07. お気に入りの子の家 |
※原作 19話 「仮家」より えらくなりたいとか総大将と呼ばれたくて、ここらの妖怪どもの大将をやっているわけではないけれど。 やっぱりこの藤原さんの家はあったかくて、オレもね、けっこう気にいっているわけよ。 だからさ。 オレのテリトリーに入ったんだから。 このへんを“シマ”とする大将がなめられるのはどうかと思うんだよね。 おとしまえ。しっかりつけさせてもらうぜ? -- side 奴良 -- あいもかわらず夏目の部屋で寝込んでいるオレです。 斑の話によると、夏目が学校の帰りに、家の前に変ならくがきがあったとのこと。 どうやら事の発端は、そのらくがきから始まっているらしい。 翌日には、塔子さんの花壇の花がスッポ抜かれ、踏みつぶされていた。 それにガッカリしていた塔子さんに酒によるまじないをかけたが、どこまできくかはわからない。 なにせその日の夜には、オレと夏目が寝ている寝室にまで〈奴〉は入り込んできたのだから。 そのあとは斑と夏目が〈奴〉を追いかけて部屋を出て行った。 夜中だったので、追いかける音に家主の滋が起きたようだったが、オレがその後の詳細を知るわけないだろう。 その後夏目は、滋の子供のころの話を聞き、〈奴〉が以前もこの家を訪れていて、滋がレイコと親しかったというのを聞いたらしい。 ちなみに夏目と滋が昔話に花を咲かせていた頃――オレはなにをしていたかというと。 布団の上で血を吐いてました。 〈奴〉が家に憑いたせいで、家中が〈奴〉の妖気に覆われてしまい、この身に巣食う妖狐の呪いが活性化し、オレの具合が悪化したのだ。 〈奴〉を追い払うまでは、オレはまた布団に戻りの日々が続くこととなった。 ぶっちゃけ起き上がれた時に、塔子さんに守護のまじないかけといてよかったと思った。 ―――ホシイ イエガ・・・ 『・・・あの、のぞかないでもらえます?』 次の日には、〈奴〉がなんとなくでかくなっていた。 そんでもって日中や問わず家中をパタパタと自己主張よろしく走り回り、寝るになれない。 しかも夏目が足音を追うものの、気付くと障子の隙間から布団で寝ているオレを見ている。 視線があついんですが。 そんでもって悪いけど、オレ、ここの家主でもなければ人間でもないんだけど。 〈奴〉がまたパタパタとさっていき、それをあわてて夏目が追う。 オレもそろそろ寝不足がたたってうっとうしくなってきたので、思わずふらつく身体を酷使して布団から出た。 気配を追って夏目のもとにたどりついたとき、夏目がでかくなった〈奴〉にくわれていた。 溜息がでた。 『なぁ、夏目。わるいけど早くアレ何とかしてくれよ』 いらだちのままにやつの目玉をつぶすつもりで蹴りつけてやれば、ブフォ!と夏目を吐き出した。 〈奴〉から吐き出された夏目に手を差し伸べつつ、ジトーとした視線を向ける。 『寝不足でオレ死にそうなんだけど・・・』 「そんなこといわれたってしかたないだろ!」 《おちつけ、夏目。あれはたぶんカリメという妖だ。気に入った家の者に災いをもたらして追い出し、自分が住み着く》 『迷惑極まりないな。住むなら家賃払えよ』 「重要なのはそこじゃないだろ!ニャンコ先生、あいつのことなにかしってる?」 《・・・この家で、以前レイコに追い出されたみたいだな。 たぶん最近見かけたお前をレイコだと思って復讐にでもきたんだろうよ》 『やっぱりはた迷惑だ。おかげで寝不足だぞ』 「そういえばは、一日中家にいるもんなぁ」 『ああ。それはもう耐え難いストーカーじみた熱烈な視線でもって日々視姦されていた』 「・・・し、しかん」 《・・・》 憎々しげに愚痴をこぼしたら、斑と夏目に言葉は選べと言われた。 『っで。またここに戻るわけな』 むやみに近づくとくわれるし、先程夏目の霊力をくらったせいで〈カリメ〉の力は増しているだろうということをふまえて、決戦の場所を変更した。 今度はこっちから誘い出すのだ。 そうして家から排除する。 その方法はあの妖に食われかけた夏目が、あいつの記憶に感応してしまったらしく、レイコが以前どうやってこの家を守ったか見たのだという。 今回もそれと同じ方法で〈奴〉を追い出すのだという。 いや、それってだめじゃね? 追い出すだけじゃ、今回と同じで“いつか”戻ってきそうだよな。 なら、そうならないように少しばかり力を貸してやるとするか。 『墨の代わりにオレの血でもつかうといい。オレの血は羽衣狐の呪いが強くこびりついたもの。それを呪としてお前が使えば、決してあらがえないとんでもない物ができるだろうさ』 せっせと紙を部屋中に散らして「出口」という文字を書こうとしている夏目に、笑って特別な情報を与えてやる。 なにせあの転生をするごとにシッポが増えていく羽衣狐の死に際の怨念がこめられた「一族ねだやし」の呪いだ。半端ない威力だろうさ。 いやぁ〜、それんな、ぶっちゃけていうと、オレの血なんか、ふれたとたん低級は死ぬんだよ。 霊力がつよそーな人間の血だぞ。さぞうまいとみせかけて、べったりこびりつく神気で浄化されるか、消滅されるか。 はは、本当に見物だよ。まったくな。 「え。血を?」 《もらっておけ夏目!そいつの血は、やつが言うように呪いをまとっている。 使いようによっては、毒にもなるものだ。 ん?それともなんだ夏目、まさか汚いとかそういう理由なら》 「いや、そうじゃなくて!お前、常に貧血気味なのに、それ以上血を出したらやばいだろうって!」 『そっちかよ!?まぁ、大丈夫だ。血っていっても一滴たらすぐらいでも十分だろうさ。はは、なんなら10滴でもいれるか?瞬殺だなそりゃぁ』 「どんだけ!?どんだけの血ってやばいんだよ」 『伝説の九尾(ただし当時はたしか八尾)が命と引き換えに一族根絶やしの呪いをかけたから・・・どのくらい?』 「・・・・」 《ぬらりひょん、お主、よく生きてとるな》 『ああ、それね。それはオレも思うわ』 そういえば夏目は普通の人間だったな。 普通の人間なら、そうそう血などみたりしないものだったか。 やれやれ。転生者で妖怪で、あげく任侠一家なんてものにいると、どうも血が流れるのがふつうになりすぎてしまって、 普通という感覚がよくわからなくなる。こまったもんだ。 そんなわけで、指先切って、夏目が使おうとしていた墨のインクに一滴まぜる。 そういえば一番初めのころの人生は、墨の能力者だった気がする。 思うに墨とオレの相性って最高なんじゃ・・・ あとあと、それがあっけなく証明されることになるけど、それはまたあとで。 夏目は部屋中にしきつめた紙の上に大きく円をえがき、出口と文字を書く。 その真ん中に座って〈カリメ〉が来るのを待った。 奴がきた。 この円にふみこめば、奴を追い出すことができる。 “なつかしい”呪いだな。 ギシギシと家鳴りをさせてぬぅっと障子の向こうから入ってきたのは、予想より大きくなっていた影のような人型。 ああ、奴だ。 少し前までオレの睡眠の邪魔をしてくれていたやつは。 《家ガホシイ… ドコダ ドコダ・・・アノ女 コノ私ヲ オイダシタ・・・ココダ コノ部屋ダ》 「レイコさんはもう亡くなっている。この家も譲ってやるわけにはいかない」 『そうだそうだ出てけ間抜けが』 「この家の人たちをもし苦しめるのなら――」 「悪いが出ていってもらう」 カリメが円に一歩足を踏み込んだとたん。 奴はぐいぐいと円の中に吸い込まれていき―― そうして光がはじけた。 ―――・・・ぃがとう――を・・・・・にきたわ―― 一瞬、視界の前をヒラリと桜の花びらが舞った気がした。 * * * * * なお。奴を追い出しただけではまたどこかで災いをふりまくに違いないし、また戻ってこられても困るので、奴がおちた先は実は指定してある。 これもすべてオレの独断である。 夏目に説明するのが面倒だったので、墨に混ぜられた血を媒介にちょっとした術式を組み込んだのだ。 指定先は、オレの魔封じの鏡の中。 前回タキトオルという少女と夏目が鏡のバケモンを封じたアレである。 鏡に入れてしまえば、あれくらいの妖など、あっさり浄化されて、逆にオレの力として還元されるだけ。 まぁ、ほぼ同族食いの鏡と化しているが、問題なしだ。 あ、それとも。 消し去る前に、どこかで一度外にだしてからコテンパンに叩きのめし、蹴りを食らわして、串刺しにでもして、退魔の刀で消滅させてしまうのも手かもしれない。 だって、オレの睡眠を邪魔した。 静養期間がおかげで伸びたし。 そもそもだ。オレの“シマ”をあらしたのが悪い。公開処刑でも十分かもしれない。 まぁ、その辺の裏事情は、やさしい人間でしかない夏目には秘密だけどな。 さぁ、ひとだんらくしたし、ようやくこれで熟睡でき・・・・・。 カリメを追い出した術式のせいで、部屋がむごたらしい状態になっていた。 障子は破けてるし、床や壁に張った紙はちぎれて吹っ飛んでるし。 あー・・・オレの布団。 紙まみれです。 寝れねぇよ。 |