電子精霊は繋がる世界の原点
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08.短くて長い冒険をした





こういっては失礼だとはわかっているけれど、パパの弟さんだというハロルド叔父さんは、ちょっと昏い感じの人だった。
でもパパとはなしてるときは小さく笑みを浮かべて、笑うひとだった。
たまたま通りすがりに見つけてしまったの。そんなおじさんがやるにはちょっと不自然なゲームのコントローラーとゴーグル。
画面には「fragment」とかかれていたけど、コントローラーを軽く操作したら金色の文章が浮かび上がってきた。

その世界には伝説があった。
禍々しき波が現れし時――三人の影持つ者が、精霊たちの世界を救うであろう夕暮れ竜の探索に旅立つ。

「黄昏の碑文」の一説だった。
それはわたしが昨日深夜遅くまで起きて探し求めていた文章。
まるで運命のように、私はその文章に、そのあとディスプレイに映し出された世界にひきよせられた。
「少しなら大丈夫よね」そんな軽い気持ちで、わたしは叔父さんのゴーグルをつけて、コントローラーにふれてしまった。

そして気付いたとき、私は麦畑の中で「サヤ」になっていた。





 -- side ララ・ヒューイック --





その世界には"影"を持つ者と、もたないものにわかれた世界。

「サヤ」は、ほうきに乗って空を飛ぶことができる魔法使いの見習い。
私には彼女についてもこの世界についてもまったく知識がなくて、なのに世界を飲み込もうとする黒いナニカがもうすぐそこまで迫ってきていて、私がいた麦畑もそれに飲み込まれそうになっているところだった。「空を飛ぶってどうやるの!?」と初っ端から大波乱だった。
けれど、サヤに私がなってしまったせいで、わけがわからないままに進むしかなかった。
最初から傍にいた博識な猫の使い魔「黒猫ヴェスパ」と共に、"禍々しき波"から世界を救うための旅に出ることになったの。

人間のサヤ、闇の精霊であるリリス、大男のゲンドールの三人の”影持つ者。精霊、丘、街、湿原、森、大瀑布、砂漠、世界樹、氷の中に閉じ込められた天使もいた・・・・沢山の旅をしたし、ああ、もう。本当にいろんなことがありすぎた。
自分がサヤかララかもわからなくなってきていたのに、それ以外も本当に意味が解らないことばかりだった。
いいえ、私にとって全てがわからなかった。

ヴェスパだけが、私を「サヤ」ではなく「ララ(別の存在)」だと気付いてくれた。
それだけが救いだった。

だって途中で気付いてしまったんだもの。
私、現実世界のことを忘れそう・・・だって。
私はおじさんの部屋でゲームにふれてしまった。
忘れないようにしないと帰れない。
そんな気がした。

私がどれだけ頑張ろうが、"波"の進行は止まらない。
"波"は世界を飲み込んでいく。
その波を抑えるすべなんかなくて、飲み込まれた場所には虚無だけが広がる。

それから沢山のひとにささえられて、なんとか進むことができた。
闇の女王と光の王がでてきたりもした。
めに、旅をしていき、「もっとエマ・ウィーラントの黄昏の碑文」を読み込んでおけばよかったと何度後悔したかわからない。
でもそれは不可能だった。だって「黄昏の碑文」は彼女の個人ホームページでごく短期間の間のみ発表された作品であり、もう作者自身の死によってオリジナルのテキストも失われていたのだから。
私はその断片をたまたま見れただけ。

だから、やっぱり私はなにもしらないままに世界を突き進むしかなかった。
本当にエマはこんな世界を望んでいたの?
エマはこの世界をどうしたかったの?

私には結局理解はできない気がした。

"禍々しき波"に世界が飲まれた時、それに唯一対抗し、世界を救うと予言されている希望の存在であるとされる夕暮竜(トワイライトドラゴン)。わたしたちはそれを探すための旅をすることとなった。
でもそれも完璧ではなく、辛いことの方が多くて、仲間に八つ当たりしたりして傷つけてしまうことだってあった。

物語終盤に"揺れる半島"にて夕暮竜をようやくみつけたが、実際は"揺れる半島"そのものが身体だった。
とてつもなく巨大な竜は、高度な知性と計り知れない力を有し、世界そのものを司る存在だった。

そして彼は言ったのだ。
サヤたちがこの場所に来ることはわかっていたことであると。そしてもう何度もこの光景を見続けていると。
世界は何度も"波"にのみこまれては再生を繰りかえしていると。

《お前達も知っているだろう?産み落とされた瞬間から、光と闇に別れ、数えkぃれぬ歳月の間に、幾度も彼らは衝突してきた。歩み寄ろうということは、禍々しき波が現れるまでーーただの一度もなかった。生きている間に考えを変えることもできたはずなのに、彼らは変わらなかった。 数が爆発的に増えるころもなく、生まれて来るのは同種の精霊のみ、今回は偶然にも、ヒトという無力な種族が生まれたが、結局移行することもできずに、争いが絶えることはなかった。 彼らがすべきは進化だったのだ。私が望んでいたのは、系の変更ではなく、個の変化である。 しかし今からそれを望んでも遅い。今一度、新生するためには また虚無に戻さねばならない》

争いばかりする精霊たちが気に食わないから世界をリセットしよう。リセットを何度か繰り返していたら新しい種族が生まれたが、それでも争いは終わらない。嫌なぁ世界だ。新しい種族が増えても何も変わらない。種族でかわれないなら個人で変化をしてくれ。でも誰も変わらなかったからもうこの世界はいらない。ーー夕暮れ竜が言っているのはそういうことだ。

なにもかわらないくだらない世界だと、夕暮竜はいうのだ。

「あなた思い通りの世界にならないから、作り直すっていうの?」
《そうだ》

「そんなのおかしいじゃない!私たちはモノじゃないのよ!」

リリスの悲痛なまでの叫びが、半島に響く。


目の前の竜は自分では何もしないくせに、世界が気に食わないから消すのだという。

世界を生み出し、世界を消し、世界を再生させるほどの力があるなら、なぜ「変わってほしい者たち」に変わるためのきっかけをあたえなかったのか。ヒントをあげるなり、力をさずげるなりすれば一石を投じられただろうに。
あるいは本人が一度でも争いをやめてほしいと世界の住民に言ったことはあるのか?言わないまま、しかも存在も明るみにせず、人類との関係もたってしまったら、それはいないのと同義。
ましてや心の中で思っていることを言葉にさえ出していないのなら、それをきいたものもいないのなら・・・夕暮れ竜の真意など誰もわかるはずもない。世界の住民たちは彼の心のうちを知る機会さえなかったのだから当然だ。
変わるためのきっかけ一つない世界なのだから、繰り返すのは当然だ。

この竜は一度ぐらいは世界の生き物たちに「自分の願い」をつげただろうか?自分の想いを言葉にして誰かに伝えただろうか?
この世界の住人は勝手に夕暮れ竜に理想を押し付けられ、それができないからと勝手に幻滅され、もういらないと世界を滅ぼされそうになっている。

自ら動くことさえしない、それさえせずただ怠惰に繰り返す世界を見つめていただけの竜によって。

・・・それで文句をいうなんて。

《光と闇だけなら、まだ改善もできただろう。しかし、同属にもかかわらず争うというのはどういうことか》

《私はそんな世界を見るのがつかれたのだ》

胸騒ぎがした。
竜のため息とともに、はるか遠くの空が数きれないくらいの金色の光が浮遊しているのがみえた。

それを見た瞬間わかってしまった。
あれはこの世界に生きていた者たちだと。

《彼らは再誕の夢を見ながら消えていくのだ。怖いことなど、なにもない》

夕暮竜は何度も私たちが彼の前に現れては同じ限度いうを繰り返していることも告げた。そんな記憶はないと仲間のリリスとゲンドールが告げるが、竜はしまいには「記憶は消去されるのだ」そうつげた。
そして波がじきに役割を終えるから、それとともに私たちにも眠れという。

世界の崩壊を望んでいた黒幕が夕暮竜だとしり、それにリリスは仲間や最愛の人を案じて空を飛んで行ってしまった。
唯一残ったゲンドールは地面に手をつき、半島そのものである夕暮れ竜をとめようと"力"をつかいだす。
わたしはリリスを飛んで追いかけることもできなかった。

そしてーー

《お前たちはなぜあがく。ゆっくり眠りにつけばいいものを》

夕暮れ竜の頭である半島が大きく揺れた。
その瞬間、目の前にいた現ドールが一瞬で光となり、遠い空で最愛の人の素へ向かって飛んでいたリリスの姿も・・・。

こんなの。
こんなの・・・あんまりだ。

これじゃぁ私は何のためにあの長い旅を続けてきたのか。

怒りがわいた。

私がここまで着た意味はな無意味だとでも言う発言に。
諦めきって何もしやしないあなたに!
ここまでくる間にどれだけこの世界の者たちが死んだと思ってるんだ。どれだけ心を痛めたと思っているんだ。

「こんな結末は誰も望んでないよ!!!」
《私は望んでいる》
「この世界はあなただけのものじゃない!」

叫ぶあたしの周囲を金に光る0と1の数列がまとわりつく。振り払おうと思ってそれは触ることはできなかった。

それでも光はまとわりつくだけで、わたしまで仲間たちのように消されることがない。
そして私が消えないことを不思議におもった 夕暮れ竜に「お前は誰だ?ちび魔女サヤではないのか?」と訪ねてきた。

0と1・・・そして私がだれか。

この二つがキーワードとなり、私は私を取り戻すことができた。
そう。わたしはサヤじゃない。



「私はララ・ヒューイック!外から来たの」



夕暮れ竜は、記憶を失う怖さをしらない。
かれは嫌なことがあるとすぐにリセットするけど、私の世界はリセットなんてできない。
私は家族を愛している。かれは同じように彼の生み出した世界に生きる人も愛すべきだった。

「この世界を想っているなら、この世界に生きるものを思わなくちゃ。あなたはさっき、個の変化を望んでいるって言ったけど、あなた自身が個々を見なきゃ意味ないじゃない」

座ったままふんぞり返って愚痴ばかり、自ら支持もしない、民の意見も求めない。自らは何もしないような王様に何ができるというの?だれがそんな王についていくの?

「一番変わるべきなのはあなたよ」
《わたしがかわる・・・》

そうよ。うなづいてやる。

「愛しているのなら、そんなにも大事だったら、見守ることも大事だと思わないの?本当にどうしようもないことが起こったら、あなたが出ていけばいいのよ。なにしてんだ!って間違っているからって怒ってやるの。怒ってやらないと何が悪かったかわからないままになっちゃうもの。0からやり直せるのは過保護だわ。いろいろ経験して。みんな成長していくんだから」

私が道中で得たもの、いろいろい感じて思ったこと。この旅の間だけでもたくさんの経験をしたように。

《・・・経験と成長か》

夕暮れ竜は私の言葉を反芻するようにつぶやくと、言葉をつづけた。

《わかった。時を戻して、歴史を進めよう。波が虚無にしてしまった場所の修復もできる限り彼らに任せてみよう》
「ありがとう。わかってくれて」
《お前の言うーー経験をいかすというのが、どういうことかだか見てみたくなった。それだけだ》
「うん・・・」

よかったこれで・・・

《しかし、真実を知るお前がいては邪魔になる》

うん?
いま、なんて?
いや、もう少しこう言葉を選んでほしいというかなんというか。




夕暮れ竜がつぶやいた瞬間、私のあたまのなかでカタカタと」聞きなれた音がした。
キーボードをたたく音だ。
きっと叔父さんが気づいてくれたのだ。

暗かった空が明るくなる。
空には消えていったこの世界の住民たちの魂の光が空を覆っていて、私はそこで安心して目を閉じた。







これが私の体験した不思議な物語。
気付いた時に叔父さんお部屋にもどっていた。



ねぇ、叔父さん。
わたし、すごい冒険をしたわ。

そこでね、わたしーーー



エマがみたかった世界を旅したの。










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