08.桜が咲いていました |
夏目世界に来る前、実は前兆のようなことがあった。 それはいつも桃色の花がいろをつける、そんな時期のこと。 オレはいつも庭先の枝垂桜の側にいた。 -- side 奴良 -- すべての始まりはオレが何歳の頃だったか。 たしかまだリクオが中学に入るか入らないかの頃だった気もする。 まだ容体が安定せず、寝込んだりを繰り返していて、結界の外には出れなかった頃。 一番初めはたしか、リクオが気に入っている枝垂桜の枝の上で、うとうととしていたのだ。 身体が弱く、屋敷の外に出ることもままならないオレの唯一の遊び場。 きっと桜なんかに寄り掛かっていたから、桜が満開な世界の夢をみたのだ。 ――― 一瞬風が変わった気がした。 「あなた、この山の主か何か?」 声を掛けられ、目を開ければ、いつからいたのか、目の前には淡い茶色の髪の女の子がいた。 「あたしと勝負しない?」 『やめておく。オレはお前の望む“どちら”でもないし、この身はひどく脆弱だ』 「あなた、妖怪?」 『“妖怪”と“人”の間に生まれたものだ』 「驚いた。そんなのいるのね」 『オレはぬらりひょん。真実の名がほしければくれてやるから無理して笑うんじゃねーよ』 それが出会い。 時が流れてもあいつはやってきた。 それはいつもオレが桜に囲まれているーー夢をみているときに訪れる。 もしかするとあいつの生きる時間は、オレたちの世界の時間とは違う時を刻んでいるのかもしれない。 『おまえは。さびしいのか?』 「・・・・やだやだ妖怪はそうやってすぐにたぶらかそうとするんだから。 食べてもおいしくないわよ、わたしはね」 『たべねーっての』 あいつは妖怪は人を食べると信じているようだった。 そのわりには、気さくに話しかけてきたが・・・。 「あなたが“人”なら、私、初めて人の友達ができたわ」 『ばーか。違うだろそれは。お前が見ていなかっただけで、心の深くに踏み込ませなかっただけで、お前を友と思っている奴は意外といただろうさ』 「そうかしら」 『じゃぁ、良く話しかけてくれたって言ってお前が喜んでた男の子はお前にとってなんだよ』 「ああ、いたわね。でも、お気に入りの子ってだけよ」 『それを友達って普通は言うんだよ』 「そう?」 『そうだよ』 「じゃぁ、あのこはともだちだったのかもしれないわ」 『ほら。いただろ』 ――それは桜が舞い散る世界での出来事。 |