04.オレたちは疾しり始める |
-- side オレ -- 【、青の団って覚えているかい?】 【ああ。いたねぇそういうの。それがどうかした?オレは関係ないよね?】 【…おまえ、そこのアジトふっとばしておいてよくいうよ。 まぁ、いい。そいつらの残党がいるらしいぞ】 【ほうほう。つまり事件ですね?】 【死ぬなよ】 【う〜んん。それはあぶないかもなぁ】 【おまえはやたらとまきこまれるからなぁ。まぁ、生きて戻ってこい。 お前の葬式なんか出たくないからな】 【りょうかいりょーかい。兄ちゃんはドンとかまえてまっててよ。意地でも生きて辿り着いて見せるからさ】 【大人しく待っているさ】 ガタガタと列車が揺れる。 セントラルから呼ばれた気がしたので、「いまからそっちいく」と、セントラルにいる兄ちゃんに連絡を取った。 兄ちゃんは今、セントラルにいて、むかしからオレがたおれるたびによく病院へ担ぎ込んだ。 おかげで母さんや父さんからは、“兄ちゃん”または“セントラル”イコール“大きな病院にオレがいく”という認識となっている。 身体が弱いオレにしてみれば定期健診のようなものだ。 田舎にはそれほど凄い医者がないから、いまじゃ実家を離れたときの保護者として兄ちゃんの名が良く上がる。 今回は母さんにきっちり兄ちゃんのところいってくると電車に乗る前に告げてあるから、母さんたちもそれほど心配せず見送ってくれた。 ただし病院には行けと言われ、兄ちゃんには世話になるんだから手土産だけは忘れるなと指示された。 『“あぶないからくるな”だって〜。兄ちゃんがオレに危ないだって』 電車に乗る前の電話の会話を思い出し、たしかに“この列車でなにかおこるかも”なんて思った。 兄ちゃんが心配性なのか、それともオレが巻き込まれ体質なのか。 どちらにせよ、兄ちゃんは危ないから今は来るなと言ったが、連絡した時にはもう乗車チケットとっちゃってたし、払い戻しだけはもったいなくて嫌だからと言えば、兄ちゃんにため息をつかれた。 でもねぇ、オレなのか兄ちゃんの勘がいいのかはわからないけど、あのひとが「ああ言う」ときは、なにか起きる。 『でも、もう乗っちゃったし〜』 一定のリズムについ眠気に誘われそうになる。 窓の枠に頬杖を尽き、流れる景色と穏やかな空気に思わず和み顔が緩む。 斜め前のボックス席には、鎧と金髪の少年が騒いでいる。 オレのいるボックスとはまた別のボックスには母さんに似た黒髪の美人な女性が、興味なさそうに窓の外を見ている。 いわずもがな。前者はエルリック兄弟だ。 これが兄ちゃんの言葉に真実味を持たせ、なおかつ“この列車でなにかおこるかも”と思わせた原因だ。 だって彼らはこの世界の主人公だから。 彼らはオレに気づいていない。 そりゃぁ、気配消してるわけでもないし、視線を向けているわけでもない。どこにでもいるただの乗客その1でしかないのだから最っもだ。 それこそがオレの望みだからかまわないんだけどね。 むしろここで主人公と遭遇するとは思わなかったよ。 オレ、セントラルに何の目的もなく向かってただけなのに。 まぁ、気付かれないなら、巻き込まれることも少ないだろうからいいけどね。 そう。大切なのは原作破壊でも介入でもない。オレが楽しければ傍観だろうとなんだろうといいので、自然とあがってしまった口端をかくすようつばの広い麦藁帽子を深くかぶる。 黒色の麦藁帽子は、身体の弱いオレを考慮して母さんが注文したもので、日差しをよりさえぎれるようにとふつうのものよりつばがひろい。 誰の趣味なのか、帽子についた青いリボンには、リボンよりさらに青い蝶の飾りがついている。 そのままオレは椅子にせをもたせかけて、帽子を顔の上に載せて光を遮ると、ひとねむりすることにした。 旅をするには脆弱なこの身体では、休息をこまめにとらないともたない。 いつ熱を出して倒れてもおかしくないのだ。 ゆらりゆらりと意識がまどろみかける。 そうこうしているうちに、なんだか周囲が騒がしくなって、身体に異変を感じて目をあけた。 なんだか物凄くだるい気がした。 身体は熱くて、熱が溜まってるみたいで、だるくてたまらない。 もうこの身には、疲労が出始めているらしい。 やべぇ。これじゃぁ、兄ちゃん家に遊びに行くのではなく、兄ちゃんによって病院に連れてかれる。 と、焦っても、身体が鉛のように動かないのでどうしようもないが。 そこでふと、身体が何かに触れているのに、うっすらと目を開ける。 チャキっと音を立てて、頬に何か冷たいものが当たった。 それと同時に、野太い声がいくつか上がるのが、もうろうとしている意識の中に何とか響いた。 肝が据わってるな、とか。 ふざけてるのか、とか。 頭に風穴あけられたいのか?とか。 ぶっちゃけ耳元でいろいろ言われているのですが・・・。 ああ、オレですか。オレのことですか。 肝が据わっているのではなく、起き上がれないだけですが。 まぁ、いい。 きっと主人公さんが何とかしてくれるだろう。 オレの名は・カーティス。 ただいま全国美味い物めぐりの旅の途中であり、セントラルにむかっていたのですが、困ったことに持病の発作に襲われ全身から力が入りません。 こういうときに限って薬を持ってきてない。 バカじゃんオレ。 ってか、薬をもらいに行くために列車に乗ってるようなもんなんだから当然っちゃ当然だ。 「いつまで寝てるきだてめぇ。起きやがれ」 『…意識は、あるんですが…おき、れなくて…』 ガタガタと揺れる電車の中は、いつのまにか変な緊張感と、騒がしい声にあふれていた。 席も結構すいていたし、一人でまるまる占領して、固い椅子に寝そべるようにして寝ていたら、そのまま発作が起きたオレ。 少し熱っぽいなとは思っていたけど、次に眩暈がして、肺がぎゅ〜ってなったように苦しくなって、次第に息をしてるのがきつくなる。 うまく呼吸ができなくて、酸欠気味な脳のせいで意識がもうろうとする。 汗もきっとたくさん出ているのかもしれない。 なんつったかな?たしか医者は母さんのように内臓をもっていかれてるわけではないと言っていたが、まぁ、先天的なもので、なんとかっていう病気であったのは間違いない。 オレはもともと別の世界にいたが、どこぞの愉快犯な真理によりつれてこられた。 その際にこちらの世界で新しい肉体を得る条件として、体から“機能”をうばわれた。 それが生まれるための代償だった。 日に長く当たりすぎればそのまますぐに熱を出すし、雄たけびをあげれば喉が裂けて血が出る。 もともと脈が人より遅いらしく、激しい運動をすれば、血の流れはおかしくなり呼吸器官や肺がそれのせいでうまく作動しなくなり、空気が入らずぶっ倒れることしばしば。 ぶっちゃけ世界はオレに生き延びてほしくないらしく、すぐにでも死ねとばかりに身体のいたるところを健康体とは程遠くなるよういじくられている気がする。 普段は原作介入ではなく、自分の趣味である料理の腕を上げるべく、いろんな国のレシピをもとめて旅をしている。 しかし、やはりというか、その多くを病院ですごしている。 行く先々で倒れては担ぎ込まれるのだ。 目を覚ましたら次は白い天井でした〜なんて見慣れすぎて、ちょっと悲しくもなるというもの。それをみるたびにオレの中で絶望と気力が下降し、鬱が悪化するのだが…。 それで死のうとは思わないがな。 だれかの掌で踊った挙句、それで死ぬなんて、くそくらえだ。 っで、今回は、兄ちゃんに、会いに行くと話したら、熱さましやらなんやらの薬が不足しているのに気付かれた。電話で気付くってどうなんだろうな。 で、そのまま薬をもらえと、あげく定期健診をするように兄ちゃんに言われ、しかも無理やり予約を入れられた。 そんなこんなで、セントラルまで行く予定だったわけで。 そこで、なぜか乗った電車がハイ♪ジャック☆ 笑えネェな。 邪魔な乗客は後ろに移動しろと言われているのだが、起きるに起きれず、座席の上に転がったままでいたら、ハイジャック犯の一味と思われる奴らにみつかった。 そりゃぁみつかるわなとため息をつきたくても、でるのは音のない掠れた粗い息だけ。 うんうん。わかってるよ。 オレって本当に運がないんだよね〜。 兄ちゃん、やっぱりオレ、なにかにまきこまれるみたいよ。 ほら、前世なんかはトラブルメーカーの眼鏡名探偵小僧に憑かれてたし、よく死体やら殺傷事件に巻き込まれるし。 今日だって、たまたま薬が切れてる時に発作とか。 よくあるんだよね〜。まじでさ。 鬱だ。 ああ・・・いやだいやだ。 人生まるっとぐるっと、超めんどくせぇ。 体に力が入らったら、殴り飛ばして、皆さんの急所を蹴り飛ばして、刃物の餌食にしてやるのにさ。 それだけの能力はあるんだ。 ただし、身体がその体術についてこられなければ意味ないけど。 まじ、めんどくせー。 ねぇ。 …もういいよね? 意識吹っ飛ばしてもいいかな? ・・・。 よし。 いいということにしよう。 グッドラッ―――。 「その子は具合が悪いんじゃない?わたしがみるわ」 さぁ、意識を飛ばすぞ!と思って目を閉じようとしたら、なんかいかした声がかかり、先程までの煩い声と冷たい銃のかわりに、ふわりと柔らかいものが頬に触れた。 なんだろうと閉じかけの瞼を気合であけると、目の前には黒い髪のお姉さんがいた。 黒い髪とか、うちのかあさんそっくりで大好きだ。 どうやら膝枕をされているらしいと、彼女の体制から理解する。 柔らかいと思っていたのは、どうやら彼女の手のようで、見知らぬはずの彼女はオレの顔にかかる赤い髪をはらって撫でてくれていた。 実はそのあとも意識があいまいで、あまり詳しいことはわからないが、オレたちは動かせないからと、人質あつかいにされたらしい。 そのままお姉さんに連れられ、なぜか一等車両にお世話になることに。 オレとお姉さんは人質。 同じ車両にいたお偉いさんは取引材料に。 オレとお姉さんはいざというときの、一般人を守らなければいけない軍に対する交渉材料予備として。 そう、側にいたお姉さんのとっさの機転というか、彼女が銃からかばってくれたので、それのおかげでオレは殺されずに済んだらしい。 まじ、セーフ。 っで、他の人質はともかく、早々に先頭車両の方に連れて行かれたらしい。 なんでオレがつれていかれるの? オレ、いみあるの? 病人の方が足手まといで邪魔じゃないかと思ったら、病人だから逃げる心配がないと言われたわ。 きがつけば…目の前には、いかにも偉そうなおっさんが耳から血を流していて。そのご家族らしき人が固まって怯えていて。 オレはお姉さんに膝枕でお休み中。 え? なんでオレつかまってるの? っていうか。人質って何ですか!? 『あっちゃん。なんでこんなところにいるかな?ただ寝てただけだよね? ってか、おっさんはあっちゃんになにかようかな? オレはセントラルにむかうとちゅうでね。そうそうおっさん、オレの親父よりけぶかいねぇ〜◇あ〜、頭がぐるぐるするぅ〜』 「大丈夫かい坊や?」 『だめ…。気持ち悪い』 支離滅裂です。 一人称がなんかおかしくなった。オレってばそれほど動揺していたのか。 途中でまた発作が起きてしまい、それをみた犯人たちが、オレとお姉さんだけ隣の個室に移された。 うん。広くなって何より。 存分に苦しめます。 そんなんで暴れるように胸を押さえてもがき苦しむオレは、床を占領してうめいています。 せっかく母さんがくれた大き目な麦わら帽子は見当たらなくて、どうしたっけなと思いつつしばらくしたら体力不足で意識がとんだ。 お姉さんの心配そうな声が最後に聞こえて、お姉さんの髪色が母さんを思い出して綺麗だなと思ったら、視界まで黒くなった。 ********** バチッという音と共に空気が動く気配を感じ、意識が浮遊する。 なにかがすでに完成されている“理”に干渉している気配。 それはきっと錬成陣の反応。 反応音に続き、どこかで聞いたことあるような男の声が、オレたちのいる車内に響いた。 「〜の皆さんは物陰に〜」 なぁ〜んて声がした途端。 嫌な予感がするなぁと思っていたら、突然水が車内を覆った。 ぶっちゃけここの個室の扉は空いていたので、廊下にあふれた水が勢いよく入り込んできた。 オレはやっぱり動けなかったけど、お姉さんに咄嗟にだきしめられ守られた。 やっぱりこのお姉さんは、オレに母さんを思い出させる。 そうして事件はオレが意識不明で要領を得ない間に、なんやかんやと終わってしまったらしい。 事件は解決した。 オレたちは水びたしになった。 『う〜んと・・・』 ちらっと自分の格好を一瞥して、横にいた同じような格好のおねぇさんに視線を向ける。 『おねえさん』 「なにかしら坊や」 『逃げそびれちゃったね。これ、風邪ひかないかな』 「あたしはともかくあんたはちゃんとふきなさいな。ほらタオルあげるから」 原作が楽しみ〜とか、主人公たちをおちょくってやろうとか、原作介入して仲間になるんだ!なんてことをしようとして列車に残っていたのではなく、本当に本当で、逃げ遅れた。 結果、エドワード・エルリックによる放水にまきこまれてびしょびしょだ。 隣にいるのはご存じ先刻から共にいる女性。 彼女は偶然乗り合わせ、そのまま鋼の錬金術師に興味を持ってこっそり二人の様子を見ていたようだ。 そこでオレとともに人質になり、あげく突然の放水。 それにより被害は甚大。 ちなみになぜか、一緒にびしょぬれになったオレに彼女は優しい。 自分はこんなことじゃ平気だと、荷物からタオルをだし自分のことそっちぬけで、どうしようもない状態のオレの髪やらを拭いてくれた。 あたしはこのくらいじゃ風邪ひかないからと。 やだ、このひとやさしい。 『くすぐったい』 「風邪ひくわよ」 『お姉さんはいいの?』 「いかにも病弱そうなあんたと比べるんじゃないわ」 『わぉ。おねえさん、母さんに似てる!優しいのに強いところ』 それからようやく駅に着いたときに炎の錬金術師が到着して、周囲がさらに騒がしくなった。 オレたちは取調べとかはなく、けがの手当てをと言われたが、けがは一切なかったので、すぐに解放された。 熱?あんなに水をかぶったらいやでも下がるよ。 オレは途中まで方角が同じだというお姉さんと共に歩き、彼女に礼を言って駅を出た。 うん。オレの料理人への旅はまだ終わらない。 それに病院行かないと、医者に怒られてしまう。兄ちゃんに連絡だ。 だからね―― 『じゃぁねラストさん』 笑顔で手を振っておわかれ。 彼女もクールな笑顔で手を振ってくれた。 「あら。わたし名乗ったかしら?」 ちょっとだけ違う流れ。 でも原作を大きく動かすわけでもなく。 ただただ偶然オレたちは出会っただけ。 だってオレは自分が楽しいと思うことと家族のこと以外では動く気はないのだから。 『にいーちゃーん!ぐはっ!!』 血はつながってはいない。 簡単にいうなら、近所の兄ちゃん的な、「にいちゃん」である。 その兄ちゃんの姿を見つけ、勢いよくとびつけば、強く飛びつきすぎて息が一瞬つまり自分にダメージがきて、はげしくむせた。 そんなオレに兄ちゃんは度肝をぬかしたような顔でオレを見てきた。 「おそい!!って、なんでお前濡れてるんだ!?っ!!とにかく病院だ!病院!!!!」 『まって兄ちゃん!!まってくれって!!ギャー!!!!』 お姉さんにタオルで拭いてもらえたが、かすかに濡れているのは変わらなくて、それに「がしけってる!!」と兄ちゃんが騒いだ。 そのまま担がれて兄ちゃんに病院につっこまれた。 叫んだせいで途中で喉を傷めたらしく、ゲホゲホと咳き込んでいたら、今度は肺までいたくなって……兄ちゃんが「しっかりしろ」と叫んでいるうちに気を失った。 起きたらやっぱり、白い天井だった。 |