焔は七番目の夢に抱かれ
- Ta les o f the A byss -



04.歪んだ世界の子供たち





 前世の記憶を持った者がいるからか。
ローレライが家畜だからか。
この世界には縁もゆかりもない転生者と [レプリカルーク] が大爆発を起こしたからか。
逆行なんてものをしてしまったからか。

世界の歯車は、徐々にずれ始めていた。

カチリ。
ずれた歯車は、別の歯車とかみ合い、 すべてのベクトルの輪を歪め、[以前]とは異なる未来へと進みはじめていた。
それにより時軸の回転は回るべき瞬間をとばし、時間は速まっていく。








 -- side 夢主1 --








 はい、この世界における現在のルーク・フォン・ファブレはオレです。
 そんなオレの幼馴染は、やはり“金髪の”ナタリアだった。
前回同様にナタリアとは、物心つく頃には、互いに傍にいる関係だった。
 オレとナタリアが幼馴染みという関係を気づいたことで、ルークという立場の人間は彼女と幼馴染みになる間柄になる宿命でもあるのだろうか。
ちなみに赤ん坊時代から自我のあるオレの記憶では、この彼女とは乳飲み子時代から交流がある。

 ナタリア・ルツ・キムラスカ。
 転生を繰り返えした魂と、以前レプリカルークだった魂が混ざった『オレ』という存在が側にいたからか、 この世界のナタリアは [以前の世界のナタリア] より包容力にあふれ懐も広く、冷静沈着で、頭の回転が速い。

 たとえば、オレの左薬指には魂をつなぎとめる指輪がはまっているのだが、これが実は前世の世界では特殊な血を持つ人間や特殊能力を持つ人間しか見えなかった。 それが、この世界では万人に見えるのだ。
 左手の薬指には心臓に繋がる太い血管があるとされているせいか、オレの場合はそこに指輪がはまっている。 しかしすぐに思いつく表だって有名な逸話は、左薬指の指輪は永遠の愛の象徴であるということ。

 今回のナタリアは、生まれた時に手にしていたと告げれば、「ルークをきっと守護してくれているのですわ。大事になさいませ」と、幼い彼女は一緒に喜んでくれた。
 この世界の彼女は、オレが指輪をしていない方が違和感があると、“左手の薬指”に指輪がはまっていても許してくれている。
[前回のナタリア] を思い返すと、信じられない懐の広さだ。

 そもそも王女という立場にあるナタリアは、“恋は盲目”などという戯言で、感情的になってもらっては困るし、本来であれば彼女の立場がそうはさせない。 むしろ我儘勝手など、許されるはずがないのだ。
そんなことも [前回のナタリア] は知らないと言っただろう。

 言い方はきつくなるかもしれないが、 [前回] の旅のことで、『今のオレ』は [ナタリア] を“そういう人間”であるとしか思えなくなってしまっている。

 恋愛感情でルークという存在を見ていた [以前のナタリア] であれば、オレの左手薬指に指輪なんかがあれば、そんなものをみただけで「はずせ」と言ったことだろう。 さらには「こちらをおつけになって」とか言って、無理やり自分が持ってきた指輪をさせようと強要する。 首を横に振れば、こちらの事情など気にもせず「どうして!」と言って、癇癪を起す。 あげく誰から渡されたのかと、根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。 ここで事実をありのまま語り“生まれたときから持っていた”と言っても、きっと信じてはくれない。 「そんな非現実的ことあるはずありませんわ」だとか「そんな嘘などはいいから本当のことをおっしゃい」と、こっちの話など耳を傾けてもくれない気がする。 その光景が目に浮かぶようだ。 しかもなまじナタリアには権力がある。オレにこれを渡した相手らしいのがみつかるやいなや、 それが正しいかなど深く考えもせずに、その権力でもって、 そいつの人生を踏みつぶしかねない。 その瞬間は感情が理性を上まわり、相手の気持ちを考えることも、醜聞など一切も配慮せず逆上する可能性がある。
 〈字〉の記憶があるいまのオレだから言えるが、 [以前のナタリア] はそういうやつだった。
 だって [彼女] は、 [ルーク] がレプリカであるとわかったとたん手のひらを返すように豹変した女だ。
言葉は悪いかもしれないが、今のオレは [レプリカルーク] のようにただただ受け身で、人の言葉をそのままとらえれる人間ではない。
 〈字〉の記憶もついでいるせいで、[レプリカルーク] への以前の仲間たちの対応を客観的に見ることができるのだ。
それゆえの [ナタリア] の評価だった。

 けれど“こっちのナタリア”は一癖もふた癖もあるが、恋に現をぬかして政務をおろそかにしたりはしない。
 だれよりも“王女らしい”彼女は、感情だけでものを決めつけるようなまねはしないのだ。
この世界のナタリアは年齢相応の少女らしい表情を見せる中、時に冷徹に、時に王族の一員として。 己の部をわきまえ、立場を理解し、計算したうえで判断を下すのだ。

 だから今の彼女は、オレが物心ついたころには左手に指輪をしていても気にもしなかった。
婚約者がいる証だから気にしもしなかった――という意味ではなく、彼女の中ですでにそれは“ルークのお守り”と言う認識らしく、あるのが当たり前になっているらしかった。


 ――そうしてナタリアと日々をすごしていくうちに、オレたちはよき友人になった。
 身近に、他に同い年で話の合う人間がいなかったというのもあるかもしれないが、たくさんの記憶があるがあるがために子供らしくないオレに影響されたのだろう。そんな思慮深い彼女は、ある日気づいてしまった。
自分が本当の王女でないことに。
 [前回] と違うのはなにもオレだけではないようで、ここでのナタリアは [前] の時とは、明らかに性格も言動も違っていた。
周りをよく見る彼女は、自分の“偽者”と“王女”という二つの立場をしっかり理解している。

 そもそも“王女”にまつわる予言やら自分の出生の件で、はじめに疑問を持ったのはナタリア自身だ。
そうして彼女は自身の手で、『ナタリア』の真実を突き止めた。
まぁ、それ以降は、王と日々壮絶なバトルを繰り広げているようではある。

 たかが十歳にもならないこどもでさえ、たやすくたどりつけた真実だ。
王の無能さ、というか、予言への依存具合がこれでよく分かるといっていいだろう。
 義理とはいえ家族として過ごした自分の言葉など耳も貸さず、予言を盾にする王に、ナタリアが・・・

きれた。

 インゴベルト陛下の無能、いや、依存具合はひどかった。いっそのこと催眠術にでもかかっているのではないかとか。洗脳の可能性を疑ったほどだ。
このままだとその影響は、たとえばこの先の未来。モースにより偽りの王女だとばれるときなど顕著に出そうである。
[過去] を思い返せば、ナタリアが偽物だと判明したときのインゴベルト陛下は、「たばかったのか」とあほのようにナタリアに怒鳴って、モースにいわれるがままにそのままナタリアを言葉と行動で傷つけていた。それが再度拝めそうなほどの妄信具合だった。

 そのときにナタリア、否、メリルは、口と情だけではどうにもならないと、幼いながらに理解したのだという。
実質中身はこどもでないオレが側にいたからか、ある意味で彼女の周囲に子供らしい子供というのは存在せず、同い年の子供はいなかった。 そのため、あの段階で、彼女は他の子どもより思考能力が発達し、考え方も見方も大人びていたのだと思う。

 さらに王宮という魔窟は貴族らの騙しあい、化かしあいが常の魔窟である。
自分の私利私欲のままに地位を持った者どもの欲望に満ち、腹の探りあいが日々行われ、人々の思考がドロドロと渦巻く。
王族付きの家庭教師からは、王族とは何かを暗示のようにしつこく叩き込まれる(それのありように疑問に思えば一蹴される)。
予言を妄信しいているインゴベルト陛下により、とあるビアダルロースモースによる戯言が根深くはびこる。
それが王宮だ。

 メリルが人一倍大人びた子供になってしまったのは、必然といえた。

 実際、当時の城内には、メリルの意志を通せるものは、実際は何一つ無かった。
 唯一相談できる同世代の人間は、従弟であるオレだけ。
しかもそのオレはというと、どこか諦めと冷めた視線で貴族を見下し、身分が何か差別が何かを大人顔負けの正論でもって語り、予言に疑問を抱いているませがきだ。

 そんな場所で育ったメリルの精神はひどく老成していた。

 ゆえに彼女は、曖昧な予言よりも真実を!と、『ナタリア』に関するあらん限りの物的証拠をかき集めて、それをインゴベルト陛下にたたきつけた。
涙を捨て、怒りをその瞳に宿した彼女は、その日、真の王女たらんと毅然と背を伸ばして立っていた。
 この日を境に、ナタリアは自ら王位継承権を放棄。
インゴベルト陛下とは予言をはさんでよく口論しているが、それはまさしく「口論」で、口喧嘩や感情にのせられた言葉のやりくりではなく「口論」であったとだけ言っておこう。
 そのまま家族仲が悪くなるかと思いきや、それはそれで、インゴベルト陛下もメリルも親子として暮らし、言い合いはするものの仲はいいらしい。 政治的意見が合わないことを抜かして。



 この世界の住人達は、凄い人たちばかりだと感心せざるを得ない。
何かが間違っていると、その“何か”を捜し求め、根源を徹底的に叩きのめそうとする代理王女とか。
インゴベルトは娘の真実を知ってもなお変わろうとすることはなく、いまだ予言を妄信しているところとか。



 人とは幼い頃に受けた影響を強く引きずるというのは本当だったようだ。
ナタリアの性格が「前」のときと、違いすぎるのが証拠だ。まぁ、根本にあるまっすぐなところは同じみたいだけど。
 ナタリアは、側にいる人間が一人違うだけでこうも変わった。
これなら [アッシュ] がルークと呼ばれていた頃、彼が神童とよばれていたのも納得できる。 大人になった彼は、どこのチンピラだといわんばかりの語録しか語らず、とんでもない短気だったが、小さい頃に誘拐されたせいで性格にゆがみが生じてしまったのだろうと思うことにしておく。
よほどヴァンの育成の仕方が悪かったのだろう。 ティアもそうだけど、あのひと、本当に子育て向いてない。まず子供を育てるなら常識と礼儀作法から教えるべきだ。
天才だった神童を少しの単語しか言えないぐらいの馬鹿にまで落とす教育とは、一体どんなものなのだろうか。 ある意味、その堕ちっぷりには感服したくなる。
 [過去] を思い返せば思い返すほど、「幼い頃に受けた影響は〜」そうのべていた先人の言葉は偉大だと思い知った。
あわれなり [アッシュ] 。








**********








『なぁ、ローレライ』

ぶひ?
《どうした?》

『イオンが [前] に言ってたんだ。
予言は道しるべに過ぎないって』

 人は変わろうと思えば変われるって、オレはそのとき知ったんだ。

『今度はみてるだけじゃなくて、オレ達で変えていこう』

 ん?オレ達で変える?
自分で言っていて、思わず眉をしかめる。

『いや、それはちょっとまてオレ。オレは面倒くさいことは嫌いなんだ。
そもそも前回は他の案とか一切考えず、それしか方法が無いとのたまわれ「死ね」といわれたんだぞ。それでまた世界の為に意に命を書けるのかオレは』

 死にたくないと強く叫ぶ自分(字)がいる。
みんなのためにと強く願う自分(ルーク)がいる。


けれど「助けて」と、伸ばした手はいつもはたかれた。


なんで助けてくれなかった。
ならこちらが手を差し伸べなくても当然のはず。
なのに



――"かえる"から・・・



そんな誰かに向けた「自分」の声が、頭の中でこだまする。





「ぶぶひぃ〜!」
『・・ぁ・・・ろー、レ、ライ?・・いま・・・・・えっとおれは』
「ぶぅぶぅ(思考が混乱しているようだな)」

 あのまま矛盾する思考の渦にのみこまれそうになったところをローレライのブウサギらしい声と、その思念によりひきとめられる。
ふと視界に自分の手が視界にとまり、そこに若干濁った青色をみつけ、それでハッと我に返る。

 こういった自己矛盾は、この世界に生まれてからはよくあることだった。
魂と記憶が複数あることによる価値観の矛盾だ。

ぶひぃ。

また思考に飲まれ、自分を見失いそうになっていたことに、思わず苦笑する。

《大丈夫か?》
『ん。まぁ、なんとか』


 もともと〈字〉と [ルーク] では、なにもかもが違いすぎるのだ。
ましてや〈字〉と[ルーク]では、生きてきた世界が違う。
オレの中にある二つの魂は、ルークやアッシュのようにオリジナルとレプリカのような共通点がるわけではないので、本当に別物なのだ。
求めるものが同じで、さらには根源が似通った性格をしているわけでも、年齢が近いから共通点があるわけでもない。同じ世界にいたわけでもない。
考え方も魂のありようも、性格も生きた世界も何もかも違っていて、混ざって『オレ』という存在になった今、矛盾が生まれるのは必然といえた。
まったく真逆ゆえに、ときどき自分の意見が分からなくなるのだ。

 感覚――魂とでもいうの――では〈字〉と [ルーク] は、“同じ”存在だというのは感覚でわかる。
混ざってしまったことで、互いに崩壊しかかっていた魂が完全に安定しているのもわかる。
 分かるのだが、だからこそ矛盾はいつも生じる。
 理論と経験に基づき物事を考え行動するふしのある大人な〈字〉という思考の持ち主が、卑屈に歪められた無垢な七歳の子供たる [ルーク] の感情に押し任されるときがある。
そんな瞬間が多々あり、混ざってやっと一人になった『オレ』という存在が、やはり二人なのだろうかとか。
考え始めてしまえば、オレはいわば多重人格なのだろうかとか、おかしな考えに発展するが、同じ身体に魂がもう一つ存在しているわけではないので、 内から返答があることはない。
結論はいつもオレ自身がくださなくてはいけない。

 一つの肉体に、魂が二つあれば考え方もまた変わっただろう。
しかしここにあるのは一つの魂。
つぎはぎまみれでようやくひとつの形を保っている『オレ』という存在。
『オレ』は、本当は〈字〉と [ルーク] とか、分けて考えはいけないのだとわかってはいる。
どちらであってどちらでもない存在。
それが“大爆発”により生み出される存在だろうから。
 ルークとアッシュだって、“大爆発”後は、きっと同じであって違う存在としてでしか、存在できなかったことだろう。

大爆発は―――どちらかひとつの精神が残るということはない。混ざって一つに戻るという“理の所業”なのだから。

『〈字〉でも [ルーク] でもないよな。いまのオレは』
「ぶぅー。ぶひっ(ならアッシュと名乗るか?)」
『ばかいえ。それは [あいつ] だけの名前だっての。
たとえこの世界にアッシュはいなくとも、オレがアッシュの立場であろうとも、もう奪いたくないから。
だからオレはアッシュとは絶対名乗らない。
いいよ。名前なんてさ、後で考えれば』

 名前なんてどうでもいいと思う。ルークとかレプリカとかアッシュとか、ピヨコとかヒヨキチとか…そういうのつけられなければ、なんでもいい。
ただ、今だけはルークと呼ばれることを許してもらうしかできない。
誰に懺悔するわけでもないが。
なにせ、この世界はまだ“聖なる焔の光”の物語は、始まってさえいないのだから。
そうなると誰かが、“聖なる焔の光”にならなくてはいけない。
だから今はオレがルークだ。

『どうせ今の ルーク って名前は、あとでこの世界の《オレ》にあげるから』
「・・・ブゥ(レプリカルークにか。とめないのだな、かの者の誕生を)」
『ああ。強いえて言うなら勘な。こういうのはたぶん〈字〉の専売特許”なんだろうけどさ。
どうしても今回は [以前] と同じ風にいくとは到底思えないんだよなぁ。なぜだかね』
「(・・・〈字〉というやつは、それほどまでにトラブルメーカーであったか?)」
『そう。それはもう・・・世界規模の大騒動に足を引っ張られるなんていつものことで・・・』

 オレが思わず今の『オレ』になるまでの〈字〉の数々の人生を振り返っていたら、やっぱりろくでもない事件に巻き込まれてばかりだった。
ふとなにげなく横を見やると、赤毛のブウサギが、ぶうさぎらしくなく、じとぉ〜っとした目でこちらを見てきていた。

『なんだよ』
「(・・・・・・ぶひ)」
『心の中までブウサギになるんじゃねーよ!!ってか「大丈夫かよこいつマジで」って顔してブウサギがこっちみんな!!』

ブギャ!!

 動物虐待?ちがうちがう。ただあまりの柔らかそうなほっぺに思わず――
おもわずね。

ふふふ。まぁ、いいじゃないか。ブーレライの悲鳴なんかいつものことだろ。








**********








 『オレ』は、〈字〉であり [ルーク] である。
 オレという歪んだ存在がいることで、星はさらに違う夢を見るのだろう。
たぶん [おれたち] がたどった未来を知る未来のローレライが、今のローレライと融合したことで、以前のおれが [ルーク] としてたどったあのシナリオは、すでに予言に組み込まれてしまっているに違いない。
つまりそうなるように世界は修正を始めるだろうということ。けれど今のこの世界にはアッシュとなるべきオリジナルルークがある意味では不在だ。
たぶんこれにより、世界は [以前] のルートに治そうと何らかの修正を図ろうとする流れが生まれているため、今回の未来は [以前] とはまた少しずつずれていくのだろう。
 たどり着くのはどこかはわからない。
ただ、勘が囁くのだ。

『――抗いがたい運命はねじ曲げられた』
《ルーク?》
『ねじれてもなお世界は、どんな形であれ“聖なる焔の光”を得ようとするのだろう。
・・・なんて面倒な。
なぁ、ローラレイ、お前この世界の神様的存在なんだからもっと世界に干渉しろよ』
《いや、普通は逆であろう。神というものはえてして干渉できないものであると記憶しているが。
それよりルーク。その“世界が求める”とは・・・予言か?》
『いや。勘かな』
《お前は星の記憶である私よりも、たまに予言めいた未来をいいあてるな》

 経験からくるものが、この先にあるであろう未来を不安だと言い当てる。
[ルーク] として生きた経験を〈字〉という第三者の視点から解体し、なにかしらの理の方程式をたてようと無意識に計算して出された―――“勘”。

だからオレの言葉は、予言なんてあいまいなものより、別の世界にあった“超直感”と呼ばれる未来を見通すの能力にと同レベルの的中率をはじき出す。

『なにぶん長い時を生きてきたからね、そういうのは敏感なんだ』



 前世の記憶で [レプリカルーク] は、オリジナルが十歳の年に作られた。そうして被験者ルークはアッシュになった。

 根本的に今生ではヴァン・・師匠に、剣も何も教わっていない今のオレには彼と接点はあまりない。 “あまりない”が、“まったくない”わけではなく、ヴァンがファブレの屋敷によく来る人物であるのは変わらない。
 勘が囁く。
やがていつかこの世界にレプリカルークが誕生するのだと。
それはきっと、『オレ』に関わりがないはずの、ヴァンのその手で――

そのときの『オレ』がどうなっているかは、わからない。








 ―――っとブウサギロレと話していたのが懐かしい。



やはりこの世界は、いろいろ変わりつつあるようだ。

“時間がずれている”。


 オレが八歳の時。
ナタリアあらためメリルと、こっそり下町探検に行った。
彼女の見聞を深めるためという名目どおり、メリルはこどもらしくもあり、 しかし必要とあればその眼は大人のような学者の目で現地を確認し観察するだけの慧眼を持ち合わせていた。
 まぁ、こういった外出はよくあることだった。
その帰り、メリルとわかれてすぐに、オレは奇襲をかけられ――意識はブラックアウト。

目が覚めると目の前にはヒゲがいて・・・



 あっれぇ?
オレ、誘拐されちゃった?


うっそ〜ん。











※タイトルは、時間軸がズレテイルから、“前”に比べて“歪んだ”世界――っという意味で。









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