるジンベイはさすがといったところだ。あれほどの巨大な穴を身体に開けられたのに、かなりのスピードで起き上がれるまでに回復した。 同じ場所で回収した主人公は、どこかで猛毒をあびていたらしく、本当に身体が限界を超えていた。 とはいえ、起き上がれるまでにはすでに回復している。 意識が戻ってからは、陸で木を殴ったり岩を殴ったり暴れている。 目の前で兄を失った悲しみにとらわれ、航海に泣き続けているのだ。 エースを呼び続けるその声が、森の奥からも今も聞こえてくる。 ずっとだ。 毎日ずっと・・・ おかげでオレの精神の方が先に崩壊しそうだ。 クルーをおいて船の中にいてもいいのだが、船の中にいてもあいつの声が聞こえてくるからたまったものじゃない。 * * * * * 世界から二度棄てられて、今度の世界では棄てられてたまるかと、人の温もりから離れるのが怖い――外見年齢幼児な精神年齢百突破済みな黒筆字(クロフデアザナ)です。 そんなオレがこの世界に来ていまだに好きになれないのがある。それが“主人公”という生き物だ。 前回の世界でオレは“原作”の邪魔になるからと、世界に消されたのだ。 主人公とかかわると、オレはまた世界から追い出されるのではと不安でしかたなくなる。だから原作キャラクターというのは好きじゃない。 なのに頂上決戦なんて呼ばれるエースをめぐった海軍と海賊の戦いに、オレの船長が首を突っ込んだ。 元七武海のジンベイと、主人公麦わらのルフィ。 ローは二人を戦場から逃がすのに貢献し、治療した。 主人公はたった一人の兄を失って、ショック状態を起こしていた。 話を聞くに、それだけが原因ではなく、あの戦場にたどり着くまでにとんでもない無茶をしまくっていたらしいと、戦場から共に逃亡してきた顔がでかいオカマが語っていた。 字『死ぬの?』 ロ「なんだお前。そいつがこわいんじゃなかったのか?」 治療が終わって手術室から出て着替えが終わったローに、邪険にされようとかまわずはりついていていたオレは、 白いベットの上で意識が戻らないままの主人公を無言で見つめていた。 それに面白がるように口端を持ち上げて、ローが話しかけてくる。 特に答えは期待されていない気もしたけど、ただ無言で主人公を睨むようにみつけるようにガン見しているオレに飽きたのか、ローはため息をつくと、オレの首根っこをつかんでベポに投げた。 ロ「治療の邪魔だ」 字『ロー。そいつ、どう?』 ロ「さぁてな。あとはこいつの気力次第だろ」 字『・・・』 きっとオレはひどい奴だ。 一瞬でも、主人公がここで死ねば、自分は安泰だなどと考えてしまった。 でも、そう思うほどには、オレ自身はまだ生きたいと思っているんだ。 原作キャラが傍にいると、オレが死ななくてはいけない確率が増える。それでも生きたいと望むことのなにがわるい? まだ、生きたい。 まだまだ・・・もっと生きていたいんだ。 そのために他人を犠牲にする――なんてことをするつもりはないが。 それでも、一瞬でも目の前の原作キャラクターに抱いた殺意は変わらない。 そんな自分の浅ましい考えが嫌で、自分の存在そのものが何だか恥ずかしくなって、ベポのオレンジのつなぎに顔をうずめて視線を傷だらけの主人公からそらした。 部屋をでるとき、追い出された部屋を振り返れば、一瞬だけローと視線が合った。 あれからいつも病室をのぞいてた。 先に目を覚ましたのは、内臓をかなり傷つけ身体を溶岩で見事に貫かれたはずの魚人ジンベイだった。 この世界の主人公は精神、肉体ともに負荷がかかりすぎたのか、なかなか目を覚まさなかった。 いつ起きるだろうか。 起きないつもりなのだろうか。 オレにはこの先のことも、原作のこともよくわからない。 今が原作にある内容なのかもわからない。 だから“生きたい”と主人公の彼が望むのなら。オレと同じようにまだ未来を夢見てあがき、それでも生きたいと願うなら。 見届けようと思う。 原作も主人公も。主人公の一味も。彼らはみんな、オレに恐怖を与える存在でしかない。 生にどん欲なまでにしがみつくこのオレにとっては、好きになれるはずのない相手。 だけどそのオレさえ笑って許してしまえるような――そんな悔いのない人生だったと、最期に言える生を送ってみせろと言いたい。 たかが一度の絶望で、つぶれるようなら・・・たとえ主人公であろうと、オレはもう二度と彼らに興味を見せない。彼らなど二度と見ない。 だけど、主人公は一向に目を覚まさなくて。 気が付けば、毎日のぞきにいっていたせいか、ローにあいつの世話を押し付けられた。 九蛇の女人島にしばらく滞在することになった時、あいつを看病する人間が変わっても・・・・毎日病室に行った。 ルフィ「エースはどこだぁぁぁー!!!!」 ようやく目を覚ました主人公は、目に留まる物すべてに八つ当たりをしはじめた。 そのまま狂ったように、兄の名を呼びながら森林破壊をする主人公に、痛ましいものを見る目でジンベイが見ている。 オレは―― なんだか腹が立っている。 字『・・・ロー』 ロ「断る。ひとりでいけ」 字『……オレ、死んじゃうよ?ひとりは、まだ、無理かな』 ロ「っち。ベポ。ついてってやれ」 ベ「アイア〜イキャプテン。ほら。いくよアザナ」 字『ありがとう』 ロ「お前も限界だ。このまま出発する。長居はするな」 字『一発殴ってくるだけだ』 この世界に来て、ずいぶんたった。 “世界に捨てられる”という経験をしたオレは、いまだ一人になることができず、いつも誰かの温もりが側にないとまっとうに息もできないままだ。 自分はいまだトラウマを克服できなくて、外にでるときは誰かに抱っこしていてもらわないといけないほど。 けれど孫のようなかわいいクルーたちが、自分を待っていてくれる。傍にいてくれる。 それだけで今は息ができる。 シャボンディ諸島で麦わらと出会ってからは、そんなに時間はたってない。 ローと主人公一味と億越えルーキーズの遭遇以降、オレはあまり精神面がよろしくない。 日々に怯えて生きることに、そろそろ疲れているんだ。 だからひとりでは、主人公のもとにはいけない。 どんなに腹が立っても。 情けないことに、オレはひとりじゃ、主人公に会いに行くことさえできないんだ。 どんなに手を伸ばそうとしても。片方の手だけは、誰かの服をつかんでいる。 否、空いたこの片方の手が、クルー以外のなにかに触れることはまだ怖くて不可能だ。 だって、オレの知る温もりが、すべて離れたら怖い。 シャボンディで主人公と会うまでは、地面に足をつけるのも怖くて、仲間から片手を離すなんて無理だった。両手でしがみついてないと、本気で過呼吸になりかけた。 面倒は見ていたが、彼に触れたわけではない。 船の外にこんなに長くオレがいるのははじめてのこと。今にもこの心臓が止まりそうなほど早鐘を刻んでいる。 それでもオレは主人公に物申す権利があると思っている。いや、言いたいことがあった。 《世界に捨てられる》――その絶望ははかりしれないほどだった。 物に触れるだけで、体中を痛みが走る。 人に触れれば、その触れた人からオレの記憶が抜けていく。 じわじわと絞殺されるようにゆっくりと精神をなぶられ、最期は一瞬だった。 だからせめて片手の届く位置に仲間がいないとオレは動けないから、主人公を殴りに行きたくても。自分で足を動かし自ら手を伸ばす勇気は持てない。 ローに一緒に来てよと頼んだが、こうして却下されてしまったのは、そろそろ歩く練習をしてみろという意味もあるだろう。 かわりにうちの船の航海士が、側にいてくれることになったけど。 おいでとベポに小さな身体を抱き上げられ、慟哭と木々が倒れる音がする方へ向かってもらう。 ジ「お主、きたのか」 森を破壊する勢いで暴れる主人公に何かを訴えかけていたジンベイの横に、ベポが立つ。 ベポにだかれたオレをみて、病室で見た子供かと、ジンベイが不思議そうにこちらをみてくる。 ベポがジンベイをみて、オレをみて、首をかしげる。 ベ「アザナ。もしかしてジンベイはいいの?」 字『ヤダ。無理』 ここにジンベイがいたのを知ってきたわけじゃない。 情緒不安定な今の自分では、人の気配は読めない。 だから、ジンベイに触りたくて来たわけじゃないと、ベポに弁解する。 温もりがあればまだ耐えられるとはいうが、誰の温もりでもいいわけじゃない。 卵からかえったばかりのひよこのすりこみと同じようなもので、もちろん誰かの温もりがないと怖いとはいえ、ハートの海賊団以外のやつはいてもいなくても同じだ。 主人公により近づけるからジンベイにすればいいのにと言われたが、仲間じゃないやつの服の裾なんかつかんでも嬉しくない。 ジ「わしがなんじゃい?」 ベ「アイアイ〜気にしないで。アザナは怖がりなんだ」 字『手の、届く範囲にいてよベポ』 ベ「歩ける?」 字『歩けるわけないじゃん。死ぬよ?』 ベポから離れたオレ死んじゃうかな!だって、本当はいつもどおり船室にこもっていたかった。地面に足をつけるのもこわいのに。外に出てきたんだ。それだけでも褒めてほしいぐらいだ。 ベ「・・・それ、アザナの。じゃなくて、もしかしておれの手が届く範囲?え?おれがあいつ殴るのか?」 字『ちがう。けど、でもどうしても殴りたくて』 大丈夫と一度自分に言い聞かせてから、主人公をとめようとするベポに首を横に振る。 字『オレがやる。ジンベイ。あんたも少し離れてて』 せっかくローが救った命。 なのにそれを捨てるように、主人公はそこらじゅうを殴りまくっては、喉が裂けるんじゃないかってぐらい叫んでる。 ベポには悪いけど少し暴れ馬に近づいてもらう。片手はしっかりオレンジのつなぎをにぎったまま、オレは暴れる狂う主人公に向けて―― 字『くたばれ主人公!!!』 ローからさずかりました【どんな猛獣でもあと一歩で永眠できるぞ☆くん3号】という強力な麻酔薬が入った注射を投げつけてみました。 え?能力を使うと思ったって?相手は手負いだぞ。必要ないだろ。 注射器は物凄い勢いで飛んでいき、そのまま逃げることもよけもしない――注射器やベポにも気づいていない主人公にブスっとささりました。 ドサリ お馬鹿が一名倒れました。 ルフィ「・・・・うごけねぇ!くそっ!!」 字『わーい。命中した♪(棒読み)』 ベジ「「・・・」」 ベポとジンベイが呆然と口を開けて、同じような顔してました。 オレは固まっていたベポを引っ張って主人公の手が届くぐらい傍まで歩み寄ってもらうと、 驚いたことにまだ主人公には意識があって、動かない体を無理やり動かそうとして地面に爪を立てていた。 その目はオレを射殺さんとばかりに睨みつけてくる。 エースはどこだとつぶやく。正気じゃないなぁ。 字『天誅!』 ルフィ「ぐえ!?」 ベ「ちょアザナぁ!?」 ジ「なっ!?ルフィくん!」 能力で服に描かれていた墨絵のカエルを具現化し、オレの顔と同じぐらいの大きさのカエルの置物を主人公の上に落とした。 主人公はゴム人間だから、覇気も纏ってない重さしかないただの置物は彼にダメージをあたえることはなく、見事にはねかえった。 跳ね返りはしたけど、衝撃はいったのだろう。潰れたカエルのような声が主人公から聞こえた。 そのまま置物はいずこかにふっとんでいったけど、役目を果たしたカエルは今頃水になって消えているだろう。 主人公の血走った目がオレをみたとのを確認して、ベポにしゃがみ込んでもらって、あいつに話しかける。 小さな身体のオレがしゃがめば今の主人公と視線が合うだろうが、いかんせんベポに抱っこされている状態だ。上から目線になる。 地面に頬を擦り付けて横に倒れている主人公がそのせいで、ギリギリと音がしそうなほど歯ぎしりをしながらこちらを見上げてくる。 軽く首を傾げれば、すぐに互いの視線があう。 主人公は包帯だらけなのに、傷だらけなのに。目だけが憎しみを込めたように、ギラギラしてる。 オレはローと出会った時、目が死んでると言われたけど。 こいつは逆にぎらついている。 それでも、主人公の――こいつのなかにあるもんと、この世界に来た当時のオレの中にあるものが同じに思えた。 字『ねぇ、絶望するのは楽しい?』 ルフィ「どけ!!おれはエースを!」 字『オレ、絶望するのに疲れちゃったんだ。 だから原作キャラを好きになったら、オレも世界に愛してもらえるかなって。頑張ってあんたを好きになろうって努力したんだけど…。逆にがっかりだよ。 オレは生きたくても生きれなかったのに。 あんたは、今死にたいなんて思ってる。 …ねぇ、そんなに死にたいならそのまま海にでも身を投げなよ。九蛇のひとたちやローたちに迷惑かけんな』 ジ「おぬしなんてことを。ルフィくんはエースさんをなくしたばかり」 ルフィ「エースぅ・・・」 字『しらないよ、生きてる奴の気持ちなんか。 一度、死んでみたらどう少年? オレはいつだって死に恐怖しか覚えない。もう死にたいとも思わないし、仲間を置いて逝くのも、もう嫌だ。・・・オレはね、“死にたくない”って気持ちしかわかんないから』 ――今のオレを構成するのは、絶望ではない。この世界で初めて得た温もりと居場所たるハートの海賊団だ。 この世界に、本当のオレを知るものはなにひとつない。 オレの肉体を生み出してくれた両親も、我が子のように育てた子供も友人も家も何もない。 世界そのものがない。 オレにはあっちの記憶があるのに。きっと向こうにはオレの存在そのものはなくなってるだろう。 オレを嫌っていた世界は、きっとオレという存在の痕跡をすべて消してるはずだから。 そうしてまたオレは幼い姿から繰り返している。この生を。 いつ消えるともわからぬ人生を。 いつ死ぬかわからないのは生きている者すべて同じ。だけどオレにはそれに条件が加わる。原作とかかわると死ぬかも、っていう可能性。 字『一人はたしかにさびいしね。オレはひとりがこわくて、いまだにこの手を“誰か”から離すことができないんだ。 うちの船長なんかすぐ邪魔だとかうるさいって言って、人のことバラバラに斬るんだよ。 指とか喉とか何度か行方不明になりかけたし。 でもねぇ、オレは船長が側にいると生きてけるんだ。 生きてたい。 仲間がいるから、この世界を愛しいって思えるようになった。この世界でみんなと生きて、一緒に行きたいって思うんだ。 あんたはさ、いつまでこんなところでウジウジしてるの? オレはあんたを置いてさっさと前に進むよ。いつまで立ち止まってるんだあんた。死んでどうするの? はっきり言うとオレは今すぐ死んでもおかしくない身だから、たくさんの人にも、世界にも生を望まれてるあんたがオレは羨ましくてしょうがないし、憎い。 そんなあんたをオレが“許せる”と思えるぐらい生きてみなよ。絶望するのは、疲れるし楽しくないからね』 オレは主人公を認めたわけじゃない。 認められるはずがない。世界に望まれて生き続けることが必然のあんたを。 これは手を差し伸べに来たわけじゃない。 手助けするつもりも背を押しに来たわけでも。 かといってけなしにきたわけでもない。 彼をどうこうするつもりはオレにはないのだ。 絶望しすぎて死にたいというのなら、暴れてないでとっとと自害すればいいんだ。 オレが死んだらきっとハートの海賊団の仲間を悲しませるから、オレは死にたいとは絶対思わないし、自殺なんかありえないけど。 オレは、主人公という男が、《アザナ》という存在を世界から消す鍵を持っていると知っている。 感覚的のものだけど、以前は原作が近づいてるから排除されたのだとも理解している。あれは、無理やり世界によって“理解させられた”の方が正しいだろうが。 今回も同じだと思えた。 そうさ。オレは《オレ》を消せるという相手を見に来ただけだ。 なのに。 その男が、ふぬけだった。 自分自信を痛めつけるように暴れてる。 まるで死にいそぐかのように。 それが無性に許せなかった。 なんで物語の主人公で、この世界に愛されていて、生きれる保証がされているのに、あいつは死のうとしてるんだ――って。 腹が立ったんだ。 オレは生きたくて生きたくて、いつも必死なのにさ。 主人公とオレ。自殺をしなくてもすぐに死んでしまいそうなのはオレの方。 なにせ異世界からの異物だからな。 それでもこうやって主人公に触れられるほど側にいるのは、もう心臓が張り裂けそうなほど、オレにとっては怖いことなんだよ。 お前に触れたら、オレは死ぬかもしれない。 こんなに近くにいることさえ、一種の賭けなのだ。 これ以上近づけば、オレが消えてしまうかもしれない。 でも。許せなかった。 生きることを放棄しようとしている目の前の存在に。 だからオレは、オレが今近づける限界の範囲で、あいつに近寄る。 足がすくみそうになったよ。 でもむかついてどうしようもなかったから、伸ばせる限り手を主人公に向けてのばす。 なぁ、死にたがりの坊や。 聞いてくれるか、オレの覚悟を。 オレはさ―― 字『オレは生きるよ。あんたはどうする?』 生きたいから。 主人公に触れてしまえば、へたすれば消えてしまいかねないオレの命をかけて、今この場にいる。 そんなこと主人公やジンベイが知るよしもないことだけど。 どちらが先に死ぬか。どちらかが生き残るのか。それとも二人とも生きるのか。 オレは今、大きな賭けをしている。 字『あんたは今、怪我をしてるからって、オレにも勝てないんだ』 ルフィ「!?」 字『お互い・・・弱いねぇ』 ルフィ「おれは・・おれは・・・・」 字『でもだからこそ先に進める。己が弱いと知っているから。より強くなろうと思うだろう?』 ルフィ「!?」 字『賭けをしないかモンキー・D・ルフィ。 オレとお前、どちらが長くこの世界で生きられるか。 オレはすぐ死ぬ感じだけど、今なら負けない自信あるよ。だっていまのあんたはすぐに死にそうだ』 オレは言いたいことだけ言うと、何かを考えるように地面に顔をつけたまま喋らなくなってしまった“ルフィ”の頭に、 再度具現化したカエルの置物(小)をだしてそれをのせてみた。 この手で一度殴りたくても、主人公に触れることは、オレにとって命を懸けること。 さすがに仲間に“置いて逝かれる”つらさを与えるには早すぎる。だから今この場でオレが命を懸けることは、そこまでは“恐ろしくて”できなかった。 だからカエルの置物を置いてきた。もちろん嫌味である。 ――きちんと“帰る”んだよ。自分の仲間のもとに。 それからベポに抱き着いた。 もういいや。 哀しい悲しいかなしい。 つらい。 そうだね。だれか死んだら悲しくて仕方ない。 だれかが側からいなくなったら、死んでしまいそうなほど怖いし、つらい。 知ってるよ、つらいの。 だから絶望する。 絶望して声を嗄らすまで泣けばいい。 泣いて泣いて泣いて・・・。 もう声も出なくなったら。 そうしたら前に進もう。 ちょっとずつでもいいじゃない。 悪いことなんなんてなにもない。 泣いちゃいけない理由が、逃げちゃいけない理由がどこにある? 字『いこうベポ。・・・帰ろう』 ベ「もういいのアザナ?」 字『いいっていうか・・・あいつ嫌いだもん。もうしらない』 麻酔がきれたのか、それとも薬が効きずらい体質なのか、背後で“ルフィ”が起き上がったのが見えたけど、きにせずそのままベポとその場を離れた。 ルフィ「くそぉ!!おれは弱い!何一つ守れねぇ!」 俵のように抱きかかえられたオレは、また暴れてる主人公にひとつ溜息。 バキ!とまた木が折れ、ドゴンと岩が砕ける。 ルフィ「くそ!くそっ!くそぉ!くそぉ!!!なにが海賊王だ!おれは弱い!」 ジ「ルフィくん…」 ルフィ「向こうにいけ!!ひとりにしてくれ!!」 ジ「そういうわけにはいかん。これ以上自分を傷つけるお前さんを見ちゃおれん。」 ルフィ「おれの体だ!勝手だろ!」 ジ「ならばエースさんの体も・・・・・」 遠ざかる主人公とジンベイの声。 その声を耳にしながら――― オレはベポにだきついたまま、モコモコした温もりをうけながら彼が歩くたびにくる振動を甘受しながら、目を閉じた。 しばらくして。 遠くで、一度だけ、戦闘音が聞こえ。 だれかが泣いているような声が聞こえた。 ルフィ「おでにも…。仲間がい゛るよ!!! ――あいつらに会いてェ!!」 『ただいまロー』 「やるじゃねーかアザナ」 『いや、もう無理。はっきり言ってルフィにはもう近づきたくない』 「っくっく。・・・“ルフィ”ね」 『なに?』 「お前が気づいてないならたいしたことじゃない」 『もうしばらく外に出たくないな〜』 「これを気にもう一度、船の外へでる訓練でもするか」 『せめてオレの心臓が落ち着きを取り戻してからにしてくれるか?』 「ふっ。まぁ、いい」 『じゃぁ。そろそろ・・・いこうか』 「やろうども!新世界へ向けて出港だ!!!」 |