焔は七番目の夢に抱かれ
- Ta les o f the A byss -



05.夢現(ゆめうつつ)





 夢を見ていた
それは走馬灯のようで チカチカと移り変わる

 なにもしらず小さな場所で生きていた七年間
そして――
奪い合うことでしか
その先を見いだせなかった一年のことを


 たしかにそれらは過去にオレが経験したことなのだろう
でもこの世界ではそれは未来のこと

ソ レ は [レプリカルーク] の 記 憶 ・・・








 -- side 夢主1 --








 夢を見ていた。



 それはモノクロ映画のように色がなく、音もない。けれど懐かしい記憶の一端。
 [レプリカルーク]であったころの幼い自分がたどった記憶が、走馬灯のように目の前で流れている。

 自分がいて、ガイと何かを話している。
ガイがはじめて、憎しみ以外の表情で笑ってくれたときの光景だ。
たぶんそのとき「おれ」は何をか言ったのだろうけど、あいにくとまだ自我が芽生えてそこそこしかたってなかった頃ゆえ、自分がそのときなんと言ったのかは覚えていない。


 場面が変わって、今度は世界に色がついた。

 旅の中の光景。
 うなだれたガイがいて、「おれ」が立っている。
この光景も記憶にある。
たしか、シンクにカースロットをかけられたガイが、ファブレの恨みに振り回されて・・・「おれ」を恨んでいたこととかを話し始めたときのことだ。

「ルーク。お前は覚えていないだろうが、あの言葉に俺は救われたんだ」

 その言葉に「おれ」はガイを許したのだ。
今は違うだろうと――笑って彼の手を取った。

 あのときは誰でもいいから側にいてほしかったから。側にいてくれることが嬉しかったから。
だから一度拒否された手も、すがる主老いで握り返したのだ。

傍にいて。
嘘でも何でもいいから、一緒に笑ってくれるのなら…。

もう、おいていかないで…





「っ!!」

 そこで目が覚めた。
 夢の中では嬉しくて笑っていたはずなのに、現実ではなぜか頬がかすかに濡れていた。

「なみだ?」

 涙が出る理由は分からなかった。
だって夢の中の「おれ」は悲しくなかったんだ。
親友の言葉が嬉しくて、そばに仲間がいるので幸せだったんだ。
だからつらい夢じゃなかったはずなのに――

 “ルーク”の名を持って二度目の誕生を果たしたこの世界は、あちこちで「以前」の世界とは違うことが起きている。
 それが顕著なのが、ガイとの関係だ。
今のガイと俺は、あまり口を利いていない。

 こちらのガイは、自分が使用人であるという感覚さえないようだ。
気がつけば暗い目をした子供はファブレ邸にひきとられていて、嘘っぽい笑顔ひとつ浮かべず、誰とも口を利くでもなく、荷物運びなどのちょっとした仕事のみをしている。
暇さえあれば庭の片隅で、俺たちファブレを殺すためだろう剣技を磨いている。
しかし剣の動き一つに闇がまとわりつくようで。
はたからみてもその動きは感情に左右され、大きく振りすぎている。 あきらかに怨嗟が混じっているのが一目瞭然の太刀筋だ。
 ナタリア改めメリルと庭先で遊んでいるときでさえ、ガイは憎しみを込めてオレをみつめてくる。
感じたのは、負の感情。
おかげで聡いメリルが、ガイをみると顔を険しくさせ、彼の視線をさえぎるようにオレの前に出てくるようになった。

――別にいいのにと思う。

 父上は父上で、ガイから向けられる殺意に気付かないはずがないのに、彼を放置している。
父上は「以前」からそうだ。言葉数が少なく、さらには自分で一人完結した挙句、ことが大きすぎるとわかれば、どう動けばいいかわからなくなる。
そうなると己の心と現実という壁によって板挟みにあうようで、すぐに諦めてしまう。
そうして極力関わらないように視線をそらすのだ。
 ファブレ邸にあだなすと分かっている子供、それも幼いがゆえに抑えがきかないガイ。
周囲に気づかれているのも構わずに憎しみを纏う彼をこの屋敷におくのは、ガルディオスかホドの民への謝罪のためか。 復讐されても仕方がないと思っているのか、ガルディオスを復興すべきだと考えているかは分からない。 それともあんな子供に自分や騎士が負けるわけない、こどもごときになにができると・・・高をくくっているのか。
 俺は父上と言葉を交わさないし、心の内を打ち明けてくれるわけでもないので、あの人が何を考えているかはわかるわけもないが。
けれどたまにガイをみて悩むような表情をする父上をみるようになった。
たかだか一兵でしかないジョゼットが父上に呼ばれ、たびたび外に出て行くようになったのもこの頃だ。


 二度目の人生。
この世界では、ガイと俺たちの間では、幼馴染なんて言葉は口に出す余地さえない。
むしろ敵。そういう雰囲気しか存在していない。
 それをさびしいと思いこそすれ、嬉しいとはさすがに思わない。
けれどオレの中の『』がささやくのだ。“当然”だと。
 今なら『黒筆 』としての知識もあるからいえるのだが、たしかにガイの行動は子供だったからと許される度合いを超えている。
それに・・・以前、親友だ。育ての親だというわりには、一度さえかばってくれたことはなかったし、アグゼリュスのときなど聞く耳を持たなかった。
それはガイだけではなく、他のパーティーメンバーも同じであるが・・・。
 もう一度ティアを好きになれといわれても無理だ。
今回は理性が先に働くのだ。あそこまでけなされて、好きだとか言われても困る。

 思い返した「ルーク」としての旅路に、『』としての知識もある《俺》は思わず眉をしかめた。
振り返ってみれば見るほどに、行き当たりばったりの旅で、周囲のことなど一切考えず自分中心のご都合主義軍団だ。 あれでよく世界が救えたものだと関心さえする。
 気持ちとしては、あの怒涛のような一年の旅は、いろいろと知ることが出来たし、楽しかったのだろうとは思う。
けれど楽しさや私情だけで、俺はもう動けない。

“識って”しまったから。

その俺の感情に呼応するように、世界も歪み始めていたから。


 きっと今日の夢は、それを案じするもの。
この先異なる形で出会う「かつての仲間たち」との出会いと、その差異によってうまれる双方の感情の変化。
ナタリアのように、恋愛感情は消えたが、より側にいたいと思えるようになるかもしれない。
ガイのように話したくても話すことさえままならず、悲しく思うこともあるかもしれない。
いや。きっとある。
だから、ここからさき、俺が俺として生きている限り。いくども様々なものを「過去」と比べるはめになるだろう。
そのたびに、違いに悲しんだり、一喜一憂するのだろう。



 ヴァンに浚われたのは被験者ルーク。
ならばレプリカルークが時期に誕生する。
この世界の被験者ルークである《俺》が、彼の手によってファブレの屋敷から連れ出された時点で、新たな運命の歯車は回り始めているはずだ。

遅かれ早かれ“こと”は起こるのだろう。





 これから俺が生きるためには――覚悟が、必要だ。
コレは全部悪い夢で。目が覚めたら、そこは暖かい陽だまりであればいいのに・・・


 有り得ないとわかっていて

  《俺》はもう一度瞼を閉じた。



今度はいい夢が見れますように。











※ルークであってルークじゃないけど、やっぱりルークな自分。









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