ここまできたらぐれたくもなるさ
- 名 探偵コナ ン -



01.元電子精霊は睡眠欲にはかなわない





『いいかげん起きろっ!!!』

オレはすでに四度声をかけた。
そしてきわめつけには、お玉で鍋をたたいてみた。
だがこれもダメ。・・・これいかに。
ああ、もう。

めんどくせぇ〜





 -- side オレ --





はい、転生しまくって今何度目?な、オレです。

前回は近未来というには町は古ぼけ、昭和を引き延ばしたような想像未来のような、科学が異様な発達を遂げたもののほかはすべて置いて行かれたような・・・そんな形容しがたい世界でAI(人工知能)として生まれましたね。

いや、それはもっと前のことかな。

ひとつ前の前世は―――そうそう。たしかそのAI(人工知能)だったときの記憶を生かして、ゲームを作ったんだ。
ゲームの名前は《The World》。世界なんて安直名前だろ(笑)
まぁ、そこで親友がいろいろやらかしてくれたおかげで、オレたちのゲームは、ネットにはなたれた。
この“放たれた”というのは言葉通りで、これによりゲームとネット、現実世界の境界が少しあいまいになってしまった。
このときその時代の人々の想像よりも早く、その世界の化学技術は段階を一歩進むこととなる。
同時に“欠片”でしかなかった《世界》と呼ばれたオレ達のゲームは、自律的進化をはじめ、やがて人間の意識を自分たちの中に取り込むようになってしまう。
が、まぁ、それはまた機会があるときにでも詳しく語ろうか。
オレは当時、親友の遺言を遂行する・・・っというか、解き放ってしまった《The World》のその行く末を最後まで見続けるべく、親友と同じように肉体を放棄して、魂を電脳空間に接続していた。
つまるところ、結局二度目のAI(モドキ)として生きたわけだ。

前回の自分の死にざまだって?“最期”は、あんまりおぼえてないなぁ。
きっとたいしたこともなく、あっさりぽっくり逝ったのだろうよ。


さて。今回の転生先もまた地球であるが、今回は空想未来都市でもなければ、ゲームと混ざり合ったネット未来でもない。
ごく普通の地球である。
それも現代の日本にて生を得た。

今回の物語はそこから始まるわけで―――





* * * * *





元AIな、電子生命体で、転生しまくってるオレです。
そんなオレが現在何をしているかというと、寝汚なすぎる身内をいかにして、起こすかという試練を前に、彼のベッドの前で仁王立ちをしているところだ。

目の前の物体は身じろぎ一つしない。
鼻と口でもふさいでやろうか。

『おーい、おきろよ。なぁって』

返答はない。

四度目。
仏様だって二度までしか許さないのだから、その倍努力したオレは、“こいつ”に怒鳴る権利も見捨てる権利もあるはずだ。
むしろ毎日この身内を見捨てず、無理やりとはいえ、しっかり起こしてやっているオレを誰かほめてくれ。

何度起こそうと起きない寝汚いこいつとの格闘はかれこれ、十数年にわたる。
毎日四回以上起こすために声をかけるなんて、人類皆に甘いとされる仏さんだってさすがにこれは怒りも臨海突破もんだろう。
仏の顔も三度までってね。
それが毎日。
しかも十数年もそうだというなら、怒髪天な阿修羅が降臨なさって、ここに仁王立ちしていてもおかしくない。
いや、もう年数単位であるならば、仏はサトリをひらいて、怒りという感情さえわかない無我の境地にいるのかもしれないが、残念ながらここにいるオレはあまり気が長くないうえに、あきれを通り越してから次に来るのが怒りである。
仏さまらと違って、あいにくとオレの場合は、これを放置しておくと、周囲の大人に怒られるのはオレなのである。
あまりに理不尽であるがために、こうして毎日起こしているのだが。
たぶんこうやって起こしてやるという行為自体が問題だったのかもしれない。おかげで、目の前の布の塊は、オレより年上のくせに、すっかりオレに甘えただ。
つまり目の前の現状布の塊、もとい布団にくるまってでてこないこの世界の我が兄弟は、家事能力が一切ない。たぶんオレがいないとこいつ生きてけないのではないだろうか。
そんな甘やかした覚えもないのだが・・・。

まぁ、それはさておき。
そろそろ時間も限界だな。

今日はこいつの始業式だというのに、こいつはいつまで寝ているのだろう。寝坊したいのだろうか?いや、いっそ、すればいいのに。
ああ、でもこのままだと、こいつの幼馴染みの少女が迎えに来てしまう。
そうして悪いのはオレと・・・。

面倒ごとなんてこの世からなくなればいいのに。

『やはり起きないか』

いつものことだが。ゆすってもたたいてもフライパンをたたいても起きない場合の最終手段は決まっている。
水をかける?やるかバカやろう。だれがその濡れた服を洗うと思ってるんだ。オレだぞ。

そんなわけで。
きれたオレがしたことは、沈黙を保っているアンプにヘッドフォンをさしこみ、それを寝汚い一つ年上の兄弟の耳に装着することだった。
そのままキッと怒りをぶつけるようにアンプを睨めば、先程まで電源がオフ状態だったオーディオが目覚めたように明かりをともしていく。

その後、ヘッドフォンから音が盛大に漏れていたとか、兄君の悲鳴が聞こえたとか・・・そんなことしったこっちゃない。


――手をのばさなくともリモコンを取らずとも、オレは機械の電源を入れることができる。

これは前世の名残だと思われる。
始めの前世のときから転生してもついてくるオーラや幽霊がみえる能力や守護霊つきの青い指輪と同じように、この世界でもオレは前世の能力をいくつか引き継いでいた。

それが機械との波長の良さだ。

オレはいまだに電気の"声"を聴くことがある。
といってもそれは明確な言葉ではないのだが。 感情の伴ともなわない"それ"は、人が聞くことはできない。機械同士でなければ感じることができないいわば電気信号のようなもの。それをオレが勝手に"声"と表現しているに過ぎない。
ネットに身体ごと入るなんて芸当はさすがにもうできないが、電子の流れが側らにある気配は常に感じている。
これはきっと前世で電脳(ネット)の生命体であったことにより、機械とオレは魂のどこかがつながっているためだろう。
ゆえにだ。ネット検索しかり、機械のことしかり。きっとそういった分野でオレの右に出る者はいない。それぐらいまだ電子製品とオレの相性はいい。
どれくらいかというと。
ハッカーなんか掌で転がせるぐらいだろうか。

まぁ、簡単に言えば、オレは機械と会話ができる。という認識してもらえればいいかな。

元・電子の精霊。もとい電脳空間の住人だったオレをなめるな。 魂に刻まれているのか、当時の感覚はまだ残っているのだ。 それをしってなおオレと電脳空間で対決(ハッキングとか)しようとする自信と勇気があるのなら、相手になってやろう。 その場合は、電化製品、電気媒体すべてを敵にすると思った方がいい。
転生したことで電脳世界に肉体ごとはいることができず、ただの人間でしかないいまのオレとて、そのくらいいまだ余裕で電子機械に干渉できるのだ。


電子空間において、ぶっちゃけって最強を自負するオレだが、現在進行形でひとつ悩みがある。
一緒に暮らす、瓜二つの顔立ちをした一つ年上のイトコが寝汚いことだ。
起こす身にもなってほしいものだ。
え?兄弟じゃないのかって?兄弟だよ。戸籍上はな。
正確な関係は、同じ屋根の下に暮らすイトコである。

そのイトコの名を工藤新一という。

そしてこの世界では、普通に探偵というものが職業として認められている。 職業として見事になりたち、それを将来の夢であると告げても誰も笑わないのだ。イトコである工藤新一もまたその探偵たちのひとりであり、彼は"名探偵"である。

これでお分かりのことと思う。この世界は【名探偵コナ●】の世界である。

っで。その主人公と瓜二つの顔立ちをしたオレは、名を工藤 (クドウ script language="JavaScript"> )といった。
平穏を愛するオレとしては、この世界の"主人公"とか、お近づきもしたくなければ、自ら関わるなんてもってのほか。 なんたって物語の主人公というのは常に事件の渦中にいるものだからだ。だがしかし、血縁者である以上、いやだもNOも言っていられない。

原作ではどうかは知らないが、この世界の工藤優作には、秀作という弟がいた。
それが今世のオレの父親だ。
しかしその彼は、オレが5歳のとき、妻とともに事故で死亡。
そうした成り行きにより、オレは伯父夫婦にひきいとあれ、そのまま養子となったわけだ。
おかげでこの世界の主人公とは、イトコで、兄弟(戸籍上は)という近すぎる関係にある。

これがオレが近寄りたくないはずの主人公と同じ屋根の下でくらしている理由である。


っでだ。
なぜそのイトコの寝汚さをうれいているかといえば、こいつは今日でもう高校二年生なのだ。
世間の皆様ならわかると思うが、学生のお仕事といえば?

つまり始業式にいく気がないのか?と、ののしりたくなるような状況なのである。


あまり家にいつかない新一の両親にかわって、転生経験を生かし5歳のころからこの家の家事一般をしきり、彼のめんどうをみてきた。
そのせいだろう。新一は家事の一切をオレに頼りっきりで、気付けば家事や生活能力がゼロのまま成長した。
さすがのオレも甘やかしすぎたのだろうかと、後悔しているところだ。


結果がこれだ。

「うぅぅ・・・こ、こまくが・・・おい、!お前毎回この起こし方やめろって言ってんだろ!」
『そう思うなら大事な日ぐらい自分で起きろヘッポコ』
「ヘッポコじゃないっつーの!」

ボサボサの間抜けな格好で耳を抑えつつ起きてきた新一を一瞥し、フンと鼻を鳴らせば、グダグダと文句を言いつもゆっくり動き出す。


新一がいなくなった部屋で、ふと視線を向ければ微かにヘッドフォンから音が漏れている。

『いつも助かる』

オーディオに告げれば、オレの言葉を理解したかのように、音源は落ち、やがて点滅していたランプも消える。
すべての動きが停止したところでヘッドフォンからも音が聞こえなくなる。
それを確認してから、新一の後を追うようにオレも部屋を出る。





―――工藤新一、高校二年生。オレと一歳違いのイトコというか義兄。そして名探偵。

この世界において探偵という職業に就く奴らは、かならずといっていいほどに記憶力がいい。 いっそ瞬間記憶能力と言っていいほどに。 そして事件に巻き込まれる。 というか、首を突っ込む。 そんな性質故、彼らはみな名探偵であると同時にトラブルメーカでもあった。

それはうちの新一にもいえたことで、むしろ筆頭ともいえる。
なぜなら新一の側にいるとやたらと事件に遭遇するしまつ。

そして始まるは、探偵たちによる推理ショー。

だが長く繰り返された転生人生に疲れはじめているオレからしたら、そんなウンチク馬鹿もとい名探偵の側にいると、頭がいかれそうになる。
オレの場合はよく説教が長いとは言われるが、新一の語る長い話はそういうものじゃない。
理路整然としているのである。
新一たち探偵たちは、感情をそっちのけですべての真実を暴く。
つまり犯人や目撃者被害者などの感情などまるっと無視するし、正しい解答だけを求めたがるのだ。
そこまでの経緯はいつも理数的な式が組み立てられて出来上がるよう。ひとはそれを推理というが。オレはああいうの聞いているのも苦手だ。
推理と名の長い理論やら数式を聞かなければいけなくなる。
普通ならそんな数式日常で使わないし、覚えてないからな!?っと言いたくなるもの(たとえ学校で習ったものであってもだ)を、彼ら探偵は推理を解くために普通に日常言語として使うのだ。

日常言語が数式とか。
勘弁してほしい。

オレとしては、生まれたからにはそう簡単に死ぬつもりもないし、常に今の生を楽しむということをモットーとして転生してきたが、ここは戦場でないのに探偵たちのそばにいると「死」がとても近くなる。
もう平穏をオレによこせよと激しくだれかにいいたい。言っても無駄だろうけど。

こう頭の痛い会話(推理ショーや計算)しか言わない人種の側にはよりたくない。
新一たちからしたらオレはさぞ頼りになる情報屋(機械操作はお手の物)だろう。だが、側にいるオレとしては安息はない。
精神的疲労が酷いです。
他の世界では、オレはたいがい年より若く見られていたのだが、新一(=主人公ズ)のおかげで、幼馴染みや新一らからは、外見より老いて見えるとよく言われるはめになっている。

うん。つまり何が言いたいかというとあれだ。

たとえこのあとトロピカルランド行きが決まり、そのまま我が兄君の背が縮み《江戸川コナン》となろうとも、オレのことは巻き込むな。 そっとしといて。むしろほっといてくれということだ。
え?どれも同じ意味だって?だったら重要なので、三回言いましたということで。


だって―――何の因果か、オレと新一は目と身長以外は本当に瓜二つの容姿なのだ。まぁ、身長は随分違うがな。


とはいえ、残念ながらどこかの二次小説のように、主人公に最も近い立場である工藤新一の兄弟ではないし、同い年でもない。まぁ、一年しか違わないが。
外見が瓜二つといってもオレの目は青ではなく緑だし、されには眼鏡をかけている。身長だって彼より15cmばかり低い。
自分的には似てないと宣言したいのだが、だが、勘違いされる。それほど似ているのだ。

あと、いいわすれてたけど、オレが眼鏡をしている理由は、視力が悪いのではない。前世から引き続ぎで、オーラがみえるのだ。こういった霊的な何かは、人工物(ガラスや鏡など)をとてししまえば見えなくなる。そのための眼鏡である。
決して、某小さくなっても頭脳は大人!名探偵な少年の未来予想図のつもりで、新一フェイスに眼鏡をかけているわけではない。
この世界ではオーラはみえてもギリギリゆう〜なんとかはみないですんでいる。それだけはありがたいことだろう。なにせこの町では事件が日常さ万事なのだから、へたするとのこの町は死者であふれていそうだ。特に工藤新一のそばだとよけいに。
そういう意味では、まだマシということで、自分の目が良すぎなくて感謝である。








さぁ、高校生探偵は二年生へと進級した。

名探偵の運命はこれからだ。








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