【 君は別の世で生きる 】
〜海賊世界〜



03.偵察と遭遇





拾われてから、早くも数年がたったころ。
ようやくローが、グランドラインに入ることを決めた。





side [有得] 夢主1





オレは自分が思うより心が、かなり重症だったようで、はっきりいうと、いまだに一人で船の外を歩けない。
とはいえ、ようやく外には出れるようになった。
ただし、ひとりでどころか、いまだに足を地面につけられない状態でだが。

現状でいうと、あまり回復はしていない。
オレが歩く前提条件として、オレの視界に映る位置に必ずクルーの誰かがいること。人肌に触れていることが必須だ。
それだけでもやっかいなのに、問題は山積みだ。

船の外の食べ物を食べることにはまだ抵抗があり、地面に触れることもできない。
人の体温に触れていないと船以外の外ではひきつけをおこして、あげくパニック状態になる。
しかしオレは、他人に触れるなんてとんでもない状態だ。クルー以外の他人は触れないので、人肌というのは、もっぱらクルーのものと限定される。
これらが現状クリアしなければいけない最低項目だ。
他人に触れるなんて地面と同じように、いな、地面に触れるよりももっと無理だ。クルー以外は本当に無理。
っと、いうか、最近はあまり船からさえ進んで出ていない。
だって、いっても迷惑にしかならないんだからしょうがないじゃないか。

おかげで、外にいくときは、オレはもっぱらクルーに背負われてるか、抱っこで運ばれる。
この体は前の世界で、生きた“時間”さえうばわれ縮んだものだから、肉体の時間が前に進まず、成長しないようだとこの数年で判明した。 なのでクルーたちに運んでもらっている身としては、ありがたい。
ただしプライド的には悲しいなと思わなくもないが、そこは命あってのものだということで諦めている。
軽々とオレをかつぎ、荷物と同じように扱うクルーだが、爺としても接してくれるので、まぁ、悪くない生活である。


っというわけで。
訓練はしているものの、まだ外に出れない足手まといのオレは、グランドラインに入ってからはとんと人前(船の外)に姿をみせなくなった。
ただの人間不信というのもあるが、成長しないことがばれるのもまずいからね。
そのせいで、船長であるローやクルーたちが徐々に名をはせ、配書が次々にかかれていくなかで、いつのまにか政府は「こぐま」の存在を忘れてしまったようだ。
オレの手配書どころか「こぐま」の手配書さえない。



っで。荒波にのまれて、えんやこら。

グランドラインに入る前に、“殺気”への体制をつけることとなりました。
オレが“〈覇気〉のようなもの”をつかえることがわかり、船ではグランドラインに対抗すべく、オレからの〈殺気〉への耐性訓練が行われた。
少しの〈覇気〉ではたおれないし、たかが〈殺気〉ではうちのクルーはある程度尻込みをしなくなりました。

ローがたおしたい復讐相手についてもあらかた爺としてきかせてもらった。
だからオレは能力で、蝶の絵を具現化し、それを世界に放つことで情報を収集した。
ローの目的の人物は、グランドラインの後半の海、新世界にいるらしい。

ならば、いくしかないよな。
っと、船の中だけを行動範囲にしてるくせに、世界の情報だけはたくさん集めまくった。

そうこうしているうちに、主人公の名前が新聞に載るようになる。
ゾクリとしたね。その記事を読むたびに、始めは錯乱してました。
いまは、実物が傍にいないという自己暗示で何とかやっていますが・・・どうやら今の時代は、原作の時間軸らしく、オレがしる原作の“エヌ・エスロビー編”まであっという間に進んだ。
オレにはそれ以上の原作知識はないが、それでも主人公たちも進んでいるということはいずれどこかで遭遇してしまうかもしれない。
そのとき、オレは消えるのだろうか。
持っていた新聞がしわになるぐらい握りしめていたら、眉を持ち上げたローに、ROOMで首をもっていかれた。
首はそのまま看板の椅子の上におかれ、「少し落ち着け」となだめられた。
なだめられ方に若干不満を覚えたが、潮風にあたっていれば、自然といら立ちも不安も風にながされ凪いで行く。





―――シャボンディ諸島

グランドライン後半の海へ行くための、一番の難所の一歩手前の島。

そこにオレたちがたどり着くころには、主人公の賞金額がとんでもないことになっていた。
3億って、いったいその金額はだれが払ってくれるのだろうと思ってしまうレベルだ。
オレがまだ女で一般人だった地球という世界では、億をこえたら、それはもう国家予算レベルの話だ。
一つ前の世界では、あまりに金がなくて、息子に「雑草でもたべれるだけうれしいね」と言わせてしまったことがあるほどの貧乏生活を送ったことがある身だ。
うちの船長もたいがい2億なんて賞金をかけられているが、もうお金の価値観変わりそう。
いえ、まだオレのドケチ根性は残ってますがね。



さて。シャボンディ諸島に上陸するにあたり、いくつか問題があるわけです。
視線が痛いですね。
わかってます。オレですね。
できれば置いていってただけるとありがたいのですが・・・

「はー・・・まったく外に出る気がないのかお前は」

ないですね。
背中を押されるように連れてかれたのは、潜水艦の入り口。
無理だ!やめろ!という抵抗を繰り返すこと1時間。
無理やりつれていこうとするクルーにあらがって、必死で扉に張り付き、しまいには「ここは人攫いが多いんだ!オレが売られたらどうしてくれるんだ!!」と集めた情報片手に口を動かして論破した。
っというか、まだ地面に降りる勇気もなければ、クルー以外の人であふれた場所にいく勇気はなかった。
最終的に過呼吸を起こしかけまして、意識がやばくなりかけたところで、クルー数人と居残りが決定したしだいです。


念のため、島の情報を得るために、蝶の絵を2つばかり具現化する。
彼らが“見たものをこちらに映す”という能力を与えれば、蝶は具現化し、ふわりと飛び立つ。

オレの能力は特殊で、書いた絵に能力を与えるというものだ。描いた絵は、条件関係なく力を籠めれば具現化する。

こうやって諜報活動をしていたわけだけど・・・。
仲間たちが島に上陸したところで、もう一度同じような能力を与えた蝶をとばす。

上陸する前に事前にこの能力で調査はしていたが、新たな海賊が来ている可能性もある。
自分が傍に行くことはできないが、もう家族とも呼べる大切な仲間を守りたくて、偵察用の蝶をとばして、一頭はローのそばに。一頭は周囲を飛んでもらい情報を集める。
そうしているうちに、彼らがもともと描かれていたがいまは白紙となっている紙にさっそく映像が映る。

映し出されていくシャボンディ諸島の光景は、驚くことに約半日前偵察した時とは景色が様変わりしていた。
留守番クルーの膝の上で机に広げられた映像を見ていたオレは、目の前の状況に顎が外れそうになった。

人間攫ったり売ってるしてる奴らが半端なく多いからっていう理由で、オレ、狙われるからって隠れてたのに。
もっと違う危険がここにあったよ!

主人公モンキー・D・ルフィがいました。


しかも――

「なぁ、爺さん。これ、やばくね?」
『めちゃくちゃやばいな』
「ああああ!!!アザナさん!!!ちょ!?こっちの画像見てください!て、天竜人が!つか海軍までいやがる」
「あ、こっちにも別の億越えルーキーが」

なにこれ!?
あっちには天竜人がいるし、億超えルーキーが数人この島にきちゃってるし。
いや、むしろ勢ぞろいしてないか?
ゾロゾロとこの島に、この時期に集まってくるなんてどういう運命だ。
億超えルーキーがくるってことはさ、もちろん億超えしちゃってる主人公少年もいるってことで、オレの心臓がやばい。

始に情報集めを始めたのは、みんなの役に立ちたかったためだ。そして原作キャラの動向をうかがうっていう目的のために、新聞や手配書をみるようになったんだけど。
麦わら一味は本当にすごいよね。
彼らの懸賞金の上がり方って極端なんだよ。
新聞の事件とか彼らのルートを考えるに、彼らがしでかしたことは大体予測がつくけど。
しでかしすぎだろ?

やっぱし、原作キャラ怖い。


ちなみにオレが小耳にはさんだ限りで、現在この島にいる億超えは――

ユースタスキャプテンキッド:3億1500万ベリー
麦わらのルフィ:3億ベリー(一番あいたくない主人公という生き物)
魔術師バジル・ホーキンス:2億4900万ベリー
赤旗X・ドレーク:2億万2200ベリー
死の外科医トラファルガー・ロー:2億ベリー(うちの船長だぜ!)
海鳴りスクラッチメン・アプー:1億9800万ベリー
殺戮武人キラー:1億6200万ベリー
大食らいジュエリー・ボニー:1億4000万ベリー
カポネ・ギャング・ベッジ:1億3800万ベリー
海賊狩りロロノア・ゾロ:1億2000万ベリー
怪僧ウルージ:1億800万ベリー

――って。まて。全員いないか!?
さっきトランプ持ってる変なのとかみたような?
物凄く食べるピンクのがきんちょとかみたよ!はっ!?まさか。あれボニーだったのか?

こんな原作展開があったのかよ!?聞いてないよ!
オレが覚えてる《原作》は司法の島編までだーー!!


『そ、外に行かなくてよかったぁ・・・』
「船長たち大丈夫かなこれ?」
『一応、オレとローでお前たちを鍛えているから、生半可なことでは問題ないと思うが。念のため、いつでも脱出できるように準備は整えておけ』
「「「了解」」」

何が目的なのか。うちの船長は楽しそうに人間オークションなんかに参加していた。
なぜそんな場所にいるんだ!

《珍しいっすね船長がこういうところにくるなんて》
《おもしろそうだったからな》

『いや、よくねぇよ!』

蝶を肩にのせたままなので、ローのつぶやきが聞こえてきたが、アホかと言いたい。
もちろん受信専用なのでこっちの声は聞こえていないだろうが、なぜ海賊という輩はそういろんなことに首を突っ込みたがるのかわからない。
全体を見まわせるようにと、蝶をローから離し、会場の中を陰にまぎれるように飛んでもらう。
元はオレの作り出した墨で描かれた蝶なので、黒い蝶はみごとに陰に紛れ込む。

まぁ、まず会場の客の中に、ルーキーズの半分しかいなかったからよかったけど。
半分でも、一人でも居るだけで困るけどな!!
一人もいなくてよかったよ!!!!

それでも麦わらの仲間は船長以外のほとんど全員会場にいたし。
なぜにいるし!?
彼らがここにいるってことは、事件の予感!?

ロォーーー!!お前はオレと逃げろ!!
オレは三歳児にしてバリバリしゃべるしな!前回の世界の能力はきっと役立つし。
へたしたら珍しいっていう理由だけでオレら売られちまうよ!
っていうか、外に出てないけどなオレ。テヘ☆

あ、オークションがはじまった。
人魚が売り出されているいまのうちにこっそり逃げようよ船長!!
そうしよう船長!!オレたち、もう出港準備できてるよ!
じゃなきゃそろそろ主人公がきちまうよぉ!!!

こういうのフラグっていうんですよね。
オレは間接的な映像であっても主人公にかかわりたくない。
だというのに、突然天井が崩れまして。ええ、もうおわかりでしょう。映し出された画像の中に主人公が登場しました。
オレが最も警戒していた麦わら帽子本人が、天竜人による人魚落札が決まったと同時に、 まるでタイミングをみはかっらったように天井を破壊して主人公らしくド派手に登場してきたわけです。
なんとも見事な登場なこったで。
その瓦礫のせいで、あやうくオレの偵察蝶がつぶされるところだったので、やっぱり主人公は好きになれそうもない。

どうやらオークションにかけられていたあの人魚は、麦わら一味にとっては友達だか仲間らしい。
その人魚を助けに来たんだって。

って、あの八本足の魚人って、ナミの故郷のアーロンパークにいなかったか?自身はないがな。 なにせ原作知識は、何十年も前の記憶ではっきりいってかなりあいまいだけどさ。

どうでもいいけど、そうこうしてる間に天竜人が、ハチっていう魚人を撃った。
ハチは主人公の友達のようだね。
んーっと、魚人は敵じゃなかったのか?まぁ、いいか。
あ。ナミにしたしうちのことハチが詫びてる。
やっぱりオレの原作知識は正しかったんだ。
でも今は友達なんだなー。さすが主人公一味。心が広い。

っが、しかし。
あのクソはなたれ宇宙服な天竜人のせいで、主人公が怒り狂ってる。

オレ、天竜人やうちの悪人面の船長よりも“主人公”って生き物が嫌いなんだっていうか、怖い。
“主人公”ポジションって、絡まれやすくて、敵を増やしやすくて、あげくはやっかいごとにすぐに首を突っ込みたがるんだよね。
本当に厄介だよね。

っでだ。

こういうときにさ、余裕で暴走する人間っているわけだ。

麦わらの・・こと主人公が、友達のために怒り、そのまま天竜人を殴った。
もう一度言う。
天・竜・人・を・殴りやがった!!!!!
ありえない!!!!

あの主人公ばかなの?もうイヤーーーー!!!!!

だから原作キャラは嫌いなんだよ!!
無茶と無謀を地でいくんだからさ。
しかもそういうのができない奴は、事件に巻き込まれるんだ。
そうやっていろんなものを巻き込むのが、“主人公”ってやつだろ!?

っていうか、ルフィに殴られた天竜人のその父親らしきやつが銃を乱射してるのに、うちの船長は動かないってどうなの!?

『・・・逃げ惑う観客。暴れる麦わら一味。逃げないで不敵に笑ってるうちの船長・・・』

これからなにかありますよと言わんばかりですね。
偵察蝶をとばしていれば、会場内で慌てもせず座っているのは、みな億超えルーキーだけ。
思わずため息が出たのはしょうがないだろ。

こういう場合のやることってひとつだよね。
ローには座標をつけてある。
こちらは継続型のオレの能力で、その座標へなら影をつかって行き来ができたりする。
もう、ローを中心に船へ移動させてやろうかと思い能力を発動しようとして――。
映像の向こうのローと目が合う。
どうやら会場をとんでいる蝶へと視線を向けているようだ。
その口がおかしそうに持ち上がる。
あ、こういうときのローは、自分の欲望に忠実だ。
この腕を一振りすれば、オレの能力は発動するというのに。

《手を出すなよアザナ》

「とめられちゃったなアザナさん」
「さすが船長」
「あちゃー悪い顔してますねー船長www」

『―――少しでも不利になったら強制送還するからな!!』

唇の動きだけで告げられた指示に、いたずらを仕掛けようとする孫を見ている気分になってしまい、思わず手を下ろす。
本当は原作にかかわってきそうな主人公や億超えルーキーたちを全員まとめてあの世におくるくらいしないと、オレは安心できないんだけど。
かわいい孫や息子のようなやつらが、これから遊びたいのだと宣言するから。

とめようがないじゃないか。


クイっと視線であちらを映せといわれ、蝶が視線を動かすと、案の定主人公とその一味が暴れている。
つまり、全部“麦わら屋”にまかせちまえとのことらしい。
いや、でも・・・麦わら一味だけだと、容量悪いよ?
ローが動くないうから、がまんするけど。

それにしても。いつまで座ってる気なんだろう。

《“麦わら屋”の賞金額は?》
《たしか3億ベリーだったかと》
《ですね。黒筆屋の爺さんの情報なんで間違いないですよ》

船長、楽しそうだね。
顔が凄いことになってるよ。
クルーもまるで自分のことのように胸を張ってオレの名前を言うのやめろ。恥ずかしいだろ。

ちなみに外では一時「こぐま」と呼ばれていたオレだが、極力小さいままのオレの存在を公表したくない船長の考えで、クルーたちからは「黒筆屋」とよばれている。
普通にオレの苗字だけどね。忘れてると思うけど、オレ“黒筆字”っていうのが本名ですから。
だが、あまり呼び慣れてないので、その名で褒めるな。照れるだろうが。


名前のことはひとまず置いておき。
オークション会場は、すごいことになっている。

あ・・・。またトビウオがお空から飛び込んできた。
トビウオといっても人が軽く数人乗れるぐらい巨大なやつで、ハンドルとか鞍とかついている時点で、乗り物ですね。って感じのやつだ。

今度は骨と美女が降ってきた。
美女は・・・あの顔は、ニコ・ロビンかな。手配書どうりだね。
続いて鼻の長いのがおちてきた。
あれはオレでもわかる。グランドラインに入る前のキャラのことはバッチシ覚えてる。あの鼻はウソップだな。

これで麦わら一味全てかな?
原作メンバーフルでそろったところを生で見るの初めてだ〜。

っで?

『なぁ、動いてるあの骨は何だ?』

思わずガンミしてしまった。
どうやら主人公は骨までクルーに迎え入れたようだ。
それにしてもあの骨は愉快だ。っというか、骨が動くな!喋んな!非常識だー!!

しかも今気づいたが、ウソップのやつ、天竜人のおっさんふんでるしよ。
怖いもの知らずだなぁ。

さすが主人公一味。



客は逃げ出し、オークションの護衛兵っぽいのと麦わら一味との戦いはつづき

《急がないと軍艦と大将がきちゃう!?》

敵を蹴散らしつつ、バチバチ雷を棒にまとわせながら叫ぶナミに――

《海軍ならもうきてるぞ“麦わら屋”》

うちの船長が観客席に座ったまま会話に参加した。

《なんだお前?なんだそのクマは》

ローの言葉に主人公が振り返り、そして彼の視線はローの横に向かう。
ああ、やっぱりベポに視線が行くよね。
グランドライン後半の海に暮らすミンク族という種族らしいぞ。
見た目はただのしゃべる白熊だがな。

ああ、それにしても偵察蝶、もうちょっと別の場所映して。主人公のアップとかマジやめて。
見てるだけなのに、こわくて、全身の血が下がっていくようで身体がふるえるのが止まらない。

主人公なんてものと、面と向かって顔を合わせたら、間違いなくオレは世界に消される。

オレが恐怖と戦っている間も、ローたちの会話は続いている。

《海軍ならオークションがはじまる前からずっとこの会場を取り囲んでる。
“誰”を捕まえたかったのかは知らねェが》

《…知っててここにいるのかよバカ船長ぉ〜!!って、黒筆屋の爺さんが泣くよな》
《し!だまれって。声帯抜き取られるぞ》

微かにうちのクルーのつぶやきも聞こえてくるが、ローの一睨みで彼らは口をつぐむ。
というかね、その通り。オレがその場にいたら、泣いてる。
むしろさっさと逃げてる。

《麦わら屋。あいつらもまさか天竜人がぶっとばされる事態になろうとは、思わなかっただろうがな》

《…あなた、トラファルガー・ローね。
ルフィ。海賊よ、彼》
《クマもか?》
《こっちの白クマも俺のクルーだ。
ふふ。おもしれェもん見せてもらったよ麦わら屋の一味》

ロー、ニコ・ロビン、主人公と会話が進む。
なんでうちの船長は主人公と会話なんかしているのだろうか。

紙に映し出される映像に震えていれば、居残り組のクルーがオレの頭をグリグリ押さえつけて椅子の向こうに沈める。
嫌いなものは見なくていい。と、そういうことらしい。
大人しくクルーの白いつなぎにだきついてぎゅぅっとしがみついて、顔を埋めるようにして机の上の映像から目をそらす。

映像の中のうちの船長は、楽しそうに麦わらたちと言葉を重ね、そうこうしているうちに人魚さんが「あます」と謎の語尾をしゃべる天竜人の女に殺されそうになって、女が勝手に倒れたかと思ったら、壁から白いひげの老人が現れた。
続いて巨人が現れる。

情報収集がてら、手配書見るのが最近の趣味なんだけどさ。
あれ、シルバーズ・レイリーじゃん。
あの海賊王の船に乗っていたっていう有名人。
ってか売られそうになってたのかあんた!?

レイリーみたいなひとには、この偵察蝶はあやしまれてもおかしくない。
これはまずいと、視線が合う前に、麦わら一味を映さないようにとこっそり会場の隅へ。影の中に逃げ込ませる。
きっとまだだれも蝶の存在には気づいてないはずだ。

ちょぉーっと、レイリーと視線が合ったが、それは無視だ!無視!!

レイリーは知人だというハチという魚人のことを助けてくれたことを麦わら一味に感謝したあと、オークション会場を睨みつける。
それと同時にあふれた覇気が、麦わら一味以外の余計な敵の意識を一瞬で刈り取っていく。
億超えルーキーズとその一味どもだけが、客席でかろうじて意識を保っている。

っが、うちのクルーは全員余裕そうな顔をしている。 これはオレが〈念能力〉と本気のさっきとやらを加えて鍛えたので、純粋な殺気や覇気にもかなり免疫がついているためだ。
他の海賊たちのなかには一人は必ず倒れたりふらついていたりしていたが、クルーのだれひとり倒れることも意識をもっていかれそうになることもなかったので、ローはひどくご満悦そうな顔で口端を持ち上げた。
冷や汗一つなく全員笑顔とか。うちだけが全員無事だとか、ドヤ顔をしたくなる船長の気持ちがよくわかる。

レイリーが放った覇気は、オレが以前いた世界の〈念》の生ぬるいバージョンって感じだから、オレ自身は余裕で耐えられるんだけど。
それでもオークション会場にいたほとんどが倒れたのだった。
意識がある者も多くが冷や汗を浮かべているほど。
まだまだあまいねぇ億越えルーキーや。

それにしても、すごいなあの威力。
さすがは元海賊王のクルー。笑えるぐらい怖い。

「覇気ってこんなすさまじいもんだったんだなー」
「うわー観客ほとんど倒れてんじゃん」
「なぁなぁアザナ爺さん、あの酔っ払いみたいな爺って何者?」
『冥王レイリー。元海賊王のクルーだ』
「うへ!?そんなのと船長たちやりあってんの!?」
「覇気こわい。チートすぎる。それに耐えきったうちのクルー最高!!」

覇気――オレが以前使っていたようなオーラをどうこうする技はないかなぁって調べてる時に、覇気っていうのがあるって本に書いてあった。
ひとの意識を奪ったり、悪魔の実という能力を無効化したり、強化したりする“気”の技のひとつ。
前回の世界では、拾って育てたオレの息子は、殺気の塊のような存在だったから、殺気とか威圧感とかには、耐性ついてる。
そのオレがうちのクルーを徹底的に“気”に関してはしつけたので、ハートの仲間たちは無事だ。
だが他の海賊団のやつらは、まだ覇気について詳しくしらないようで、起きているものもみんな冷や汗かいてる。
なにしてくれちゃってんのあの爺さん。

っていうか、オレ、レイリーよりも、あそこの麦わらには会いたくないな。
だって〈原作〉の中心キャラにあったりなんかしたら、また世界から弾き飛ばされちゃうかもしないじゃないか。

そう思って、オレを“生かす”って言ってくれたローに、主人公にだけは近寄らないでくれって・・・あれほどお願いしたのにぃ!!!
現在進行形で、めちゃくちゃ関わってくれちゃってるし!!!

ひとまず、お留守番組でよかったと思った。
心の底からそう思う。

だがしかし。聞こえないとわかっていても言わずにはいられないことがある。

『船長ぉ・・・あんた何してくれてんだよ』

映像を見続けているうちに、思わずオレは頭を抱えた。


あれほど〈原作キャラ〉と関わらないでくれって、知ってる限りの【ONE-PIECE】知識をロー教えたのに!!
麦わら一意味にはかかわらないで!と口をスッパクしていったのにヨォ!!

あの後、人魚のほかに、ちゃっかり鍵を見つけてきたロボット人間(フランきーというらしい)が商品の人間たちを解放した。
だがそこで、会場の周辺を取り囲んでいた海軍がついに砲撃しかけて来たんで、さぁどうするかってことになるやいなや、 うちの船長と主人公とユースタス・キッドが、それはもう楽しそうに出て行った。
その間にオレたちも退散ってことになったんだけど。

『あーもう!!勝手にやってくれよ!この億超え三馬鹿ズどもが!!』

喧嘩をしながら億越えトリオが、それはもういい笑顔で会場の外へと向かっていくのだ。
受信専用に偵察蝶を設定したのをこれほど後悔したことはない。
せめてオレの声が届けばなんとかなっただろうか。
いや、無理だろうな。

ユースタス・キッドの売り言葉を買い外に出ようとした、億越えキャプテンズたち。
誰もがあくどすぎる顔をしていて、さっきのレイリーの覇気の方が威力があったと突っ込んでいいのか微妙だった。
若いって・・・すごいねと、思わず生暖かい視線を向けるしかできなかった。

とりあえず今船にいる居残り組が思ったのは、間違いなく「あの場にいなくてよかったー」という一致した意見であった。















土壇場ケッコウ。それはいいいんだよ、それはさ。
オレら留守番組クルーはその戦い、生暖かく船から見守ってるよ。
うん。オレたちを巻き込むことなく、勝手に戦ってくれ。
だけどね。
ひとつ、いいかな。

『・・・・ど、どうしよう!?!?!!』

偵察蝶を会場から脱出させようとしたところ、いつのまにいたのかレイリーにぐわっし!と捕まえられた。

ここで能力を解除すると水に戻っちゃうし、誰かのなにかの能力だってばれちゃうし。
羽をつかまれたら、ふつうの蝶と違うって違和感枠かもしれないけど。
いちおうやさしく包み込むように、大きな手に包まれているので、たぶん問題はないはずだけど。

ちょっといいですか船長。
偵察蝶がつかまっちゃったんですが、どうしたらいいでしょうか!?








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