『ザ・ロストタワー』
- N ARUTO -



03.土偶と追いかけっこ





 -- side オレ --





 キューちゃんと一緒に地下から飛び出して、龍脈の気配を辿っていたら「お前は本当に人か!?」とつっこまれた。
そのあとキューちゃんと色々いい争いをしつつ、林のように聳え立つ塔の群れを歩いているうちに広場に出た。
気を取り直し、改めて周囲を見回して驚いた。
立ち並ぶは、高い塔の群れ。
どこまでいっても先程からこの塔の群れから出るに出れない迷路のようだ。
こんな塔の林立する地があるなんて、火の国はもちろん、他の国にも聞いたことがない。

「ここって・・・・・・」

いまいる広場からも街の外を見ることはできない。
 信じられないくらい広いにもかかわらず、あたりに人影も気配さえ相変わらずない。
しかも広場はまわりを塔に囲まれていて、それらがあまりに高く。そしてあまりに密集しているために、薄暗く感じられるほどだった。

「すっげー!」
『……』

(でも、な〜んかココ全体が気にくわねー)

『ナルト?』
「あ、いや。ただ嫌な予感が」
『嫌な予感!?…ナルトのソレはあたるからのう。早く帰りたいわい』
「…ごほっ。って、それは…父ちゃんに文句を」
『そのお前の父親が一番やっかいなんじゃろうが!』
「あ、嫌な感じにそれは…たぶん、関係なくて。それにしても…」
『……』

 キューちゃんの目がジト〜っとオレをみてきたのに気づき、話をそらそうとソラを求めて仰ぎ見ると、眩暈がしそうなほど高い塔が頭上を覆っている。

「たけえなー・・・・・・んっ!?」

 ふいにその空と塔の合間をなにかが横切ったような気がして、もう一度頭上に目をこらした。
 塔と塔の間に、なにかが浮かんでい・・・・・・、というかゆっくりと降下してきている。
それが、人の形をしていることに気づいて、思わず驚きに目が大きく見開かれた。
あれはさっき地下で襲ってきた土偶に似てないか?
しかも――

「!!」

 空中を漂う人影らしきものが三体に分かれる。いや、そうではなく、背後に隠れていたものが姿を見せただけなんだろうけど。
 とっさにクナイを出して身構える。
だけどやつらはオレを囲むように、その三体は炎を噴射しながら次々と着地した。

あの炎、チャクラか?
本当に炎だったら、この街、きっと燃えてるネ。
コゲ跡がいっぱいできてないということは、たぶんチャクラなんだろうな。
どっちでもいいか。

・・・というか、よくないな。

 胸に<弐>と刻印された一体が、カタカタと作動音を響かせながら、突然巨大な爪のついた右腕を前に突き出して、オレを捕らえようと爪を開く。
まさかのびるとは思わなかったその腕が、音をたててのびてきた。

『気を抜くなナルト!』
「ぬぉっと!?」

指定席たるオレの頭部に、くっついたキューちゃんからの援護と、経験による勘で、とっさに身を低くしてそれをかわす。
っと、なんとなく見た方向に悲鳴ものの一体を見つけた。
オレがよけるのを狙っていたように、ほぼ同時に別の一体もまた身をかがめていた。
その<壱>の刻印を持つ敵の、その大砲のような右腕が、オレに焦点をあわせて鈍く光を放っている。

波○砲かよっ!?


「くっ!!」

空中に飛んで逃れたオレのすぐ脇を、<壱>の腕から放たれた火炎がなめるように通り過ぎていった。
○動砲ではなく火炎だったことをここに記す。

「わぁっ!」

 のんきなことをかんがえていたせいか、よけれたのは本当にギリギリだった。
ちりちりと皮膚のこげるような感触に冷や汗を流しながら、攻撃をしかけてきた相手を見下ろす。
次はなにが来る!?

「なんだ、あいつら!?」

 案の定、戦う土偶<壱>は素早く身を起こし、腰にはまっている大きな輪に開いたいくつもの穴から、鏃のような形をしたクナイを射出した。
しかもそれに呼応しているのか、しまいには<弐>と<参>も、おなじように腰からクナイを発射しはじめた。

「くっ!影分身の――」

 敵にむかうにしても今の現状から抜け出すにしても、射出されたクナイは不規則な起動を描くため、予測のつかない方向から襲いかかる攻撃に、さすがのオレも印を結ぶどころか、かわすのがやっとだった。

「うわっ!」

多勢に無勢。
結局印を結ぶのをあきらめ、次々飛来するクナイをかわすことに集中した。
 クナイはまるで、糸かなにかで操られているようだった。
なにせ敵のクナイはロケットランチャーかとつっこみたくなるほど、まったく想像もつかない動きで、すべての方向から飛んできた。しかも、一度かわしてもふたたび方向を変え、オレにむかってくるのだ。
前世の知識だけど、これは間違いなく追跡装置でもついてるだろと思わずつっこみをいれたくなった。
や。忍者の世界でソレはないのは分かってるけどね。

「くっそー! こいつらー!」

 それにしても空飛ぶ土偶たちの攻撃はきりがない。
目の前を通過したクナイをのけぞってかわし、背後からむかってきた一本には身をひねって宙を舞い、足もとを通り抜けたクナイを蹴って、大きく飛び上がる。
ちょうど頭上にあった、塔と塔の間にかかる橋の底面にチャクラを使って着地して、ようやく一息つくことができた。
本当にようやくだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 オレが着地したのは、ちょうど広場をはさんだ反対側、その広場を囲う壁の上に立つ敵の三体を見下ろす位置にだった。
そこで、例のクナイが敵のもとへもどっていくのを見た。クナイが敵の身体に収納される刹那、人形たちの周囲に、ちらりと光る糸のようなものがあらわれたことに気がついて、思わず呟いてしまった。

「やっぱり・・・・・・傀儡だ!!」

 今の呟きでも聞き取ったのか、土偶、改め傀儡三体は、ふたたび足の辺りから炎を噴き出して、今度はまっすぐオレにむかって飛び上がってきた。
あの空飛ぶ土偶が傀儡であることが明白になった今、操っているのはムカデだろう。
なにせ遺跡で戦った土偶・・・じゃなくて、傀儡と、襲ってくる<壱>とかニだがサンも顔が同じだ!!

「ムカデのヤロウ! どこにいるんだってばよ!」
『たわけ!気づくのが遅い』

頭の中に、九尾のため息が響いた。
龍脈を生身で感じ取れるなら、それぐらいひとめで気づけとつっこまれた。
いや。だって戦闘中にはさすがにそこまでいしきをませなくて。

『まわせなかったらこれからあらわれる敵に、お主、一撃で裏をかかれて殺されるぞ。あぁ、いやじゃいやじゃ。目に見えるようじゃ』
「む・・・」

 つまり、姿は微妙に違うが、やっぱろあれはムカデの指しむけた傀儡人形ということらしい。
おそらく、近くに隠れてあれを操っているのだろうが、あたりを見回しても、それらしい姿は見当たらなかった。
それにいまは戦闘中なので、さっきみたいに龍脈の気配を追うことまでは気が回らない。だけど目の前の傀儡は、遺跡で戦ったものよりチャクラを多く使っている。それが複数いること考えて、あれも龍脈の力を借りてるのだろう。
そうなるとムカデが近くにいなくともうなずける。

 あいつらが攻撃を仕掛けてきたので、橋を離れ、別の足場へと飛び移つる。
塔は無数にあって、それぞれの塔の間には複雑に橋が渡されているので、足場はいくらでもある。
運がいいことに、木の上を自在に走り回る忍より、傀儡たちの方がのろい。
あんなごっつい図体だからか、速さが売りの忍とはくらべられないほど素早くはない。
オレは傀儡たちからにがれるように橋から橋へと素早く方向を変えながら飛び移る。

(龍脈の力でレベルアップはしているが・・・やはり、少し遅いな)

傀儡達は、オレについてくるのがせいいっぱいのようで、これならなんとか逃げ切れるかと思案する。
 わずかに余裕ができたものの、警戒はとかず、前世からの能力であるオーラをひろげて“円”を構築する。
するとオレの感覚に、敵の反応が引っかかる。
だけどそこからどんな攻撃を仕掛けてくるか分からないので、ちらりと敵さんの様子を確認するように振り返りながら、橋のひとつに着地して逃げるように走った。

「ったく、どうなってるんだ・・・・・・!!」

“円”に突然新しい反応が増えた。
驚いて敵の気配を察知したほうを見やれば、橋の向こうから、追ってくる傀儡と同様に<壱><弐><参>の印を刻まれた傀儡たちが、ぞろぞろと姿をあらわした。

「なにーっ! どんだけ出てくんだよ!」

 ありえない。
ありえないってばよ!!

しかも何度もいうが、オレは本家のナルトとは違って、赤メッシュの成り代わりナルトだ。前世で使っていたオーラはバリバリあるが、それも必殺技を出すには及ばない量。
つまり攻撃するための術に必要なエネルギーが、この身体にはない。
チャクラコントロールだけが得意だから、チャクラで壁に張り付くのはサクラちゃんより得意だ。
だけどこれ全部を相手にするにはキューちゃんの助力が必要なわけで・・・

って、正面からまたきたー!!!

正面にいた傀儡の一体が、右手の大砲を構え、無造作に撃ってきた。

「わっ! わわっ!」

 慌ててかわすも火球は、オレがさっきまでいた場所に命中し、それにより橋の上で大きな爆発が起きた。

「くっそおおっ!」

 たまらずその橋を飛び出し、手近な塔の壁面に取りつき、すぐさま複雑に飛び、また壁や橋に張り付いたりして動き回る。
今、敵より優位なのは、この俊敏性だけ。
相手がチャクラや体温、または音を察知して追跡してくるような敵でないことを祈りながら、傀儡たちの追跡をかわそうと、必死で逃走を試みる。
もう必死必死。
頭にはりついいたキューちゃんが、「おちる〜」と悲鳴を上げているのも無視して、リレー選手のように見事なフォームで走って走って走りまくった。

 視界にオレの特徴である紅い前髪が一瞬視界をよぎる。
そこで赤がきえたあとに見えた光景に目を見張る。

 どうも敵さんはおいかっけこに飽きたのか、信じたくはないが敵のほうが一枚上手だったのか――気がつけば散っていた傀儡達は、オレたちをとりかこめるように、敵巧妙に包囲の輪を縮めていた。

目の前にはオレの道先をふさぐように橋がデーン!と腕を伸ばしている。
敵は背後にせまってくるし!?
どうしろと!?
逃げ場を奪われた!

って、橋ぃ!?

 先頭に立っている<参>印が、自慢らしい右腕を巨大なハンマーの形をしたのをめにし

「あっ!!」

 うなりを上げてハンマーが叩きつけられる瞬間、思わず目の前に迫っていた橋の下に身をかがめて潜り込んだ。

ズガァァーン!!

 コンマ数秒。
オレが頭をひっこめたわずか数秒後に、<壱>やろうのハンマーが橋を打ち砕く。
さらに、勢いあまった<参>の傀儡が、自分がたったいま破壊した橋に激突し、編隊を組んでいた仲間の<壱>とか<弐>を巻き込んで、ばらばらになった。

(ひぃ〜!!死ぬかと思ったてばよ!)
「きゅい(気を抜くにはまだ早いようじゃぞ)」

 たしかに、ほっとする時間はなかった。
あとからやってきた傀儡の群れが、橋の下にいるオレにむかってきたからである。

攻撃は三種類。

 そこでようやく敵が<壱><弐><参>の印ごとに、決まった技しか出さず、さらに三体で編隊を組み、コンビネーションで攻撃をしかけるのを基本としているのに気づく。
気づけたのはやはり数が増えてきたからこそで――その数・・・。
編隊が、確認できるかぎりで三つ・・・・・・いや四つ以上見える。

本気でオレをつぶす気か。


「しつけえなあ・・・・・・」

 オレが術を使った場合、それは九尾のチャクラをモトとしていることが多く、ほとんどが大技となってしまう。
そうなれば、あの傀儡も倒せなくもないが、たぶんこの街が滅ぶ。
建物だってただじゃすまないだろう。

そこでようやく、サクラちゃんの言葉を思い出していた。
オレてきにはツッコミ満載なサクラ女子の言葉――いわく、傀儡と戦うときは、傀儡を操っているチャクラ糸を切ればいい――。

「しかたない最終手段!!やってやるってばよ!」

 傀儡相手にはこれしかないようだ。
背嚢の下にくくりつけてあったチャクラ刀に手をかけ、引き抜く。
とりあえず目の前にあった塔に着地し、追いかけてくる傀儡にむかって逆に向かってみる。

 本当はチャクラ刀って、使いたくないんだよな。
というか、チャクラが少ないオレは余分なことに自分自身のチャクラを使いたくないわけで。
でもグチグチいってられず、むかってきた<弐>が振りかざしてきた巨大な爪をかわして、通り過ぎざまにチャクラ刀にチャクラを流し込み、刀身から放射されるチャクラの刃で傀儡の背後をなぎ払う。

 ぶつん――

手ごたえはあった。
チャクラ糸は、一瞬ちらちらと光を放ちながら、空中に溶けるように消えていった。
とたん、<弐>の傀儡はバランスを崩し、前のめりになって落ちていく。
だけど狙ったように、いまの弐号機と編隊を組んでいた<壱>の傀儡が、火球を乱射してきた。

ああ!!もう、マジこいつらいやだ!!

(キューちゃん…用意は?)

 次から次へと来る傀儡の攻撃を、空中で身をひねったりしてかわしつつ、心の中で問いかける。
するとそれに答える声があり、青いチャクラの刃をみせていたチャクラ刀に赤いチャクラが混ざり始める。
なんとかオレ自身のチャクラがきれるまえに、キューちゃんのチャクラを得ることに成功。
そのまま勢いに乗って、腕を振り回す敵の頭を踏みつけて背後に回り込み、チャクラ刀でチャクラの糸をぶつぎりにしてやる。
これで二体。
ということは、あと一体――<参>はどこに・・・

『ナルト!上じゃ』

ドゴッ!

オレが一瞬目を離した隙に視界から離れ、上に逃れていたらしい<参>が、この隙を待っていたかのように、大ハンマーを振りかざして降下してきた。
傀儡の相手と、チャクラのチャージや九尾のチャクラをコントロールするのとで、うっかり目の前に集中しすぎた。
頭上への警戒が薄くなっていたせいで、陰が頭上にかぶった瞬間には、<参>の一撃をもろに食らって吹っ飛ばされた。

「ぐあっ!」

 凄まじい勢いで吹き飛ばされ、空中戦と化していたオレは、下にあった橋に見事に叩きつけられた。

『大丈夫かナルト!?』
「なんとか・・・くそーっ、こう次々と攻めてこられたら――」

 このくらいの衝撃なら、まだなんとかなる。
だけどこう数が多いとこちらは本当に不利だ。
身体を起こすと、激突の衝撃で砕けた敷石がぱらぱらと前身から落ちていく。
ほこりが目に入り、それに顔をしかめつつも異常がない身体を起こす。
見上げると、頭上からどんだけスーパーロボだとつっこみたくなるような噴射をして浮いている四体の傀儡がゆっくりと降下してくる姿があった。

「このあほんだらー!!チャクラ刀を使っても追っつかないってーの! ・・・・・・ん!?」

 オレの体が丈夫とはいえ、いい加減にしろ!と思わず叫んだら、悪口を聞き取ったのか、<壱>の傀儡の顔面がパッカリと左右に開いた。
口にあたる部分に砲のようなものが露出する。

「まじかよっ!!」

 みるみる<壱>の口にぼんやりと光が灯り、そこだけ明るさをましていく。
本能的にヤバイと判断したオレは、瓦礫なんかなんのその。
必死で起き上がり、その場を離れようと身構えた。

瞬間――

目もくらむ閃光があたりを包み込んだ。


 予想外の素早さで、チャクラを収束させた傀儡から発せられた輝きは、オレごとすべてを打ち抜き、爆発を起こした。
そうして分厚い石造りの橋までも、粉塵をまき散らしながら崩れ落ち、埃と石屑とともにオレは地の底へと再び落とされた。

 意識が途切れる寸前、キューちゃんの何かを訴えかけるような感情の波が伝わり――


オレの側から、“なにか”が消えた。












いかないで・・・
そう願った手は届かなかった








<< Back  TOP  Next >>