ここまできたらぐれたくもなるさ
- 名 探偵コナ ン -



02.元電子精霊は“高校生”でも探偵でもありません





「彼は凄いよ。なんでもできる・・・世界一の名探偵だよ」

TVの中の高校生探偵をみて、そこらの男がキラキラと目を輝かせる。
そのそばにいた彼女らしき女性は、「あなたもあれぐらいかっこよくなってね」と微笑んでいる。
無理だと男は笑うが、二人の仲は円満のようだ。
思うに、あの名探偵のどこがかっこいいのだろうか。
むしろカッコイイという理由で、ものまねをしたら――オレはそいつを“イタイ奴”と認定するぞ。
いっそ。そこのTVの画面ノイズで消してやろうかと思った。

『ああ、そうかい。勝手にやれ。そしてオレをまきこむんじゃねー』

うきうきと探偵について語る男女の脇を、その当事者によく似た外見をもつオレが、不機嫌顔で通りすがるも誰も気づかない。
それでいい。
有名人と間違われて騒がれるのは嫌いなんだ。





 -- side オレ --





平穏が好きだ。
物凄く平穏が好きだ。

平和な日本の平成時代に生まれたからには、平和に穏やかに生きたい。
色んな世界に転生し、戦争やバトルやそういったものに巻き込まれ続けてきたオレとしては、今回の人生ぐらいは・・・っと願ったものである。
願った効果は全くないが。

まったり平穏に穏やかに平和に・・・だから原作とか関わりたくないのだ!と、何度色んな世界で叫んだことか。

ゆえに今の人生物凄く不満である。


オレの名は。工藤 という。
ご存じのとおり、原作有りの、それも事件に首を突っ込みたがる主人公の身内である。
つまり平穏なんかどこにもない。
この世界は事件が多く、一つ上の兄は首を突っ込むし、もう平穏はオレにはないのかと、この世界に生まれてからは少し諦め気味でもある。


はじめの不幸は、たぶん親が死んだこと。
引き取られた先があの工藤新一のうちだからやってられない。


幼い頃から不運に見守られ、今世でもあっけなく家族を亡くした後、父の兄だと名乗るヒゲ眼鏡のくせにイケメンな伯父にひきとられた。

っが、しかし。

このおじ、ただのダンディではなく、才色兼備を欲しいがままにし、しかもその一般人から飛びぬけた才能と頭脳を小説を書くことで埋めている。
しかも。その本が日本に限らず世界でも場か売れしているしまつ。
ついでにその妻たる女性は世界的に有名な大女優。
ここまでくればいわずもがな。
この二人はほとんど自宅に寄り付かない。
オレと一つ上のイトコは、おかげで隣の発明家のおっさんや売れない探偵に預けられることも多く、 のびのびと好き勝手しても怒る者はほとんどおらず、掃除や飯は家政婦がやった。
っで、こんなたるんだ生活を続けた結果、父と伯母の一人息子たるオレのイトコは一般という枠からかなりいつだつした派手な変人と成長を遂げた。

工藤新一。

名探偵と人は彼のことを誉めるが、奴は掃除も料理もできない。
家にいるときはいつも本を読み散らかしている本の虫に過ぎない。
しかもアレは間違いなく探偵ではなく、事件を彼自身が呼んでいる。
自分がどれだけやっかいごとに、みずから首をつっこんでいるか彼に自覚などあるわけもなく、 それが普通でないことにも気づかず、それを逆に派手に解決しては浮かれているのだ。

余談であるが、それらのしりぬぐいはすべてオレに来る。

だれが日々の彼の飯をつくり、彼の周辺の家事をやっていると思っているんだか。
恩をあだでかえすようなまねではなく、オレにくるイトコ君からの推理による余波をなんとかして欲しいものだ。

我が兄もといイトコは、女の子に声をかけられればすぐにデレデレするし、きらびやかだし、瞬間記憶力でも持っているかのように頭いいし。
ああ、もう!はらがたつ。

『なんでオレがいらいらしないといけないんだ?まったく』

ひとつしか変わらないから本来なら高校一年生だと思われるだろうが、オレは新一と同じ学校にはいっていない。むしろ高校に行っていない。
オレが家を出ると生きてけないダメな人間が家にいるので、長期留学とか無理だが、まぁ、ぶっちゃけて言うと、義務教育を終えた時点で、さっさと大学資格を得た。
そのままとある国のとある大学に籍を置いている。
どこの国だって?どうだっていいだろそんなこと。

そもそも前世から考えて人間ってめんどい。
いや、失礼。言葉が悪かったな。
もう転生しすぎたし、人間らしさとかむこうの電脳世界においてきちゃったので、普通の学生をやるのに無理があったわけだよ。
だって今のオレなんて、ちょっと電波(物理的に)だよ。
物を探すなら指ひとふりであらかたの電気ネットワークとつながってしまうし、データとかあっさり共有できちゃうし、下手すると幽霊とかみえちゃうし。
もう、わかりますよね。
普通の高校生をやるには、問題や教材などの解答はあっさり手に入ってしまうのだ。
無条件で情報があっさり手に入るのには頭を抱えた。
おい、幽霊ども。オレが可愛い子供を演じようとするたびに、テストの解答やら質問の解答を教えるのをやめろ。

結論が、普通の人間のこどもらしく暮らすの難しいよぉ〜もういっそ飛び級しちまえ。という究極結論。

蘭と新一がくっついたら、オレは日本を離れさせてもらう予定ではある。
もうしばらくは、イトコのためにも日本にとどまってやってもいいがな。





* * * * *





――またも高校生探偵が事件を解決!まさに平成のシャーロックホームズと言っていいでしょう!

「かっこいいよね工藤新一って」
「あたし、ラブレター書いちゃおうかな〜」

テレビに映るのは、だっさい蝶ネクタイに紺色のスーツをきた高校生探偵。

その映像をみていた女学生たちが、ラブレターをだしちゃおうとかはしゃいでいるのをみて、世も末だとオレは死んだ魚のような目を空に向ける。
だが、オレの横を歩いている当人は、鼻の下を伸ばした満面の笑みでニマニマしながら歩いていく。

TVでしかしらない少女たちにとって新一はアイドルをみてる感覚と同じなのかもしれないが、本物が真横を通っているのに気付かないのは、TVのなかの存在という認識だからだろうか。
オレは眼鏡の位置を直しながら、帽子を深めにかぶり直す。
絶対に同じ顔だと思われてたまるかー!!!!!

ぶっちゃけ女性達がハートを浮かべて騒ぎ、男どもが嫉妬に燃える才色兼備なその名探偵は、 女子高生に騒がれてニマニマと鼻の下を伸ばしたしまりのない顔をして彼女達のすぐ背後を歩いている。
だが悲しいことに誰も気付かない。
たぶんあまりに新一がだらしない変態ちっくな顔で歩いているものだから、彼女たち騒ぐ“彼”=“顔立ち好アイドル顔負けなイケメン憧れの高校生探偵”と同一人物だと誰も気付かないのだろう。

『はー・・・・なぁ、アホ面さらしたそこのドアホウよ。おまえ、顔を整形でもする気ないか?』
「ちょ!?!真顔でそれはないだぶっ!?」

バシン

「ちょっと新一!あっちゃんがこまってるでしょ!なによ。そんなだらしない顔して!」

オレ、工藤のツブヤキに対する新一の言葉は、いつもと変わらず、その後やってきた毛利蘭が新一の顏向けて胴着を投げつけたことで打ち切られる。

「おはようっちゃん。今日は新一のバカ起きたのね」
『おはよう蘭ちゃん。起きたんじゃない、おこしたんだ』

それからは毛利蘭と工藤新一という二人の幼馴染みコンビによるイチャイチャした喧騒が始まった。
ちょうど分かれ道だったこともあり、二人に別れをつげることにする。
別にここで別れなくてもいいのだが、あの空気に参加したくなかったんだ。

『じゃぁ蘭ちゃん。オレ、こっちいくから、うちのバカよろしく』
「おいおい。ばかってひどくないかアザナ〜。兄ちゃんはな、これでも数々の事件を解決した名た…」
『だまれ家事力ゼロの推理バカ。本当の名探偵は自分を凄いとは言わん』

オレが死んだ魚のような目でうろんげ睨むと、新一は口を閉ざし「ちぇっ」と口を尖らし拗ねたようにそっぽを向く。 お互いこんなやりとりはいつものことだ。

『じゃぁ二人とも気をつけて。くれぐれも新一は事件に首を突っ込まないように!』 「うん。できるだけ見張っておくね。
アーちゃんもきをつけてね」
「おれはトラブルメーカーじゃねぇよ。ま、きをつけろよアザナ」

『ん。いってきます』

オレはこれから駅に向かう。
商店街の半ばまで来ると、大概はこの信号でお別れだ。
こういう掛け合いでいつもオレと高校二年生組は、自分の行くべき場所に向かう。

そんな二人を手を振って見送る。
喧嘩をしながら歩いていく二人を見送りつつ、溜息がでた。

甘い。空気が甘い。

だがここで軽く『死ね』と言えないのは、オレがへたれだからではなく、死の重さを知るがゆえ。
ただの言葉とはいえ、ただの軽い買い言葉に売り言葉のような冗談程度の気持ちで、その単語を使っていいものじゃないんだ。
繰り返し続ける転生人生でオレはいやというほど死や言葉の重さを身に染みて目にしている。

だが、言いたくなるときもあるというもので。

『たのむから“工藤新一なんてアイドル”は消えてくれ・・・』

なぜオレがここまで工藤新一という存在をけなすかというと、理由は簡単だ。
彼が起こした“珍事”の数々の尻拭いはいつもオレがしている。
それが奴を嫌う一番の理由であり、オレがここまで陰湿で根暗な性格になった原因である。
なぜって―――奴とオレは双子かとつっこまれるほどに瓜二つの顔立ちなのだ。
違いはオレの方が一つ歳年下で、身長も低いことだろう。
それでも間違われるのだ。
たとえば「実際の工藤くんて意外と背が低いのね」とか、「カッコイ系じゃなくて可愛い系だったのね〜」とか。
とんだ誤解である。
背が低いのは当たり前。
まだオレは年齢的には、高校一年だ。二年じゃない。
さらにいうと、優作おじさんとちがって、うちの父は身長はそれほど高くはなかったそうだ。
ついでにオレがしるかぎり、父にはひげはなかった。

当の本人たる工藤新一・・・ではなく、オレをかこんで「かわいーかわいー」と騒いでいる女学生たちに思わずため息が出る。

先程新一たちわかれたあと、どこかで「いま新一ってきこえなかった?」と、工藤新一に対してアイドルのようにキャーキャー騒いでいた女子学生たちがみわまし、そして帽子をかぶっているオレが発見された。
その場から早くトンズラすればよかった。

「なんかあのひと怪しくない?」「え!?ちょ!あのひと工藤新一じゃ!」「うそ!まじ!?」

っと、この流れから、彼女たちに取り囲まれ、気付けば帽子をはぎ取られ、ガンミされた。

「あの!ファンです!」
「サインください!」

『とんだ誤解だ』

勘違いもはなはだしい。
おかげでオレは新一に声をかけるひまもなく、おいていかれた。
まぁ、目的地違うからいいんだけどね。

オレはサインをくれやら。顔を赤くして騒ぐ彼女達をため息ひとつした後、「人違いです」と無視して、彼女たちの間をくぐって、また帽子をかぶって歩き出す。


『げっ』

そこでふと自分が持っていた荷物に視線をやり、顔がさらにひきつる。
まいった。
これは参った。

さっき別れ際に渡そうと思っていた新一の弁当をオレが持っていた。
新一に持たせると中身が台無しになるだろうと思ってオレが持っていたのがまずかったのだろう。

慌てて二人が去っていた後を追う。


オレが二人に追いたのは蘭と新一が校門の中に入ったとき。
新一は自分の身体能力をみせびらかすように、サッカーボールをけっていた。
それからオレがテクテクと近寄ると、何やら蘭と新一言い争いを始め、けりやつきを蘭がはなち、めくれたスカートの中に新一が顔をつっこむという場面に出くわした。
新一はKOされた。

『消えればいいのに・・・』

ほんとうにな。
女の子のスカートの中をのぞくなんて、あんなはずかしい生き物を兄としても認めたくない。
同じ顔とかさらに思いたくない。

それにしても・・・・。
あの二人ってお互い両思いだっていつになったら気付くのか。
互いに互いのことを妄想してデレっとした顔をするのは、さすがにみているこっちはやりばにこまる。

蘭は本当に昭和の乙女っぽくて、コナンVSルパンの映画でみたけど、鏡に映ったプリンセス衣装の自分をみて新一王子との物語を妄想していたのを知っている。
あれはいたい・・・。
別にドレスに女性があこがれるのはいい。
ただ、いまどき白馬の王子を夢見る人間が本当にいたというのは驚きだ。
よく王子王子と騒ぐ園子は、現実をわかっているので、比喩として使っているのを知っている。
だけど蘭は違う。
よくあんな両親(現実主義な弁護士とダメデダメ男な迷探偵)から、こんな純粋な子が生まれたものだと思う。


さて。こっからはあれだ。
原作という奴だが。

何か見たことある光景と会話がオレの前で広がっていくので、たぶんそうだろうと思う。

トロピカルランド?蘭のお祝いに?え?二人で行くの?
どう考えても原作寸前ですよねこの会話。

つか、話を聞いていると、なぜかオレも一緒に誘うとか誘わないとか話し合っている。
本人ですが、背後にいますが。

なぁ、オレは一緒にトロピカルランドにいくべきなのか?

名探偵コナンなんて原作知識は、古すぎて、第一話とかまったく覚えてないぞ。
なにがあったかな?
コナンがトロピカルランドで縮むってことしか覚えてない。





とりあえず――


二人だけで行って来い!!!!


仲良しだからと誘うんじゃない。
デートは二人だけでいけ!

弁当の中身などそっちのけで、思わず新一に向け弁当の入った袋を投げつけていた。

新一は朝の蘭の胴着どうように、オレの一撃も顔で受け止めていた。
自慢の運動神経はどこに行ったのだろうとちょっと疑問に思った。








<< Back  TOP  Next >>