病弱ぬらりひょんがいく
- 夏 目 友 人帳 -



11. 事件のきっかけ
※原作 23〜26話 「人ならぬもの」より





まだ夏目の家にいる半分ぬらりひょんの病弱っ子です。
カリメという妖を退魔の鏡に送り込み、そのままエネルギーにした(食った)あと、水神のガキの話。 あれ以降は特に何もなく、最近は夏目がとんでもない妖に巻き込まれることもなく、おうちが平和なのでおかげで、 ほんの少し、ほんの少しだけ元気を取り戻したオレです。

でも瘴気とかきついです。
夏目さん、あまり変なものに近づかないでください。そんでもってそれを家にも持ち帰れないでください。
おかしいな。オレは妖怪のはずなんだが。

調子が良いのでいつものようにオレの“シマ”である森へ顔をだし、夏目の家に戻ってみると。


『だれ?』

《みえてる!?》
「あ、は普通にお前たちのこと見えるから」
《え。あ・・・お、お邪魔、しています?》

鳥の翼をもつ、一つ目面をした妖怪が、夏目と会話していた。








 -- side 奴良 --







家に帰ると、また夏目が妖怪をひろってきた。
オレの座布団がお客様用に使われていました。

そろそろ夏祭りが近く夏目と斑は、その屋台をぶらりと見た帰り、羽の妖とであったらしい。
屋台のなかで“ひと”とぶつかった夏目。そのぶつかった個所にベッタリ血がついたことで、夏目はその“ひと”がきた方向へ向かった。
向かった先に会ったのは古びたお堂で、雨でもないのに番傘がそのお堂の戸の前に会ったのが気になって入ったらしい。
中には大けがを織った妖怪たちがたくさん倒れていて、血まみれだったという。
思わず夏目が怪我してるやつのひとりに「大丈夫ですか!?」とかけよったとたん、唯一立っていた“ナニカ”に「一匹残ってる」と妖怪と間違われて襲われかけたという。
そこを“悲鳴”をききつけてお堂に駆け付けてきたがあえなくやられて気絶していたあの羽の妖が意識を取り戻し、おそわれている夏目ごとお堂を飛び出し逃げてきたという。
空を飛んで逃げているとちゅう、夏目が人間だとわかり、びっくりした羽の妖が彼を落とすというハプニングがあったものの、なんとか夏目の自宅までやってきたというのが事の顛末らしい。

『はぁ〜・・・お前は本当に厄介ごとに巻き込まれてくる。やられたのは首だろう。こい』

なぜ首を絞められたとわかった?と驚かれたが、邪気をまとわりつかせてればわかるとため息を吐き出す。

“人間にしては強すぎる邪気”を首にまとわりつかせている夏目をよびつけ、その首をそっとなで邪気をいただく。
“人間にしては強すぎる邪気”というのは、人間である夏目がまとわりつかせてるにはよくないもの。という意味ではない。
人間が生み出した負のエネルギーであろうに、人間が発するには強すぎ、まるで妖のような濃すぎる邪気という意味だ。

それを夏目からはがしとり、懐の鏡の中にいれこむ。
退魔の鏡で浄化して、エネルギーにしようとおもったのだが・・・

『・・・まずっ』

瘴気の塊のような妖怪よりもまずいぞこの邪気。
人としての気が腐ったようなそんな異質な気だ。
苦い。
胃もたれしそうだ。
オレの鏡がしばらく曇りそうだな。

『おぇ、まずい。こんな瘴気食ったことないぞ・・ぅえ・・・・』

吐き気をこらえるべく、口元を服の袖で覆って、しばらく大人しくしていた。

《我々が見えるだけでなく、邪気?をくらうとは・・・その子供は人ではないのか?》

オレが隅でオエオエやっていると、羽の妖が困惑するようにきいてきた。
それに夏目はどう答えたらいいのか、こちらをみてくる。

《邪気を食らうほどのあやかし、たちの悪い妖がおおいが。その子供の傍は空気が澄んでいる。なにより気配は人だ。その子供はなんなのだ?》

羽の妖の言葉に、オレはつばを飲み込んで吐き気を無理やり抑え込み、困り顔の夏目の皮に口を開く。

『“人”とおもってくれていい。そう思うやつがいる。それがオレを“人間”たらしめる。
邪気を食らうとはいうが、ただ退魔の鏡を持っているだけだ。それがすべてを浄化する』

オレの力に還元されるとかはおしえないけどね。
それに小泣き夏目を襲ったのは、おそらく人間だ。
つまり夏目の傍にいるといつかオレはその人間と会うことになりかねない。
そのときオレを“人間”だとおもっているやつがいると、それだけで周囲がそう勘違いをする。それは一種の催眠のようにひろがり、“そうである”と信じ込む。
オレは半妖だが、妖怪の力を普段から抑え込んでいる。むしろもれるのは神気ぐらいだろう。
そんなオレが本気で抑え込めば、人間ごときにオレの正体を察知できるはずもない。
これから“出会うであろう人間”への対策として、これ以上の伏線はない。
何か言いたげな夏目には、視線だけで“言う”ことを禁じる。
あのできのわるい斑でもオレのことをおいそれというような愚行はおかすまい。
だから、“これで”いいんだ。

『オレのことはいい。
羽の女、お前はこの後どうするつもりだ?』

《先程夏目様にも話したが――私の仲間たちも襲われた…そいつが何なのか調べてみることにしたんだ。しかし無事だった奴が少なくてなかなか手掛かりがない。 仕方なく見回りでもと、森をまわっていたら。あのお堂から悲鳴が》
『それでいまにいたると』
《なかにナニカがいて襲われた。そいつの正体を知りたくて、夏目様に力を貸してほしい――と先程頼んだんだが。今の話はなかったことにしてほしい》
「え」
《夏目様に、そんな青い顔させるつもりはなかった。思えば人のお前がかかわる道理はない。しちらの子供もまたしかり》

部をわきまえている妖であったようだ。
襲われたせいできがせいていたのだろう。とっさに人に助けを求めてしまったのはいたしかたないことかもしれない。
けれど夏目はただの人間だ。
そのような血みどろの惨劇の場をみたあと助けを求められ、顔を青くしていた夏目は正しく人の子であろう。
その様子を見て、羽の妖はすくっとたちあがる。

《すまなかった。忘れてくれ》

そう言って去ろうとする妖をとめたのは――

案の定、夏目だった。

「――待て。お前の仲間はどうなった。襲われた奴は無事だったのか?」

せっかく身を引こうとしているあやかしに、自分から首を突っ込むような真似を。
そういうところは“彼女”に似ているか。
さすがは孫だな。

《仲間は私にとって家族のようなものだった。せめて残ったわずかな仲間だけでも、私は守らねばならない》

羽の妖はそれだけ夏目に告げると「さらば」と、翼をバサリと翻し、消えてしまった。

あっさり去ってしまった妖に、ふいに夏目の方から力が抜ける。
深いためいきをついて「どうしよう先生」とつぶやいている。

《あほう。関わらないと決めたならそれでいいさ。
――お前は関わらなくてもうかない顔だな。いつもニヤニヤしていたレイコとは大違いだ》

《・・・・まぁ、レイコは友人帳以外、なにも持っていなかったからな》

みえすぎたがゆえに、みようとしなかった彼女は、オレを置いて逝ってしまった。
生きる世界も時間も何もかも違ったとはいえ、それでも夏目レイコは大切なオレの友人であったのに。

彼女は本当に“何も持ってはいなかった”のだろうか。

“お気に入りの子”と呼んだ滋しかり、きっと傍にいた者たちにもきづけなかっただけだろう。
あるいは――

巻き込まないために、気づかないふりをしていただけかもしれない。

どちらにせよ、オレは彼女をひとりにしたつもりはないがな。


《――しかし今回は関わらなくて正解かもしれんな》
「え」

夏目は気づいていないのだろうか。
夏目の首をしめた者が、“ひと”であったことに。

《奴が気になることを言っていた。妖の血が奪われていると。
――そこにいる字のように、他の妖怪を取り込んで力を増す者もいるにはいるが、血だけを奪うことはそうそうないだろう。
わからないか夏目?》
『斑が言いたいのは、こういうことだろう。“人の中には妖の血を使って術を行う者がいる”ということだ。
さて、夏目。お前に問おう。
お前の首をしめたのは人間のようだが。――覚えはあるか?』
「え・・・人間?」
『妖はあのような腐ったような邪気は纏わなない』
「それじゃぁ!?あそこにいたナニカは」

『《人だ》』

「――ひっかいた・・あの感触」

ふいに夏目が、思い出すようにおのれの手のひらを見て、確信を持った瞳で

「ああ、そうだ。あの感触はたしかに“人”だった」

告げた。





『どうやらすでに厄介なことになっているようだな』

妖怪がねらわれてるとあっては・・・。
やれやれ、困ったものだ。
これはしばらくオレの“シマ”のやつらには、あまり出歩かないように言わないといけないだろう。

それにくわえ問題は夏目だ。
視える人間の子供、夏目が、妖怪を襲う人間にみつかってしまった。
人間どうしの争いで終わるとは思えない。
“視える者”どうしというのはそういう者だ。
それだけでもこの先、夏目の周辺でなにかの事件が待ち受けていそうでしょうがない。

オレはむなやけする胃をおさえつつ、そのモヤモヤと一緒に深いため息を肺からはきだした。



事件ははじまったばかり。













『まずはこのむなやけが事件だな』


《「!?」》

いや、べつに倒れてないし、血も吐いてないからね!








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