09.四つの"ほのお" |
-- side アッシュ -- 『約束しろ…必ず生き残るって!皆で一緒に!』 叶うはずもないのに。 そう思ったが、それでも“もしも”が可能なら、そういう未来を望んでもいいだろうかと思えてルークを送り出し、自分はあの場に残った。 少しでも、少しでもいい。 あいつらの足止めになればと思った。 この身体に残った時間は少なく、ヴァンの元までは持たないとわかっていたから。 それでもあまりの人数に、たいした時間は稼げなくて、俺はそこで死んだんだ。 記憶はルークのもとへいくだろう。 そうして――― 「これはどういうことだローレライ!!!」 「いやいや。私は別にわるく…」 「ないわけあるかこんのド屑がぁー!!!」 「ほがぁぁっ!?」 死んだと思っていたら、パチリと目が覚めた。 しかもかわりにルークの記憶が自分の中にあって、どうやら死ぬのはオリジナルではなくレプリカだとかいう余分な知識も流れてきて。あげくには俺がすべてをかけて生かそうと望んだ相手(ルーク)自ら、最後にアッシュの生を望んでいたとか。 なのに生きているのは俺とか、ありえなすぎる。 しかもルークの願いは、俺に生きろと。あいつの最後の方の記憶はそればかり。 ふざけるなと思った。 思った時には、目の前でゆらゆら炎のようなローレライをなぐっていた。 一緒に生きるんだ。 そう言ったやつ自身がいなくて、なにが「生きる」だ。 これでは俺のひとりよがりじゃないか。 俺は自分こそ時間がないのだと思っていたから、俺の分まであいつに生きてほしくて。 ああ、もう、いい!! 「いいかローレライ。いますぐルークをもどせ!!」 っで。 なんだかんだの話し合い(俺による一方的な殴り合いともいう)の末、俺からルークをひきはがすということになった。 ただし問題はたくさんあった。 例えばひとつになった今の状態で地上に還すのではなく、今からアッシュとルークという二つに分離したとする。 それをしてしまうと、新たに肉体をあてがうのは不可能だという。 なぜならば大爆発による影響で、混ざり合った二つの人間を形度っていた音素が今は一つに融合してしまって、一人分の音素しかないのに二人を作り出すのは無理だとか。 混ざり合ってしまったことで、ルークの魂だけを分離することができたとしても、俺もあいつもまた一つに戻ろうと引き合うか、かけたままの状態になってしまうという。 つまり一つの体をルークとアッシュとして分ければ、それのための音素が足らず、肉体に損傷がでる。あるいは記憶の分離がうまくできず、記憶障害が起きかねないというのだ。 それを考慮したうえでだされた結論は、魂を分離後、ルークにしっかりした肉体を与えるために、レプリカとしてルークが誕生したその瞬間まで過去に戻るというものだった。 肉体を捨ててしまえば、大爆発の心配も減るし、分離とは言わずともルークの一部なら取り出せるし、体がないことで時間を逆行できるようになると言われた。 ・・・・・・はっきり言って、そういうトンデモ技ができるなら最初からやれよと言いたいたかった。 「えー。だって二人とも帰りたいんでしょう?それにはどうしても肉体が必要だったし。私には一人しか地上に戻せなかったんだよ。 予言を覆してくれただけでもうれしかったから、お願い叶えてあげるって言ったけど、私にも限界はあったわけでぇ…」 「まず俺の願いは無視なのか!?」 「ルークはアッシュに生きてほしいと願った」 「お・れ・の・ね・が・い・は?」 「……願いはなんだアッシュ?あ、二人での蘇生は無理だぞ」 「くっ!?このクズ音素がぁー!!!!!!」 ってなわけで、俺はどんなことをしてもいい。二人で生きたいと願った。 こぶだらけのローレライはうなずき、まずは準備が必要だと、 「べりべりポン☆すっぽんスポポン♪」 ローレライは謎のうたを歌った。 それは愉快ユカイフユカイなかろやかなリズムでもってローレライが謎の歌を歌ったとたん、言葉のとおり“ベリベリ”と俺の中からルークと思われるものが、“スー”っとひきはがされ“ポン☆”と音を立ててそれは抜け出いった。 記憶は抜けていない。 ただその際にごっそりと俺の中から何かが抜け落ちていく感覚に、腕を見ればすけていて、俺の方がローレライより炎のように揺らいでいるのを知る。 体を構成する音素が拡散して周囲に散ったのがわかり、どうやら自分も意識集合体とよばれるローレライに近い存在になったのだと理解する。 そして、チラっと横をみれば、綺麗な朱色をしたまるい物体がフワフワと・・・。 まさか、あれがルークか? 痛みも何もなかった。 抜けたのは多分、体を構成する音素だけ。 必要なのは、あの不愉快な歌に耐える忍耐だけで―― なんだ、いまのは?そんな簡単でいいのかよ!? 思わず「わー。お帰り愛しい子」などと嬉しそうにほざいて、わざわざ人型(アッシュとルークを混ぜたような外見で、長い緋色の髪は頭部でポニーテールで、服は白でマフラーは黒い)になってルーク(仮)をだきしめようとしているローレライを、俺は無言のままにらんだ。 ついでとばかりに首を絞めていた。 ギリギリと愉快な音と「やめ〜!しぬしぬ〜!!」とローレライの叫びだけが空間にリズミカルに響いていた。 -- side 視点なし -- 「もう。我の愛し子たちはどうしてこうも性格が極端になってしまったのだろう。 ルークは自分を卑下して自分をないものとするように眠ったままだし、アッシュは…誰に似たのだろう?私ではないな。ではヒゲか?」 ローラレイは幼い小さな朱色の魂を持って、時間を戻っていた。 星の記憶を司るローレライだからこそできる芸当だ。 その腕の中で自我を殺して眠り続けるのは、真円というには少し歪で、いたるところに傷があり部分的に欠けたもの。 ローレライにはっきりとした人間の感情を理解できるようになったのは、アッシュとルークが彼のもとに戻ってきたときだった。 意識集合体とはいえ、それは人知を超えた存在としての感覚。 大きすぎる存在ゆえ、ローレライは短い時を生きる脆弱な存在でしかない人間という者を理解しきれてはいなかったのだ。 ようやく心の一端を知り得たのは、彼ら同位体たちの記憶が流れ込んできたからに過ぎない。 それゆえに彼には、ルークという魂の欠けた部分から、みえない血が流れ続けていることを知らなかった。 それに気付かずローレライは空間を飛ぶ。 七色に輝く時間の中を飛んでいるとき、自分の思考におぼれていたローレライは手を滑らし朱色の小さな魂を一瞬手放してしまった。 それは本当は彼の過失ではなく、ルークの魂が限界を迎えてのこと。 魂だけとはいえ、傷ついた魂に時間の逆行は更なる負荷がかかっていた。 そしてなにより、ひらいたままとじることのない傷からは、とまることなく生というものが零れ落ちていた。 あまりに軽くなりすぎ、血で塗れた玉のように滑りやすくなっていたでもいうべきか、それがローレライの手を滑らし、彼の腕から転がり落ちる結果となった。 そして―― 『ぎゃぁぁぁーーー!!血が降ってきた!!!』 「は?」 なんだかパチンと火花がはじけるような音と、聞いたことのない男の野太い悲鳴が聞こえて、ふとローレライは手元を見ると、そこにはあったはずの魂がない。 あわてて振り返れば、橙色の混ざった朱色に輝く先程よりもきれいな真ん丸とした魂が転がっている。 慌てたローレライは、なんだか元気になっているようなきがしないでもない炎の揺らめきに安堵しつつ、さっきのはなんだったのだろうと首をかしげた。 だが尋ねたくとも真相を知っていそうなルークは、相変わらず眠っていて答えはない。 次は落とさないようにずっとみていなければ。 ローレライはそう決意して、先程よりやさしく朱金に輝く魂を包み込んでとんだ。 その腕に抱きかかえられた魂がおっていた怪我が、つぎはぎながらもふさがっていることも、かけていた部分が何かで補われていたことも知らず。 彼が答えをしるのはそれよりずっとあとのこと。 目覚めた“ルーク”は言った。 「オレ、今“アッシュ”じゃん」 「そ、それは…アシュを助けたときおまえはほとんど我と融合していて、被験者のほうにも記憶や感情は流れて追おって、おまえの魂を見つけたときにはアッシュの影響が強く・・・ゴニョゴニョ」 ――“ほのお”ちがいだドカスがぁ!!!―― そんな罵声と見事な左ストレートがブウサギにヒットしたり。 途中でルークの魂を落としたせいで、ルークはアッシュとは別の誰かと《大爆発》をおこして融合してしまったらしい。 しかもその融合したさいにはじけた橙と朱の炎が小さな火花をうみ、そのたったひとつの火花のせいで、ただでさえ不安定な時空は些細な歪みを生んだ。 そうしてその影響が波紋を生み、戻る時間を誤ったローレライは、もどりすぎて、ルークを被験者として誕生させてしまった。 しかもその新生ルークにより、ブウサギにされてしまうというオマケつき。 戻ったローレライの軌跡をたどり、後々にそれらの事情をきいたアッシュは、怒りを飛び越え腹を抱えた爆笑した。 「ざまぁみろ!ルークとアザナのためだ!お前はそこでブウサギのまま二人を守るんだな!!俺がお前のかわりに地殻で第七音素を見ててやる」 せいぜい食われないようにな。と、ニヤリと口端を持ち上げた。 彼は過去のローレライと融合するように、同一の振動数のもとへと舞い下りた。 そんな“声”を地殻の本体からの電波で受信したブウサギは、「ぶひっ!?」と目に涙をためて鳴いた。 それはすべてがまわりはじめる少し前の出来事―― ※タイトル、四つの炎は、紅色、緋色、朱色、橙色。 アッシュ、ロレ、ルーク、夢主のこと。 |