02.豚の焼失と、お子様の憂い |
『ワン、モア、プリーズ?』 とある赤毛の眼鏡をかけた少年が、赤色のブウサギを足で踏みつけてそう言った。 その様は異様なまでの怒気に溢れ、ブウサギを見下す目は怒りを押し込めているせいかギラギラと炎のように輝いていた。 顔は般若のように歪み、黒い影が目元を覆っているので光る目だけがぎらついて、浮き上がってみえるようだった。 それにブウサギは全身の短い毛を逆立てブヒブヒと悲鳴のような泣き声を上げた。 『もう一度言え。かつ、わかりやすく簡素に答えろ。お前は、今、なんといったんだローレライ?』 返事が返ってこないことに、少年はブウサギにかけていた足の力を強くする。 ブギヒィーー!!!! 《ひぃー!!!!お、おちつけルーク!!》 ブウサギの悲鳴と共に脳裏に響く声は、少年以外には聞こえない。 その声がブヒブヒという鳴き声とともに、少年の暴行を静止させようと必死に響く。 『三秒以内に言わないと今夜の夕食にとコックにお前を突き出す』 《まておちつけ!ひっ!だから、その》 『今日の夜はブウサギの肉か。じゃぁキッチンへいくか』 《・・・ッ!! [アッシュ] はいない!!る、 [ルーク] と〈〉の間で“大爆発”がおきたため、あいつは私のかわりに地下で第七音素を守ってる!!》 とっさといわんばかりに、脳に直接語りかけてくるようなそのブウサギからの声に、ルークと呼ばれていた赤毛の少年は、「なんでこうなったんだったか」と子供らしくない遠い眼差しをして空を見上げた。 -- side 夢主1 -- ただいま被験者ルーク・フォン・ファブレなオレ(ただし眼鏡ありのチビっこという違いがある)。 そのオレが、二つの魂の融合した存在であり、二つでようやくひとつであるというとことはわかりきったことだ。 だがなぜこうなったのだろうと、くわしい調査をこのたびローレライにやらせた。 あと、 [前世] で死ぬ前に望んだ [アッシュ] がどうなったかもきいてみた。 そうしら、やはりオレという存在は〈黒筆 〉と [レプリカルーク] という二つの魂がくっついて生まれた『新たなる存在』なのだという。 まぁ、そこまではしかたない。 それは自分自身でいやというほど理解しているし、そうして融合しなければオレたちは生きれなかったのだろうから。 だから、それはいい。 “大爆発”とかはこの際、もういいのだが、問題は“なぜそれは起きたのか”ということだった。 本来なら決して起きるはずのなかった異世界同士の二つの魂の融合。 それが今回の調査で判明したことのひとつ。 なんと〈〉と [ルーク] という魂の間で、時間も空間も何もかもを超越して“大爆発”が起きたのだという。 その原因は、ローレライが [レプリカルーク] の魂を次元の狭間で落としたから。 言われた瞬間、思わず納得したよ。 可笑しいとは思っていたんだ。 なんで共通点の何もない〈〉と [レプリカルーク] が、同一化してしまったのかとね。 それも世界も何もかもが違う二つの魂が、完全に混ざるだなんて奇跡としかいいようがない、そんなことが本当にありえるのか、オレはずっと疑問だったんだ。 なんだ。 『原因おまえじゃん』 ってかな。 おとすなよ! 魂は繊細なんだぞ。 肉体に守られていても言葉ですぐに傷つくものなんだ。 しかもそのとき [レプリカルーク] は死にかけだったわけだから、魂がまっとうな形を保っていたとは思えない。 その傷やら穴を埋めるために〈〉は吸収され、そのツギハギ部分の縫い目の役目を果たしたのが〈契約の指輪〉といったところだろう。 まぁ、ローレライばかりせめることはできない。 転生者である〈〉は、転生を繰り返しすぎた影響で何度も魂が消滅寸前にまで追い詰められていた。それでも完全には消えなかったのは、死ねないからだ。つまり〈〉の魂もまたいつ消滅してもおかしくない歪な状態だったのだ。 軽く別の魂が触れれば、互いに互いを吸収し、穴をふさごうとするぐらい目に見えていたことだ。 とはいえ、やはりことの原因は、 [レプリカルーク] を落としたローレライにあるとはおもうが。 今のオレは、そうして転生を繰り返す〈〉であると同時に、一度ローレライを解放して死んだ [レプリカルーク] でもあった。 その原因が魂同士の接触による――“大爆発” ということだ。 そんなオレの一つ前の前世――〈黒筆 〉。そして [レプリカルーク] のこと。 二人がオレという存在として混ざって生まれるその直前までいたのは、しょせん“次元の狭間”と呼ばれる場所だという。 [ルーク] は、ローレライを解放したことによる乖離と、被験者との間で起こりかけていた“大爆発”の影響で、魂が欠けた状態だった。 同じように〈〉は、その空間に放り出されるまで幾度も転生を繰り返した影響で、すでに魂が磨り減り磨耗していた。 ちょうど二つの魂がいたのは、互いに同じような空間――時間軸も形あるものが存在していない“力”だけがたゆたう場所――だったらしい。 たとえるなら、 [ルーク] は、レプリカ達が還っていく“力ある本流”の源である音譜帯という場所に。 〈〉は、時間と時間を越えるための時空のトンネル。 双方共にまさしく次元の狭間そのものである。 ぞくに次元の狭間と呼ばれるべき場所には、すべての概念が存在しない。 時の流れも、始めも終わりも、人種も性別も、肉体などなく魂だけがまどろみ記憶を洗い流し、たゆたう場所でしかない力場には、世界という概念さえ関係がなかった。 その空間ではなにもかもが意味を持たないため、そこにはすべてがあってすべてがありはしないのだ。 “無”とも“有”ともいえた。 そんなわけで、 [レプリカルーク] がいた音譜帯も、〈〉がいた空間もまた、ある一点から見れば、音譜帯と同じものであったが、互いに別の次元にあった。 しかしただでさえ不安定であった空間に、星の記憶という時間を司るローレライが [レプリカルーク] を逆行させようと干渉したことで歪みが生まれ、別々だった空間だった狭間と狭間は繋がって混ざり合ったのだ。 その瞬間、次元や時間や空間という概念が完全に意味を成さなくなってしまったのだという。 そのせいで、まったく関係のなかった消える寸前だった二つの魂が、同じ時、同じ場所に存在することとなった。 しかし二つの魂はどちらも消えかけていて、世界と一つになろうとまさに消滅寸前の状態だった。 [ルーク] にしろ〈〉のどちらにしろ、魂の半分以上がすでに“世界”と一体化していた。 それゆえにどちらの魂も、第七音素そのものといってもいい状態にまで世界に溶け込んでいたわけだ。 つまりその瞬間の二人の振動数とやらは、第七音素=ローレライと同じであったともいえたのが運のつきだった。 その世界において、ローレライは解放されていたため、世界に循環していた第七音素は枯渇状態であり、 [ルーク] の魂を守るのでせいいっぱいだったらしい。 でなければ “大爆発” により、レプリカに被験者の記憶やら何やらの上書きが完了した時点で、 [レプリカルーク] も [アッシュ] も存在しているはずがなかった。 “大爆発” 完了後に被験者もレプリカもなく統合された存在が残るのは、一つの存在がレプリカとオリジナルという二つにわかれてしまっていたためだ。元々が一つだったものが分かれ戻るのだ。戻って、残るのは、ひとり。 それが世界の理だった。 本来なら、レプリカの記憶もすべて被験者が受け取り、ルークという存在は言葉のとおりひとつになるはずだった。 “大爆発”とはそういうものだ。 記憶も感情も“新しいルーク”のなかには残しているのだが、そこで [レプリカルーク] の魂だけが記憶も何もないただの第七音素として音譜帯にもどるはずだった。 しかし弾き出された魂があった。それがまだ [ルーク] として意識がある間に、ローレライが哀れんで拾い上げたのだという。 記憶している限り [アッシュ] というのは、 [おれ] のオリジナルだ。 だから“新しいルーク”を構成する8割が彼をもとにつくられ、その意志が左右しているとか。 レプリカルークだったおれは、彼の中で、ただの記録となり血となり、肉となり、彼の心の一部となり溶け合って一人に戻る――それがレプリカとして生まれたおれの運命(サダメ)であった。 そう。 [おれ] がここにいること事態がおかしいのだ。 あのまま感情を伴った記憶も体験したことすべて彼に譲り渡し、“完全なるルーク・フォン・ファブレ”の意思の欠片となっているはずだった。 しかしなぜか [レプリカルーク] の魂だけ、“あの場”から吹っ飛ばされた。 なぜかというと、記憶の残骸でしかない二つ目の魂(=レプリカルーク)は、再構成の際、理からしてみたら邪魔だったらしい。 同じ体に魂は一つで十分というか、二つなんて無理なんだそうだ。 それで記憶の残りカスとももに今にも完全に音素となって消えかけたときに、 [ルーク] にローレライが手をさしのべ、やりなおすチャンスを与えた。 そしてあまたの偶然が重なり、 [レプリカルーク] と〈〉の記憶を持つ『オレ』が、生まれた。 それがこの「物語」の、すべてのはじまり。 っと――美談として語ればこんなところだ。 実際はそんないい話なんかではない。 我の愛し子の幸せを願って、魂を救いました。 今度こそ幸せになってねルーク。 byローレライ って、こういうオチだ。 『・・・・・・・・』 とにもかくにも超軽いノリと勢いで話は進んだんだ。 本当の詳細はこうだ。 ローレライが最後の最後に愛し子の「死にたくない」という願いを聞いてしまって、それでワレガンバルモン♪と奮闘し、融合するはずだった [ルーク] と [アッシュ] を無理矢理ひきさいて、そのせいで弱った [ルーク] の魂を抱え込んで、じゃぁてっとり早く逆行させてやり治させてしまえ――と、事実はそういうことなのだ。 何度も言うが。 そのとき [ルーク] は、ほとんど第七音素に溶け込んでいた。 さらにはその場には、「死にたくない」と願った〈違う世界の魂〉も消滅しかかっていたせいですっかり世界に“還る”寸前だったが、そこにはあって。 そのため、 [レプリカルーク] も〈違う世界の字の魂〉も完全に音素そのものになりかけていたわけで、ゆえに振動数が3.1415926535……っとこれまたどこかの第七音素意識集合体とまったく同じ振動数をそれらが出していたのも仕方がないことだった。 っが、その同化しかかっていた状態のせいで、発生した偶然に偶然を重ねたタイミングのたまたまその瞬間同じ振動数だったゆえに、世界という枠を超えて、欠けていた二つのまったく関係なかった魂が、さらに偶然を重ねて大爆発を起こし融合してしまったのも・・・また、神のイタズラといってもいいだろう。 ぶっちゃけそんな偶然が何度も重なってたまるかとは思うが、事実あったのだからもう「ありえねぇよ!!」という叫びを通り越して乾いた笑いしか出ない。 神の手のひらとはまさにこのことかと、神とやらを殴りに行きたくなったのは秘密である。 なお、その神がローレライで、“うっかり”ではなく、“わざと”だったら、冗談もクソもなく即叩き潰していただろう。 それはさておき。 ローレライが狭間で拾い上げてしまい、消えかけの魂を補うためにオレたちは融合し、これまた時間移動の影響で完全に溶け合って一つとなってしまったわけだ。 そうして偶然の誘発により、見事な大爆発が完了してしまったわけだ。 ぶっちゃけ、大爆発をおこすなら、赤の他人同士じゃなく、アッシュやルークのような同位体同士でやってくれと本気で言いたい。 っで、なぜか転生したら、アッシュと同じ被験者ルークの立ち位置になってしまったと――――こういうわけだ。 知ってるかい? [レプリカルーク] の最後の願いは「アッシュに陽だまりを返す」あるいは「アッシュが今度こそ幸せになれますように」だったんだぜ。 なのにこの世界に [アッシュ] もいなければ、アッシュの立ち位置(オリルーク)に立つべき存在がオレなんだって。 だれの願いも叶えてないんですけどローレライ。 うん。いろいろとありえない。 本当にいらつく。 ローレライにたいし、「ふざけんなカスがぁ!!」とか思うオレってわるくないよな。 こういうとき、〈〉が一個前の前世で使っていた“死ぬ気の炎”とか使えたらいいのにと思うことがある。 そうすれば怒りを源に“覚悟”とかできて、すぐに炎を出せて、このふざけた世界の神というか、精霊モドキ(第七音素意識集合体ともいう)を滅せられただろうに。 ってか、すべての元凶って、このブタモドキにはいっている精霊じゃん。 しかもなんか謝ってもらっても後の祭りというかなんというか――・・・ほんとやだこの精霊。 第七音素をになう精霊じゃなければ、生かさずすぐにでも抹殺するのに。 『・・・・・・うん。やっぱり今日は焼きブウサギだな』 ブヒッ!? ※一個前のページで語ったのと同じような話しの内容ですが、大爆発と音素振動数についてかんがえてみた。 そんなわけで急遽作った1ページでした。 でも書けば書くほど、自分の中で、だんだんと訳が分からなくなってきたorz 本当のところは、ブウサギロレ様を丸焼きにしたかっただけだったり・・・ 次話はちゃんと続き書きます>< |