病弱ぬらりひょんがいく
- 夏 目 友 人帳 -



02. 「呼んではならぬ」 -視えるということ-
※原作 17.18話 「呼んではならぬ」より





 なんだろう
これは誰の記憶だろうか
くらいくらい…

ああ、視線が “あった”。

あれは





side  夏目 貴志







――人間のくせに 私を見たな
――〜したら お前の負けだ 喰ってやる――

クッテ、ヤル くって、やる 食ってやる 喰ってやる!!





 


「っ!?――…!!」


がばっ!!
 あまりの禍々しさに、目が覚めた。
 昨日、不思議な女の子に会ってから、なんともいいがたい変な夢を見た。
喰うとか見たとか。
断片的なことで詳しくはわからなかったけど、ひょっとして昨日の――あの子のことと関係があるのかもしれないと思った。

「ん〜ねむい」

夢のせいで早くに起きすぎ…た。あれ?

「ん?」

 いつものように洗面所で歯を磨きながら鏡を見て、そこに映った自分の姿に思わず、自分の身体を見つめなおす。
鏡に映った一瞬、体に「夏目」と「壱」って文字が見えた気がしたけど…。
自分自身と鏡の中の自分を交互にみつつ、なにもないことに思わず首をかしげる。
さっきは確かにあった気がしたけど。

「貴志くん、買い物に行ってきま……」

ぎゃっ!塔子さん!?」
「あら?どうしたの自分に見とれちゃって。お年頃?」
「断じて違います!!」

文字を探して鏡をみていたら、塔子さんがタイミングよくやってきた。
これじゃぁ、昨日の視えないゆえの北本と西村の誤解と同じじゃないか!
なんか今度の誤解は、もっと性質が悪いような…。
そんな気にしなくていいのよ。邪魔しちゃってごめんなさい。 と、笑顔で去って行った塔子さんに、「まっ、あの!」なぁんておれが伸ばした手は届かず。
いってきますねという穏やかな塔子さんの声と、玄関がしまる音が無情にもおれをおいていく。

おれはナルシストじゃないんだー!!

心の声は音に出ることもなく、ちょっとばかり落ち込んだ。



 はぁ〜。
塔子さんに変な誤解をされてから、ため息が止まらない。
もう胸元に文字がないのはわかっていたけど、無意識に服を抑えて胸元を隠した。
これはけっしてナルシストじゃないってアピールじゃ!

「先生―。ニャンコ先生―?」

 と、とりあえず先生に、さっきの文字のことを聞いてみようと、先生の名を呼びながら部屋の扉をあけ――。

「先生、いないのか…」

ふすまを開けた途端。

[こんにちは]

部屋の真ん中に顔の馬鹿でかいちょびヒゲがいた。

ちょびひげぇ!?

って、これはどうみてもあやかしだ。
先生、仕事たいまんすぎだ。
そうでなかったら目の前の状況をどう説明しよう。
たしか先生が張った結界がこの家にはあるって・・・

「妖か!!どからこの部屋に入ったんだ」
[私ほどの妖にちんけな結界は無意味であります]

っと、そこへのんきな顔をしたぶたのような猫。もとい先生が部屋に戻ってきて。
とてとてとて…

「おい夏目。何を騒いで…ぬわっ!?なんだそのちょびひげ。どこから入った!?」
[ちんけな用心棒も無意味であります]
「ちんけ!?」

こんなに顔がデカいチョビヒゲに最初気付かなかったとか。
ねぇ、先生。本当に大丈夫?
ちょっとおれも心配になってくるんだけど。





* * * * *





それからいろいろあった。

まずは鏡に一回だけ映った文字のわけ。
多軌透(たきとおる)という同級生の少女のこと。
彼女が書いていた陣が、もとは彼女の祖父のもであること。
そしてその陣にはいったことで視えるようになった妖と、“約束”をしてしまったこと。
だから彼女はここ何カ月も誰の名前も呼ばないようにしていたのだということ。
本当の彼女はぶさかわ好きの、おしゃべりな明るい少女だということ。

彼女を含め、名前を呼ばれたおれたちをねらうのが、古い鏡のあやかしであること。

先回りして、あやかしをなんとかしようとしたところで。


とちゅうで・・・

おれの目が“あやかし”を映さなくなった。


――あのとき、“こわい”と思った。

みえる恐怖。
みえない恐怖。

あのやさしい者たちをしることもできないということを、はじめてまのあたりにした瞬間だった。

まだ知りたく無くなかった恐怖。
こわかった。

だからまだもう少しだけ、みえないはずの“彼”と、まだ、もう少しだけ・・・側に寄り添っていたいと思ってしまった。

多軌透をねらうあの鏡の妖を魔封じだという鏡に封印する際、みえなかったけど、その背にのせてくれたにゃんこ先生の背中はふかふかしていてあたたかった。













『奴良組一家秘伝、奴良キーーーーーーーーーーーーーーック!!!!!



えっと・・・。
あれ?

瘴気にあてられ意識が完全に途切れる寸前、なにか壮絶な声と共に、先生の「げふっ!!!」というつぶれた声が聞こえたのは・・・・きっと気のせいだよな?








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