ここまできたらぐれたくもなるさ
- 名 探偵コナ ン -



03.元電子精霊は俺のいとこです





「死」に対して
「死」という言葉にさえ重さをおく

そんなお前だから

お前はさ、おれたちとは違うものを見ているんだろう

ふいに思うことがある

お前の見ているものは
きっと おれ達にはわからないもの
きっと おれ達とはちがうもの


なぁ
どうしたら“それ”をわかってやれる?





 -- side 工藤新一 --





工藤 (クドウ)はおれの弟でイトコだ。
なんでこんなややこしい言い方をするかというと、戸籍上は兄弟だからである。
それというのも、が親父,工藤優作の弟である工藤秀作のこどもであるからだ。
が五歳のときに秀作さんとその奥さんが亡くなり、うちの両親がを引き取ったため弟となった。

うちで面倒を見るからと引き取ったが、万年新婚気分なうちの両親はあまり家に、というか日本にさえいない。
おれもいつも家に一人で、家事は家政婦さんにまかせっきりだった。
はっきりいってお袋や親父は、おれが十歳になると放置気味になっていた。おれも日本から離れたいわけではなかったから、両親は海外、おれは日本という環境になり、たまに会うという状況が普通になっていた。
だからか、気付けばが工藤家の家事一切を担っていて、おれたちがあの子の面倒を見るというより 逆に面倒を見てもらっていた。
本人からすれば今更家事などをそっち方面は無能なおれにやられても困るとのことなので、基本おれはに世話されっぱなしだ。


は不思議な奴だった。
眼鏡をとるとみえるのは、おれとは違う鮮やかなほどの森の緑の色の瞳。
確証はないけど、たぶん、いや、きっと、その目は、おれたちには見えない何かを見ている。
まぁ、真実はわからないけど・・・


ああ、そういえば、おれと事件に遭遇したときなど、現場を軽く見ただけでそのまま犯人を理解していたことがあるな。
あのときのは、血を流す死体から視線をそらすや、興味なさそうに一人の人間にまっすぐにあゆみより、何かを話しかけると、戻ってきた。
と話していた男は顔が真っ青で今にも倒れそうで、しばらくすると力を失ったようにひざまづき、それに心配して駆け寄った警察に自主を申し出た。
これには驚いたが、の一連の行動を見ていなければ、これといって気にもせず、犯人が罪に耐えられず自主をしたと考えられただろう。現に警察はそう取ったし、犯人もに何を言われたのかは応えなかった。
だかららおれはそのとき本人に聞いてみたんだ。



「なぁ、。さっきあいつになんて言って自主させたんだ?むしろなんであいつが犯人だってわかったんだよ」

『くさいから〔あんたくさいんだよ〕って言っただけ』

「それでふつうああなるか?顔なんか真っ青だったぞ」
『なるからにはなるんだろ。〔血のにおいがまとわりついていて臭い。それを辿って死人があなたを引きずり込もうとしているようですよ。あぁ、背中。重くないですか?もう、二人ほどのっていますよ。神様は願いをかなえることもなければ人に手を貸すことはない。悪魔なら手を差し伸べるでしょうが。懺悔なら・・・ほら、いまそこにいる警察にするのがベストですね。人間は人間に手を差し伸べてくれますから。あと、三人目が、ほら、あそこにもひとり〕と、何もないところを指さしてみたら、なにを勘違いしたのか勝手におびえて勝手に暴露した。それだけだ』
「いや。それは普通にこえーから」
『本当に何かがいればよかったんだ』
「ふーん。っで?いなかったのか本当に?」
『幽霊とか信じてるの?新一バカなの?見えるなら、まずは一番にあんたの顔が変形するぐらいなぶるように言ってるよ』
「こわっ!?」
『・・・いないから人はみえないものにおびえる。その心理を突っついてやっただけだろ。心にやましいことがあるからすぐに崩れる』
「それはそうだけど・・・精神攻撃とか、相変わらずえげつないなお前」
『何も考えず人を殺したんだ。殺し殺される重みは知るべきだ』
「憎かったって言ってたかぜ。怨恨だろ」
『それは“考えた“ことにはならない。 とっさの感情の高ぶりにあおられた結果にすぎない。
殺すなら覚悟をもってやれってんだちくしょうめが。
罪を隠そうとしている時点で、自分がのうのうとしている時点で、あいつは人を殺すということに自分の人生を引き換えにするほどの覚悟はなかったということ。
死を隠ぺいするとは、自分自身をかける必要がないと今回の殺しにそう判断をしたということ。
ならこの人はなぜ死んだ?なぜその死が軽んじられる?
そっちの男同様に、彼女もまた生きていた命。
すべての命が平等で同じであれとは言わない。そんなたいそうな人間でもオレはない。 平等なんてものはこの世には実在しない。神とて、優劣はつけるぐらいだ。
だが、覚悟なくして奪うことを選んだのなら、相応の対価として自らが血に染まることにおびえるなんて・・・オレは許さない』
「そこは平等なのか」
『罪は平等だ。命は平等じゃない。
人は生きて“今”側にいる者よりも、死んだ者のことを強く思い出す。それは二度と会えない分余計に。
自分で手にかけた分、その重圧は重く、一生“奪った生”について・・・死者は問うてくる。
あまりに殺しすぎてしまえば、いつかは“命の重み”などなにかわからなくなって、軽さも重さも感じなくなるだろうが。
現にあいつはちょっと死者が迎えに来るとささやいただけで壊れた。それは罪を罪と理解しているがゆえ、命の重さを知らないわけではない証拠。
だが背負う覚悟もない証拠でもあるな。
衝動はけっして“思考の結果“ではないがゆえに、それに身を任せれば身を滅ぼす』

の説明はいつも長い。
そして重い。

はじめはそんなに、事故で家族を失ったから、殺人犯がゆるせいないのだろうと思っていた。
だけど何かが違う。
は本当に覚悟を知っているんじゃないかと思えた。

だれかを殺したことがある?が?まさか。あるわけない。そう思って首を振ったところで、がまだひとりでしゃべっているの気づきあわてて意識をそちらに戻す。

『っで、その続きだけど』
「え?続きって何?まだなんかあるのかよ!?」
『ああ。今までのはまだ物語の主人公の台詞にまでたどり着いてない。
あのあと本の主人公は生きていくためにどうしても殺人鬼にならなくてはいけなくて、殺しを続けるんだ。 世界が弱肉強食だったのがいけないんだろうな。 恐竜に襲われた主人公の必死の覚悟。あの瞬間の生きたいというモノローグのかきかたがけっこう気に入ってるんだ。
力で強さを築いた主人公のライバルK。血を流さない代わりに心理戦で人を追い詰め陥れトップに上り詰めたJK。 生きるために殺人鬼になり、大切なもの守るために自分を抑えるために力を付けた主人公。
なんて壮絶なバトルか。
っというわけで、先程の重みがウンタラ〜というのはJKが使ったセリフをまるまる感情をこめて音読してみただけだ』
「いや絶対嘘だろ。有り得ないから。つか、なんの漫画だよ!?あれだけ長いセリフ言わせる漫画なんか普通ないないだろ!!」
『いや〜一度は言ってみたいセリフNo3だよ。
〔あなたの背後に何かいる〕ってやつ。
人間って本当に見えないものにおびえて妄想が働くらしい。しかも咄嗟に出るのは同じような言葉。おかげでJKの言葉をそのまま言ってやったら、新一まで話に乗ってきて。あの会話ほとんど・・・・・』



――本当なのかウソなのかわからない。
けれど、おれは思う。
あのとき彼がみたといった嘘の幽霊の話も、あの言葉も、本当は彼自身の言葉なのではないかと。

はあまり感情の起伏がないようで、じつはちゃっかりした性格をしている。
すべてをまるっと包み込んでポイっとして、吐いた真実をジョークに変換してしまう。

普段は疲れたような表情が常となりつつあるので、つい大人びていたり無表情に見えるが、実際はそうではない。
人をおちょくるのやいたずらは喜んでやるし、料理してるときは生き生きとしているし、ふわふわでもこもこな生き物を見ると目を輝かせて手をにぎにぎさせていたりする。
生き物の死をよしとはせず、眉間にしわを寄せることも多い。


は結構感情豊かだ。
それが長年の苦労がにじみ出たやる気のなさそうな態度で見えないだけで。
だから真剣な表情を見せるそれが、演技なのかそうでないかわからないときがある。
どちらにせよ本人は、人を馬鹿にするときでもまじめの時でも真剣らしい。
ひとをバカにするときは上から目線で口で言い負かし手いるのを見ている限り、正しい子供の在り方ではないとは思うけど。





* * * * *





―――っとまぁ、そんなにいつものごとく起こされて始まる今日という日。
いつものように・・・というか、いつもなら呆れた感じなのが、本日は般若の形相でイトコで弟な)にたたき起こされた工藤新一だ。

今日は蘭の空手大会の優勝祝いでトロピカルランドにつれていく約束をしていたわけだが、危うく寝坊しかけて、『人様に迷惑をかけるんじゃない!!』と布団から放り出される勢いでによって起こされた。

『告白なんて真似すんなよ。たかが高校生ごときが!・・・あとで困るのはお前だ』

っと、物凄い顔で玄関を追い出された。
意味わかんねーよ!と家に向かって叫んでも鞄とサイフを投げられただけだった。
あいつ、なんかおれに厳しくないか?
まぁ、寝坊したおれが悪いんだが、なんかもうね。による「おはよう」がないと起きれなくて。
おれ、独り立ちできそうもないわ・・・。
ま、いっか。
そういうのはあとで考えよ。








っで、まぁ、蘭とふたり、たどりついたは、トロピカルランド。

ちなみに俺たちが乗ったジェットコースターに、わりこみ客が来て、みんな目を白黒。
蘭なんかおれの背後で隠れるようにひそかに口元を抑えてカメラで写真撮って「っちゃんのお土産にしよう」とつぶやいていたほど。
おれも普段はゆるい表情筋を総動員し、必死に無表情を演出して笑うのをこらえていた。
だって、すっげーいい年した大人の、それも男二人組がだぞ。しかもペアルックの黒服とかwww
そんないい年した男二人組が、仲良く必死の形相で割り込んでくるんだぞ。
どんだけジェットコースターのりたいの?どれだけ必至なの?
笑い死ぬかと思った。

これには周囲の皆さん、口元を密かに隠して笑いをこらえつつ、そうしてそっとよけて譲ってあげていた。

「兄貴、なんかみられてますぜ」
「しるか!いいから探せ!」

なんて黒服たちから声が聞こえてきたが、周囲の皆さんの目はとても生温かかったとだけ言っておこう。
ああいうがみたら爆笑するんだろうなとか。爆笑しないにしても「子供の手本になるべきいい年した大人が割り込みとか何考えてるの?」とか「黒服で悪ぶってるならダサいよ」とか、きっと正論で辛辣なことをばしばし言うのだろう。
そんなところを想像したら、わりこみしてまでして必死になってる姿に、年も性別もペアルックも関係なく、の少ない娯楽の餌食になるだろう所を想像してちょっと可愛そうに思えてきてしまった。
なにせうちの弟、まじで口先だけは達者で、心理戦とかこっちが死にたくなるぐらいすっごい得意なんだぜ(遠い目)
必要となれば、ただの正論の勝負だけではなく、見えない者も出してくるし。もう精神抉るの大好きだから・・・。
ああ、この場にがいなくてよかった。
だがしかし。ここに蘭という伏兵がいるのを忘れてはいけない。
あいつ、絶対にあとでにみせびらかすぞ。
嬉しそうに写真を抱きかかえている蘭を見て、おれは思わず同情の視線を黒服二人組にむけてしまったのは仕方ないことだった。



そして――


暗闇のなか、ポツリと頬を流れるおちる赤いもの。
涙ではなく――


「きゃーーーーーーーーーーーー!!!!」


ジェットコースターのなかで、ひとが死んだ。










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