12. 邂逅まであと… |
※原作 23〜26話 「人ならぬもの」より オレの肉体は、人。 この身はすべてをくるんで隠す。 神気も妖力も呪いも、すべてを抑え込むための器。 だから“人”であると――そう周りが思っている限り、流れる血が妖怪のものであるなんて、その魂が神のものであるなんて、気づかない。 誰もがオレを“人”であると思い込む。 「よく、ばれなかったな」 『オレを“人”たらしめるのは、お前たちの“想い”。その思い込みが、“みえる箇所”だけですべてだと信じ、“それ以外”があるなんて思いつきもしないのさ』 ぬらりくらりとすべてをかわす。 そういうものさ。 -- side 奴良 -- 「・・・・」 『・・・・・・』 もうはっきりいってしまえば、言葉になりませんでした。 なにがあったかと語るには長くなる。 少し話を省かせてもらうが。 あれから数日がたっている。 夏目は“しってしまった”からには見捨てられないとニャンコ先生を連れ、「やさしくしてくれる塔子さんたちを巻き込みたくない」「自分でも誰かの役にたてるなら」と、 あの羽の妖をさがしていたのだという。 会うことはできたそうなのだが、そこで式をつれた術者の人間と出くわしたらしい。 的場と名乗った片目の術者に式で襲われかけ、ほうぼうのていで、羽の妖によって逃がされたものの、 空を飛んで逃げているさなか、紙でできた式神が夏目の鼻をくすぐり大きなくしゃみをしたことで、落下。 その落下先にオレがいた。と言ったら、誰かオレを憐れんでくれるだろうか。 言葉を失うほどビビったオレの気持ちを誰か察してくれないだろうか。 散歩として出かけた先で、空から突然夏目と妖とニャンコ先生が目の前に降ってきた――その気持ち。 さすがのオレも空からの奇襲など想定しておらず、警戒していなかったので、心臓がとまるかとおもうほどびびった。 思わず、「これからお天気雨がふるよ」と妖怪の知り合いに渡されてさしていた傘を落としてしまうほど。 雨はさっきやんだけど。 雨だけじゃなくて、夏目まで降ってきたとか・・・・天気を予言してくれた妖に一言、言いたい。人間も降ってくるなら先にそう言って!! 「いてて・・・!?大丈夫か羽の・・・!?え?、!?なんでここに?」 『それはこちらのセリフ。なんで空から・・・・空から人が降るなんて予報はきいてない』 思わず空を見上げてしまった。 「あ!そうだった!!おいかけられてて!それで逃げてきて」 『・・・また厄介ごとに首を突っ込んで』 「ごめんってば!でもを巻き込む気は・・・って!いそいで隠れよう!!せめてあの廃屋へ」 やれやれ。せわしない子だ。 夏目が近くに廃屋があるのをみつけると、弱り、落下のせいで気絶している羽の妖を背負い、そちら向かったのをみて、オレは近くに転がっているニャンコ先生もとい斑をこずく。 『起きているだのろう。すまないが自分で歩いてくれ』 オレは君のような米俵か、はたまた小泣き爺のように重いものは持てないか弱い存在なのだ。あと空かおちて無事なほど頑丈でもない。 驚きすぎて手から滑り落ちてしまった傘をひろう。 もう、天気雨もやんだのでこれはいらないだろうと、それをたたんで、夏目たちのあとを追った。 夏目の鼻をくすぐったのは、夏目の知り合いである名取という払い屋のものらしい。 中で身を潜めつつ夏目に事情をきいたところ、その名取が夏目を探しに近くにいるということが判明。 式をたよりに彼を呼びに、斑が廃屋を飛び出した。 ついであのまずい瘴気の持ち主が、夏目たちを追いかけている張本人であり、この羽妖の仲間を襲った人間であるとも知らされあの不味さを思い出し思わず眉をしかめる。 さてどうしたものかとおもっていたら、ふいに天井から音がし―― 天井の穴からのっぺりした面をかぶった黒い人型の“式”がぬぅっと現れた。 思わず顔が引きつったオレはきっと悪くないと思う。 『え。こいつらはさすがに食えないかとおもぉぅ・・うえぇー・・・・しょ、瘴気が・・・・・・・・吐き気が・・・うっぷ』 「!?」 夏目がとっさに逃げようとしたら、入り口からもう一体はいってきた。 ここにはいま斑もいないし、なんとか夏目の拳で倒せたとしてももう一体いる。しかも羽の妖をおいていくわけにはいかないだろう。 二体がかりで押さえつけられた夏目が、必死に暴れて逃げようとしているが、それがもしできたとしても足手まとい(怪我をした妖)がいては逃げられない。 しかたないと、オレは羽の妖をまもるように、その傍に腰を下ろし式をにらむにとどめる。 式が入ってきたとたんに空気が一気にわるくなったことから、この式の主は相当たちが悪い人間だ。 なにせあまりの瘴気に体の中の呪いがザワリと動き、オレてきには吐き気がするぐらい気持ち悪くなったほど。 着ていた夏目のおさがりのジャケットの袖で吐きそうになる口もとをおおいつつ、コホコホとではじめた咳を羽の妖にかけないようにする。 とはいえ、ゲボかけたらごめん。 いや、まだ本当に吐いたり、血を出すことはなさそうだけど。 胸妬けがひどい。 オレをここまで弱らせる瘴気を纏う人間って、本当に人間かよ。 ちなみにオレがいう瘴気とは、人や妖ごときでは“視える”ものではない。 オレが“視る”のは、そいつにまとわりつく思念の残滓。 妄執、確執、嫉妬、恨み、怒り、悲しみ・・・・それらすべてが混ざり、腐敗し、的場という人間の周りに瘴気という形で漂っているのだ。 『まぁ、なんにせよ・・・・・・オレももうだめ』 いまだ式2体と格闘していた夏目には悪いけど、あまりの気持ち悪さに、思わず意識が飛びかけ、羽の妖に覆いかぶさるようにたおれこむ。 夏目がなにか叫んでいたが聞こえず、ただ心地よい気配が近づいてくるのに、体から力を抜いた。 ゴイン!と音がして、夏目が式の面を殴る。 逃げようとしたが、オレと羽妖をおいていけないと戸惑いを見せる。その隙に式が夏目に手をのばした。 「退きなさい、的場に仕えるもの」 「彼はこの名取の友人。これ以上、彼への無礼を名取家は許さない。帰って主に伝えなさい」 風が吹いたと思った。 その心地よい声に、心地よい気に、胸の奥でくすぶっていた狐の呪いが沈静化していくのが分かりほっと息をつき上半身をもちあげる。 みれば、夏目をかばうように棒をもった男が、たたずんでいて。 その言葉に式たちが慌ててにげていく。 不思議な気配を纏うトカゲの痣は動いていて、なんだかオレのロジャーさんに近い親近感を覚えた。 ああ、この世界ではロジャーさんを顕現することもできないし、話もできないが。 オレがその痣をみていたせいで、視線に気づいたのだろう。ふいに名取がこちらを振り返り、驚いたような顔をした。 「夏目・・・彼は?妖?人にしては・・・妖気?」 『いや、オレに妖気ないですよ。たぶん踏んづけてしまったこの羽の子の妖気だと』 妖気が漏れてたら今頃羽衣狐の呪いが活性化してやばいでしょうが。 感覚で影の中に、しっかり退魔の鏡が収まってるのを確認し、「うん、もれてない」と判断。人間という設定を通そうと思った。 「ああ、すまない。たしかにその妖の妖気だったね。それで、君は誰だい?」 「あ、その子は」 『ちょっと妖に呪われてる人間です』 「あ、それ言っちゃうんだ」 呪われてることをドンと胸を張って言ったら、夏目に苦笑をされた。 いやでもね、もし妖気がもれてもこれでごまかせそうだしね。 ちょうど外から戻ってきた斑には、“オレの正体”を言わないように視線で釘を刺す。 オレは人間です! という、ことを押し通そうと思う。 「その羽の妖をかばっているということは、君もやはりみえてるのかな?」 『バッチリと』 「視えてても夏目のように自衛ができないなら、“こちら側”にはあまり深入りしないことだよ」 『そうはいってもなぁ。オレ自身は深入りするつもりも首も突っ込んだ覚えもないんだけどね。 家人である夏目が歩けば、なにかしらに首をつっこむせいで・・・・まぁ、巻き込まれてるだけだ。オレはわるくない』 「家人?君、夏目の家にいるのかい?会ったことないけど」 『そうえいばないな。日中は出かけてることが多いし・・・つか、あんたオレのこと信じてないだろ。 いま、というかずいぶん前から藤原宅で居候させてもらってる。あ、オレは夏目の親戚でだよ』 「親戚・・そうなのかい?たしかに髪の色が二人ともずいぶん薄い色合いだけど」 『ふふ、祖母つながりでね。彼女も色素は薄かった』 「彼は、は・・・祖母筋のオレの親戚なんです。さっき言っていた呪いのせいで体長が“すこぶる”よくなくて、それでいまはうちで療養中なんです」 『なぜ“すこぶる”を強調した!?』 「嘘は言ってない。帰ったらちゃんと寝ろよ」 『で、でも・・・今日は調子がよかったんだ!本当に・・・調子がよかったんだ・・・・さっきまでは・・だけど』 そう、さっきまでは。 あの的場の式とさえ遭遇しなければ。 せっかく神仙の領域に遊びに行って、神聖な空気に体内の悪いものを洗い流し、浄化特化の神に加護までかけてもらって――とてつもなく体が軽くなっていたのに。 なんて災難だ。 オレがガックリとうなだれていれば、名取の式だという柊(ヒイラギ)という妖がオレと夏目を興味深そうに見つめてくる。 《たしかに、とやらと夏目の気の質はどことなく似ているな》 『そりゃぁそうだろう。夏目は夏目レイコの血縁だ。オレと似てて当然』 異世界というか、“はざま”でいつも会話をした親友の少女にオレが夢うつつに渡したのは、邪気を払い抑える力。 自分自信で、この身に溜まる邪気を祓うことも、襲い掛かってきた妖どもを消滅することができたそれ。 それを人間でしかない少女に渡したのは、彼女が当初“視える”だけで、“祓う”力を持っていなかったら。 それがレイコから、孫の夏目貴志に引き継がれていたとしてもおかしくない。 「レイコさんとオレが似てるのはしってるけど、なんでと似て・・・・・ちょっとまった!“あの桜の木の下のやつ”が父さんにも!?」 『オレにもお前にもそうやって、同じものが流れてんだ。当然性質なんか似るだろ』 曖昧にごまかしてはいるが、同じ血が流れているのではなく、力だ。 オレが桜の木の下でレイコに渡した邪気払いの力。 あれがオレの中にも!?――そんな驚いた顔をした夏目が、「うそだろ?」と聞いてきたので、「まじだ」とかえしてやった。 レイコに“渡したもの”が血を通し、その息子、その孫へ伝わるのも当然。 ならばオレと夏目が、似通った“気”をしていてもおかしくないというもの。 ああ、よかった。これでオレ様人間説が、この場にいる彼らの中でさらに大きくなりますね。 それから名取とその一行をごまかすことには成功した。 というか、そもそもオレは人間であるのも間違いではないので、嘘は一つも言ってない。 彼らもあっさり信じてしてくれたし、まぁよしとしよう。 夏目が名取に「あまり首をっつかまないように!そこの親戚君も!」と怒られていた。 なぜ、オレまで。 その心の声が聞こえたのか、名取が「夏目の親戚というだけで君も厄介ごとに巻き込まれそうだからだ!」とありがたい注意をいただいた。 どうやらであったばかりだというのに、心配してくれたらしい。 ――どうりでそばにいて心地よくなるわけだ。 この人間の“気”は態度とは相反して、とても優しい。 その温かい気を発しながら、「体調よくだろう?しっかり養生するんだよ」と頭をなでられ・・・ ぶっちゃけ、それが嬉しくなって、顔がヘニャリと緩んだ。 『父さんと同じであったか〜い』 ああ、“陽の気”最高! 邪気がはらわれる〜! あったかい! うましっ! うちの親父様、陽の妖というとんでもミラクルな存在なもので、祖母の癒し能力を引き継いでいるだけあってあの大きな手でなでなでされるとたまらなくあったかいし、気持ちがいいのだ。 それを思い出して、思わず名取にギューって抱き着いて、もっととせがんでしまった。 斑が天変地異の前触れでも見るような顔でこちらを見てきた。 夏目が「え、俺もなでたい」と言ってきたが、却下した。なんか夏目にやられるのはいやだ。 苦笑をしながら「猫みたいだね」と名取が撫でてくれた。 柊がいつのまにか傍にやってきて、名取をまねするようにオレをポフポフっという感じで撫でてくれた。 なんだこいつら。癒しか。 で、気づいたら――あのまま寝ていたようで、夏目におんぶされて、家へ帰るところだった。 「ああ、起きた?あのあと揺さぶっても意識戻らないし、やっぱり体調よくなかったんだな」 《ほんとうお主は軟弱だなそれでもぬらりひょんか!》 『うちの親父ってば陽の能力持った陰陽師寄りの妖怪で、癒しの能力までもっていて、日の下でも平気で、陰の力に倒れもしなくて、陰陽師の力は活力になるんだぜ(ドヤ)』 それもう妖怪じゃないんじゃないか。 そんな一人と一匹のツッコミが聞こえたが、それはオレも思っていたので頷いておいた。 『うん。オレもそう思う』 そもそも人間と妖のハーフで、人間の母親の能力を引き継いでるって・・・それだけで我が父は、オレと同じくらいかなりハイスペック身体である。 家までの道中、オレが眠ってしまった後の状況を聞いたところ、“的場の妖に襲われていた理由”を名取にきかれたそうだ。 妖の血を集めているらしいこと。 何かの術につかうのではないか。 話をしたところ。何か気になるところがあって、名取は調べる協力をもうしでてくれたらしい。 しばらく羽の妖は、名取と柊が保護し、面倒を見てくれるらしい。 興味はあまりないが、夏目が心配するので早く怪我がよくなるといいな。 残念ながらオレには父や祖母のように、治癒能力はないので、なにもできない。 ましてや“今”は祓う力もないから、本当に無力に近い。 『というわけで、帰ったら斑さん。一緒に寝よう。お前を湯たんぽにしてやるよ』 夏だけどなwww * * * * * 『行きたくない!行きたくなーーい!!!』 べつに名取がいそうだからついてきたわけじゃない! 頭なでなでしてほしいとか思ってない! 翌日、夏目が羽の妖の様子をうかがいに廃屋にいくというので、ついてきた。 そうさ!オレだって羽の妖がきになって・・・ 《じとーーー。、お主。名取に惚れおったな》 『うっさい斑!また撫でてほしいな。とか、撫でててくれたらいつもより元気出るとか!思ってないからな!!ただ羽のやつが気になって、そ、それで・・・ 』 「、本音もれてる(苦笑)」 ん?本音? 『あ!?』 自分が言った言葉を思い返し、見事に心の声が漏れていたのに気づき、慌てて口をふさぐ。 まぁ、おそいですよね。 そのあと、夏目と斑にからかわれるはめとなる。 廃屋についたら柊がいた。 羽の妖も意識は戻ったようだ。 どうやら名取もここに一泊したらしい。 で、名取と夏目の調査の結果、妖の血を奪う事件は移動していることが判明し、そこに向かうこととなった。 『嫌だ』 「おー全力拒否」 《じゃが、お主がいるとなにかと便利そうだしなぁ》 「アザナ陰陽師系の払いの術得意じゃん!いざとなったら教えてほしいし!」 『的場とやらに出会ったらどうすんの!?オレ、死んじゃうよ!邪気に弱いんだって!あいつ人間ぽくないほどやばい空気纏ってるし!!!』 「でも僕らとしては君を置いていく方が気がかりなのだけど」 「うんうん」 『う・・・名取に言われると』 《ついてくると名取にナデナデしてもらえるぞい》 「いや、勝手に僕をだしにされても」 『え!なでなで!・・・・・してくれるの?名取が?』 「あ、くいついた」 《あやつ、もはや完全に名取にほねをぬかれておるな。 おい、夏目、名取からナデナデ技術を教われ!そしてやつを陥落するのにゃー!》 っというやりとりがありまして。 つまりオレは名取さんからご褒美がもらえるというので、つい・・・彼らの「妖血ぬきとり事件の真相を探る旅」の旅行についていくこととなったわけです。 オレ病弱なんですよぉ。 が、がんばるので、あとで本当に名取さんご褒美下さいね!!! 『うぇ〜吐き気が、うっ・・・・鼻が曲がる・・・いや悪寒が・・・・吐くうぇ〜』 《ぬ!アザナのこの様子。この体調不良!まちがいないぞ!近くに的場のやつがおるぞ!》 「え!?そういう基準!?ねぇ、夏目、それでいいのこの子の役割」 「ええ、まぁ。なんか的場さんの気の性質とあわないらしくて、あの式に襲われた時から拒否反応がすごくて(苦笑)」 オレを的場レーダーにするんじゃない。 |