04.異変 |
-- side オレ -- 痛みにうめき、その自分の声で目を開いた。 「あ・・・」 なにかを――なくしてはいけない何かをなくしたような喪失感を突如覚えからだが震えた。 いつも側にあった。 側にあるのが当たり前で、側になくてはいけない、あるべきもの・・・。 それが何かは思いつかない。 朦朧とした頭では考えがうまくまとまらない。 ただ胸にぽっかりと穴が開いたような気分。 そのこころもとなさを補うように、そのぶんですべての気力を使い果たしたかのように、その消失間に気がつけば、体が重く気だるく感じた。 重い瞼をあけて、状況を確認し、そこで周囲で舞い上がる粉塵に気付き、気を失っていたのは一瞬の間だと判断する。 その一瞬で何かとても大切なものを失った気がするが、いまいちよくわからない。 ぼぉ〜っと天井に開いた穴を見るに、あそこから落ちたのだろう。 ここは地下か、それとも塔の下にある建物の中か。 かろうじて直撃はなんとかかわせたものの、全身はがたがたで、力を込めてもすぐに起き上がることはできなかった。 「うっ!」 それでも気力を込めて、やっとの思いで身体を起こすと、左の太腿に激痛が走り、思わず声がこぼれ出た。 「つーっ!」 ズボンが裂けている。 裂け目の中は血で真っ赤になっていて、頭の中に違和感があふれ出る。 血? ――なんで? なんで治ってない? これくらいの傷なら普段ならもう血が止まっていてもおかしくない。 医療忍術を使おうにも、久しぶりの痛みのせいか、チャクラコントロールがうまくいかない。 他人の治療は慣れている。 でも自分のものを治すのは、13年ぶりぐらいではないだろうか。 自分の体だからか余計に、とっさの止血という考えが浮かばず、太腿を両手でおさえることしかできなかった。 ふいにパラリと頭上から小さな石が降ってきた。 そのまま何かの気配を感じ顔を上げれば、そこには頭上に開いた穴のふちにたたずむ傀儡たちの姿があった。 「!?またかよ・・・・」 四体の傀儡たちが、天井の穴を抜けて降下してくる。 条件反射のように、すぐそばに転がっていたチャクラ刀を手に取った。 この世界にきてから戦うことに体が勝手に反応している。 忍だからそれが正しいのだろうが、無意識の反射は、治っていない怪我に響く。 思わず足からジンときた痛みに顔をしかめながらも、意地と根性で痛む足を引きずって立ち上がる。そうしてゆっくりと降りてくる敵に身構えた。 「つっ!」 まっすぐに立った瞬間、怪我をした左足から電撃が走ったような痛みを覚え、とうの昔に忘れていた“継続する痛み”という慣れない苦痛に、顔がゆがみ、思わず膝をついてしまった。 なんで?なんでいつもと違う? こんな怪我、たいしたことはなかったはずだ。 だって、このくらいはいつも――・・・ あれ? なにがオレからなくなってしまったんだろう。 なにが・・・いつも? 一瞬、思考の渦に飲み込まれたその隙を狙ったかのように、傀儡たちの腰のあたりから、いっせいに例のクナイが射出された。 「っ!?なんだ、これ――」 獲物が風を切る音にハッと我に返り顔を上げる。 不規則な起動を描くクナイは、オレを直接狙わず、はっきりと目に見える光を放って、オレの周囲を覆うように動く。 オレを閉じ込めたそのクナイたちに、こちらの動きを封じようという意図があるのに気づき、手にしていたチャクラ刀を振り回してチャクラ糸の網を断ち切ろうとした。 しかし・・・そこで一本の糸を切ったところで、全身から力が抜けていくようなだるさを覚えた。 「うそ!?チャクラ切れ!?そんな、ばかなっ!!」 突然力の入らなくなった身体に対処できず、うっかり力が抜けた身体が、地面に膝を付きそうになった。 それを必死で押さえて、足にちからをいれて、よろける身を叱咤してなんとか踏ん張る。 オレが自分の身に起きたことに戸惑っている間に、敵はすでにオレを肝炎に包囲していた。 ふと気づけば、オレの周囲を取り囲んでいたチャクラ糸は何重にも絡まり、普段のオレでさえ切り裂けないほどに糸は強度を増して、一種の檻と化していた。 「くっ、これじゃあ・・・・・・」 飛び回っていたクナイの先端が、いっせいに地面に突き立った。 チャクラ糸の網によってオレは包囲され、逃げ場を奪われた。 焦りがつのる。 さっきから色々おかしい。 身の回りでおこる身体の異変に戸惑うばかりで、そのせいでさらなる焦りが生まれ、あんな空飛ぶ土偶ごときに隙を与えている。 その事実に歯を食いしばり、残り少ないチャクラをふたたびチャクラ刀に送り、それを振るおうと身構えた。 そこで―― シュン! クナイとはまた違う、父ちゃんの“アレ”か、瞬身の術でも発動したかのように――風を切るような短い音が聞こえたかと思うと、不意に自分の身体が何者かの腕に抱え込まれたような気がした。 「えっ!?」 一陣の、風が吹いた。 コトリ カタリ 時動かす運命の歯車が動き出した瞬間―― 出会い そのときアナタが側にいた まだ時が動いたことには誰も気づかないまま... |