ここまできたらぐれたくもなるさ
- 名 探偵コナ ン -



04.元電子精霊は殺人鬼ではない





え?それ殺気なの?

探偵という職業柄、人のまとう空気には敏感だ。
武闘家である蘭も同じく、ひとの“気”には敏感だ。

だから言わせてもらおう。

「なぁ、って・・・なにもの?」

うちの弟の殺気が、人知をこえていた件について。

“死”を実際体感するほどって・・・。
これ、普通じゃなかったんですね(遠い目)





 -- side 工藤新一 --





ジェットコースターにのっていたら、人の首がなくなるという殺人事件が起きた。
のるまでみんな楽しくていたのに、これはないだろう。
殺人事件を目のあたりにした蘭が泣いた。

犯人を推理していくに当たり、あの黒服な男性二人も容疑者として、この場に残らされている。
なにか急いでいるらしい黒づくめのペアルック二人組。
やはり男同士のデートは、あまりおおっぴらにみられたくないから早く退散したいのだろう。

だが、まだ事件は解決していない。

そのせいでこの場にとどめられていると、イラついたように長身の男の方が、周囲にさっきじみた視線を向ける。
そこまで怒らなくてもいいだろうに。
生暖かく二人を見守っていた周囲もさすがにその視線にびくりと肩を振るわせ、怯えたようにそくさくと彼らの視線から見えない位置まで下がる。

そこまでみられたくないなら、同じ服なんか着てこなければいいのに。
っと、いうかあれでは、犯人は"彼女"ではなく、まるで彼らのようではないか。
あの目はまるで何人も殺してきたような目だ。そう“あいつ”みたいな・・・

「・・・ん?あれ?“あいつ”ってだれ?っていうか、ああいう目をどこかで見たような気が」
「え。もしかして新一も?」

声がかかり振り返れば、殺人事件にショックを受けていた蘭が涙をぬぐった目で、しっかりと黒づくめ二人組を見ている。

「ってことは蘭も?」
「ええ。なんか凄く知り合いに雰囲気が似てるような気がして」

どうやらおれと蘭はお互いに、あの黒づくめの連中になにか言いようのない既視感を感じているようだと理解する。
知り合い?違うと視線だけで返ってくる。
それにおれは職業柄記憶力はいい方だと自負している。そのおれが思い出せないのだから、知り合いではないだろう。
ではどうして?
そう思って蘭を見れば、もう涙は乾いていて、その目にはただ不思議そうないろだけがある。
きっとおれの目も同じだろう。
ならばと蘭に彼らをさして聞いてみる。

「いっそ直接きいてみっか?」
「そうね」


っと、いうわけで二人でやってきました。

「「あの、会ったことありませんか?」」

「・・・・・・いや?」

とても変な顔をされた。
隣のグラサンの小さい方は、「え?兄貴の知り合いですか?」ときょとんとしている。
長身ロンゲは首を振る。
ついでに「ガキはあっちいってろ!」と吼えるように怒鳴られ、舌打ちついでに追い払らわれた。

それで思い出す。
同じような「がき」というセリフを最近聞いたばかりだ。
そうだ。どうりで似てると思った。

「わかった!!だ」
「ああ、なるほど。っちゃんかぁ、たしかに似てるね雰囲気とか」

そうなのだ。
どうたらのおれへの怒りの目つきとか、もう殺気を伴うようないつもの辛辣でけだるそうなあの雰囲気が、まさに黒づくめの彼らにそっくりだったのだ。

のやつ、あいつの方が年下なのにおれのこと「ガキ」って呼ぶし。ほら、あの目!いつも殺気立ってるあれだよ」
「でもっちゃんが殺気立つの新一にだけよ。わたし料理教わってるけど、怒られても新一ほどひどい目向けられたことないもの」
のあれ酷いよなー。何人も殺してきた・・・というより、日々事件があるたびにおれを本気で殺そうとしてくるからなぁ、あいつ」
「やっぱり新一が全体的に悪いと思うわ」
「だってよぉ。事件が・・・なぁ、もしかしておれって何か憑いてんのかな?」
「新一のはただの首突っ込みたがりの目立ちたがりやなだけでしょ。もう」

という俺の弟は、ことあるごとにおれに殺気を向けてくる。
幼少期からそれをビシバシあびていたおれには痛くもかゆくもないが、他の友人からするとの殺気というのは「物理的に痛い」らしい。
しかもが本気であれば、その殺気に本当に“殺される”と勘違いしたり、“自分の死”をつきつけられている風にも感じてしまう。そんな威力があるらしい。
“らしい”とあいまいなのは、幼少期から蘭もおれも毎日のようにその殺気を浴びていたせいか、すっかりのそれには慣れてしまっていたため、そんな恐ろしい感じがしないのである。
むしろなじみあるというか・・・。

だが、まぁたしかに考えてみれば、に関しては、あるいみ殺されてるのは毎回おれだけど、そんじょそこらの殺し屋(会ったことなんてないから実際はどうか知らないけど)に匹敵するのではと思う殺気を常に放っているので間違いようがない。
阿笠博士がを見るたびにおびえているのもそのせいだ。

「おれ、に何度も殺されまくってるからな〜。あいつはおれを何百回殺せば気が済むんだか」
「・・・それ。絶対新一のせいよ。っちゃんがダメっていってもきかないから。
苦労するのあっちゃんだもの。
そりゃぁ、殺意ぐらい沸くでしょ」


その後、事件は無事解決した。
の話が出たからか、推理で犯人を暴いた後、ここでもしがいたらとか。ふと、思った。
“死”というイメージを他人に植え付けるほどの殺気を放つくせに、あいつの口から出るのは“生を尊ぶ”言葉ばかり。

そんなあいつなら、泣きながら殺した相手のことを語るこの犯人の女性をも見て、いったいなんて言うのだろうか。









『自分の命をかける覚悟のなものが、武器(命を奪う道具)をとるんじゃねーよ』

きっと、今あの子がいたら、そう言うんじゃないかと不意に思った。
それはよく彼が口にする口癖のようなもの。

“それ”は、誰の受けうりか。






* * * * *






「ところで目黒警部。なんか殺意ある人間って最近生温くないですか?」
「は?何を言っておるのかね工藤君?」
「最近思うんですよー。殺人現場に行ってもね。その・・・犯人ってあんまり殺気ないな〜って」
「いやいやいや!こないだなんぞ君、逆切れした犯人に襲い掛かられてしぬとこだったじゃないか!」
「え?そうでしたか?なんかうちの弟の方が威圧感あって」
「は?」
「周囲が言うには、弟の殺気って“死”を相手にイメージさせるほどらしくって。つっても、内のお当が殺人鬼だとかそういうわけじゃないですからね」
「はぁ!?な、なんの冗談かね?」
「え?普通じゃないですか?蘭だってへーぜんとしてますよ?」
「え?」
「え?」

「そもそも工藤君。普通というのはだね・・・・」





「目黒警部・・・・うちの弟が、犯人の憎悪、怨恨、殺意の混じったどの視線よりも怖い殺気放つって・・・・どう思います?」










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