03.ホグワーツ特急 |
「こ、ここ、いいかな?」 「ああ。かまわない」 ゴトゴトとゆれる車両の中で、本を読んでいた少年は、開け放たれたままの扉をわざわざノックしてから声をかけてきた人物を見て穏やかな微笑を浮かべて頷き返す。 本を呼んでいた少年は、すでに着替えを済ませていたらしく、学校の制服にローブをまとっている。 一挙一動が優雅でどこか大人びた表情を浮かべる彼はなんだか神聖なもののようで、近寄りがたい雰囲気を覚えたが、「はいらないのか?」と不思議そうに尋ねられては入らざるを得ない。 遠慮がちに扉をくぐったのは、いまだ私服姿で、ぽっちゃりめの体格をした焦げ茶の髪の少年だった。 彼は控えめな性格らしく、始めのうちはオロオロしていたが、クスリと聞こえた小さな笑い声に慌てて席に腰を下ろした。 「え、えっと・・・あ、あなたもホグワーツへ?」 「ああ。というか、この列車はホグワーツへしかいかないが、そうなると俺はホグワーツ以外のどこへいけばいいんだ?」 「あ」 正面に座った相手と話すためにか、読んでいた本を閉じて、金髪の少年は目の前の相手に笑いかける。 目元付近までかかる長い前髪の下で、灰色がかった瞳が楽しそうに細められる。 クスクスと再び笑いがもれ、それに恥ずかしくなった焦茶髪の少年の顔が真っ赤に染まる。 けれど自分のためにわざわざ本をしまってきちんと向かい合って話そうとしてくれる相手のそれは、決して嫌味なものではなく、笑い声の中に慈愛のような暖かさに溢れている。 「短い旅の間だがよろしくたのむ」 「あ、うん!!よろしくね!」 のばされた手をとり、少年達は互いに笑いあう。 そこであとから部屋に入ってきた焦げ茶の髪の少年が、何かに気付き、握った自分の手と相手の手を見やる。 「どうした?」 握った手が、自分よりも小さいことに気付いたのだ。 驚く少年に、こちらは不思議そうに金色の長い睫を震わしてパチパチと瞬きを繰り返す。 顔の表情を隠してしまうわずかに長い前髪は、淡い金髪。だがそれは金と呼ぶよりは、銀に近いほど色素が薄く、肌も白い。 病的な白さではないことから、どちらも先天的なものだと気付く。 それだけでも目をやらずにはいられなくする。 さらには仕草一つ一つが洗礼されていて、大人びた所作や口調が整った容姿をさらにひきたせる。 そんな彼の笑い方は、つねにひかえめで、相手に不快感を与えないよう配慮されている。 まるでどこかの御伽噺に出てくる王子だといわれても信じてしまいたくなるほど品格と威厳があった。 さらには、まるで小さな子供を見守るかのように柔らかく弧を描く目には、年齢を逸脱したような知的な深い輝きがあり、さらに彼の年齢を錯乱させてしまう。 それらのせいで部屋にいる彼を見たときから彼が大きく見えていたのだろう。てっきり年上だとばかり思い込んでいたその握った手の大きさが予想に反して、自分よりも小さかったことに、焦げ茶の少年は驚きを隠せず髪と同じ色の瞳をまん丸にしてさらに大きく見開く。 さらによくよくみれば、相手の少年の方が自分より一回りも小さいことに改めて思い知る。 出された答えはひとつ―― 「も、もしかして一年生なのかい!?」 「それ以外の何に見えるんだ?面白い奴だな」 ようやく相手が自分の年齢を誤解していたことを知り、金髪の少年はまた楽しそうに笑みを深めた。 その笑い方さえ、子供らしくない。 焦げ茶の髪の少年はしばらくそのまま固まったまま動けずにいた。 大きいとばかり思っていた相手が、まさか自分と同い年であるとは、露ほども思いもしなかったのだ。驚くのも仕方がない。 否、驚くなという方が無理というものだ。 それからようやく我に返った相手に、金髪の少年は笑い、それにかまわず話しかけてくる相手に、思わず焦げ茶の少年の表情もしだいに緩みニコニコしたものになっていった。 言葉を交わしていくうちにわかったが、人を寄せ付けない雰囲気を持っていた金髪の少年は意外とひとなつっこく、慣れてしまえば明るい子供じみた笑みもみせた。 「へぇ、君。弟がいるんだ!いいなぁ〜」 話は弾み、焦げ茶の髪の少年が身振り手振りで語り、そのたびにくるくるとかわる表情に、金髪の少年は穏やかに微笑んで相槌を打っていた。 「そうかな。俺は妹がよかった。 なにより下の兄弟というのはどうしても手間がかかる。子供はよく騒ぐし、暴れるし、すぐにすねる。騒がしいだけだろう」 「そうかな?ボクは羨ましいかな。それに騒がしい方がいいって。だってみんなでいた方が楽しいじゃん!」 「・・・そうだな。ひとりより、二人がいい」 金髪の少年は、自分とは違う子供らしい相方を見て、自分にも弟がいるがよくにいていると告げた。 それに言われた当人は目をキラキラとさせて話しに食いついた。 「ねぇねぇ、そのこどんな子なの!?」 「そうだな。弟は俺とは違って喜怒哀楽が激しい。でも誰にでも気さくで、すぐひとになつく」 「へぇ」 「さらには突然わけわからないことや変なことを言ったり、怪しげな行動をとる。 こういうところはお前とは違うな。 ついでになぜか“髭”をみると無条件で付いていくという悪い習慣がある」 「うぇえええ!?そ、それはちょっと・・・」 「ああ。だから俺はいつも気が気でなくてな。魔法界は髭率が高い」 「あ、た、たしかにそうかも」 髭に関わる何か事件があったのか、髭の話になったとたん金髪の少年は前髪の下で表情を険しくさせて、頭痛をこらえるかのように、皺の増えた眉間を揉み解す。 そんな先ほどとは違う姿に、焦げ茶の少年は「頑張れお兄ちゃん」と苦笑を浮かべる。 「本当はあいつもホグワーツに来るはずでな。 ダンブルドアの写真を見てうっとりしては、“髭髭”言いながら学校へ行くのを楽しみにしていたんだが、体調を崩して入学式に出れないんだ」 「あぁ、ダンブルドアね。うん。たしかに凄い髭だよね。・・・・・・って、え?今年入学?」 「ん?」 「じゃぁ、弟くんって君双子なの!?すごいや!ボク、身近に双子なんていなかったら」 髭の話からいっぺん、双子の話になった。 本当に周囲に双子がいなかったらしく焦げ茶の少年のはしゃぎように、金髪の少年は苦笑しつつも、聞かれたことに丁寧に答えていった。 「一卵性!?じゃぁ君とそっくりなんだね」 「性格は違うがな。 それにあいつは身体が弱くて、あまり無理はさせられない」 「ふ〜ん。じゃぁ、君は心配で仕方ないだろう?ヒゲにはついていっちゃうしさ」 「まぁな。運がよく我が家には父親を含めヒゲをはやした人種がいないので、館の中でなにかあることはないが・・・。どうしても外に出すのが怖くなる。ひとりで出歩くなとは言い聞かせてらるんだがなぁ」 「苦労してるんだ」 「ああ」 ふぅ〜っとため息を吐きつつも語る金髪の少年だったが、その言葉とは裏腹に表情は自分の弟が大切なのだと、あれが弟で嬉しいのだと――嬉しそうに語っていた。 それからは焦げ茶の少年が聞き手となり、聞かされたのは、双子達の今までのこと。 なにをするにも騒ぎに発展させるという彼の弟の話は、なんだか小さな冒険談を聞いているようだった。 いつのまにか二人の少年達の間には、緊張も何もなくなっていた。 互いに互いのことを語り、笑い、穏やかな性格とひとなつこっさが拍車をかけ、すでに少年達は随分長く共に過ごしてきたような気分になっていた。 「そうだ!君はペットとか連れてきた?」 「ん?いないな。連れてこいという矯正ではなかったしな。そういえば弟はなにか連れてくるって騒いでたが・・・」 「え〜うそだぁ!君なら弟くんと離れて寂しいからって代わりに何か連れてきてるかと」 「あいつは後からホグワーツへくるんだぞ。必要ないだろう。というより、あいつそのものがペットのようなものだ。あいつの面倒のほか、これ以上ペットの世話など無理だ」 「ほんといつか会ってみたいなぁ君の弟くん」 「・・・それよりおまえはつれてきたのか?」 コテンと首をかしげた少年に、焦げ茶の少年は笑顔で頷き、ふくらんでいた――てっきりお菓子が入っていると思い込んでいた――胸ポケットから一匹の大きなかえるを取り出した。 「トレバーっていうんだ!」 嬉々として見せびらかすようにかかげられたヒキガエルに、金髪の少年はやっぱり魔法会の常識は編だと内心小さく呟きつつ、ゲコゲコともがいている小さな生き物をじぃ〜っとみつめる。 これは水場にいなくて大丈夫なのだろうか。 魔法世界の生物だからもしかして水場でなくても生きれるとか? そんな疑問がわき、つい触ってもいいかと、手を伸ばす。 「君ならいいよ!ボクの友達なんだ」 「これは・・・まさかの魔法生物?」 「え?ちがうよ。普通のヒキガエル」 「・・・・・・でかいな」 ハイどうぞ。そう言って金髪の少年に自分が手にしていたヒキガエルを手渡そうとしたところで、カエルが突然暴れだし、焦げ茶の少年の手をとびだしていってしまう。 「まってよトレバー!」 「追うぞ!」 「う、うん!!」 手を伸ばして受け取ろうとしていた金髪も突然の逃亡劇には驚き、トレバーがゲコゲコピョンピョン扉の外へ出てしまったのをとめることができなかった。 二人は慌てて外に飛び出るも狭い廊下に、カエルの姿はなかった。 「はやっ!?やはり魔法生物!?」 「ち、ちがうよ!隣の客室とかに入ったに決まってるよ!!」 「あ、ああ。そうか。すまない」 「もう!君の弟君もおかしいけど、君もずれてるよ!!」 それから二人はがすぐ隣の客室にとびこんだところで、飼い主の考えどおりそこにトレバーはいた。 しかし捕まえようと二人が中へ入ろうとしたとたんカエルの脚力で持ってみごとなジャンプを披露し、トレバーは更なる逃走を始めた。 「トレバー!!」 「カエルに人間が勝てないって・・・なんなんだこの鬼ごっこは!?」 11番目の客室の扉は半分閉まっていて、なかにいたのは三人の少女達。 姿をくらましては現れる凄腕逃走上手なカエルに、だんだんと疲労が隠せなくなってきていた二人の息は気が付けば上がっていた。 この不毛な追いかっけこに疲れ始めていて、礼儀正しいふたりの少年コンビにはめずらしくノックもなしにその扉をひらく。 ガラッと音がして、息を切らした二人が顔を覗かせたとたん、少女達の悲鳴と叱咤が響く。 「あ、あの!」 「きゃっ!」 「なんなのあなたたち」 「ノックぐらいなさいな!」 「す、すまない。ところでここにヒキガエルはこなかったか?」 「ボクの大切な友達なんです!」 なだれ込むようにその場にやってきた少年二人に、少女達は顔を見合わせたあと、そんなものは見ていないと首を振る。 それにガックリと二人はうなだれたが、ひとりの少女が凛と立ち上がった。 「貴方達、少し休んだらどう?」 見苦しいわよと、ウェーブのかかった髪を揺らして少女は二人を上から下まで見定めるように見つめて眉をしかめた。 その鋭い事実を突きつけられ、二人は「うっ」っと言葉を呑んで固まる。 なにせ髪も服も先ほどまでの逃走劇でよれよれだ。 さらには予想外に長いこの車両をジグザグと駆けずり回っては、謝ったり走ったりを繰り返しているので、疲労も募って肩で息をしている状態だ。 これから入学式を控えている身としては、二人とも子供場に詰まってしまう。 そんなみすぼらしい二人をあきれるようにみているウェーブ髪の少女、そしてその彼女の背後で席に着いたままだった二人の少女たちはクスクスと笑いをこぼす。 それにふくよかな体系を羞恥で微かに揺らして焦げ茶の少年が泣きそうな小さな声で、でもと呟く。 「ト、トレバーが・・・」 「でもそろそろホグワーツに着くわよ。はぁ〜。いいわ!それならわたしが捜すわ。 貴方たちはまず身だしなみを整えなさい!とくにそっちの貴方!貴方は制服に着替える時間も必要でしょう」 腰に手をやり母親が子供を説教するように大きな声で、さらにはつっけんどとしたきつい言い方だったが、少女の言葉にカエルの飼い主である少年の表情がいっきに明るくなる。 「見つけたら教えるから、名前とどこの車両か教えてくれるかしら?」 「あ、ボク。ネビル!ネビル・ロングボトム!!8両目の2番だよ」 「そう。つくまでに見つからなくても文句は言わないでね」 「ありがとう!」 少女は同じ席にいた少女達に「そういうわけだからまたね」と手を振ると、二人の少年に「いいこと。しっかり身だしなみは整えなさいよ」と一言言い残し、さっさと部屋を出ていってしまった。 優しいのか世話焼きなのか、せっかちなのか。 いまいちよくわからなかったが、あの潔さには金髪の少年も「ほう」っと感嘆の声を上げた。 「もうハーマイオニーらしいわ」 「それよりそこのお二人さん。彼女が帰ってくる前にここから消えて、しっかり着替えを済ませてないとまた雷が落下するわよ」 「あ、うん!ご、ごめんねありがとう」 「助かる」 「お礼なら、彼女に言いなさい」 少年達はきっちりと礼をのべてその場を後にすると、ハーマイオニーと呼ばれた彼女が戻ってくる前にと、あわただしく元来た道を戻っていった。 それから間もなく、二人がわたわたと着替えをしているところへ、ハーマイオニーがトレバーを連れて帰ってきて事なきを得た。 その際、少女からはまだ着替え終わってなかったのね。降り遅れるんじゃいないの?とこれまた改心の一撃をからくらい、さすがに二人は苦笑を禁じえなかった。 「今度こそ逃がすなよ」 「う、うん」 少女が去っていった開かれたままの扉を見つけ、二人の少年は顔をひきつらせる。 彼女だけは怒らせないようにしようと思ったのは・・・二人だけの秘密である。 ゲコっと。 場の空気を読まないただのカエルだけが、どこまでもマイペースだった。 それからは焦げ茶の髪の少年ネビルは慌てて着替えを済まし、金髪の少年はあっさりとみじたくをし、手に本ではなくひとつの缶を手にして相方の様子を面白そうに見ていた。 やがて汽笛が鳴り、駅が近いことを知らせると車内のあちこちが、騒がしくなる。 新入生達の興味の声か、ネビルどうように慌てて着替えようとする者達の声か。 窓際に腰を下ろしていた金髪少年の目にも、近づいてくる城の姿が目に入ってきた。 「う〜ん。もうホグワーツか」 せっせと身支度を整え、荷物をまとめていたネビルが同じく窓の外の光景を目にして大きく伸びをする。 「一緒になれてよかった!ありがとう!!」 「いや。こちらも楽しめた。感謝するよ」 灰色がかった瞳が、柔らかく細められる。 今度はネビルから伸ばされた手を少年の方がとると、歓喜きわまったようにブンブンと勢いよく振られて苦笑が漏れる。 「同じ寮になれるといいね。そしたらいつでも会えるもんね!」 「ん?いや、それは無理だろう。俺に君のように他人に向ける優しさも正義感もまったくない。卑怯なこともズルがしこいとも卑劣なことも目的のためならいわないし、なにより俺は自分中心だからな。 自分とあいつの身の安全が保障されればいいし」 そこまで告げたところで、相手の手を振り回してたネビルの動きが止まる。 顔を見上げれば、ニマニマとしたこげ茶色の瞳。 「それって全部、君とさっき言ってた弟くんのためだろ?」 「ああ」 「あっはっは。本当に君はブラコンだなぁ」 「・・・悔しいことに自分でも理解している」 短い間問いはいえ、すっかり意気投合し、お互いのことを語り合った二人は、すぐに相手の心情を理解する。 こうして親しいものにだけ見せる彼の表情を汁物にしてみれば自他共に認めるブラコンであるものの、本来の少年を知らないものにはめったに心内などみせないのだろう。 ゆえにネビルに笑われてもそこが急所だと認めはしても、顔を赤らめて起こることもしない。 そんな金髪の少年に、ネビルは少し寂しそうにうつむくが、相手の性格を理解してしまった今となっては、同じ寮は無理だろうとも納得がいく。 「本当に違う寮になりそうだね。なんとなくだけどさ」 「ああ。俺はあいつと自分のためならどんなこともするからな。ひねくれた寮に入れるように悪巧みでも考えておくさ。 それにどうせ同じ学校だ。寮は違ってもいつでも会えるさ」 「それもそうだね」 「そろそろか」 周囲の喧騒が大きくなっている。 駅はもう目の前だ。 金髪の少年は、「ようやくか」と小さく息をつくと、突如手の中でいじくっていた缶をたてにふり始める。 突然の行動にネビルは意味がわからずわたわたとみやる。 「え?あれ?どうしたの?もうすぐ着いちゃうよ」 「変装だ」 「変装?あ、そういえば家の見張りがいるかもしれないって言ってたね。それ対策?」 「ああ。それと。ちょっとわけありで向こうに着いたら俺にはあまり話しかけない方がいいぞ」 「えぁ!?どうして!?ボクたちともだちだろ!」 「そのせっかくできた友達を俺のせいでなくしたくはないからな。 お前には先に謝っておく。“これからの俺”がきっと君を不快にさせるから」 「よくわからないけど・・・友達は友達じゃないのかい?」 「そういってくれるとうれしい。いつか“あいつ”にあったときも友達になってやってくれ」 「もちろんだよ」 「っというわけで」 「?」 「別人を演じる。性格が悪くなるから関わらない方がいい。ネビルも悪く言われるぞ」 「へ、変装ってそこまでやるの!?」 「両親ととある『変態』をぶったたくまではな」 わけがわからなそうに首をかしげていたネビルだったが、目の前の少年が手にしているものの正体を知るなり、目を見張る。 スプレー缶からはあわがでて、その泡を手に取るなり、綺麗な色合いであった髪にたっぷりつとつけて、下ろしていた前髪をなでつけるようにあげる。 「こういうこと。どう?似合うかい?」 そのままワックスでかためると、ニヤリと口端を持ち上げた。 ワックスのスプレー缶はふたをして、簡易バックにしまわれている。 髪を書き上げて適当にに直す。 その仕草や、すこしばかり崩れた口調だけで先ほどまでの大人びた仕草がなくなり、年相応の子供っぽい表情になる。 貴族の見本のようだったような少年だったが、いまではすっかり別人だ。 これにはさすがのネビルもイタズラを共有する子供のように笑った。 「あははは。すごい!すごいよ!!髪型と口調を変えたら本当に別人だ。随分雰囲気変わったね!!」 ちょうど二人の準備が完全に終わったところで、汽車が止まった。 ガッタンと大きな音を立てて振動が止まり、汽笛が鳴り響く。 それと同時に扉が開く音、歓声を上げて外に飛び出すこどもたち。 二人もそれに習って部屋を出ようとしたが、そこでふいに先陣を切っていたネビルの足が止まる。 どうした?と首を傾げれば、ニコニコ笑顔でネビルが手を差し出した。 「いままで気にもしてなかったけど。 そういえば、まだお互い名乗ってなかったよね!」 その言葉に、二人しかいない部屋のなかでは、「君」とか「お前」で十分で、すっかり互いに名前を名乗っていないことに気付く。 「ボクはネビル。ネビル・ロングボトムよろしくね!」 「知ってる。さっきハーマイオニーに名乗ってたときに聞いたからな」 「あ、そういえば・・・訊いてなかったのはボクだけか」 シュンとうなだれるネビルに、金髪の少年は笑う。 「俺は―― ドラコ・マルフォイだ」 「ドラコ?」 「ん・・・そうだな。とりあえず弟がつけた愛称だが、だれもいないときなら“ディー”か“アッシュ”でいい」 「ん〜。どっちでもいいけど。なんで“アッシュ”?」 「どうせそれは弟しか呼ばない。なんというか、お互い気がついたら“ルーク”とか“アッシュ”って呼び合っていて、 意味は特にない・・・ハズだ」 「結局、どっちが君の本名に近い呼び名なんだい?」 「“ディー”・・・かな」 本日何度目かの握手。 今度のは、これから長い意味でと今までとは違う意味を込めて。 「そっかぁ。じゃぁ、ボクもディーって呼ばせてもらうよ。よろしく、ディー」 「ああ。よろしくネビル」 汽車で行く短いたびは終わる。 かわりに学園卒業までという長い旅が始まった。 これは誰も知らない、ほんの些細にして大きな出会い。 ――それからまもなく。 荷物と共に先に部屋に送られているはずのヒキガエルのトレバーが、いつの間にか脱走していたことを知るのは・・・・・・もう少し先のこと。 【主人公って誰?】 (ハリー・ポッター?) (うん。ボク、会ってみたい!) (いや。俺は今すぐ弟に・・・) (ブラコン) |