病弱ぬらりひょんがいく
- 夏 目 友 人帳 -



10. ひねくれた第三の選択肢
※原作 20〜22話 「タカシの友人」より





きっと、祓い屋である彼は、いつか夏目に問うだろう。
「人か妖か。どちらかを選べ」と。
夏目はきっとどちらかを選ばざるを得ない選択肢の前にいつか立つだろう。

オレという半妖という存在は、狭間を生きる夏目貴志になにをもたらすのか。
きっと、それがわかることはないだろう。

ただ、オレはどちらでもあり、どちらでもないがゆえに、自由である。
だから、人であろうと妖であろうと、お互いの生活を守れるのであれば――"どちらか"なんて選択肢は不要だと思うのだ。

君にオレというイレギュラーから、回答(原作)にはない第三の道を贈ろう。



っと、いうわけで。

『おうちかえりまーす』

ごほ。


そう言った瞬間、藤原夫妻と夏目が勢いよくこちらを振り返った。







 -- side 奴良 --







つい最近まで寝込んでいたオレです。
いやー、夏目がね。訂正。斑がふぬけすぎのせいで、家におかしな妖をいれてから、なかなか具合が改善しなくて。
このたびようやく全快までとはいかないけど、十分ましになったので、家(というか住処の森)に帰ろうかなーと思って、食事の時に告げたら、この家の人たちがギョっとした顔でふりり返ってくるんだ。
なんでそんな驚くのだろうと思うが、心当たりがなく、一度コホコホと喉にからんだものを吐き出しつつ首を傾げたら、青い顔をした夏目が、ぐわしっ!とばかりに肩をつかんできた。

「何を言ってるんだ!こんな寒空の下にそんな状態のを放り出すわけにはいかない!」
「そうよ!それにちゃんのおばさまとおじさまは一年は帰ってこないって言ってたらしたのよ。ひとりになんて」
・・・まだ、いていいんだぞ」

っと、夏目、塔子さん、滋の順で声をかけられた。
ふむ。配下の妖たちは、一年と告げていたのか。それは知らなかった。

とくに自分自身の感覚ではいつもどおりでまったく問題はないんだがなー。
身体が弱いのは通常運転なわけだし。
この世界では年もくわないし、成長もしないし・・・ぶっちゃけ無茶をしなければ、腹も減らない。
もう面倒を見てもらう必要もないんだが。

瘴気さえ傍になければ、オレは健康なのだ。

むしろ、このまま夏目と暮らしている方がやばい気がする。
この夏目という人間は、“情”にもろく、すぐに妖の事件に首を突っ込む。妖側の価値観を分かってないのだ。
妖からしたら、人間が決めたルールとか関係ないというのに。
とはいえ、オレは半分は人間なので、人間側の価値観というのもわからないでもない。
それでも。夏目の妖怪への無防備さはなんとかしてほしいものだ。

つまりなにがいいたいかというと、このままだと夏目がまた面妖な事件に巻き込まれ、家に何かを連れてくるんじゃないかと思ったのだ。
そうするとオレの体調にまで影響が出るわけで。

だけどでていこうにも、「まだ咳してるし」「外は寒いし」「小さな子供を一人ですごさせるわけにはいかない」と、この家の住人が猛反対。
優しすぎるのも困ったものだ。
まぁ、やわらかい布団があるのはいいことだ。

別にふとんにひかれたわけではないぜ。



――っと、いう強引流れがあって、いまだオレは藤原邸で暮らしてる。

いっちゃぁわるいが、夏目、あいつさ…オレが妖だって忘れてはいないか?
いや、もしかすると人間だと言い聞かせたせいでそう思っているのかもしれないなぁ。
どぁ、オレはどっちでもあるけど。





* * * * *





『くさい』

「へ?」

ある日、夏目が左腕にかすり傷をつけて帰ってきた。
腕からは、瘴気。
だけどその周囲にまとわりつくのは、どこか濁った“水”の気配。

こりゃぁ、オレと同族じゃないかね。神っていみでは。

神のもつ神気。
それが水の気配からした。

「ちゃんと風呂にも入ったんだけどなー。あ!もしかして傷薬?これはタキが・・・」
『ちがう。ひとには感じられないにおいだ。嗅いでも無駄だろうよ』

自分の匂いを嗅いでいる夏目をジトーっとした眼差しでみやりながら、はぁーと溜息をついてやる。
どうせ夏目のことだ。なにかしらの人外とかかわったんだろう。しかも今回は水神にかかわるとか。

っで、この瘴気は水神の者とは別。
水神の派そばに寄ったときについた残り香のような物だから問題ない。
問題なのは瘴気のほう。
つまり良い物(水神)と悪い物の両方に遭遇したとそういうことか。

『その腕、妖にやられたな。切り傷の具合からして爪じゃない。刃物だ。
それと・・・。
まぁ、もう一つはどうでもいいや』

まさかとは思うが斧をもったような妖と老いかっけこなんてしてやしないよな?
斧とか武器を持ってる時点で妖しいだろうが!
なんでそんなあやしいものに近づこうとするのか。

やれやれ。人の身に穢れはだめだろう。
慣れていて“力”が強いとしても、溜めすぎるだけのただの人間には、そういうのは害にしかならない。

夏目の左腕をとり、怪我した個所を包み込むようにふれる。
この気からして、彼に包帯をまいたいのは、以前陣なんかをかいていたあのタキという少女だろう。
包帯は捨てさせた。新しいのに変えた方がいい。
夏目にまとわりつく穢れだけを自分の中に取り込んで、手を放す。
オレは父と違って治癒能力なんて持ってないから、怪我の治療までは自分でやってくれ。

そのままあとはどうでもいいとばかりに夏目から離れる。

夏目は、オレがなにをしたかもわかっていないのだろう。
キョトンと、オレと自分の腕を見つめる夏目に、オレはふぁ〜とあくびをひとつして興味がなくなったとばかりに視線を外す。

最近の定位置は、夏目の部屋の窓のそばだ。
ここは二階なので、みわたしがいい。

夏目に関しては、自称護衛である斑もといニャンコ先生が、あとはなとかしてくれるだろうさ。
オレをかかわらせないでくれよ。



――と、思っていた頃がありました。





『お前、だれ?ここで何をしてるんだ?』

居候生活はあまり変わってはいないが体調がよくなったので、最近ちょくちょく森のオレの"シマ"に遊びに帰っている。
その森の一角がいつもよりしけっていて、不思議に思ってのぞいてみたら、うずくまってグスッグスッと泣いているこどもの姿の水神をみつけた。
誰だこいつ。
なんていう心の声が思わず漏れてしまっただけで、理由を聞いたわけでもなければ、目の前の妖を助けようとしたわけでもない。

つか、ここオレの領域。
なんで別の地域の神様がここにいるのかなー?

子供の姿の水神は、オレがやつが泣いている理由を尋ねたと勘違いしたのだろう。
こちらをふりかえって「夏目に嫌われちゃったどうしよう」と、聞いてもいない理由を説明してくる。

アウトだ!

やっぱり夏目関係だし。
あいつまた何かに巻き込まれてる!!


うん。
これ、あかんやつや。
思い返してみれば、この水神の気配はあきらかにこの前夏目が瘴気と一緒につけていた水神の気配とおなじじゃないか。
おい、濁ってんぞこの水神の気!





* * * * *





以前、夏目がどこぞやの水神の"気"をまといつかせて、学校から帰ってきたことがあった。

どうやら通学路の途中にある廃屋で、箱に閉じ込められていたランドセルを背負った小学生を見つけてらしい。
箱に閉じ込められてる時点で怪しいと気付け!と言いたいのだが、当時はランドセルや名札まであるし、翌日小学校へ行けば本当に「石尾カイ」という生徒がいるという。しかもタキにまで普通に目視できる少年。
それで夏目は、奴が人間だと思い込んでしまったらしい。

花冠をつくったり。
斧をもった妖怪から一緒に逃げたり。
それからタキと夏目は何度もその子供と出会い、仲がよくなった。

しかし彼は水神。

いわく、八白岳の山頂で水源を守り、水を清める代わりに、供物が滞ったら岩出水源をふさいで人がやってくるのを待っていたらしい。
しかしそれも時がたち、人々の記憶から忘れ去られてしまったようだ。
寂しいと思っていたところに、同じ水源を伝ってとある古井戸に封印された妖の声をきく。
遊ぶ仲間を求めてその古井戸をさがしていたが、情報を得るために人間に紛れたところ、人といる方が楽しくなって古井戸のことは忘れていたらしい。

祓い屋の名取は、オレのことをしらないが、藤原夫妻の家にひとり居候がいるのはしっている。
逆にオレは、祓い屋である彼のことはよーく耳にする。

・・・・・・その名取が、かの水神を、罠でおびきよせ封じたらしい。


夏目はああいう性格だから、自分が目にしてしまったものは、どうしてもきりすてられないのだ。
それが妖との絆であれ、人との縁であれ。
アレに、人か妖を選ぶことはきっとできない。

夏目と名取の縁が切れないのも困ったものだ。
だから夏目は、妖と人など関係なく共にありたくても・・・ときにその縁のせいで、うまくいかないこともでてしまう。


「どうしたらいいと思う?」
『まぁ、問題点としては、古井戸を水神であるカイが開けてしまう可能性があることだな』

なぜか夏目は、ことあるごとにオレに今日の出来事を妖がらみから何まで話す。
オレは、みため十歳のガキだけどいいのだろうか。・・・いいのだろうな。きっと。

オレは妖怪でも人でもないがどちらのくくりにも入る。ゆえに"どちらか"の対応しなきゃいけないわけでもない。どちらとしても話が通じるのだから。
だからこれでいいんだろう。
夏目にとって、守る必要もなく、ありのままに"すべて"を話せる相手は必要だったろうから。


まぁ、そんなわけで、今回の事件についてしらないわけではない。

古井戸の妖については、オレの"シマ"も近いので、場所もどういうものなのかも知っているといえば知っている。
仲間があそこにだけは近づくなと言ってきかせるものだから、井戸の中身が"良いもの"であるはずがない。
きっと古井戸の中にいるのは、言葉も理性も姿も失い正体を失った悪霊になりはてたものたち。

『そんなやつと"友だち"になんてなれやしないのにな』


っが、しかし。
オレの杞憂は、見事的中。

案の定、ことはうまくいかなったようで、名取といるのをカイに見られた夏目は、水神のガキに祓い屋と勘違いされたらしい。
そこでカイはちんけな妖の言葉にそそのかされ、そのまま古井戸をあけてしまった。
彼が「おれの山で一緒に遊んでくれる?」と声をかけても答える声はなく、悪霊はカイを人間のこどもと勘違いし襲おうとし、そこを夏目がかばい、今度は夏目が悪霊に襲われかけた。
友だちとしての短い期間の楽しかった思い出がまさったのだろう。
カイは夏目を害する悪霊を祓う。

けれど夏目は襲われたことで、気絶。

ここで発生する勘違い。


カイはまだ、夏目を祓い屋だと・・勘・違・い・している!!





* * * * *





『――っで、その結果がこれか』

「ぐす・・う・・どうしよう」
『いや、しるかよ』

家に帰ってきた夏目から聞いた話だと、タキから預かったクッキーをカイに渡したいと夏目自身は願っている。
そのためタキから現在必死になって花冠の作り方を習っている最中だ。

たまたまこの水神が自分の山に帰るほど元気がなく行き倒れていたから、オレが捕獲できたからいいものの。
夏目はクッキーを渡すために、花冠をつくるために必死になって、今そんなかわいらしい修行をしている。
だがその時間がほんとうはとてつもなくもったいなかった。下手したら、この幼い水神は二度と人前に降りてこなかったもしれないというのに。
こういう風にこじれたばあいは、悪化する前に誤解をとくしかないんだよ。じゃないと永遠とすれ違い続ける。

ならば――

『持って帰るか』

連れて帰れば、クッキーを渡したい夏目は喜ぶ。
夏目がカイとまだ友達でいたいというのなら、勘違いもとりさることができるだろう。
それに目の前でぐじぐじとしている水神を黙らせることができる。
うっとうしいものはあまりオレの"シマ"においておきたくない。しかも鬱った水神などおいておけば、森が湿気でおおわれてしまいそうだ。うちの森で瘴気を出されてもこまる。

なんだ。これで面倒事は一気に解決できるじゃないか。

よし。持ち帰ろう。
そうしよう。
水神の許可?精神がオレより幼いクソガキに遠慮はいるだろうか? 答えは否だ。
お前に拒否権はない!

キョトンとする水神の首根っこをつかみ、ニッコリと笑顔で――

『言うこと、きくよな?』

っと、ちょっとばかり抑えるのをやめた"神気"を開放してやれば、青い顔をした水神は首を勢いよく縦に振って頷いた。

『よし。なら、感情的になってすぐに力任せに暴れないこと。逃げるなよ。逃げたら・・・』
「ひぃ!?」
『わかってるな?
それと、これから他人の話は最後まで聞くこと。夏目に言いたいことがあるなら、あいつの話を聞いた後だ。質問は最後にしろ。
何か言いたいことはあるか?』
「な、ないよ!」
『うん。いいこだ』

ブンブン首を横に振るカイはガクガクと全身を震わせながら、おとなしくオレにひきづられていったのだった。





『ただいまー。夏目、お土産もってきたからひきとって』

あ、おかえりと顔をのぞかせた夏目が、ギョッとした様子でオレと、オレがひきずるものをみてあわてて駆け寄ってくる。
夏目を見るなり、うぇ〜っと顔をゆがめて泣き出したカイが、オレをみて「こわかったよー」と泣き叫ぶ。
しまいには、「あらあらまぁ」と塔子さんまででてきて、優しい笑顔でカイの頭を撫でると、お茶を持っていくわねと言ってくれる。

泣き声がうるさいので、ため息をつけば、カイはビクッ!とおびえ、さっと夏目の後ろに隠れてしまう。
さきほどまでの確執はどうしたといわんばかりのビビリ具合である。

とりあえず、うちの家のお空が曇ってきたので、雨は呼ぶなよとだけ、きつくいいおき、オレは部屋に戻る。

カイと夏目がお互いに顔を見合わせた後、困ったように後をついてくるが、もうしらん。
オレは眠いのだ。

ああー、つかれた。
血を吐かなかっただけほめて・・・・グッ(´゜Д゜`)・:∴ガハッ





その後の記憶はない。






 




とりあえず、オレが意識を飛ばしている間のことを簡素に聞いた。

夏目は、なんやかんや話し合った末、カイとよりを戻すことはできたらしい。
たまに遊びに来ていい?もちろんというやりとりのあと、カイはクッキーといびつな花冠を持って帰って行ったそうだ。

めでたし。めでたし・・・・・なのか?








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