06.元電子精霊は眼鏡を貸し与えた |
『あのひと、またなにかやってるな』 目が覚めたのは夜中の11時もとっくにすぎた時間帯。 体がざわついてどうしようもなくて目が覚めた。 家の中にはオレ以外の生き物の気配はないから、まだ新一は帰っていないのだろう。 はぁーと溜息をついたところで、ドカン!っと隣の家が爆発した。 -- side オレ -- ぶっちゃけていおう。 オレの家への一番の侵入者は――隣の家の阿笠博士である。 なんか体中の細胞がビリビリするような気がして目が覚める。 眠っていたせいだろう。 近場の機械類とリンクが、無意識につながっていたようだ。 部屋のパソコンが勝手についているし、電波時計が異常な回転を見している。戻っては進んで戻っては進んで・・・。なんだこれ? 何回目の人生だ。もう気分はかなりの年寄ですよ。おかげで早寝早起きをもっとーにしているオレには、こんなへんな真夜中に起こされるのはたまったもんじゃない。 しかも機械に反応しているようで、身体がだるい。 原因はたぶん隣の家の電子機械のエラーによるものだろう。 意識を隣の阿笠宅へ向ければ、向こうの機械が異常な数値を出しているのが解る。 いうなれば機械の悲鳴がリアルに身体に響いてくる感じだろうか。元電子精霊としてはこれはきつい。 とりあえず眼鏡をかけ、一度深呼吸をしてから自分の身体の調整をして、 部屋で発生してしまている電子機械による異常現象を抑えていく。 それからしばらくして、ウィンウィンとしっかりとしたモーター音を鳴らしていたパソコンが、静かに眠るように電源を落とした。 そこまでしたところで、なにやら隣の家が騒がしくなってきた。 何らかの機械と思われる震動音がじかに聞こえてくるほどだ。 それがしっかり耳に届き始めたことにため息をつく。 また阿笠邸が爆発するに違いない。 なんとなくこのあとのことが軽く想像できて、キッチンからフライパンを手に取り、庭に出る。 ビリリ!!っと空気が揺れる。 つづいて、先ほどまでのモーター音があっというまに警報のような音量にまで上がって、 実際にこちらまで振動が届くと、ドッカーン!と派手に壁が外から爆発した。 オレのもとにも瓦礫が降ってくるのをフライパンではじく。 爆発の名残の煙が消えると、一番崩壊が激しい博士の家の玄関付近に、なにかでっかい物が転がっている。 阿笠博士だ。 うちの家は何とか無事そうだ。 そのまま我が家のセキュリティーを一端切り、門に“ちっこいものがはりついている”のも構わず、がん!っと門をあけて、 ゴホゴホと急き込んでいる博士にむけフライパンをかかげる。 『あんたっていう人は…何度うちまで破壊すれば気が済むんだ?いや、今日は我が家は無事だが。 貴様の爆発で前回壊れた塀は、あなたの年金じゃぁ払えない額だと何度家えばわかるんだ?あと9時以降に騒ぐな。ご近所迷惑です』 阿笠博士か何歳かなんて忘れた。興味もない。もしかするとまだ年金なんて年じゃないのかもしれないが、そこはオレのしったこっちゃない。 オレの言葉に振り返った博士が「まつんじゃーこれにはわけが」と悲鳴を上げているが無視。 オレの“背後から”も、オレを止めるような制止の声が聞こえたが無視。 あげていたフライパンをそのまま振り下ろし、変な装置をヘルメットのようにかぶっている博士のその頭を狙って落とした。 殺しはしないさ。 でも意識を落とすのは十分なぐらいの威力だったようで、阿笠博士は「あ」と一言のこして素敵な笑顔で気絶なさった。 オレはそのまま博士の首根っこっと、傍でおびえたように固まっていた“サイズの合わない服を着た子供”をむんずとつかんで、工藤邸に連れ込む。 博士の家はだめだ。 先程ちらっと、壊れた壁の隙間からのぞいてみたが、部屋中がもうなんか災害跡地のようだった。 普段から部屋を整えておかなかったのも原因だろう。 室内が見るにきっと無残な有様であったことと、いまのオレの高ぶった感情に呼応して感覚が無意識に機械とつながって計器類が暴走しかねないことも含め、彼らを工藤邸につれこんだ。 感覚をのばすようにして、阿笠博士の家の機械をおちつかせ、これ以上の暴走だけはくいとめておく。 とりあえず向こう側のコンピュータというコンピュータの起動を止めたところで、ふぅーっと息をつく。 年寄りをあまり怒らせないでほしい。 とはいえ怒ってはいないし、たぶんいつも通り疲れたような表情でオレはいるのだろう。 『こんな原作の始まり方はいらん』 なんかもう昼間の宣言通り、オレ、神に挑もうかな。 もうさ、厄介ごとが嫌だから、介入しちゃってもいいですかね? ・・・返答なし。 まぁ、あるわけないけど。 無言は肯定ってよくいうだろ。オレの脳は勝手に神はYESと言ったと判断いたします。 神に宣戦布告した通り、めんどうでないかぎりオレはこれから原作に介入しようと思います。 だってこうでもしないと、オレの安寧と安眠と平穏て遠ざかる一方じゃないか。 * * * * * 「あ、あの・・・」 『茶でも用意してやる。しばらくそこで寝てるおっさんみててくれるかガキ』 「え、あ、うん」 門にはりついていたのは、門のとってに手が届かなくて代わりによじのぼろうと頑張っていた、小さい少年だった。 やはり門限までに帰ってこれなかった我が兄は、薬を飲まされて縮んでしまったらしい。 なんか厄介ごとにすでに巻き込まれている気がしないでもないな。 言葉も思わず少なくなる。 つか、眠い。 そうこうしているうちに、屋敷に電気がついていたことで、蘭ちゃんが新一をさがして入ってきていた。 目覚めたらしい博士、着替えを自主的に部屋からとってきたチビ新一、新一を探す蘭。 とりあえず三人分かな。 彼らの好みの味の紅茶、コーヒーをいれて、カップにそそいでいく。 『おまたせ』 部屋に入った時には、新一はレンズをぬいた優作の眼鏡をかけて、蘭に壁際に追い詰められていた。 「ぼ、ぼくはその・・・え、江戸川コナン!」 ハイ、名探偵コナン誕生の名シーンでした。 阿笠博士がとっさにわしの親戚で〜と言おうとしたところをその口にクッキーをつめこんでだまらし、代わりにオレがその言葉をもらう。 『その子、オレの親戚だって』 「あ、っちゃん。お邪魔してます」 『いらっしゃい。みんな少し落ち着いた?いったんすわってよ。 はいミルクティーどうぞ。博士にはこっち。そこのちっこいのはこっちな』 「わー!おいしそー!っちゃんがいれてくれたの?いつもありがとうね」 『どういたしまして』 「ところでその子どうしたの?小さい時の新一にすっごいそっくりよね!驚いちゃった」 『ユキコ母さんが面白おかしく電話してきてね。それであずかることになったんだ』 「へぇそうなの?二人にこんな小さな親戚居るなんて初耳」 『だろうね。オレも初耳だよ。同じ顔の奴がこの世に三人も四人もいてほしくないんだけど。ユキコ母さんが新たに生んだって言った方が信じられるけどどうも違うみたいで、いままで接点ほとんどなかったおばさんのその娘さんの子供だって』 「そうなの?あ!それより新一知らない?」 『新一なら南からオレを呼ぶ事件の声がする!って連絡があったけど?あの調子じゃぁしばらくは帰ってこないだろうね』 やれやれと肩を竦めれば、ソファの上で小さな子供がギクリと肩をこわばらせつつチビチビとブラックコーヒーをのんでいる。 おいコナン。子供らしさを装うのなら、だしたままブラックなんか飲むなよ。 まぁ、蘭が気づいてないからいいんだけどさ。 そもそもこのコナンの第一話ってすっげー可笑しいんだよ。 第一に、小学一年という小さな子供が、大人の眼鏡をかけてピッタリ!なんてあるわけないだろ。 どこをどうみてもサイズの合わない眼鏡だってすぐわかるだろうし、絶対大人の眼鏡を子供がしてる風にしか見えないはずなのだ。 第二に、アニメのコナンは蘭にばれないようにとっさに度のはいったレンズをぬいて眼鏡をかけていたが、普通にわかるだろ!と叫びたい。 なんでそこで蘭ちゃん普通に対応してるの!?違和感感じないの!? どこからどうみてもレンズがない縁だけのワクだってだれだってわかるだろ!!! まじで叫びたかった。 しかたない。 ここはあとでオレの子供の時の眼鏡をくれてやろう。 どうせ伊達なんだよね。 みちゃいけないものが視えないようにするためだけだから、度とかほとんど入ってないし。 大きくてブカブカの大人用メガネよりもましだろ。 それから新一は今日は帰ってこないと告げると、蘭はあきらかに落ち込んだ様子を見せる。 じゃぁ、長居してもしょうがないと帰ると告げる蘭を見送るとき、ひらめいたとばかりにコナンが蘭にまとわりつき、それに博士がのろうとして―― 「そうじゃ!蘭君、この子を蘭君ちであずかってくれんかの?」 その一言に、思わず頭を抱えた。 ばれてないからいいものの、幼馴染みとはいえ、異性の、それもうら若い女性のもとに世話になる・・・だと? 正体を知っているのに、オレが、許すわけがないだろう。 『・・・・・・うちんとこのガキ。かってにつれてかないでくれる?』 「じゃ、じゃが・・・わしは一人暮らしじゃし、ほらお前だって・・・それにこの子は」 『はぁー・・・そんな自分と同じ顔したが気なんか興味ないし、どこで面倒見ようとかまわないんだけどね。 オレにはユキコ母さんに報告しなくちゃいけないんだ。養育費、生活費は誰が出すとおもってるわけ博士?まぁ、それはおいおい親御さんからそいつをあずかった家に連絡が行くと思うけど。 渡すのは構わないよ。何度も言うけど、オレ自分の顔嫌いだから同じ顔を見ないですむのは嬉しいし。でも手ぶらで行く気か?せめて荷物の準備しないといけないから、今日はダメ。明日な』 「そうね。じゃぁ、わたしもお父さんに聞いてみるわ!また明日ねっちゃん」 『うん。おやすみ』 「バイバイコナンくんも!」 「あ、うん!またね蘭おねぇさん」 博士に蘭をおくってもらいつつ、オレとコナンで二人を見送る。 なぁ、これが本当に名探偵とうたわれるやつの行動なのか。 さっきからこのオチビ、墓穴彫ってばかりいないか? まぁ、突然体が縮んだあげく、突然会いたくない大切な女の子と遭遇したら・・・そりゃぁ焦るわな。 わからなくはないけど。 チラリとみやれば、足元にいるコナンがおびえたように、こちらを見あげている。 外で話すのはなんだからと、彼を抱き上げ室内へ連れて行き、リビングのソファーに座らせ、自分はその正面に座る。 「あ、あの・・・お兄さんは僕のこと知って」 『キモイ。ぶりっことかいいから』 「へ?」 『何度も言ったよな新一。門限は9時だって。オレは眠いんだ』 「!?」 あくびをしながら言ってやれば、眼鏡のフレームだけかけたへんちんくりんないでたちのコナンが驚いたようにおれを見上げてくる。 こんな十何年も見続けてきた自分と同じ顔を忘れるとかアホだろうか。 むしろわからなかったら、真夜中に門にはりついていたこんな怪しいガキを家の中に上げるだろうか。 「お前、おれのこと、わかるのか!?まさか、もう本当に母さんたちまで知って!?」 『な、わけないだろヘッポコ。てんぱるとお前の灰色の脳細胞とやら働かないのか?とりあえずお前は工藤新一で間違いないんだな?』 「やっぱにはばれるか」 『おいからクソガキ。聞けよ。・・・オレ、言ったよな?』 「え?」 『知らない人についていくなって。そうやってすぐよけいなことに首を突っ込むからそうにゃって縮んだりするんだろ。あーあ、遺伝子レベルで事件に巻き込まれたあげく新一が被害者とか。なにそれ?おいしいの?むしろそれってオレにやっぱ迷惑かかるよな?ん?かからないとでもいうきかいこの口がいま言おうとしたのかな?オレ、平穏が好きなんだけど?』 うん。ニッコリ笑ってやったら、すっげぇひかれた。 同じ顔ってだけでもイラッとするのに、いちいち周囲の目を気遣ってこいつと会話するのも嫌だし、このままだと小さいからできないことに対して分パシリにさせられそうだし。 ああ、やっぱしオレ、新一ならまだしもこんな小さいの相手するの嫌だわ。 『よしきめた。新一、お前さ、やっぱり蘭ちゃんとこいけ』 「はぁ!?部屋いっぱいあるだろうが!ここ、おれの家だぞ」 『しってるけど。オレ、小さくなったお前と楽しく暮らせる自信ないの。 それに新一のことだ。どうせ自分をこうした犯人を捕まえてやる!なんて思ってんだろ?その情報を得るには探偵をやっている蘭の家の方がちょうどいいとも・・・・思ってるんだろ?』 「あ、ああ、まぁな」 『なら、蘭ちゃんちにとまりこんでしまえ。 それと――』 『これは忠告。いや警告だ』 『蘭ちゃんを危険に巻き込みたくなければ、その小さな体のことを誰にも知られないように気張れ。新一は変なところが甘い。いつか正体を自分でばらすかうっかり気付かれるかしそうだからな』 「それどういうことだ?おれが・・ 『子供は子供らしくしていろと言っている。あと、単身黒の組織に乗り込もうとするなよ。面倒事が増える』おまえ!?」 『お前が死んだら悲しむものがいる。心の処理が何より難しい。蘭ちゃんをなぐさめるのはオレの役目じゃないんだ』 なによりオレは面倒事は嫌いなんだ。 だからとっとと原作破壊をするという宣言をしたんだぜ そして気づいただろうか。 “黒の組織”という単語を出したことを。 原作知らなくても、たぶんオレ、すぐに犯人捜しあてられただろうね。 だって、オレは元電子精霊(AI)な現電波少年だぞ。 オレに侵入できない電脳世界はない。 『あーめんどい、くわしくは阿笠博士と好きにして。 わるいけど、オレはもうだめ。寝る』 「ちょ!?っ!!言い逃げかよ」 ちょっとしたことなんだけど。“これ”を思いついたのが、新一がコナンにされちゃったあとですごく申し訳ないんだけど、オレならあの黒の組織を一瞬でつぶせることに、コナンと会話をしてて気付いたのだ。 元電子生命体ですからね。やろうと思えばすべてのPCや機械を操れるんですよねオレって。疲れるからやらないけど。 だから奴らの端末さえあれば、あっという間にそこから侵入して、組織全体をつぶすこともすごくたやすいわけです。 デジタル文明バンザイ。 地デジはこの世界ではまだ先だ。 っと、いうか、しばらくしたらやろうと思う。 まぁ、無難にコナンが、この暮らしになじんだ後でいいだろうか。 そうすればコナンがうちにいなければ。この名探偵と同じ家にいなくていいわけで、きっと事件への巻き込まれ率は少なくなると思うんだよね。 オレの平穏まできっとあと少しに違いない。 蘭ちゃんはガンバレ。 コナンはセクハラで訴えられちまえ。 あ、そうだ。本当にユキコ母さんと優作父さんにこのこと報告しないと。 まずは盗聴器のチェックからだよな。 なんだ新一がコナンになっても変わらないじゃないか。やっぱりめんどくさいことがまっているようだ。 平穏がほしいな〜。 * * * * * 『そうだ。忘れてた。おいコナンになったバカ兄。ちびーちーび。オレの眼鏡やるよ』 「おれへのあたりがいつにもましてひどくないかなくぅん!!!」 『うるさい。門限すぎてるし事件は持って帰ってくるわ。そんな約束破るのが得意の常習犯が何を言う。それより、はいこれ。伊達だ』 「へ?」 『あ、度ははいってないから。だからいい加減幾何学ピエロみたいな真似はやめとけ。純粋すぎてあっさりなんでも信じてくる蘭ちゃんは騙せても、お前のいまの眼鏡の現状は、他の人間は絶対騙されないから。むしろ指を差されて爆笑されるか、つっこんで聞いてくるから。そんなレンズなしのフレームだけの眼鏡なんて』 「え?おまえ、裸眼じゃほとんど見えないんじゃ・・・え?伊達メガネだと!?」 『みえないんじゃない。“見えすぎる”んだよ』 「・・・あ、ああ(やっぱりこいつ何か見えてたんだ)ソ、ソウナンデスカ」 『そうなんだよ』 「えっと、やっぱりそのゆうなんたらーとか見えたり?」 『うん。だからあんまり死体の側とか事件に巻き込まないでほしいって、ずっと言ってたじゃん』 「・・・・は・・はは(乾いた笑い)。デスヨネー」 「・・その・・・なんかごめん」 |