03.オレと『今』と可能性 |
-- side オレ -- 今世のオレにも両親はおらず、今回は捨てられたらしい。 生まれは日本。 だけど施設で育つもあからさまな外人な容姿にいじめられた。 施設の大人には、子供らしくなく気味の悪い子供と言われた。 まぁ、中身は子供じゃないから当然なんだが。 せめて“幼いのに物わかりのいい天才が自分の施設にいる”とでも喜んでくれればいいものを。 ようは考えよう。院長先生もさ、ポジティブに考えればよかったのにね、と思わないでもない。 ――っと、まぁ、こんなかんじで、今までの前世の記憶がある分、このくらいのことで動揺したり、悲嘆にくれることはなくたくましく自立しようと思っていたオレだ。 っが、しかし。 “それ”は突然のおとずれた。 子供たちに逆襲をしかけようとしたまさにその頃、施設は潰れて閉鎖。 院長は夜逃げのごとくトンずら。 放り出された子供たちには行き場などあるはずもなく、まだ5,6歳でしかなかったオレが(裏から)いろいろ手を回すこととなった。 さすがにその際は、眼鏡のない視界でインターネットを駆使させてもらった。 言わんとしていることはわかるだろうか? ネットでつながった世界は便利だな。なんでもインターネットで何とかなるのだから。 そうやって“視る”能力を最大限利用して、ほかの施設に預けたり、養い親を探して来たりした。 なんでオレがそんなことをしなくちゃいけないのだろうと首をかしげつつ、ネットに感謝して、子供たちの行先をうまくさばいてやった。 それからのオレはというと、とっとと外国に渡り、そこで育った。 過酷な幼少期ですねとよく言われるが、そもそも今世の生活は悪いものじゃなかったとオレは思っている。 前世のように銃撃戦や、戦争、殺し合い、サイバーテロなどが日常茶飯事ではない本当に『普通』の世界なのだから、これ以上の幸せってないと思う。 たとえ孤児でも働けばお金をもらえるし、お金があれば住む場所も手に入る。 脳を操られて、自分が自分でなくなってしまうことを常に恐れる必要もない。 オレはそういう性分だから、日常こそが幸せだと思っているから、人生を満喫して暮らしていた。 ああ、そうだ。似ているんだ。 しいていうならここは、どこか一番初めの…オレがまだ「わたし」であったころの世界に似ていた。 だからだろう。 オレは極力目立たないようと無意識にしていた。 普通でいようとしたんだ。 今までの前世うんぬんなど、夢だったのだと。 こっちが現実で、 オレは“戻ってきた”のだと―― ――そう、思って…いたかった。 * * * * * この世界は魔法のような不思議な力が存在するわけでもなく、科学が発達しすぎた世界でもない。 ごく普通の、ゆるやかな速度で人の手により科学技術が進歩していく、平穏に包まれた世界だった。 でも、オレはその“科学”の、行きつく先の『可能性』を知っていた。 今のままとは違う未来を。 有り得るかもしれないもう一つの未来の歩みを。 人の記憶や人のつながりを「ネットワーク」としてたとえた人間は多いだろう。 それが本当に言葉のままにネットワークでつながれる日がこようとは、いったい誰が考えただろうか。 前の世界では、魂と肉体についてのメカニズムまで、人は研究を進めていた。 それにより、人は「記憶」や「心」というものを一種の電気信号からなる『ゴースト』とひとまとめに称し、脳にためられた記憶を自由に読み取るすべを得た。 やがて人々は電脳ネットを通じて「心」にまで介入したり、記憶を他者に見せることもできるようになった。 それが、技術を発展させた人間が歩むもうひとつの未来。 “可能性”の世界。 そのときのオレは、人工知能の一部に過ぎなかったが、自立した人格を持っていた。 オレという存在の本体は、独り身の博士の手により、ただの話し相手として作られた存在だった。 そのまっさらなプログラムに、転生を繰り返す「オレ」という魂が宿った。 オレはAIとして博士と暮らし、記憶さえも電子記号と化した世界で、肉体を持たない電子の生命体となった。 当時は、人間ではなかったし、肉体も持っていなかったが、その世界をななめ視点で見ていた。 人は記憶というよくわからないものを含め、機械より生まれた回線とつなげ、すべての人がすべてのものとつながっていた。 まるで生き物が機械の一部のような世界だったと思う。 そんな中でオレは、人の魂を持った人工知能として生まれた。 博士のことを知らない人々は、電子の中で生まれた“感情ある生物”としてオレをみ、人工知能を超えた存在――電子精霊と呼ぶようになったんだ。 オレは―― そんな世界から、この現代の地球によくに似た世界に生まれおちた。 人の心を持ちながら人でない――そんな暮らし。 そんな過去を持つオレだから、人と技術の“可能性”をいつも口にしていた。 あの世界はいつしか機械の体を持つ人々にしめられ、心と機械やネットの境目が合間になっていた。 オレが望むのは、あそこまで過激に歪んだ科学の発展ではなく、少しばかり世界というものに面白みをもたせてもいいんじゃないかとその程度だった。 だから可能性のひとつとして、向こうの世界の技術の一部を…まるで自説の論のように周囲に語って聞かせた。 しかしそれはこちらの世界ではあまり受け入れられず、ゲームのしすぎだとか、妄想壁が激しいとか、だれも耳もかたむけてはくれなかった。 まぁ、だからといって、特にそれでオレが傷つくことはないし、あそこまで精神が科学と癒着したような世界は、その中で生まれた当時のオレでさえ実は気持ち悪いと思っていたので、この世界はこのままゆっくり技術を進歩させていけばいいと思っていた。 だからオレの話など、笑い話でよかったのだ。 それからオレの“破天荒創造力”と名のつけられた数多の過去世界のことは、『物語』として受け流され、この世界の人にとっては法螺話の一つとしてならうけいれられた。 到底無理だと馬鹿にはされるが、たまに発想が面白いと好評化も得た。 シナリオライターか小説家になればいいとまで周囲に言われ始めたところで、それも面白いかもしれないと、「ま、いっか」と安易に小説家を目指そうと思ってしまった。 本当は遠い昔にした【約束】があったから、医者になろうと思ったんだけど、進学先を「面白そう」の一言で、文系&芸術系に走ってしまったのはオレだからしかたない。 まぁ、簡単に言うなら、そういう、人から見たら変なことばかり言うので、やっぱりオレはそのことでも陰口をたたかれたり変人扱いされていたわけで、あまり周囲に人が近寄ってはこなかった。 ついたあだ名は『脳みそファンタジー』である。 それうけるわ。と、爆笑したら、さらに変人扱いされた。 変人が作るヘンテコファンタジー世界。の、ゲームでも作ろうかなと、しまいには本格的に思い始め、大学卒業したらそっちにいこうとまで人生計画を練っていた。 そんなある日。 声をかけられた。 そいつは同じ大学の機械工学を学んでいる奴で、なぜか脳内ファンタジー&変人と名高いオレに声をかけてきた。 オレに話しかけてくるのは同じ専攻の奴らぐらいだったので、まったく縁もない彼がなぜ話しかけてきたのか不思議だった。 だけど彼はオレの夢のような話に興味があり、ともにゲームをつくらないかとまで誘ってくれた。 ちょうどゲーム会社というのにはいってみたかったので、オレはその案に深く考えず乗った。 ひとつぐらいゲー ムをつくってそれを会社に持っていって気に入ってもらえれば、雇ってもらえるかもしれないという考えからである。 それから彼とオレはよくつるむようになった。 彼の名はハロルド。 ハロルド・ヒューイック。 ひとなつっこく、明るくて、それでいてオレとも趣味が合うようで、気が付けばいつも一緒にいたし、オレがかく小説のネタも聞いてくれるイイ奴だ。 彼は人よりも頭が柔らかく、オレの話を聞き、はじめからそんな夢物語と否定するのではなく「もしそれが実現可能だとしたら。何が必要だと思う?」と、始めから無理などの駄目だしをせず聞き返してきた。 はっきり言って、そう聞き返してきた奴は初めてだった。 オレは彼に好感を持った。 だから“答えた”のだ。 で も ね いつの頃からか、気付いてしまったんだ。 世界は、オレの前世世界のような科学の発展した未来とは違う科学の方向へ発展すると。 知らないふりをしていたんだよ。 この世界は“別の未来”を歩む。 それは一人の男の、情熱にも近い必要以上の執着から生れ落ちた『物語』。 世界はその掌の上で転がりだすんだ。 |