06. あたたかい家 |
※原作 19話 「仮家」より 【ぬらりひょんの孫】の世界でリクオの兄として生を受けて十数年。 ずっと屋敷の中で暮らしていた。 しかもずっと結界の中。 原因はオレの殻が弱いせい。 これもすべて自分の魂と肉体の相性が悪いのがいけない。 なによりとある狐が祖父にかけた呪いも、それを後押ししているから最悪だ。 おかげで生まれたときから長生きができないといわれていた。 それを気合いと根性で覆して、地味に生き続けているのは、オレがたぶん人よりもちょっとばかし強い肉体を持つ妖怪だから。 生まれながらに死にさらされていた妖怪のオレ。 ぬらりひょん。奴良 。 そんなオレはどんな縁か、別の妖怪漫画の世界にトリップしてしまった。 その世界には“夏目貴志“という霊力の強い人間がいて、彼の祖母の残した厄介ごとに日々追い掛け回されてる。 ここは――【夏目友人帳】の世界だ。 -- side 奴良 -- 妖怪の肉体に、人間の血というアンバランスなクォータ具合を発揮しているオレは、妖怪であるのに普通の人の肉眼でも見えるし触れる。 だからといって街中でくらすには、“この世界”では成長しないオレはすぐに異端視されてしまう。 それをふせぐため、“こっち”にきてからは森で妖怪どもと暮らしていた。 こっちでは妖怪ヤクザもいないし、日々陣取り合戦でバトルが続くようなことなどなく比較的穏やかだ。 森の奥には、一際大きな野生のサクラの木がある。 その木はなんだか屋敷にある枝垂桜に似ていて、そこをいつもねぐらにして、好き勝手森で生きていた。 おかげでぬらりひょんというよりは、木の精と勘違いされることもしばしば。 始めから気にはしてないけどな。 そんな生活も数ヶ月たったころには、なぜかオレの周りに小物妖怪が群れるようになった。 身体の弱いオレは、ほとんどを寝て暮らしているが、なぜここのあやかしたちはオレについてくるのかいまいちわからない。 おかげで気がつけば百鬼夜行ができるぐらいだ。 オレ、なぜか、「総大将」とか「主」ってよばれるようになった。 ぶっちゃけ、初代ぬりひょんである祖父や、二代目である親父、昼と夜を使い分けて変化するリクオみたいに、ばったばったと敵をなぎ倒したり、夜道を闊歩したりとかはしていないはずだ。 やったことといえば、いつもどおり血を吐いて倒れるかぐらいか。 あとは人間に菓子をもらったり、斑という白いフサフサした妖と酒を飲み交わしては宴会を開いては夜中に騒いでいたぐらいだが・・・。 あぁ、そういえば襲い掛かってきた祓い屋とか名乗るうさんくさいやろうどもを、蹴り飛ばした記憶がある。 いや、それともあれか?オレを喰おうとした妖怪どもに限らずオレの質問に答えなかった奴を足蹴にし、あげく退魔の刀で脅したことはあったな。あ?小物妖怪から慕われるようになったのって、そのせいか? まぁ、とにかく。 馬鹿をして、騒ぎすぎたせいで、何度目かわからない血を吐いて、一週間昏睡状態に陥った。 さらにそのあと酒飲み仲間である斑にオレが持っていた封印の鏡をもっていかれたので、追撃したところ、捨てられた割れ鏡が禍々しい気を集めて妖となった奴と夏目のバトルに参加してしまったのが悪かった。 そのとき自分の体内に取り込めば、やがて浄化できるからと、夏目が浴びた分の瘴気もすべてオレがひきとった。 いろいろあって瘴気をすべて浄化し終わる前に、祓い屋に払われそうになって戦闘になった。 そんなことばっかをくりかえしていたため、オレの中の瘴気はなかなか浄化されず、身体がここのところずっとだるい。 具合もあまりよくなく、以前より吐血がとまらない。 一度祓い屋やら悪霊やらに絶対に遭遇しないような場所で安静に寝るかして、力を蓄えないと本気でやばいなぁ〜とか思っていた。 そう考えたのは、オレだけじゃなかったらしく、そのせいで過保護な部下もとい仲間たちが、オレを屋根があって暖かな布団のある人間の生活をさせようと考えた。 何度目かになる目をまわして倒れたオレが、次に気付いたときには、やたらと力の強い結界が張ってある家で寝ていた。 善意なんだろうけど――結論からして、部下どもに人に預けるられていた。 しかもオレのことをおもってか、結界のはられた家。 仲間の妖怪たちいわく、そこがあの“夏目”の家であることまでは知らなかったらしいが、オレをできるだけ瘴気から離したかったのだという。 たしかに夏目のいる家は、斑の結界もあり、藤原夫妻も優しくて、居心地がよかったし、森でほかよりも居心地はいいが。 やたらとゆるみにゆるみまくっている結界をみてため息が出たのはゆるしてほしいものだ。 これをあの斑が張ったものだと知ったときは、やはりあの狸猫はしばこうとおもった。 夏目を加護するはずの結界は、そうとうたわんでゆるんでいて小物もたやすく侵入していた。 この状況を見るに、やつは今頃どこかで酒でも飲んでいるのかもしれない。 ・・・うらやましい。 酒好きのオレとしては、仲間に禁酒を進められていたりするので本当に恨めしくて仕方ない。 あとでしばこう。 ついでに結界の補強ぐらいならしてやってもいいかな。なにせオレは「陽」の妖かしだからな。 そんなわけで、ただいま身体の養生のため、人間に世話になっているオレです。 * * * * * 『ただいまで〜す』 「あらちゃん、おかえりなさい」 『え?なにこれ?』 夏目の家で世話になっているぬらりひょんの奴良です。 妖怪なので学校に行ってないし、身体も弱いのであまり動き回れず家に引きこもっていることが多いオレですが、今回久しぶりに森に帰っていました。 帰ってきたら、なんだか夏目の家の様子がおかしいです。 オレがこの家を留守にしたのはほんの数日。 出かけたのが2日前。 ひさしぶりの外に、うはうはと酒と七辻屋でまんじゅうを買って、それを手土産に森に言ったら大歓迎された。 随分と心配をかけてしまったらしく、むせび泣く妖怪どもをなだめるのが大変だった。 ちょっとまて。いつからオレはそこまでお前らに慕われていたんだ? そんなわけで、彼らにオレの近況を報告し、そろそろあの家を出て戻ってこようと思っているとつぶやいたら、今の時期はお体に触りますとか言われてしまい、しかたなくもう少し人の世で暮らすことになった。 なぜかお仲間の妖怪さんから、「これをどうぞ藤原夫妻に」と、妖怪たちが丹精込めて花蜜より作ったという魔除け効果のある神酒をもらった。 え?あの。そんなにオレ守られてないとやばそうですか? 「いいえ!長を預かっていただいているのですこれくらい当然です!」 「どうかお元気で〜」 と、藤原さんによろしくと見送られた。 ――っで、帰ってみれば。 なんか家の空気がやばい。 目に見えて怖いのは、あの斑の結界が破られていること。 おかげで空気が淀んでいて、久しぶりに身体の血がザワリと嫌な具合に騒いだ。 しかもオレの目には、この家を取り巻くように黒い靄のようなものがからみついているのが見える。 どうやらこの家、なにかの呪いを受けたようだ。 現に“なにものか”に踏み荒らされた花壇を哀しげに見つめている塔子さんにも、あの黒い靄がまとわりついている。 『ふむ』 オレは少し考えた後、手にしていたお土産の酒のふたをキュポンとあけ、手に垂らし、自分の手も清めてから塔子さんの額に触れる。 『塔子さん…ちょっと失礼』 塔子さんはキョトンとしていたけど、別に怒るでもいぶかしむでもなく、されるがままにくすぐったそうにわらってどうしたのと聞いてきた。 『お守りだよ』 そう笑いかえし、すぐに彼女の額から手をはなす。 酒のついた指のあとはなんだか花びらみたいで、それはすぐに身体に溶け込むように消え肉眼でとらえることできなくなった。 それとともに彼女の体から呪詛が消えていくのに満足しつつ、彼女に持っていた酒を見せるように掲げる。 『お花残念だったね塔子さん。今日はこれでも飲んで元気になって』 「あらいい匂い。これお酒なのかしら」 『うん。久しぶりに会ったおじさんたちが、オレがいつもお世話になってますって。お礼だってくれた。花蜜からつくった珍しいお酒って言ってたよ』 「お花の蜜?まぁ、すてきね」 『さっきの額にしたあれはね、このお酒を飲む前の儀式なんだ。元気になりますように怖いことがありませんようにってね』 これで塔子さんは大丈夫。 あとで滋さんにも守護印つけておこう。 にしても斑の怠慢は、最近ひどいな。 これじゃぁ、夏目の身がまたないだろうに。 あいつ過労で倒れるんじゃないか? っで、今回は・・・ああ、なるほど。家を好む妖怪、ね。 なんかそういうのも原作でいたような気がする。 そうそうたしかあれも夏目レイコ関係の話だったはず。 レイコの記憶を読ませるためにも、夏目には頑張ってもらわないとだめだよなぁ。 【オマケ】 《おい、大丈夫か?》 『おそい斑。…妖怪のテリトリーの中にいるせいか、狐の呪いが活性化して困る。 てめぇらさっさとアレなんとかしろよ(結界直せやごらぁ!!)』 すっかり座敷童子のように藤原家の夏目部屋の押入れを間借りさせてもらっているオレは、某青だぬきなネコ型ロボットのように押入れの中でうめいている。 この押入れこそ、夫妻と夏目に頼んでオレのスペースとしてもらったところだ。 ここの小さな空間に、影から破魔の刀を取り出し結界を張っているが、身体のなかで暴走気味の状態は長くは抑えられそうにない。 ちょ!?夏目くんなんでオレの布団外に出しちゃうの! いやーーー!やめろ! そんなせまいところじゃ余計体調も悪くなるだろ!と、押入れから布団を奪われ、夏目の部屋に布団をしかれた。 結果 『ハレンチだー!!いやー!ストーカー!!変態!!!!』 夜になると障子の隙間から“ナニカ”が覗いてきます。 |