06.時、交じり合うと |
-- side オレ -- なにか色々錯乱していたオレは、それはそれはまのぬけた顔をしていたらしい。 そのまま仮面さんの言葉の意味が理解できずにヌボヘ〜としていたオレに対し、仮面さん一行は、案内するようにオレのオレンジの上着をひっぱって引きずっていった。 そこで地下が意外と広がったことを改めて知る。 すこし進むと、うち捨てられた町のような場所があり、ミミズク仮面は、そこの目立たない物陰を選んで座らせると、オレに応急処置をしてくれた。 残りのふたり――チョウジやシノに似た術を使う連中――は、近くで見張りに立っている。 そういえば怪我、したんだった。 あぁ、さっきあんちゃんが言っていた治療ってこれのことかと今更ながら納得した。 伸ばされたミミズク仮面のあんちゃんの手をみて、ふと不思議に思った。 なんでこの手を懐かしいと思うのだろう。 あ、やべ。オレの血であんちゃんの手、汚れちゃったし・・・ ズボンが裂けてそこから予想以上に派手に血が流れている。 一瞬、仮面の下であんちゃんの顔が険しくなった・・・そんな空気の動きを感じた。 「ほっといて大丈夫だよ」 「痛くないわけないでしょ。血を止めないと出血多量で死ぬよ」 「う、うん・・・」 なんでそんな難しい顔をしているのか分からない。 本当に大丈夫なんだけどな〜。 だってこんなのは、オレにとっては怪我にはいるわけない。 だけど痛い。 なんで血が止まらないんだろう? こんなのいつもならすぐに治ってる。 治る? そういえばさっきも、思った。 なんで治るんだろうって。 なおる?怪我って簡単に治るものだっけ? それになんで血がとまらないのだか。 そもそも血ってとまるものだったけ? あぁ、もうなんだかまた頭がぐるぐるしてきて、思考がうまくまとまらない。 何か、忘れてるんだよなオレ。 なんだろう。 オレが何かを忘れたから、なにかがなくなった? じゃぁ、なにを忘れてる? わすれちゃいけないのはなんだろう? ぼ〜っと自分の怪我をみて、何かを思い出しかけた。 さっきからこんなおかしな尋問自答を繰り返してる気がする。 それからミミズク仮面は手際よくオレの太腿にきつく包帯を巻きつけてから、ひとつうなずき、もう大丈夫だと言った。 オレは何かをなくしたらしい。それを思い出すヒントは、怪我と目の前の存在――の、懐かしいような気配。 そしてなんとなく、ミミズク仮面をじっと見つめてから、その仲間のやはり仮面をつけた男たちを見回した。 もしかするとこのひとたちなら、何かわかるんじゃないかと・・・ 少しだけ期待を込めて―― 「なぁ、あんちゃんたちは何者なんだ?」 「悪いけど、その質問には答えられないね」 ミミズク面の男が相変わらずそっけない風に答える。 それにケチだな〜と呟いたら、睨まれた。 本当は懐かしい気が指摘になってるんだけど・・・あんちゃんこえーわ。 とりあえず話を変えようと、少し慌ててネタを捜して、自分の周囲を改めて見回す。 そこでふと、この状況に首を傾げる。 いまさらだけど。ここはどこだ? よし。話を変えるにはこのネタしかない! ここがどこかだ! 「じゃあさ、せめてここがどこなのかくらい、教えてくれってばよ」 「ここは、楼蘭」 はて?ろうらん? それはなんだったか。 口の中で同じ言葉を繰り返して、そこでオレの中で何かがはじけた。 足らないピースを掴み取った気分。そこでようやく思い出した。 楼蘭、遺跡、龍脈、チャクラ、傀儡、ムカデ、砂漠、我愛羅、綱手のばあちゃん、四代目の封印、サクラちゃん、サイ・・・そしてキューちゃん。 なにかまだひとつ忘れてる気がするけど、たいしたことじゃないだろうからそこはご愛嬌。 ぽっかりと胸の中にあいたピースの正体が分かった。 慌てて上着の胸元を探ってみても、ポケットをひっくりかえしても、キューちゃんの指定席だった自分の頭をまさぐっても――ない。 キューちゃんがいない。 ああ、だから、怪我が治らなかったのだ。 おかしいと思ったよ。 人柱力であるオレが怪我をおうなんてさ。 あと考えが美味くまとまらなかったり、チャクラ切れをおこしたりしたのは、魂の半分がなくなっていたからだろうと予測が立つ。 たぶんキューちゃんとはぐれたのは、傀儡どもにバズーカだか波○砲だか、なんだかわからない砲撃をくらって地下に落ちたときだ。 あのあたりから、自分は変だった。 そして――ここは楼蘭だという。 オレがココにいる原因はいわずもがな、任務でムカデを追って、そのまま術の暴走に巻き込まれたのだ。 しかもあらかた今までの会話で、欠けていた記憶のピースは補われているので状況を説明さえできる。 砂の国の依頼で、抜け忍ムカデを追って楼蘭の遺跡に辿りついた。 そのあと、ムカデが父ちゃんの術式を身体に取り込むという暴挙に出て、封印の術式と龍脈が暴走。 そんでもって、そこからあふれたあの光の柱に飲み込まれたのだ。 ただしオレが知っている楼蘭は、遺跡だ。 だけど目の前の人間いわく、この繁栄中の街も楼蘭だという。 オレが知っている遺跡だらけの楼蘭とは違うのに、ここも楼蘭なのはおかしい。 なら、こたえはひとつ。 つまり父ちゃんの術式が刻まれた三又のクナイに刻まれた時空間忍術が、龍脈の力とムカデのアホのせいで暴走して、 “繁栄まっさかりの楼蘭”まで、オレが時間を越えて飛ばされた可能性があるというわけだ。 この塔が聳え立ちまくっているここも楼蘭ならば、間違いなく父ちゃんの時空間忍術が誤作動で発動し、“いつか”に飛んだということになるわけで―― 「へぇ〜楼蘭なんだ・・・・・・って、街でかっ!?」 思わず自分が知っている廃墟と比べて、それで驚いてミミズクの男を見返した。 どうやってあんなでかくて細長いものを建てるんだと、思わずミミズク面に聞こうとして振り返って――オレはみてしまった。 「詳しい話をしている時間がない・・・・・・ボクたちが任務を遂行する間、この街から出ていてほしいんだ」 ミミズクの男はそう言いながら立ち上がり、近くにある石造りのアーチのそばまで行って、そのむこうを指さした。 だけどいつまでたっても動かないオレに、不思議そうに振り返ったあんちゃんの仮面の奥の青い目と視線が合う。 あ、青い目――これで確信してしまった。 オレはあんちゃんをみたまま、金縛りにでもあったかのように驚きに目を見開いたまま固まってしまう。 そこでようやく、気づいた。 ここまで気づかないとは――オレは今まで相当焦っていたようだ。 なぜならばオレの目の前には、ミミズクのお面からはみだすふさりとした黄色とも取れる濃い金髪。 しかもこの声に、この気配、このチャクラの質。 どうりで懐かしいと思ったわけだよ。 まさか、まさか・・・ 「ぎ・・・」 「ぎ?」 オレの内心などわからない男は、突然動きを止めたオレを怪訝そうにみてくる。 だけどオレにはいろんな意味で今ゆとりがない。 目の前のお面男に、そこからはみ出す自分と同じ色の髪をみて、思わず状況を確認する前に悲鳴があふれでた。 「ぎゃぁーーーーーー!!!!!」 「ちょ、ちょっと静かに・・・!!」 「あんたっ!そこでなにしてるんだってば!!」 「え?」 「新婚旅行に行ったんじゃなかったんだってばぁよぉっ!?」 「はぁ?」 たとえ面で顔を隠していようともそのはみ出す独特な色合いの髪や、声、慣れ親しんだ気配やチャクラの質までは隠せてない。 気配の感じからわかる。 相手が変化の術を使っているわけではないことから、本人以外の何者でもないはずだ。 自分の知る限り、こんな髪色の奴は自分ともう一人しかいない。 しかもその腕になぜか抱きかかえられていた先程のことを思い出すに、やはり彼は“とんで”きたのだろう。 それで今またピンチだったオレを救った――っと、いうことは・・・ 「さてはまたストーカーか!!お、オレはまだミスはしてないってばよぉ!!」 うっかりムカデに四代目の封印術を取りこまれ、『龍脈』が暴走して巻き込まれたけど・・・ これはミスにはいるのか? そんなことで心配して、また“とんで”きたのかこのひとは!? なんてこった。 またあの金色の過保護な保護者は、そのミスをどこかで知るなり“とんで”きたらしい。 恐るべし、避雷針の術!! いったいオレのどこに術式がきざまれているんだ!! ってか、そのミミズク面して、暗部のふりしても目立つから!!隠せてないよ父ちゃん!! 避雷針の術なんて、これはもう、間違いなく過保護な親が、我が子のモトに緊急で駆けつけるために作ったとしか、今では思えない。 「キューちゃん!ヘルプ!!転移だ!!」 「え?きゅーちゃん?ここにはボクたちしかいないけど?」 「はっ!?しまったー!キューちゃんとはぐれたんだった!!」 「仲間がいたのか・・・って。今はそれよりもうちょっとだけ音量をさげ・・・ごふっ!」 恐るべき条件反射。 とっさにキューちゃんに頼んで瞬間移動でもして逃げようととしたが、それより先にオレの口をふさごうとしてきた金色を、思わず―― 殴ってしまった。 だって、うちの父ちゃん、いつも飛び掛ってくるし。しかも背後から。 オレが全力で逃げるから、結果、背後から襲い掛かってくるわけだけど・・・。 おかげで父ちゃんの気配を感じたら、殴ってでもよけないとオレの身が危ないし、なにより里の威信が・・・という暗示がオレにはかかっている。 思わず近づいてきた“それ”が、あの過保護すぎる父ちゃんと同じ気配だったから、 容赦なくやってしまい、ゴス!といういい音とともに、見事なアッパーがミミズク面をした父ちゃんらしきひとにヒットしてしまった。 「あんたはさっさと新婚旅行に帰れってばよ!!」 オレはとちくるった方へ過保護になった金色から逃げるのに必死で、ここがどこだとか、相手が父ちゃん本人じゃない可能性さえ忘れていた。 相手は恐怖の過保護。 オレの認識はすでにそう変換されていて、チャクラがほとんどないのも忘れて思わず駆け出していた。 さすがにチャクラがないので、瞬間移動とか無理だけど、足はある! そのまま父ちゃんモドキが起きないのをいいことに、足にチャクラをためて、全速力で逃亡した。 捨て台詞に 「紅いチャクラをだす狐のぬいぐるみを探して!!可愛くてまがまがしいから一目瞭然だってばよ! あいつがいないとオレは忍術が使えないから!」 と、だけはきっり言った。 さすがにこの巨大な楼蘭の中で、ほとんどチャクラを封じられているキューちゃんを探すのはひと苦労だ。 少しでも人手はほしい。 そのため、それだけ頼んで、オレは父ちゃん・・・らしきひとと、その仲間――ぽっちゃりな方と、ひょうたんを背中に背負っている蟲使いの方――をおいて全力疾走させていただいた。 「「あ、逃げた」」 ********** 人形を探してと言ったり、ミナトを一撃でのしたりと、なにやら凄い発言と凄いことをしでかしていったナルトをみて、秋道チョウザと油目シビは、ただただ呆然とそれを見送るばかりだった。 本当は自分たちが、彼に色々聞かれる前にこの場をあとにしようとしたのだが・・・。 それより先に逃げられてしまった。 チョウザはチラリと、倒れたままピクピクとしている金色の髪の青年を見やる。 うわ〜ん!・・・・ゃんのばかぁ〜〜〜〜〜!! そんなナルトの泣き声が、小さくなる頃にはすでに、目立つオレンジの忍服の形は微塵も見えなくなっていて、声だけが三人の下にまでとどいていた。 「逃げ足、はやいな」 「なぜならば、チャクラをつかっているからだろう。しかし、それにしても早い」 チョウザとシビが感心したようにうなずきあった、そのあたりでようやくミナトが目を覚ました。 「大丈夫かミナト?(それにしても見事なアッパーだった)」 「イタタタ・・・。ん、なんとかね。それよりなんでボクが殴られなきゃいけないの?」 「そういえば・・・あの赤だか黄色だか、目立つ小僧は、お前の髪の毛を見たあとに、叫び声を上げたなぁ」 「髪・・・(なるほど)」 差し伸べられれた手をとって起き上がり、ミナトはチョウザの言葉に、納得したように口をつぐむ。 今回の自分たちの任務内容と、あの子の目立つ容姿や発言内容、「だってばよ」という口癖から考えるに、想像できることはひとつ。 ってか、これはクシナに教えたいね。吉報だよ。 むしろ報告しなくっちゃ! でも・・・ 時間に影響出ちゃうから、きっと言っちゃいけないんだよね。こういうのも。 嬉しいことなのに。 任務に関しても彼に関しても・・・・・・今回の事件は、本当にやっかいだなぁ。 (あーあ、未来かぁ) ミナトがミミズクの面をはずして、独特の金髪をかきあげて、困ったように空を見上げた。 楼蘭の地下からでは、天さえ遠い。 ふーと一息はいたあと、再び面を装着し、ミナトは仲間達に合図を送る。 あの目立つ少年のことは気になるが、こちらはこちらで任務がある。それを忘れてはいけない。 ミナトが走り出そうとしたところで、ふいにチョウザがナルトの去ったほうをみてボソリと呟いた。 「それにしても・・・・・・今の子。すごい目立つけど。あれで忍なのか?」 オレンジだったなと告げる言葉には、どことなく相手を心配するような色が混じっている。 派手すぎるがゆえに、敵に見つかりやすいのではないかという杞憂だ。 その言葉に、ミナトもシビも同意する。 ただミナトだけは何か思い当たることがあるのか、どことなく、遠い眼差しで二人から視線を反らした。 「・・・・・・人形、さがしてるってことはいつも持ってるのかな〜」 ミナトはなにげなくナルトの捨て台詞を聞いていたらしい。 オレンジの忍服のネタから話をそらそうというあがきをしてみせたが、それがさらにあだになり、二人の仲間はさらにナルトの話に発展する。 「たしかに。なにより目を引いたのはあのオレンジの忍服だが。それに人形などもっていたら、かわいくはあっても忍とは程遠い」 「それよりあの髪もすごいよね。金色の髪に赤いメッシュって」 「「派手だな」」 「・・・・・・そ、ソウダネ。はは、ははは・・・・・」 なぜかミナトだけ様子がおかしかったが、ナルトについて意見を交わす二人は気づかなかった。 ********** 将来の親たちが、な〜んて、シミジミとした会話をしていたなんてしらない。 その頃――キューちゃんを探しながら、街中を走っていたオレは、なにか重大なことを忘れていることに気づいて足を止める。 「・・・・・・そういえば、ここって時代が違うんだっけ?」 あれ?それじゃぁ、仮面男になっていた父ちゃんに【どんだけ休暇がないんだコンチクショウ。やっと引退バンザイ!念願かなったんだから誰も邪魔するなかれ、ボクたちの新婚旅行】のことは言ったらまずかったんじゃぁ。 あ、でも母ちゃんの名前もオレの名前も言ってないし、ミミズク仮面を“父ちゃん”とも呼んでないから大丈夫じゃね? いや、待てよ。 そういえばさっき逃げるさいに「父ちゃんのバカ」とか叫んだ気がするな・・・・・・ま、聞こえなかったということで。 うん、そういうことにしておこう。 それから、チャクラをつかう技はひかえないといけないけど、キューちゃんはさがさいといけないので、オーラを広げて“円”を行った。 う〜ん。やっぱり封印されてるからか、キューちゃんの反応がない。 だけど、かわりに、街の入り口近くになにか見知ったオーラを発見。 なんだこれ? なんでこの時代に見知った気配が? そこでやっと思い出す。 「そうだ!――ヤマト隊長だ!?」 キューちゃんと離れ離れになったでいで色々忘れていたときに思い出した記憶の中にさえ、ヤマト隊長の存在がなかった。 うかかりしすぎだオレ。 そうそう、たしかひとりで父ちゃん関係のやっかいごとに巻き込まれるのが嫌で、龍脈が暴走した際に、たしかヤマト隊長も引きずり込んだのを思い出した。 とにかく、ヤマト隊長を・・・ の前に。 キューちゃんをさがないと。 チャクラもねれないこのままの状態では、いつ、何があってもおかしくない。 慣れないせいでいまだに痛む足を引きずりながら、オレは小さな九尾の人形のような姿を求めて、あてもなく廃墟の中を放浪することとなった。 「シクシクシク。おーい!キューちゃん。どこにいるんだ!」 ――追記。 生まれてからはじめてのひとりはかなりさびしかったです。 むかし、黄色の閃光は言ったサ。 『ねぇ、ナルくん、ナルくん。みてみてー!オレンジの忍服みつけちゃった!!』 ばさっと子供服をひろげる金色に、赤い血潮のハバネロは喜んだ。 『ミナトが黄色。わたしが赤だから、その間を取ってナルトはオレンジ忍者だってばね!』 『だよねだよね!やっぱボクたちの子はオレンジじゃなきゃね!』 のんびりアイスを食べていた黒いTシャツに地味な色の短パンを着ていた12歳の子供は、テンションの高い両親に思わずアイスのスプーンを落とした。 愕然とする子供の前で、原色ともいえるほどに明るいオレンジ色がハタハタとたなびいた。 子供は黒が好きだった―― |