02.入学に備えて買い物です |
ホグワーツ魔法学校の入学式が近づいているため、ダイアゴン横丁は入学を控える子供たちで賑わっている。 そんな中、背の低い二人のこどもが、人ごみを縫って歩いている。 肌は白く、淡い金の髪は銀にも見える。 色彩が薄すぎるそれは、生まれつきのものだろう。 二人とも前髪を下ろしているため表情はわかりづらいが、よく似た顔立ちから、二人が兄弟か双子であることがわかる。 しかし片方の後ろ髪が長い方の少年は、人ごみに酔ったのかぐったりぎみでひっぱられるようにヨタヨタ歩いている。 「う〜」だとか「たおれる〜」などと、はいごから聞こえてくる自分と同じ声に、人ごみをわけ進んでいたショーットカットの方の少年の眉間の皺が一つ増える。 双子の姓を【マルフォイ】といった。 ショーットカットの方が兄で、名をドラコ。 後ろのすそが長めの髪をしているのは弟の。 「もうすぐだ。これが終わったら帰れるからもう少し頑張れ」 「酔ったぁ〜・・・」 「あとすこしだ」 ドラコはうだうだ文句をいう弟に小さくため息をつきつつ、がなぜこのような状態になったか理解しているため、苛立ちはあるものの怒鳴り返すことはしない。 たまにこどもすぎる態度や我儘をとられるとうざくなってくるが、それも自分に甘えているのだわかるときつくいえないのだ。 は、生まれつき身体が弱い。 それもこの魔法界において最悪なことに、の身体は魔法力を受け付けない。 正確には、魔法との相性がよすぎるため、必要以上の魔法力が身体に流れ込んでしまい、体調を悪化させるのだ。 医者が出した結論は、濃すぎる血がもたらした天性的な遺伝子以異常。 ときにそれは目に見えるほどの肉体的な異常さえひきおこす。 の場合は魔法力への抵抗力と、体力の低下などの症状が起きている。 純血主義の両親は、魔法もつかえない弱いこどもには見向きもしなかった。 を亡き者にするかのような両親は、かわりのように兄であるドラコだけを両親はかまった。 ゆえにこの弱いこどもを育てたのはほとんどドラコといっても過言ではない。 しかし二人が魔法界をでることはできず、さらにはにとって悪いことに、これから二人はホグワーツ魔法学校に入学することが決まっていた。 両親の行動も、この人ごみにもため息ものだが、ドラコからしてみればそれに反していまにも倒れそうな弟が気になって仕方がなかった。 【オリバンダーの杖】そうかかれた店にはいろうとした瞬間、片割れが青い顔をさらに白くさせ「うえっ」とうめいてその場にうずくまってしまった。 それにハァ〜とため息を吐き出し、同じ顔をした弟を支えるように肩に腕を回す。 「しっかりしろルー・・・」 「ディー・・・オレもう無理そう。吐く。この店、他の店に比べて魔法力に満ちてる」 「ああ、だろうな」 ディーと呼ばれた双子の兄は、淡い金髪の長い前髪に隠れて見えないが眉間にしわを寄せている。 「早くすませて帰るぞ」 「ぅ、うん・・・」 同じく淡い金髪だがくせっけの方の少年が、二日酔いですといわんばかりのぐったりした表情で頷く。 ドラコはそんなにもう一本眉間に皺を増やすと、ざっと視線をめぐらし奥に人の気配があるのを察知すると「おい、亭主。いるんだろう」と声をかけた。 「ようこそオリバンダーの店へ」 「僕たちの杖を頼みたい」 「おや、これはめずらしい。お二方は双子ですかな。ウィズリー家以来ですな」 「そんなことどうでもいい。それよりこいつをやすませてほし…」 「いや、待ったディー。先に杖だ!オレはさっさと家に帰りたい」 「わがままを言うな」 スゥーっとはしごをすべらして奥から亭主があらわれ、すぐに双子の様子に気づいて頷くと椅子をすすめる。 ふわふわと浮いてきた椅子に、ぶぅっと顔を膨らませながら青い顔をしていたが腰を下ろす。 それにようやくほっとしたように、ディーが息をつく。 そんな二人に穏やかな表情を向けてオリバンダーは、杖を捜してくるから待っていなさいと再び奥に消える。 「杖、ね。お前なら呼べばくるんじゃないか?」 「ディー。それってもう人間業じゃない気がする。 まっ、でもオレが人間じゃないなら、オレと一緒に生まれたディーもつまり人間じゃないってことだかんな。オレたちは運命共同体。一緒一緒♪」 「安心しろ。世の中には僕ら以上のもっと化け物じみたい変態もいる」 「変態って言い切っちゃうんだ」 「変態で十分だ」 「ディーが言う変態・・・今、この横丁にいるけどなぁ。たとえば誰かの頭にくっついて移動してるとか。だせぇ。ださすぎる」 「関わるなよ」 そのまま二人はその“変態”とやらを思い浮かべたのか、宙へと視線をさまよわせ遠い眼差しをして、同時にはぁ〜っと深いため息をついた。 「またせたねお二方」 ふいにタイミングよく、二つの箱を持ってオリバンダーが戻ってきた。 “変態”という脅威に対して、自分たちの想像から抜け出せなくなって欝になりかけていた双子は、これで話がそらせるとパァッっと顔を輝かせてオリバンダーに感謝をのべるが、理由を理解していない亭主は不思議そうに首をかしげた。 「これはどうかね?」 開かれた箱の蓋。 中には店のそこら中にある杖となんら変わりはないように見えた。 しかし二人がそれに手をかざすと、ふわりと柔らかい風が二つの杖から巻き起こり、双子を優しく包み込む。 「これは・・・」 「わぉ。からだんなかに魔法力が染み込んでくる」 「ふむふむ。どうやらその杖はお前さんたちを主と認めたようだ。 それは特別な力ある獣の一部から作られているわけではないが、互いに対になるもの。 火炎樹の森にある聖なる炎をまといし樹。そしてその灰より芽吹いた木よりできておる。 それを月の光と、また太陽の光を浴びさせつくられたもの。双子だというおぬしたちには合うだろうとおもっていたがよかったよかった」 「「聖なる炎。再生の灰・・・」」 亭主を無意識に復唱した双子の声が静かに重なる。 そんな二人をみつつ、杖が双子を認めならもう安心だ。 そう穏やかに微笑むとオリバンダーは箱から中身を取り出し、いまだ魅入られたまま動けないような二人にひとつずつ手渡す。 太陽の光を浴びて育った火炎樹の杖を兄の方へ、月の光を浴びて肺より芽吹いた杖を椅子に腰掛けたままの弟の方へ。 しかしそれを手に取った双子は、顔を見合わせるとすぐに互いに首をかしげる。 「「ちがうよな」」 「んむ?」 相変わらず息のあった動作で呟いた双子に意味がわからず聞き返したところで、ドラコとの二人は「こっちだ」「あっちだ」と、勝手に杖を交換してしまう。 それにオリバンダーは目を見張るものの、交換した杖がふたたびふわりと光と風を生んだ。 その様子にオリバンダーも自分の失態に気付いたようで、満足そうに笑った。 「陽だまりの光はボクには強すぎる。ボクは夜の光でいい」 「夜の光はオレには優しすぎる。けど陽の光でこそみえないものもある」 二人はそういうと、誓いを交わす剣士のように互いの杖と杖を交差させる。 瞬間―― ポーーン 音叉を叩いたときのように、杖が振るえ高いラ(A)の音が広がった。 「これはっ!?」 驚くオリバンダーそっちのけで、双子はその音にニッコリと笑う。 淡い橙と金の混ざり合ったような光が波紋のように広がり、その波紋が音を奏でているかのように高く響くそれが心に浸透していく。 その光景はまるで神聖な儀式のようで―― ぐほっ!! 「「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!?」」 突然、座っていた方のが、血を吐いて倒れた。 あまりの突然のことにさすがの双子兄もオリバンダーも絶叫を上げ、一時その場が一気にあわただしくなった。 「魔力に酔った・・・ぐへ」 バタリ。 「ーーー!!!!」 オ(い、いったいなにが) 兄(おきになさらず)ド・キッパリ オ(いやいやいや。さすがに血がでて・・・(汗)) 兄(ハッ!?ああああああぁぁぁ!!!!血が床に!? すまないオリバンダー!!血痕の痕が!?この処理代はかならず払う!!) オ(あ、いや・・・そういうことじゃなくて・・・) 兄(きにもなにもきにすることないですから!いつものことです。あんまりに魔法力と相性がよすぎて、長時間魔法力を浴びていると体調を崩すんです) オ(ひぃ!?はやく店の外へぇぇ(汗汗汗)ッ!!!) |